マッチキル【MCV】の脅威とは 実は脆すぎる事故デッキ

2018年8月3日

【前書き】

 【第4期の歴史22 制限改訂2005/9/1 変異カオス崩壊 除去ガジェ環境へ】の続きとなります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

アーキタイプ【V】の成立 マッチキルの脅威

 制限改訂により環境の勢力図が揺れ動く2005年9月中頃、その脅威は突如として現れました。

 遊戯王最悪のマッチキルデッキ、【ヴィクトリードラゴン】の成立です。

 その名からも分かるように、「ヴィクトリー・ドラゴン」を中核に据えたデッキの総称であり、遊戯王OCGに【マッチキル】の概念を植え付けた悪名高いアーキタイプです。デッキとしてはいくつかの型が存在しますが、いずれも対人的な問題を孕んでいたということは上記の関連記事の通りです。

 

ポッド依存 最悪の【V】系デッキ【MCV】

 その中でも一際異彩を放っていたのは、無限ループ系コンボデッキ【MCV】に他なりません。

 具体的なデッキの構造や動かし方については専用ページで解説していますが、一言にまとめれば「1ターンを何十分も続けてマッチキルを決める」最悪のコンボデッキです。世に「ヴィクトリー・ドラゴン」の脅威を知らしめた張本人であり、「ヴィクトリー・ドラゴン」の名前からこのデッキを連想されるプレイヤーは少なくないのではないでしょうか。

 実際に当時のプレイヤーの間では大きな問題として取り上げられ、一部では抗議運動のようなものも起こっています。こうした騒動は公式からも重く捉えられ、この時期に実施されたルール改訂の一因にもなりました。

 しかしながら、こうした対人的な問題を取り除き、ゲーム上の話だけで考えるのであれば、この【MCV】というデッキは実はそれほど強くはなかったことも事実ではあります。

 理論上は(実質)先攻1ターン目にマッチキルを決めることも可能なデッキなのですが、現実的にはコンボ成立に数ターンかかるケースがほとんどです。その間は完全に無防備を晒すことになるのはもちろん、最悪の場合は「抹殺の使徒」などによりギミックそのものが潰されることも珍しくありません。

 実際に当時のトーナメントシーンでも特に結果は出しておらず、正直なところ「理論上の強さだけが一人歩きしている」デッキでもあったことは否定できないのではないでしょうか。

 

基本に忠実 実戦デッキ【Vドラコントロール】

 一方、正統派の【ヴィクトリー・ドラゴン】の型として、コントロール軸である【Vドラコントロール】もこの頃より浮上しています。

 マッチキルを掲げておいて正統派も何もない、と言ってしまえばそうなのですが、デッキの構造そのものは非常に丁寧な仕上がりです。「グラヴィティ・バインド-超重力の網-」を筆頭とする攻撃抑制カードを基本に、「デス・ラクーダ」「スカラベの大群」「イナゴの軍勢」などのサイクル・リバースモンスターで手札補充、盤面コントロールを行います。

 それらを守るカウンターとして「神の宣告」「天罰」「マジック・ジャマー」の3種の神器を取り揃え、さらに取り回しに優れた万能除去として「サンダー・ブレイク」を忍ばせれば骨組みは完成です。ロックデッキとして基本的な部分はしっかりと抑えており、【MCV】にあったような構造的な欠陥はほぼ見られません。

 もちろん、ロックデッキの常として「王宮のお触れ」などのメタカードが刺さる弱みはあります。しかし、それは欠陥というよりも弱点であり、【Vドラコントロール】に限って言えることではありません。

 このデッキ固有のギミックとして挙げられるのは、闇の仮面」「月読命」「刻の封印」の3枚によるドローロックコンボです。

 通常のロックデッキでは過剰になりやすい、要はオーバーキルとも言えるギミックですが、「ヴィクトリー・ドラゴン」を安全に通す必要がある【Vドラコントロール】では必須ギミックとなっています。他の選択として「魔力の枷」を搭載した型もありましたが、神の宣告」「光の護封壁」などでライフを消耗しやすいこのデッキとはやや噛み合わせが悪く、別途ライフゲイン手段を用意しなければならない点(※)で引けを取っていたことは否めません。

(※ただし、ドローロック軸でも「現世と冥界の逆転(エラッタ前)」のために「非常食」などがピン挿しされるケースはありました)

 どちらの型にせよロック成立後にライフ調整が必要になることは同じです。この時、可能であれば「魂を削る死霊」のハンデス効果で手札を枯らしておけば盤石の態勢を整えられるでしょう。

 最後は「竜の血族」から「ヴィクトリー・ドラゴン」を召喚し、マッチキルを決めるという流れです。爆発力こそありませんが、非常に安定したコンセプトに仕上がっており、総合的なデッキの完成度は【MCV】を大きく引き離しているのではないでしょうか。

 

【V】系デッキ成立の経緯

 こうした【V】系デッキが成立した経緯としましては、直前の改訂で【変異カオス】が姿を消していたことが大きな要因として挙げられます。

 というのも、高い盤面コントロール能力によってロックを切り崩されることが多く、本来ロックデッキの強みであるはずの「メイン戦では対処されにくい」という優位性を活かすことができなかったからです。

 しかし2005年9月以降、【ガジェット】が環境の最大勢力となったことによって状況が大きく動きます。純正ビートダウンデッキである【ガジェット】にとって、ロックカードを多用する【Vドラコントロール】にメインから対抗することは非常に困難だったからです。

 サイド戦では「賢者ケイローン」や「氷帝メビウス」、また「王宮のお触れ」などによって問題なく対応できますが、【ガジェット】の構造上メインからこれらが積まれていることはそれほど多くありません。基本的に魔法・罠に触れるカードは制限カードである「魔導戦士 ブレイカー」「サイクロン」「大嵐」程度しか用意されず、大量に積まれたロックカードにこの3枚だけで対抗するのは至難の業(※)です。

(※この時期に【ケイローンガジェ】が流行したことにはこうした背景も存在します)

 一応、「抹殺の使徒」や「シールドクラッシュ」によって多少の妨害行動は行えますが、根本的な解決にはならず、結局は時間の問題となります。そもそもカウンター罠によってそれすら止められてしまうことも多く、このマッチアップにおける勝因がほぼ相手の事故によるものに限られることは否めません。

 【リクルーターカオス】などは標準的に「氷帝メビウス」を積んでいたため、まだまともに戦うこともできたのですが、それでもビートダウンデッキでロックデッキからメインを取るのは難しい話です。

 とはいえ、黎明期のように1強時代を築き上げるほどの支配力はなく、この【Vドラコントロール】もあくまでも一勢力の位置に収まっています。年末に【黄泉帝】が頭角を現し始めると立ち位置はさらに複雑なものとなり、後期はメインデッキからメタカードが積まれることが増えるなど、次第に風当たりが厳しくなっていきました。

 

元はファンデッキ 風評被害【コスモV】

 その他、「ヴィクトリー・ドラゴン」関連の出来事として、【コスモV】というデッキについても触れておきます。

 デッキ名から見て取れるように、【コスモロック】を下敷きとしたマッチキルデッキの一種です。しかし、上記2デッキと比べて脅威度は低く、トーナメントシーンで結果を残したこともありません。

 元々【コスモロック】は第4期初頭に成立したファンデッキの一種であり、これまで特に環境に顔を出すこともなく細々と開発が行われていました。その過程でロック成立後のフィニッシャーに「ヴィクトリー・ドラゴン」を採用した型が考案され、界隈で話題になっています。

 これが2005年3月頃の出来事です。

 つまり、「ヴィクトリー・ドラゴン」が悪名を轟かせる以前の話なのですが、この時期に【MCV】や【Vドラコントロール】が現れた影響で槍玉に挙げられてしまい、一時期は極悪デッキの一党であるかのような扱いを受けていました。

 もちろん風評被害であり、そもそも【コスモV】自体が【コスモロック】の派生デッキの一種に過ぎない以上、厳密には【V】系デッキに分類するべきではありません。しかし、一旦根付いてしまった悪評を払拭することは難しく、しばらくはこのような扱いが続いています。

 【コスモV】以外にも似たような話は存在し、当時のプレイヤーの間で「Vドラを使うデッキは悪」という共通認識が広がっていたことは確かです。実際、ある意味ではそれも間違いではないのですが、だからと言ってデッキ自体に罪があったかというと、決してそんなことはありません。

 実際、この時期に【ドラゴンビートV】などを使っていて肩身の狭い思いをされたカジュアルプレイヤーも少なからずいらっしゃったのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 前記事と合わせて、2005年9月1日の制限改訂で起こった出来事は以上です。

 【変異カオス】の消滅を受けて【ガジェット】が躍進を遂げたほか、新勢力として【リクルーターカオス】【サイカリバー】などが台頭しています。しかしその一方で、【MCV】に始まる【V】系デッキ、【トランス】などの【TOD】系デッキが成立してしまった時期でもありました。

 一応、【MCV】や【トランス】に関しては1ヶ月後のルール改訂で対処の手が入っていますが、根本的な解決にはなっていなかったということは関連記事の通りです。そもそもメタゲームに明確な形で影響を与えていたのは【Vドラコントロール】の方でもあり、【V】系アーキタイプとして受けた被害は実質的には軽いものだったのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史