E・HEROオーシャン専用デッキ 【オーシャンビート】の成立

2019年1月5日

【前書き】

 【第5期の歴史21 エラッタ前ディスクガイの狂気 永久禁止カードと呼ばれた理由】の続きとなります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

【HEROビート】の祖先 10年来のアーキタイプ

 「D-HERO ディスクガイ(エラッタ前)」の参入によって間接的に生み出されたアーキタイプ、それは【オーシャンビート】と呼ばれるビートダウンデッキの一種でした。

 名前からも分かるように「E・HERO オーシャン」をキーカードに据えたデッキであり、さらには今日に至るまでその歴史が続いている【HEROビート】の祖先と言える存在でもあります。これまで【HERO】と言えば【融合召喚】を軸とするものがほとんどという状況だったため、「融合」を使わない【HERO】デッキの誕生が非常に革命的な出来事だった(※)ことは間違いありません。

(※一応、【エアブレード】がそれに該当していたと言えなくもないですが……)

 ともあれ、この【オーシャンビート】成立のきっかけについては前記事でも少し触れた通り、元々は「D-HERO ディスクガイ(エラッタ前)」を何度も使い回すために組まれたデッキだったというのが通説(※)とされています。【ディスクライダー】がそうであったように、強烈なターボ能力を備えた「D-HERO ディスクガイ(エラッタ前)」には大きな注目が集まっており、これを活用することを目的としたデッキの開発が盛んに行われていたことによる結果です。

(※上記以外の仮説としては、「E・HERO オーシャン」採用型の【エアゴーズ】系デッキ、あるいは【融合召喚】軸の【フォレストオーシャン】からの派生とするものなどがあります)

 具体的なデッキの動きとしては、「E・HERO オーシャン」で「D-HERO ドゥームガイ」や「E・HERO エアーマン」を回収、そこから「D-HERO ディスクガイ(エラッタ前)」に繋げるというのがメインのコンセプトとなっていました。

 また、蘇生後の「D-HERO ディスクガイ(エラッタ前)」の活用手段として各種リリースコスト系カードを搭載するなど、とにかくアドバンテージを稼ぐことに特化していたのが特徴です。

 とはいえ、これは一見して見て取れるようにギミックとしてはかなり回りくどく、わざわざデッキ単位で特化する価値があるかは微妙なところもあります。特に、リリースギミックを【生け贄召喚】に寄せた型の場合は【帝コントロール】とコンセプトが被っている部分も多く、悪く言えば劣化コピーに近い面もあったことは否めません。

 つまり、【ディスクオーシャン】とでも呼ぶべきこのデッキはあまり完成度に優れていたとは言えず、少なくとも環境レベルでは定着しなかったことは確かです。

 しかし、E・HERO オーシャン」によって「HERO」モンスターを使い回すというコンセプトそのものは評価されており、この理念を引き継いだデッキとして開発されたものこそが【オーシャンビート】だったと言えるでしょう。

 

【オーシャンビート】の回し方・ギミック

 【オーシャンビート】の大まかな起こりについては上述の通りですが、そのデッキ構成は【ディスクオーシャン】とはかなり異なっています。

 なんと「HERO」モンスターの必須枠は「E・HERO オーシャン」3枚、「E・HERO エアーマン」1枚の計4枠だけであり、残りの1~2枠に追加のアタッカーとして「E・HERO ザ・ヒート」や「E・HERO アナザー・ネオス」(5月参入)がピン挿しされる程度にとどまっていました。

 つまり【オーシャンビート】とは「オーシャンでディスクガイを使い回す」というコンセプトが「オーシャンでHEROを使い回す」に変わり、それが最終的に「オーシャンでエアーマンを使い回す」に行き着いたもの、と言い換えることができるわけです。

 実際、それ以外のモンスターも「増援」に対応する下級戦士族、または一部のパワーカードの採用にとどまり、モンスターの総数は多くとも10枚ほどに抑えられる傾向にありました。その分「E-エマージェンシーコール」などのサーチカードで実質のモンスター数を水増しするという形であり、この頃から既に現在の【HEROビート】に通ずる理念が生まれていたことが窺えます。

 そんな【オーシャンビート】の回し方は外見ほどには複雑ではなく、一言で言えば「E・HERO オーシャン」を軸に「E・HERO エアーマン」及び自分自身を無限に使い回すというものです。序盤はサーチ効果を、中盤以降は魔法・罠除去効果を連発し、相手をリソース切れに追い込むことを狙います。

 理想的な盤面は「E・HERO オーシャン」「E・HERO エアーマン」がフィールドに1体ずつ、手札に「E・HERO オーシャン」が2体という状況で、こうなると戦力が尽きることはほぼありません。実質的に残機2つ分の自己サルベージ効果持ちモンスターが出来上がる形となるため、一旦回り始めた時の粘り強さは同世代中でも随一でしょう。

 流石に総合的な安定感では【ガジェット】に軍配が上がりますが、条件次第でそれに近い持久性を発揮するというのはやはり大きな魅力です。環境デッキとして十分な地力を備えていることは間違いなく、当時のトーナメントシーンにおいても一定の結果を残していました。

 しかし、いくつかの欠陥を抱えていたことからメタ上位には手が届かず、終始二番手以下の立ち位置に甘んじていたことは否めません。

 確かに【オーシャンビート】のコンセプトそのものは実戦級に纏まっていると言えますが、これは見方を変えれば以前までの【エアゴーズ】が素で行っていたことをコンボで無理矢理に再現しているだけとも取れます。もちろん、【オーシャンビート】にも【エアゴーズ】にはない固有の強みはあったのですが、悪く言えば若干時代の流れにそぐわない面も見られたデッキです。

 特に、最序盤で「E・HERO オーシャン」による戦力供給ルートを潰されるとほとんど身動きが取れなくなってしまうこともあり、伏せによるバックアップなしで迎える相手ターンの綱渡り感は相当危ういものがあります。

(このため、「E・HERO オーシャン」を除去から守る「我が身を盾に」や「神の宣告」はほぼ必須と言われていました)

 また、性質上ピン挿しの「E・HERO エアーマン」を引き込まなければ何も始まらないデッキでもあることから、根本的に構成に無理があるという厳しめの評価を下されていたことは否定できません。

 この対策として「ヒーロー・シグナル」や「摩天楼2-ヒーローシティ」を積むといった措置が講じられることもありましたが、それはそれで事故率が上がってしまい、あまり有効な手立てにはならなかったというのが現実です。実際、この型(※)はそれほど流行せず、間もなく淘汰されています。

(※当時は【ヒロシビート】などと呼ばれていました)

 結局、こうした問題が【オーシャンビート】の現役中に解決に向かうことはなく、最終的に行き着いたのは「一定の事故は必要経費と割り切る」という運任せの域を出ない結論に過ぎませんでした。

 もちろん、そのリスクに見合うだけの強さがあるのであれば十分に選択肢にも入りうる(※)のですが、【オーシャンビート】が他の環境デッキと比べて飛び抜けて強いわけではない以上、リスクとリターンが釣り合っていない欠陥がどうしても目立ちます。

(※一応、この時期は【デミスドーザー】に耐性があるという強みを持っていたため、メタゲームにおけるポジションはそこそこ悪くない位置にありました)

 そうしたこともあり、明確に勢力として生き残っていた時期は長く見積もっても2007年内に収まり、それ以降はかなり散発的な活躍にとどまっていた印象です。最後は実質的な後継デッキである【次元エアトス】にバトンを渡す形でメタゲームから姿を消してしまったと言えるでしょう。

 

【まとめ】

 【オーシャンビート】についての話は以上です。

 下級HEROを中心にビートダウンを行う最初のデッキであり、また【HERO】専用デッキとしては初めて環境入りを果たした存在でもあります。しかし、当初はアーキタイプとしては未成熟な部分も多く、メタゲームでの活躍はそれなりの勢いに落ち着いていました。

 とはいえ、現代まで続く歴史あるアーキタイプ【HEROビート】の基盤となった事実は重く、その意味では並のトップデッキ以上の影響力を持っていたとも考えられるのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史