暗黒のマンティコアと無限ループコンボ エクゾディアまたも復活

2018年3月28日

【前書き】

 【第3期の歴史25 永久禁止カード「混沌の黒魔術師」【混黒ループ】系デッキの脅威】の続きとなります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

暗黒のマンティコア 一人無限ループ生成器

 「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」「次元融合」の2枚の参戦によって【カオス】が更なる強化を受け、当時の環境はより一層深い混沌に包まれていくことになりました。第3期当時のゲームスピード基準では信じがたいことですが、場合によっては僅か1、2ターンでゲームが終わってしまうことすらあったほどです。

 一方で、こうした【カオス】関連の話以外にも無視できない出来事は起こっています。「暗黒の侵略者」に収録されていたとある1体のモンスターを軸に、非常に危険な先攻1キルデッキの開発が進み始めていました。

 一人無限ループ生成器、「暗黒のマンティコア」の誕生です。

このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズ時に発動する事ができる。獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかのモンスターカード1枚を手札またはフィールド上から墓地に送る事で、墓地に存在するこのカードを特殊召喚する。

 自身が墓地へ送られたターンのエンドフェイズに限り、「特定のモンスターを墓地に送って自己再生する」効果を発動できる能力を備えています。ポイントはこの効果に回数制限が存在しないことで、蘇生直後のこのカードを何らかの手段で墓地に送ることで何度でも蘇生効果を使用できます。

 もちろん、この効果を悪用するのは簡単なことではありません。単純に無限の蘇生コストを要求されることに加え、エンドフェイズという限られたタイミングで「暗黒のマンティコア」を墓地に送り続けるのも厳しいものがあるでしょう。

 ところが、こうした問題を簡単に解決できるカードが存在します。

 一人無限ループ生成器、「暗黒のマンティコア」です。

このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズ時に発動する事ができる。獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかのモンスターカード1枚を手札またはフィールド上から墓地に送る事で、墓地に存在するこのカードを特殊召喚する。

 どうにも異様に既視感のあるテキストですが、それはさておき「暗黒のマンティコア」はエンドフェイズにモンスターを何度でも墓地に送れるカードであり、なおかつ自力で無限に復活可能な自己再生モンスターです。

 つまり「暗黒のマンティコア」とは深いシナジーを形成しており、蘇生した「暗黒のマンティコア」をコストにもう1体の「暗黒のマンティコア」を蘇生することを繰り返すだけで容易に無限ループが成立します。これが「マンティコアループ」の基本的な仕組みであり、「暗黒のマンティコア」が一人無限ループ生成器などと呼ばれる理由でもあるでしょう。

 もちろん、これだけでは意味のないループであり、遅延行為に該当しますが、問題はここに他のカードが絡んだ場合の話です。

 具体的には、特殊召喚をトリガーに適用される何らかの効果と併用するだけで「意味のあるループ」に変わるため、一気に実戦的なコンボに化けます。中でも「生還の宝札」との相性は抜群で、無限ドローの成立によって事実上の勝利が確定します。

 このギミックを活かしたデッキこそが【宝札マンティコア】であり、第3期では死滅して久しかった先攻1キルの脅威が再び蘇った瞬間です。

 

専用デッキ【宝札マンティコア】成立 先攻1キルの脅威再び

 【宝札マンティコア】は、「暗黒のマンティコア」と「生還の宝札」による無限ドローコンボの成立に特化した先攻1キルデッキの一種です。

 

サンプルデッキレシピ(2003年8月7日)
モンスターカード(13枚)
×3枚 暗黒のマンティコア
聖鳥クレイン
×2枚 処刑人-マキュラ(エラッタ前)
×1枚 封印されしエクゾディア
封印されし者の左足
封印されし者の左腕
封印されし者の右足
封印されし者の右腕
魔法カード(19枚)
×3枚 おろかな埋葬
生還の宝札
リロード
×2枚 増援
×1枚 苦渋の選択
強欲な壺
死者蘇生
手札抹殺
天使の施し
成金ゴブリン
早すぎた埋葬
魔法再生
罠カード(8枚)
×3枚 強欲な瓶
サンダー・ブレイク
×2枚  
×1枚 現世と冥界の逆転(エラッタ前)
無謀な欲張り
エクストラデッキ(0枚)
×3枚  
×2枚  
×1枚  

 

 デッキの回し方そのものは非常に単純で、一言でまとめれば生還の宝札」を設置した上で上記の「マンティコアループ」を成立させるだけで全てが終わります。無限ドローコンボの成立には二重の条件が存在する形ですが、前者はともかく後者は「おろかな埋葬」(※)などによる水増しが利くため、見た目ほど重い条件ではありません。

(※厳密にはこの時点では誕生していないカードですが、ほぼ同時期の出来事であるため、ここでは分けては考えません)

 エンドカードには【エクゾディア】が搭載されることが多く、事実上は【宝札エクゾディア】(第2期)の後継デッキとなります。もちろん、勝利手段は必ずしもエクゾディアにこだわる必要はありませんが、やはり無限ドローからエクゾディアを連想するのはデュエリストの本能と言えるでしょう。

 また、従来の【エクゾディア】系列デッキにはない利点として、墓地に落ちたエクゾディアパーツを安定して回収可能なルートを持っていることが挙げられます。

 具体的な手順は下記の通りです。

 

①:あらかじめ「処刑人-マキュラ(エラッタ前)」を墓地に落としておき、手札から罠カードを発動できる状態にする。

 

②:無限ドロー成立後、そのエンドフェイズ中に「リロード」「強欲な瓶」などのフリーチェーンカードを発動して墓地を15枚以上溜める。

 

③:手札に「サンダー・ブレイク」「暗黒のマンティコア」が1枚ずつある状態で「現世と冥界の逆転(エラッタ前)」を発動し、デッキと墓地を入れ替える。

 

④:適当なフリーチェーンカードを発動し、それを対象に「サンダー・ブレイク」を発動する。(コストは「暗黒のマンティコア」)

 

⑤:再度マンティコアループ成立。

 

 無限ドローによってデッキを全て引き切れる都合上、実質的な条件は「処刑人-マキュラ(エラッタ前)」を墓地に落とすことだけであり、サルベージ手段としての信頼性は十分です。特に胴体部分は当時のカードプールでは基本的に回収不可能だったため、こうした詰みの発生を防げるようになったことは大きな進歩にあたります。

 また、当然のことながら「現世と冥界の逆転(エラッタ前)」そのものもエンドカードとして機能するため、複数の勝ち筋を用意できるという副次効果も侮れません。本家である【現世と冥界の逆転】ほど特化しているわけではないため狙ってデッキデスを決めることは難しいですが、サブウェポンと考えれば及第点のスペックでしょう。

 

成功率5割の壁 【サイエンカタパ】には太刀打ちできず

 一方、肝心のワンキル成功率についてはそれほど安定しておらず、かつて第2期終盤に流行した数々の極悪先攻1キルデッキと比較すると見劣りする面もあります。

 比べる相手が悪いと言ってしまえばその通りではありますが、デッキの構造上「生還の宝札」を引けなければその時点でコンボが瓦解してしまう以上、ドローソースの水増しを考慮しても成功率5割の壁は突破できません。しかし、第3期当時のゲームバランスでは攻撃力2300のモンスターを展開するだけでもそれなりに強い動きだったため、先攻1キルに失敗しても疑似的な【ハイビート】として振る舞える優位点がありました。

 もっとも、この直後に現れる【サイエンカタパ】は【宝札マンティコア】とは比較にならないほどワンキル成功率が高く、おまけにコンボ失敗時も「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」で殴りかかってくる始末だったため、多くの部分において後塵を拝していたことは否めません。

 そのため、【宝札マンティコア】最大の不運は【サイエンカタパ】と同じ世代に生まれてしまったことだったのかもしれません。

 

聖鳥クレイン マンティコアループの密かな立役者

 その他、【宝札マンティコア】に関連する話題として、「聖鳥クレイン」の存在についても言及しておきます。

このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。

 こちらも「暗黒の侵略者」出身、つまり「暗黒のマンティコア」と同じタイミングで現れたカードであり、元の場所は問わず特殊召喚に成功した場合に無条件でカードをドローする効果を持った下級モンスターです。単体ではバニラ同然の性能ですが、特殊召喚サポートを用意することで変則的なドローエンジンとして運用できます。

 とはいえ、コンボパーツとして考えれば小さくまとまっている印象はあり、あくまでもビートダウンの補助としての活躍がメインとなるでしょう。具体的には「召喚僧サモンプリースト」のリクルート候補などですが、いずれにしても遊戯王前半期においては縁の無い話です。

 しかし、鳥獣族モンスターであるため上記の「暗黒のマンティコア」の蘇生コストに使用できるという強みがありました。元々蘇生ギミックとは相性が良いという特徴もあり、当時の【宝札マンティコア】においては準必須カードとして密かに活躍していたモンスターです。

 

未来では「増殖するG」キラーに 生還の宝札コンボ(大嘘)

 【宝札マンティコア】に関しては以上ですが、この「暗黒のマンティコア」というカードについて語る上ではもう1つだけ忘れてはならないことがあります。

 「増殖するG」との友情コンボについてです。

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できず、相手ターンでも発動できる。
①:このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、以下の効果を適用する。
●相手がモンスターの特殊召喚に成功する度に、自分はデッキから1枚ドローしなければならない。

 現役プレイヤーにとってはもはや見飽きたカードですが、見ての通り「特殊召喚をトリガーに適用される効果」の一種であるため、「暗黒のマンティコア」とは意味のあるループを形成します。

 具体的には、相手のデッキが無くなるまで自己再生を繰り返すだけで自動的にデッキデスが成立します。上記の生還の宝札」コンボを無理やり相手に押し付けるようなものであり、数ある友情コンボの中でもトップクラスに致命的なコンボです。

 この友情コンボが最も脚光を浴びたのは第9期の【十二獣】全盛期のことで、「十二獣ブルホーン」でサーチできるという利点によって一時期は「増殖するG」メタとして話題を呼んでいました。

 とはいえ、性質的には1発ネタに近いところもあり、流石に定着はしませんでしたが、「敗因増G」として泣かされたプレイヤーも少なくなかったのではないでしょうか。

 

【当時の環境 2003年7月17日】

 【第3期の歴史25 混沌の黒魔術師参戦 【カオス】完全体へ】以降の前後編の記事内容を総括した項目となっています。ご注意ください。

 「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」「次元融合」という最強の新人を獲得し、【カオス】が一段上のデッキパワーを得るに至っています。もはや他のデッキでは止めようがないとすら言える領域に到達しており、当時のメタゲームは完全に【カオス】一色に染め上げられていきました。

 一方で、「暗黒のマンティコア」の参戦によって【宝札マンティコア】が成立し、第3期における先攻1キルデッキの尖兵として猛威を振るい始めています。しかし、この時期のカードプールではとりあえず構築可能になったという段階に過ぎず、それほど安定していたとは言えません。

 しかし、この【宝札マンティコア】が思うような成績を残せなかった何よりの原因は、第3期最凶の先攻1キルデッキである【サイエンカタパ】の存在にこそあったのではないでしょうか。

 「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」の誕生を受けてか、この頃から遂に【サイエンカタパ】のひな形が出来上がっていくことになります。デッキパーツは不足気味ですが、「魔導サイエンティスト」「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」をそれぞれ3枚積める強みを活かして「ディメンション・マジック」を展開パーツに据えるなど、全盛期にはない独自の戦略が取られていました。

 とはいえ、生まれたばかりの赤子状態では【カオス】を押しのけるほどの強さではなく、総合的にはそれほど騒がれていなかった印象です。むしろ全盛期は「魔導サイエンティスト」が制限カードに指定された後の話であり、時期的には【カオス】が勢いを落とし始めた頃と被っています。

 こうした事情を踏まえる限り、全盛期の【カオス】は【サイエンカタパ】ですら逃げ出すほどの圧倒的な強さを持っていたと言えるのかもしれません。

 

【まとめ】

 前記事と合わせて、「暗黒の侵略者」販売によって起こった出来事は以上です。

 多数の優良カードに紛れて凶悪なカードが数枚潜んでおり、【宝札マンティコア】や【サイエンカタパ】台頭のきっかけとなるなど、当パック参戦が環境に及ぼした影響は決して少なくありません。

 もちろん、【カオス】を完全体に仕上げてしまった罪も大きく、まさしくパック名の通り遊戯王に対する侵略者に他ならなかったのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史