遺言状エクゾと無限射出バーン 遊戯王最初の「ワンキル」の概念
・前書き
・当時の環境 1999年12月16日
・遊戯王版フォグ 和睦の使者
・無限ループの具現 遺言状
・キャノン・ソルジャー 無限射出
・遊戯王とワンキルの歴史 ソリティアはなぜ生まれたのか
・環境で実績を残した主なワンキル系デッキの一覧
・まとめ
【前書き】
【第1期の歴史18 メタルモンスターのロマン デッキで適用される召喚ルール効果】の続きとなります。ご注意ください。
メタルモンスターというロマン溢れるモンスターが誕生し、遊戯王OCGの金属愛好家界隈が僅かに賑わう形となりました。
しかしながら、依然として【エクゾディア】一強の状況は動かず、【グッドスタッフ】は非常に苦しい立場に追い詰められていました。ほぼ「メタモルポット」を通せるか否かというゲームであり、それは【エクゾディア】と【グッドスタッフ】の戦いではなく、【エクゾディア】と「メタモルポット」の戦いと呼んだ方が正確だったのかもしれません。
そんな折、【エクゾディア】と【グッドスタッフ】の格差を決定的にするカードが誕生してしまうことになります。
【当時の環境 1999年12月16日】
1999年12月16日、「EX」が販売され、新たに17種類のカードが誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは617種類となり、参入数としては微増にとどまる形となりました。
この時の販売形態は【第1期の歴史2 ブルーアイズとサンボルを持っているプレイヤーが勝つゲーム】で触れた「STARTER BOX」と同じく構築済みデッキとなっており、全ての商品で同一の収録内容となっています。収録カード枚数は102枚85種類、内68種類が既存カードと、非常に多くの再録があった構築済みデッキです。
再録内容は豪華の一言で、「ブラック・ホール」「落とし穴」などの強力な除去カードを始めとして、「死者蘇生」「デーモンの召喚」「心変わり」といった当時の必須カード、また「岩石の巨兵」「ホーリー・エルフ」などの優秀な壁モンスターが揃っていました。
カードをあまり持っていない初心者にとっては非常にありがたい収録内容であり、この商品のお陰で新規参入のハードルが一気に下がったことは間違いありません。
もちろん、優秀な新規カードも誕生していたため、既にカードを揃えている先発組にとっても得るところの多い商品でした。
遊戯王版フォグ 和睦の使者
その内の1枚は「和睦の使者」です。
相手モンスターからの戦闘ダメージを、発動ターンだけ0にする。ターン終了後、このカードを破壊する。
発動ターンのみ戦闘ダメージを0にする効果を持った罠カードです。この「ダメージを0にする」というのは自分のモンスターに対しても適用されるため、それらが戦闘破壊されることもなくなります。
ほぼ確実に1ターン生き残ることができ、更にモンスターも残せるため、時間稼ぎとしても反撃の起点としても運用できる優秀なカードです。当時現役だった「光の護封剣」には及ばないものの、4枚目以降の防御カードとして愛用されていくことになります。
ちなみに、これを最も活かせたのは例によって【エクゾディア】でした。防御カードが6枚体制となったため、辛うじて狙えないこともなかった【グッドスタッフ】のワンショット戦法がほぼ封じられ、対抗手段はいよいよ「メタモルポット」を残すのみとなった格好です。
無限ループの具現 遺言状
しかし、この時には「和睦の使者」以上に【エクゾディア】に有利をもたらす、とてつもなく危険なカードが誕生していました。
「遺言状(エラッタ前)」です。
このターンに墓地へ送られたモンスター1体の代わりに、デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体をフィールド上に出すことができる。
一見して意味不明なテキストであり、むしろ何度読み直しても訳が分からないカードですが、簡単に言えば「発動ターン中、自分のモンスター1体が墓地へ送られる度にデッキからモンスター1体を特殊召喚する」効果となっています。
そして一番重要なことですが、なんとこの効果には回数制限が存在しません。つまり、「遺言状(エラッタ前)」の効果で特殊召喚したモンスターが墓地へ送られた場合、更に「遺言状(エラッタ前)」の効果でモンスターを特殊召喚することができ、そしてそれをデッキのモンスターが尽きるまで無限に繰り返すことができます。
言うまでもなく大問題であり、とりわけ「墓地へ送られることがメリットとなる」モンスターとの組み合わせでは凶悪な力を発揮します。
当時最も多かったのは、「クリッター(Vol.6)」「黒き森のウィッチ(Vol.6)」でライフの続く限り自爆特攻を繰り返し、大量にモンスターをサーチするという使われ方でした。
もちろん、サーチされるのはエクゾディアパーツです。
つまり、「遺言状(エラッタ前)」を発動した状態で何らかのモンスターを墓地へ送り、サーチャーを呼び出して自爆特攻を5回行うことで一瞬でエクゾディアパーツを揃えることができます。モンスターの方は何でも構わないことから実質「遺言状(エラッタ前)」1枚コンボであり、そもそもコンボと呼ぶことにすら違和感を覚える状況です。
こういった事情から、当時のゲームではモンスターを攻撃表示で出すことにすらリスクが生まれるようになり、【グッドスタッフ】は完全にデッキコンセプトを否定されてしまう形となりました。
「ヂェミナイ・エルフ」などのアタッカーをまともに運用できなくなったため、必然的に【グッドスタッフ】は「メタモルポット」に全ての望みを託さざるを得なくなります。しかし、それはもはや【グッドスタッフ】でも何でもない別の何かでしかありませんでした。
無理矢理デッキ名にするのであれば【メタモルポット】となるのでしょうが、コンセプトとして成り立っているかどうかは別の話です。事実上、【グッドスタッフ】が環境から姿を消した瞬間と言えるのではないでしょうか。
キャノン・ソルジャー 無限射出
また、【エクゾディア】とは別方向の脅威として、「キャノン・ソルジャー」が突如環境に浮上した時期でもあります。
モンスター1体を生け贄に捧げ、相手のライフポイントに500ポイントのダメージを与える。
1999年11月18日、「Vol.6」に収録されていたモンスターです。モンスター1体をコストに相手に500ダメージを与える効果を持っています。
コストとリターンが見合っておらず、単体では強いと言えるカードではありません。事実、誕生当時は全く注目を集めることのなかったカードです。
しかし、「遺言状(エラッタ前)」との組み合わせにより、デッキにモンスターが残っている限り無限に射出を繰り返せるコンボが生み出されてしまいます。成功率についても「遺言状(エラッタ前)」で「キャノン・ソルジャー」を呼び出せるため実質1枚コンボであり、非常に決まりやすい即死コンボとなっていました。
ただし、こちらは決着までに16体分のモンスターを射出しなければならず、デッキ構築の面で相応の負担となることから【エクゾディア】ほどには流行しなかったと記憶しています。むしろ自爆特攻ができない状況下でも「クリッター(Vol.6)」「黒き森のウィッチ(Vol.6)」を墓地へ送る手段を用意するために、【エクゾディア】にピン挿しされることの方が多かった印象です。
ちなみに、【エクゾディア】に採用されるモンスターはいずれも低ステータスであったため、多少構築を意識するだけで無限射出ギミックの成立条件を満たすことができます。そのため、「メタモルポット」でエクゾディアパーツが捨てられるなど、何らかの理由でエクゾディアの特殊勝利条件を満たせなくなった場合のサブプランとしてデッキに搭載されることもありました。
いずれにしても、【グッドスタッフ】ではどう足掻いても【エクゾディア】に対抗できなくなってしまった事実は動かず、遊戯王OCGのゲーム性は完全に崩壊を迎えていたと言うほかないでしょう。
遊戯王とワンキルの歴史 ソリティアはなぜ生まれたのか
一方で、【エクゾディア】同士の対決、つまりミラーマッチにおいては当然ながら常勝無敗とはいきません。
お互いに【エクゾディア】を揃えることが唯一にして最大の目的となる以上、このマッチアップでは必然的に「デッキの回転速度が速い方が勝つ」というシンプルな速度勝負に行き着きます。事実上はドローソースや「遺言状」をどれだけ引けるかが全てであり、それ以外の要素、具体的には「光の護封剣」などの防御カードは邪魔になってしまいます。
その結果生まれたのが、「デッキの回転に貢献しないカードを全て抜き、完全に速度だけに特化する(※)」という今までにない考え方です。要するに対戦相手の存在をほぼ無視してゲームを進める「ソリティア戦法」の確立であり、1999年当時のOCGの常識をひっくり返すような事態です。
(※一応、これまでの【エクゾディア】でも先攻1ターン目にゲームが終わること自体はありましたが、結果的にそうなることもあるというだけで、そうした戦法に特化していたわけではありません)
これこそが当時の【エクゾディア】が先攻1キルデッキに変貌した最もたる理由であり、ひいては遊戯王に「ソリティア」という概念が生まれてしまった理由でもあります。現在ではこうしたソリティア戦法への対抗手段はしっかりと確立されていますが、遊戯王前半期のゲームバランスにおいては物理的に防ぎようがなく、今とは比較にならないほどにOCGのゲーム性を狂わせていました。
遊戯王というカードゲームの歴史上、恐らく3本の指に入るであろう致命的なバグが発生した瞬間です。
環境で実績を残した主なワンキル系デッキの一覧
補足として、遊戯王前半期において環境レベルの実績を残したワンキル系デッキ、及び疑似的にその要素を含むデッキの一覧を関連記事とともにまとめておきます。先攻1キルだけでなく後攻1キル(※)も含んでいますが、シンクロ世代以降は数が増えすぎるため省略します。
(※デッキ名の後ろに「※」があるもの)
恐らく真っ先に頭に浮かぶのは「多すぎないか?」といった類の感想なのではないかと思われます。
いずれも何らかの形で環境を振り回した問題児であり、なおかつその全てが例外なく規制を経験している札付きの極悪囚人です。中には【MCV】のようにルール改訂騒動の引き金となったデッキすらあるほどで、これがバグでなければ一体何がバグなのかという話になってしまいます。
一方で、こうしたワンキル系デッキの脅威は第5期以前に集中しており、シンクロ世代に入る頃からは徐々に数が減っていっていることも確かです。
これは度重なる規制によって危険性の高いカードがおおよそ絶滅したことも理由の1つですが、最大の要因は「エフェクト・ヴェーラー」などの手札誘発カードが誕生し始めたことにあったのではないでしょうか。
言わずと知れた先攻展開に対する代表的なメタカードであり、現代遊戯王においてはお馴染みの面々です。もはやゲームで見かけないことの方が珍しいほどに身近な存在ですが、これは先攻1キルデッキにとっては非常に致命的な逆風として作用します。
実際、後世では【イグナイト1キル】のような理論上全ての初手で先攻1キルが成立するデッキ、つまり成功率100%の先攻1キルデッキなども開発されていますが、そうした規格外のデッキですらトーナメントレベルの実績を残すには至っていません。よって「単に先攻1キルが狙えるだけのコンボデッキ(※)」は誘発環境においてはもはや脅威ではなく、かつてのようにゲームバランスを崩壊させるほどの影響力は持っていないと見るべきでしょう。
(※【植物リンク】のように環境トップクラスのデッキが先攻1キルを搭載し始めると多少環境が歪むことはありますが、それも制限改訂によって間もなく解決することがほとんどです)
逆に言えば、第1期にて生まれてしまった「ワンキル」という巨大なバグを修正するためには、実に十余年もの年月が必要だったということなのかもしれません。
【まとめ】
1999年12月16日当時に起きた変化については以上となります。
「遺言状(エラッタ前)」の誕生によって【エクゾディア】が遂に完全体となり、【エクゾディア】以外のデッキは例外なく生存権を失ってしまいました。また、事実上この瞬間をもって「先攻1キル」の概念が生まれてしまった背景もあり、遊戯王OCGの歴史においても極めて重大なターニングポイントです。
しかしながら、あまりにもゲーム性に乏しすぎたせいか、当時は【エクゾディア】の使用を自重する空気があり、文字通り「封印されし」デッキとしてプレイヤーに恐れられていくことになります。
この状況は2000年4月の制限改訂で【エクゾディア】のメインパーツが規制されるまで続き、それまでは【エクゾディア】から目を逸らしながら【グッドスタッフ】同士で対戦するなど、表面上は平和なもののどことなく閉塞感のある状況が広がっていました。
また、この「遺言状(エラッタ前)」には第2期開始直後に裁定変更が入り、1ターンに1度しか効果を適用できない仕様に変更されています。
しかし、そもそも攻撃力1500以下でさえあればどんなモンスターでも呼び出せるという点が凶悪すぎたことから、様々な瞬殺コンボギミックに組み込まれていくことになりました。その結果、現在ではエラッタ後の「遺言状」も禁止カード指定を受けており、そういった経緯を踏まえても「遺言状」は遊戯王でもトップクラスに悪名高いカードと言えるのかもしれません。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
素晴らしい記事をありがとうございます。
この記事を参考にして作成された非常に面白い動画を発見したので、ぜひ共有させて頂きます。
https://www.youtube.com/watch?v=E8ZAs5tIUhQ&t=0s
https://www.youtube.com/watch?v=N-d2g9g9jms
この動画によると「キャノンソルジャー & コカローチナイト」ワンキルの方が「エクゾディア」ワンキルよりも高い安定性を誇るようです。確かに「コカローチナイト」のギミックを組み込めば16体の射出が必要な問題は解決しますしパーツ事故もないので、未発見だったワンキルルートが現代になって開拓されたかもしれません。
コメントありがとうございます。
動画拝見しました。第1期のプールで【エクゾディア】以外のワンキルデッキを開拓するという試みは新しく、非常に興味深く視聴させていただきました。特に当時全く注目されていなかった「コカローチ・ナイト」に着目したコンボは非常に斬新で、限られたカードプールであっても発想次第で様々なデッキを組める遊戯王の奥深さを改めて実感することができました。
他にも動画を投稿されているようですので、時間のある時に視聴させていただこうかと思います。