遊戯王のインフレは1999年から始まっていた

2017年11月29日

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【前書き】

 【第1期の歴史12 遊戯王最初の事件 東京ドームの乱 プレミアムパック販売中止騒動】の続きになります。ご注意ください。

 東京ドームで起きた大騒動の影響は大きく、遊戯王OCG界隈に後々まで尾を引くダメージを残しました。この騒動が原因で遊戯王から離れてしまった方も決して少なくはなかったのではないでしょうか。

 しかし、そんな事件の裏では、何事もなかったように新たなカード群がひっそりと誕生していました。あるいは騒動の外に居たプレイヤーにとっては、こちらの方が重要な出来事だったのかもしれません。

 

【当時の環境 1999年8月26日】

 1999年8月26日、「BOOSTER4」が販売され、新たに35種類のカードが誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは423種類となり、最初期から10倍以上の規模となりました。

 結論から先に申し上げますと、このカード群には当時の常識では考えられないようなカードが何枚も紛れ込んでいました。

インフレしていく攻撃力

 まずは「アックス・レイダー」というカードを挙げさせていただきます。

・星4/地属性/戦士族/攻撃力1700/守備力1150

 目を引くのは攻撃力1700という部分です。当時最強の下級アタッカーである「ホーリー・ドール」を上回る打点を持っており、3ヶ月経って遂に最高攻撃力が更新されたかに思えました。

 しかし、この「アックス・レイダー」は前座に過ぎませんでした。

 「ランプの魔精・ラ・ジーン」の存在があったからです。

・星4/闇属性/悪魔族/攻撃力1800/守備力1000

 見て分かる通り、なんと下級モンスターにして1800もの攻撃力を誇っています。これは当時の上級モンスターの大半を上回る打点であり、まさに規格外の攻撃力です。上級、下級のアタッカーラインが崩れ始めていると言っても過言ではなく、従来の下級アタッカーと比べて明らかに逸脱したカードパワーを持っていました。

 しかし、この「ランプの魔精・ラ・ジーン」もまた、真打の前には脇役に過ぎないカードでした。

 真打その1、「メカ・ハンター」です。

・星4/闇属性/機械族/攻撃力1850/守備力800

 攻撃力1850と「ランプの魔精・ラ・ジーン」の攻撃力を50上回っています。数値にして僅かではありますが、ゲームにおいては無限大とも言える格差です。守備力の低さもアタッカーにとっては問題ではなく、すぐさま環境で大暴れしていく形となります。

 しかし、この「メカ・ハンター」も真打の一人ではありましたが、唯一の存在ではなく、また正確には二番手のアタッカーとなっていました。

 真打その2、「ヂェミナイ・エルフ」です。

・星4/地属性/魔法使い族/攻撃力1900/守備力900

 攻撃力1900。もはや驚くこともままなりません。上級モンスターとして見ても当時最高クラスの打点であり、あの「カース・オブ・ドラゴン」にすら迫っています。

 攻撃力1900というのは、現在においてさえ下級モンスターの一つの基準となっている数値です。言い換えれば、未来でも通用する概念が1999年に誕生してしまったようなものであり、あまりにも時代を先取りしすぎていると言う他ありません。

 もちろん、当時のプレイヤーにとっても理解不能な攻撃力でした。本来、時間をかけて積み重ねていくべきである攻撃力インフレがこの時期に集中して発生しており、まず認識そのものが追い付かない、という状況です。

 個人的な話で恐縮ではございますが、この時は強いカードを手に入れた喜びよりも、足元が崩れるような不安を感じたことを覚えています。「デーモンの召喚」の時にも少し感じたことですが、このまま無限にモンスターの攻撃力が上がり続け、やがては青眼の白龍」以上の攻撃力を持つ下級モンスターも現れてしまうのではないか、という懸念を覚えずにはいられませんでした。

 実際には、そのような結末にはなりませんでしたが、この時の末期感は今でも薄っすらと思い出せます。分かりやすく例えますと、終了間際のソーシャルゲームを遊んでいるような感覚です。

最凶のドローソース 天使の施し

 ともあれ、以上の出来事から「ホーリー・ドール」を始めとした攻撃力1600のアタッカーは軒並み淘汰され、ここで誕生した新世代のアタッカー達に採用枠を独占される形となりました。

 しかし、この時に起きた出来事はこれだけではありませんでした。それどころか、場合によってはこちらの方が重大な出来事とすら言えるかもしれません。

 あの「強欲な壺」と並ぶ遊戯王OCG屈指の凶悪ドローソース、「天使の施し」の誕生です。

・デッキからカードを3枚引き、その後手札からカードを2枚捨てる。

 テキストの通り、3枚ドローして2枚ディスカードする効果を持っています。アドバンテージ的には3:3交換と等価交換ですが、他のカードと組み合わせることで実質的なアドバンテージに変換することができます。

 一例として、当時有名だったコンボに「捨て蘇生」と呼ばれる戦術がありました。「デーモンの召喚」「青眼の白龍」などのモンスターを一旦墓地に落としてから「死者蘇生」で蘇生することで、アドバンテージを失わずに高打点モンスターを場に出すことができます。

 補足になりますが、当時は蘇生制限のルールがまだ存在していなかったため、「究極完全態・グレート・モス」などの特殊召喚モンスターであっても「死者蘇生」で墓地から釣り上げることが可能でした。

 正規召喚よりも遥かに容易に「究極完全態・グレート・モス」を場に出すことができたことから、この戦術を好むプレイヤーも少なくなかったようです。

 ともあれ、この「天使の施し」というカードはどの角度から見ても最高水準と言えるドローソースであり、特にカードプールの広がった現在では強欲な壺」以上の可能性を秘めているカードです。

 もちろん、コンボを考えずに手札の質を高めることだけに用いても十分に強力なドローソースだったため、当時は積まない理由がないと断言できるパワーカードとなっていました。

ゲームバランス崩壊の兆し

 しかしながら、あまりこういったことは口にするべきではないのかもしれませんが、これらのドローカードの台頭は当時の環境に健全でない影響を及ぼしてしまいました。

 例えば、「強欲な壺」と「天使の施し」に加え、魔法カードを回収できる「聖なる魔術師」をそれぞれ3枚積んだ時、カード4~5枚中1枚、つまり4~5ターンに1枚それらのカードを引くことになります。

 しかし、これはドローカードでデッキを掘り進めることで実質的に短縮可能です。初手に「強欲な壺」「天使の施し」を1枚ずつ握っている場合、理屈の上では計5枚のドローによって3枚目のドローソースを引き込んだ後、更に4枚目のドローソースへのアクセスターンすら縮めることができます。

 つまり、カードを引けば引くほどデッキの回転速度が上がるため、さながら富の集積の如くドローが連鎖していきます。大雑把な計算となりますが、この場合はドローカードを4枚発動するまでにかかるターン数は2.5ターンです。

 反面、ドローカードを1枚も握っていなかった場合、「聖なる魔術師」を除いて35枚中6枚、つまり6枚中1枚のドローカードを平均6ターンかけて引く必要があり、その間に圧倒的なアドバンテージ格差をつけられてしまうことは言うまでもありません。

 ドローカードを2.5ターンで4枚発動できるプレイヤーと、1枚発動するのに6ターンかかるプレイヤーが対等に戦えるはずがないのは火を見るより明らかです。こうした事情から当時のゲームはいかにリソースを管理するかというプレイングではなく、いかにドローカードを初手に沢山握るかというリアルラックが重要な要素を占めていきました。

 自分がリソースを考慮して除去を温存する横で、相手が「強欲な壺」「天使の施し」を連打して手札を溢れさせ、悠々と「聖なる魔術師」をセットするといったシチュエーションが頻発し、真面目にプレイするのが馬鹿らしくなるほどでした。

 その逆もまた然りです。ドローソースの有無だけでアドバンテージ・ゲームがほぼほぼ決着してしまい、拮抗した盤面も「強欲な壺」をトップした瞬間に傾き、そこからドローが連鎖し始めれば一瞬で崩れ去ってしまいます。

 一歩一歩着実に前に進んでいた筈の遊戯王OCGは、ここに来て急速なゲームバランスの崩壊を引き起こしつつありました。

 

【まとめ】

 当時起こった出来事については以上の通りです。

 下級モンスターの攻撃力インフレ、そしてドローソースの飽和と、危険な兆候が同時に現れた時期であり、多くのプレイヤーが遊戯王OCGの将来に不安を覚えたのではないでしょうか。

 カードゲームを嗜む以上、多かれ少なかれカードパワーのインフレは受け入れるべきですが、これほどの急激な変化には戸惑いを感じずにはいられませんでした。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

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