刻の封印が禁止カードからいまだに動かない理由とは
・前書き
・最弱の禁止カード筆頭候補
・汎用カードとしての「刻の封印」:弱すぎる
・ドローロック系コンボパーツとしての「刻の封印」:使えない
・TODパーツとしての「刻の封印」:危険?
・まとめ
【前書き】
遊戯王OCGというカードゲームの中に、「刻の封印」と呼ばれるカードが存在します。
次の相手ターンのドローフェイズをスキップする。
一言で言えば、相手に1度限りのドローロックを仕掛ける効果を持った通常罠カードです。かつて【Vドラコントロール】などのマッチキルデッキで散々に悪用された挙句、その末に禁止カードに指定された経緯を持つことで知られます。
それから10年以上経過する今なおその地位にとどまり続けている背景もあり、「刻の封印」が凶悪カードと目されることは少なくありません。
しかし、逆にこれが禁止カードであることを疑問視する声も多く、オブラートに包まずに言えば「実は「刻の封印」は弱いのではないか」という意見も散見されるのは確かです。
この記事では、そんな「刻の封印」が本当に禁止カードに相応しい存在なのかどうかについて考察いたします。
最弱の禁止カード筆頭候補
先に結論を言ってしまいます。「刻の封印」は無制限カードでも恐らく使われないカードです。
大まかに使い方を考えた場合、「汎用ドローロックカード」「使い回しによる無限ドローロックコンボ」「TODギミックのパーツ」の3パターンに分類できますが、いずれも複数の理由から実用性については期待できません。
一つずつ理由を解説していきます。
汎用カードとしての「刻の封印」:弱すぎる
まずは汎用ドローロックカードとしての評価ですが、これについてはほぼ議論の余地なく「弱い」としか言いようがないでしょう。
大前提として、単発のドローロックはほとんどの場合、ゲームの有利不利に影響を及ぼしません。わざわざ言葉にするのも不毛な話ですが、「刻の封印」を引いている時点でドローの機会を1回分消費している以上、実質的には「自分のドローロックと引き換えに相手をドローロックしている」に過ぎないからです。
もちろん、よほど自分が優位に立っている状況であれば、これが詰めの一手として機能するケースも無くはありません。しかし、そうでなければ単にお互いのリソースが水平移動しているだけの話でしかなく、「仕事をしないカードが盤面に存在する」という意味においてはこれ以上ないほど足を引っ張っています。
この反論としてよく言われるのは「フリーチェーンの1:1交換なので絶対に損はしない=パワーカード」という理屈ですが、厳密にはそもそも等価交換にすらなっていないことに留意するべきです。
例えば、先攻1ターン目にこれをセットした場合、「刻の封印」が実際に効力を発揮するのは次の次の相手ターン、つまりは都合4ターン目の話となります。これは確かにカード・アドバンテージ面では1:1交換の取引をしているように見えますが、テンポ面では3ターンかけてやっとディスアドバンテージを取り返しているに過ぎません。
つまり「刻の封印」を発動した場合、その時点で「テンポロスという見えないディスアドバンテージ」が確実に伸しかかる構図に陥ります。これは要するに1枚しかドローできない「強欲なカケラ」のようなもので、単純にリソース面だけで判断するなら「使えば使うだけ損をするカード」です。
というより、そもそも効果を発揮する前にゲーム自体が終わっている可能性すらあり、その場合はカード1枚をドブに捨てているに等しいとさえ言えるでしょう。
現実問題、「刻の封印」をまともな方法で活用しようとするのは相当難しい問題です。上記のテンポロスに見合った働きを期待する場合、【爆風ライザー】などの専用デッキを用意する必要があります。
要するに「刻の封印」はタイム・デストラクション系ギミックに特化したロックデッキで使ってこそ輝くカードであり、漠然と使うだけでは何の役にも立ちません。フリーチェーンの1:1交換カードという汎用性に優れたカードに見えて、その実態は非常に使用タイミングが限られるピンポイントなカードなのです。
とはいえ、そうしたデメリットを踏まえた上で、なおドローロックは強力であるとする意見もないわけではありません。しかし実際のところ、現役プレイヤー視点ではそれほど脅威的には見えない……という認識が多数派なのではないでしょうか。
ドローロック系コンボパーツとしての「刻の封印」:使えない
汎用カードとしての「刻の封印」の評価は上記の通りですが、これだけでは結論を導き出すことはできません。何と言っても「刻の封印」の真価はコンボパーツとしての役割にこそあり、これを悪用することで何らかの危険性を発揮するのであれば禁止カード指定も頷ける話です。
過去に流行したのは「月読命」と「闇の仮面」を絡めた無限サルベージギミックで、これが「刻の封印」の直接の規制理由にもなっています。
毎ターン「月読命」を召喚して「闇の仮面」のリバース効果を使い回し、「刻の封印」で永遠にドローロックを決めるというコンボです。やっていること自体は「八汰烏」による【八汰ロック】に匹敵する凶悪さを秘めており、その意味では禁止級の悪用適性を持ち合わせていると言えなくもありません。
現在のカードプールであれば、何らかの方法で毎ターン「トロイメア・グリフォン」をリンク召喚するといった方法も取れます。枠の消費にさえ目を瞑れば高確率でコンボを成立させる展開ルートを用意すること自体は容易く、その気になれば先攻1ターン目からドローロックに持ち込むギミックを組むことも不可能ではないでしょう。
とはいえ、そうしたコンボに本当に実用性があるかどうかはまた別の話です。
単純に考えても無限サルベージギミックを崩された瞬間にロックが瓦解するため、相手の反撃が困難なほど強固に盤面をロックする必要があります。往年の「闇の仮面」ギミックであればモンスター除去や墓地メタ系の妨害を完全にシャットアウトしなければならず、除去やメタカードが飛び交う現環境でそれを実現するのは容易ではありません。
そして、仮にそこまで盤面を制圧できているのであれば、そもそもその時点でゲームに勝っているようなものです。ここからあえてドローロックを狙いにいくのは明らかにオーバーキルであり、むしろ余計なギミックを積むことで事故率が上がる分だけ損をしています。
つまり、ドローロックが成立するほど有利な状況では「刻の封印」がそもそも不要になるため、このカードは根本的にロックカードとしての価値を持っていないことになります。
また、上記の「トロイメア・グリフォン」のような即効性のあるループであっても、そんな回りくどいことをするくらいなら先攻制圧なり先攻1キルなりを決めた方が遥かに効率的でしょう。ドローロックを決めるためだけに一体何枚のカードを使っているのかという話であり、労力と対価がまるで釣り合っていないことは火を見るより明らかです。
これはたとえ今後カードプールが広がり、「刻の封印」の活用方法が増えたとしても変わりません。繰り返しになりますが、それよりも効率的な「実質上位互換のコンボ」が出現し続ける以上、どう足掻いても実用性を生み出すことができないからです。
もう少し噛み砕いて説明するなら、「刻の封印」は「相手が瀕死の時にしか使えない即死技」のようなものでしかなく、いわゆるロマンコンボの域を出ない「実用性がないカード」と言えるでしょう。
実際、ゲームスピードが現在よりも遥かに遅かった当時ですら【Vドラコントロール】や【TOD】以外では全く使われておらず、事実上はマッチキル専用のコンボカードという扱いを受けていたと記憶しています。
インフレによってゲームが加速した現在では言わずもがなであり、もはや無限ドローロックのコンボカードとしても危険性はほぼゼロに近いというのが実際のところでしょう。
TODパーツとしての「刻の封印」:危険?
結局、最後に残るのは【TOD】ギミックの、つまりタイム・オーバー・デスのコンボパーツとしての評価だけです。
このページではTODの仕組みについては触れませんが、一言で言えば「時間切れによる意図的なマッチキル」を狙うコンボを指します。こうした極悪コンボがカードゲーム以前の対人的な問題を引き起こすことは言うまでもなく、実際にかつては署名運動にまで発展する騒動を巻き起こしました。
しかし、現在ではタイム・オーバー・デス自体がほぼ過去の脅威となって久しい以上、これもかなり首を傾げる理由と言わざるを得ません。
それ以前に、本気でTOD戦法を狙う(実現可能かどうかは別として)つもりがあるのであれば、「アルカナフォースXXI-THE WORLD」などで相手ターンを丸々スキップ、もしくはメイン1だけで完結する無限ループを組んだ方が遥かに安定します。あえてコントロール軸で狙うにしても「転生の予言」などでいくらでも代用が効くため、わざわざ「刻の封印」にこだわる必要性がそもそもない、という根本的な問題が立ち塞がるのです。
つまり結論として、「刻の封印」は【TOD】のパーツとして見ても適性は高いとは言えません。
精々「危険と言えば危険だが、他のカードを使う方がマシ」という評価に落ち着きます。一応、使おうと思えば使えるカードではあるため、「刻の封印」の使い方としては最も賢い使用法なのは確かですが、そもそも「刻の封印」を使おうとすること自体が賢い選択ではないでしょう。
【まとめ】
このように、「刻の封印」というカードは禁止カードに相応しい強さがあるとは言えず、規制緩和したところで特に問題を引き起こすことはない、ということが分かります。
とはいえ、現実として「刻の封印」が長年禁止カード指定を受けている事実は動きません。そこに何らかの理由が存在するのだとすれば、それは単に「刻の封印」というカードがプレイヤーに嫌われているから、という原始的な結論に行き着くのではないでしょうか。
恐らく実際に「刻の封印」を緩和した場合、しばらく一部の層のプレイヤーから各所で叩かれた後、そのうち忘れられて話題に上らなくなる、という経緯を辿るものと思われます。
しかし、逆に言えば多少なりとも炎上騒動を引き起こすことは間違いないため、そうまでして「刻の封印」を緩和するメリットがないと言ってしまえばその通りです。そうした宙ぶらりんの状況が10年以上続いてしまった結果、今更規制緩和しようにもタイミングが掴めない、というのが事の真相なのかもしれません。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
まず第一に、多くのプレイヤーはそのテキストを注意深く読んでおらず、「次の相手ターン」という1:1交換の見方は成り立たないの一文に気づいていなかった、だから一連の誤解が生じていますと思います。
実はこのカードの単純の強さは、相互互換の《光の封札剣》の存在に(現環境はおそらくこのカードの方が強い)、そしてそちら側を使うデッキがないし、長い間無制限カードとして環境に無視され続けるの時点で、気づいできるはずです。
…問題は、多くのプレイヤーが《光の封札剣》自体の存在と規制状況さえ知らないということ(それが実際にどれほど凡庸であるかを示すもう1つの簡単な証拠)。そしてこのカードの存在を発見し、そのテキストを初見て読んだ後、「え、このカード強くないか?」となるのですが、結局はまだ分析と説明が必要なループです…状況は非常に皮肉です。
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り「刻の封印」は純粋なカタログスペックでは「光の封札剣」と大差なく、つまりは無制限カード並のパワーしか持っていないと言ってしまっていいように思います。一応TOD関連の使い道があるという点では上回っていると言えなくはないですが、逆に考えるとその程度しか差別化できる部分がないとも言えますし、やはり現実的には禁止カード相当の凶悪さは無いという結論に行き着きそうです。
一応最近では【ラビュリンス】でかなり簡単にサーチ&使い回しが出来るようになったので、迂闊に緩和するとTODなどで危険かもしれないですね。
コメントありがとうございます。
ご指摘いただいた通り【ラビュリンス】の登場によって「刻の封印」の評価も変わったように感じます。とはいえカード単体のスペックとしてはやはり何とも言えない性能ですが、アクセス手段が増えればそれだけ悪用されるリスクも上がりますし、危険度をもう少し高く見積もっても良いかもしれません。
海外だと22/05/17で八汰烏と共に禁止解除されましたが、海外では合意なきサレンダーが認められているそうなのでTOD問題を気にせずドローロックできるようですね…。
合意なきサレンダーが可能だとVドラが事実上最弱の禁止カードと化してしまいますが。
コメントありがとうございます。
ドローロックは単純な強さ以前にメカニズムとして欠陥を抱えているきらいはありますし、刻の封印はともかく八汰烏が復帰したことはそれなりに衝撃的でした。
とはいえ遅延関連の問題を除けば変則的なワンキルカードのようなものに過ぎない以上、少なくとも海外環境では禁止にするほどの存在ではないと判断されたのかもしれません。
遂に八汰烏と一緒に帰ってくる事が出来ますね!
お帰り時の刻印!ようこそ11期へ!
時の封印でした ごめんなさい・・・
コメントありがとうございます。
ドローロック組、特に刻の封印は今となっては流石に強いとは言えない性能になってしまいましたし、ようやく許されることができて良かったように思います。巷ではラビュリンスでのコンボが凶悪という意見も時折見かけますが、それもそこまでして使うほどかと言われると……という印象もあり、現代において活躍できるデッキを組めるかどうかはデッキビルダーの腕の見せ所と言えるのかもしれません。