1999年代のニードルワーム 【デッキ破壊】爆誕(構築不可)

2017年12月3日

【前書き】

 【第1期の歴史14 心変わりと死者への手向けが同格扱いだった頃】の続きとなります。ご注意ください。

 下級アタッカー、ドローソース、除去と一通りのカードが出揃い、遊戯王OCGのゲーム性は次第に広がりを見せていく形となります。

 しかしながら、こうした単体で強いカードが多数見られるようになったことから、当時の環境はそれらを上から投入した【グッドスタッフ】がほとんどの割合を占めていました。

 例外的に【死のデッキ破壊ウイルス】などを使用していたプレイヤーも居ない訳ではありませんでしたが、ゲーム的、資産的な理由から少数派であり、少なくとも私の周りには数えるほどしか居なかったと記憶しています。

 ところが、1999年10月17日発売のこの弾には、これまでのものとは根本的に異なる性質の効果を持つ、やや変わり種のカードが複数紛れ込んでいました。

 

【当時の環境 1999年10月17日】

 1999年10月17日、「BOOSTER5」が販売され、新たに35種類のカードが誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは508種類となり、四桁到達までの道のりの半分を踏破する形となります。

 さて、前置きで述べたように、ここで誕生したカード群には珍しい効果を与えられたカードがいくつも含まれていました。

 

デッキを削るモンスター ニードルワーム

 一つ目は、「ニードルワーム」などの「デッキを削る効果」を持ったカードです。

ニードルワーム」の表示が表になった時、相手のデッキのカードを上から5枚墓地に捨てる。

 リバース時に相手のデッキを5枚削る効果を持っています。今までにない新たな方向性の効果であり、遊戯王OCGに【デッキ破壊】と呼ばれる概念が誕生した瞬間です。

 盤面に全く影響を与えない分、普通のデッキに入るカードではありませんが、逆にデッキ破壊に特化することで脅威として運用できます。この概念の誕生以降、相手をデッキ切れに追い込むことを第一目的としたデッキが無数に考案されていくことになりました。

 しかし、当時はデッキ切れに関するルールが現在と異なっており、いずれかのプレイヤーのデッキが無くなった場合、その時点でライフの多いプレイヤーが勝利すると定められていました。

 結論だけ先に申し上げますと、このルールは【デッキ破壊】にとっては非常に不利となるものでした。理由については後述いたします。

 

強制5枚ドロー メタモルポット

 直接デッキを削る訳ではありませんが、間接的にデッキ枚数を減らす効果を持つカードとして「メタモルポット」も誕生しました。

メタモルポット」の表示が表になった時、相手と自分の手札を全て捨て、お互いデッキの上から5枚カードを引く。

 お互いに手札を全て捨て、デッキから5枚ドローする効果を持っています。相手に強制的にカードを引かせることができるため、これもまた形を変えたデッキ破壊カードと言えるでしょう。

 デッキ破壊目的ではなく単純に手札補充として使っても強力で、使い切ったリソースをこれ1枚で瞬時に回復することが可能です。しかし、相手にも潤沢な手札を与えてしまうため、ドローソースとしては使いどころの難しいカードでもありました。

 とはいえ、絶大なカードパワーを秘めていることは間違いなく、プレイヤーの好みによってデッキに投入されていくことになります。

 更に、このカードの誕生は当時のプレイヤーの意識にも大きな影響を与えました。

 性質上、自分の手札が少ない時ほど恩恵が大きくなるため、「メタモルポット」をセットする場合は手札の魔法・罠カードを全て伏せるなど、なるべく手札を減らした方が有利です。

 つまり、相手が不自然に大量のカードを伏せ始めた場合、高確率でセットモンスターは「メタモルポット」となり、的確な対処を迫られます。安全に除去できない場合はこちらも手札を使い切るなど、プレイングの面でかなり強く意識する必要がありました。

 しかし、これを逆手にとることで相手にリソースの消耗を強要させることもできます。無理をして手札を使い切ったにもかかわらず、セットモンスターが「メタモルポット」ではなく「聖なる魔術師」だった場合、圧倒的に不利な状況に立たされてしまうでしょう。

 また、このような事情から、「ハーピィの羽根帚」の価値がこの時期から若干浮上し始めています。大量に伏せられたカードを根こそぎ吹き飛ばすことができるため、初期に抱えていた「使いどころの無さ」という弱みが徐々に改善されていく形となりました。

 

永続的に効果を無効化 王宮のお触れ

 さて、デッキ破壊能力を持つカードについては以上ですが、この時に誕生した特殊なカードはこれだけではありません。

 変わり種その2、「王宮のお触れ」です。

このカードを除く、フィールド上の罠カードの効果を無効にする。

 これが存在している間、永続的にあらゆる罠カードの効果を無効化する効果を持っています。これまでに類を見ない処理を行うカードであり、誕生当時は多くのプレイヤーの注目を集めました。

 しかし、実際の使い勝手としましては、やはり罠カード自体の採用率が低かったからか、あまり高い評価を受けていたカードではありませんでした。それどころか、むしろこのカードの存在が罠カードの不遇な立ち位置を決定的にしてしまった印象すらあり、当時の環境は次第に「茶色」と「緑色」の戦場と化していきます。

 

結構強い上級モンスター 機械王

 補足として、特殊な効果を持っている訳ではありませんが、「機械王」というカードについても触れておきます。

フィールド上の表になっている機械族モンスター1体につき、攻撃力が100ポイントアップ!

 レベル6の上級モンスターです。これ自身も含み、フィールドの機械族1体につき攻撃力が100上昇する効果を持っています。

 元々の攻撃力は2200であるため、実質2300打点として運用することができます。「デーモンの召喚」には及ばないものの当時の上級モンスターとしては二番手の攻撃力を誇り、レアリティもノーマルと比較的入手しやすかったことから多くのプレイヤーに愛用されたカードです。

 当時、私は後発組の友人にこの「機械王」を2枚ほど贈ったのですが、そこそこ喜ばれた記憶が残っています。私が持っていてもストレージの肥やしになるだけだったと思われるので、カードにとっても幸せだったのかもしれません。

 

【構築不可能 デッキ破壊】

 さて、話を戻して【デッキ破壊】に関することを詳しく見ていきますが、簡潔に内容を纏めるために一旦現在のルールを前提に話を進めます。

 結論から申し上げますと、当時のカードプールで【デッキ破壊】を組むことは「可能」となります。

 仮想敵の【グッドスタッフ】が安定した強さを持っていたのは確かでしたが、高速でゲームを決めるタイプのデッキではなかったことも事実です。あくまでもアドバンテージの積み重ねで相手を追い詰めるデッキであり、それを無視して攻めてくる相手には不利な戦いを強いられます。

 【デッキ破壊】はアンフェアデッキの筆頭であり、【グッドスタッフ】に対して有利を取ることは難しくありません。壁モンスターや「光の護封剣」で身を守りつつ、各種除去で打点を捌き、じっくりとデッキ破壊を進めていけば自然と勝利が転がり込んでくるでしょう。

 よって理屈の上では、適切なカード選択を行えば【デッキ破壊】の戦術を成立させるのは現実的な話となっていました。

 しかし、上でも少し触れましたように、当時のルールではデッキ切れが起こった場合に勝利するのは「その時点でライフの多いプレイヤー」です。

 つまりビートダウンデッキにとって有利なルールであり、基本的にライフを攻めない【デッキ破壊】はその時点で大きなハンデを抱えてしまいます。

 そして、【デッキ破壊】に特化すればするほどビートダウン性能は低下していくため、この二つを両立させるのは極めて困難と言わざるを得ません。無理に対抗しようとしたところで、どちらも中途半端に終わってしまいます。

 結果的に、【デッキ破壊】はたった一度の掠り傷を受けただけで勝利手段を喪失してしまう形となり、これをまともに勝ち手段に据えるのは相当厳しいものがあると言う他ありません。

 そのため、第2期に入ってルールが改訂されるまでは、【デッキ破壊】は実質的に構築不可能な状況となっていました。

 

【まとめ】

 さて、以上が1999年10月17日当時に起きた出来事となります。

 【デッキ破壊】という新たなアーキタイプ誕生の芽は、当時のルールの不備によって根元から潰されてしまいました。カードゲームの発展という面ではあまりに勿体ない出来事であり、不完全なルールが成長を阻んでしまった形となります。

 とはいえ、当時の遊戯王OCGは第1期、生まれて一年も経っていない新生児です。開発側も試行錯誤の段階を脱しておらず、ルールの整備が行き届いていなかったこともやむなしと言えるのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史