月読命ラインの形成 遊戯王前半期の殿堂入りカード
・前書き
・月読命 遊戯王「最優」のスピリットモンスター
・多彩すぎる月読命の使い方 生ける月の書のポテンシャル
・そして禁止行きに 万能パワーカードと言われた理由
・当初は「使い道がよく分からない微妙カード」扱い
・名工 虎鉄 【ギアフリード1キル】最期の足掻き
・当時の環境 2003年2月20日
・まとめ
【前書き】
【第3期の歴史17 黒蠍-棘のミーネ参戦 【ミーネ・ウイルス】の中核モンスター】の続きとなります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。
月読命 遊戯王「最優」のスピリットモンスター
「黒蠍-棘のミーネ」という精鋭、ひいては【ミーネ・ウイルス】の誕生を招いた「闇魔界の脅威」でしたが、当パックに収録されていた目玉カードはこれだけではありません。それどころか、総合的にはその遥か上を行く多大な影響を及ぼしたパワーカードを輩出したことでも知られています。
それこそが「月読命」という1体の下級モンスターでした。
このカードは特殊召喚できない。召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに持ち主の手札に戻る。このカードが召喚・リバースした時、フィールド上の表側表示モンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。
スピリットモンスター共通の自己バウンスと特殊召喚不可の制約を持ち、固有能力として召喚・リバースした時にモンスター1体を裏側守備表示にする効果を備えています。事実上「月の書」を内蔵しているモンスターであり、スピリットモンスターの特性ゆえに繰り返し効果を使えるというのが強みです。
結論から先に申し上げますと、この「月読命」は遊戯王前半期を象徴する紛れもないパワーカードと言っても過言ではありません。一方で、誕生当時はほとんど注目を集めなかった大器晩成のカードでもあります。
時期によって評価が反転している奇妙なモンスターですが、その理由はこのカードの「圧倒的な丸さ」にこそ集約されていました。
多彩すぎる月読命の使い方 生ける月の書のポテンシャル
以下はこのカードによって可能な行動の一例です。
①:「マジック・キャンセラー」などの制圧効果を一時的に無力化する。
②:「聖なる魔術師」などのリバースモンスターの効果を再利用する。
③:守備力1100未満のアタッカーを裏側守備表示にし、戦闘破壊する。
④:「サウザンド・アイズ・サクリファイス」と組み合わせて悪用する。
いずれも状況次第で有用に機能する使い方であり、カード1枚、とりわけ下級モンスターの仕事としては飛び抜けた汎用性を誇ります。中でも③は遊戯王というカードゲームそのものに対して多大な影響を及ぼし、このカードの存在から一時期は守備力1100に満たないアタッカーが大きく評価を落としていたほどです。
この影響を最も強く受けていたカードは、守備力1000の上級モンスターである【帝】シリーズに他ならないでしょう。いずれも生け贄召喚時に強力な効果を発動できますが、このカードを相手にした場合、あっさり戦闘破壊されて逆にアドバンテージを失ってしまいます。
実際、【帝】系デッキが流行し始めたのは「月読命」が制限カードに指定されてからの話です。流石にこれだけが流行の理由ではありませんが、その一因となっていたことは間違いありません。
しかし、このカードの最大の強みは「サウザンド・アイズ・サクリファイス」と組み合わせた際の凶悪なボード・コントロール能力にあったと言えるのではないでしょうか。
本来であれば「サウザンド・アイズ・サクリファイス」では1体しかモンスターを吸収できませんが、「月読命」で裏側守備表示にしてしまえば装備状態をリセットできます。つまり毎ターン継続的に相手モンスターを除去できることになり、これは当時としては凶悪極まりないコンボです。
加えて攻撃封印効果も一時的に無力化されるため、自分だけが一方的に相手を攻撃できるようになります。もちろん、攻撃後に「サウザンド・アイズ・サクリファイス」を反転召喚する都合上、相手ターン中は攻撃封印効果が適用されることは言うまでもありません。
そして、「サウザンド・アイズ・サクリファイス」自体も「突然変異」によって手軽に呼び出すことができたため、コンボを決めることも比較的容易です。これに特化したデッキこそが【変異カオス】であり、環境のデフレが進んだ第4期では主流デッキの一角として猛威を振るう(※)ことになりました。
(※詳しくは下記の記事で解説しています)
そして禁止行きに 万能パワーカードと言われた理由
その後、時代が進んで【変異カオス】が弱体化してからは上記の②の使い方、つまりリバース効果を無限に再利用するカードとして【マッチキル】系のデッキで悪用され始めることになります。
詳しくは上記記事で解説していますが、ドローロックカードである「刻の封印」を「闇の仮面」で毎ターン回収し、永遠にカードをドローできなくするという完全ロックコンボの一種です。一度決まれば絶対に抜け出せない性質から【マッチキル】系デッキとは相性がよく、当時の環境では【Vドラコントロール】を中心に猛威を振るっていました。
その結果、第5期初頭の2006年9月改訂で遂に禁止カード指定を下され、遊戯王前半期における活躍に幕を下ろすことになりました。
つまり「月読命」はビートダウン、コントロール、コンボと方向性の異なる分野それぞれで実績を残したということであり、これほど多方面に渡って活躍したカードは他に例がありません。OCGに数多く存在する「単にカードパワーが高いだけのカード」とは異なり、あらゆる用途に活用できる万能パワーカードという評価が当てはまる恐るべきモンスター(※)でしょう。
(※実際、一時期は現役復帰が絶望視されていたほどです)
ちなみに、そんな「月読命」も将来的には制限→準制限→無制限と段階を踏んで現役復帰を遂げていますが、ちょうどその復帰過程のタイミングで【征竜魔導】環境における中心人物として活躍したことでも知られます。
つまり汎用カードどころかメタカードとしても大々的に実績を残したということであり、まさに遊戯王「最優」のスピリットモンスターの称号がふさわしいカードです。
当初は「使い道がよく分からない微妙カード」扱い
このように、時代が進んでからは極めて優秀なモンスターとして多くの実績を残す「月読命」というカードですが、前置きで述べた通り当初はそれほど注目されておらず、ごく一部の相性の良いデッキで細々と使われる程度でした。
なぜなら、「丸い」ということは「特化した強さがない」ことの裏返しでもあるからです。
大前提として、2003年2月当時はビートダウンデッキの隆盛期であり、シンプルなアドバンテージの取り合いがメインとなる環境が構築されていました。【ジャマキャン】など一部の例外はありましたが、こうした「帯に短し襷に長し」のカードは使い勝手が悪いと敬遠される傾向にあったことは否めません。
何より、そもそも当時は「月の書」自体が評価されていなかった時代だったため、それに釣られる形で「月読命も大したことがない」というレッテルを張られてしまったことは事実です。
環境的に強さを発揮できる状況ではなかったことに加え、カードプールも育ち切っておらず、さらにプレイヤーの不理解と三重苦揃ってしまっており、有り体に申し上げて「使い道がよく分からない微妙カード」という評価を付けられていたのではないでしょうか。
名工 虎鉄 【ギアフリード1キル】最期の足掻き
「月読命」と並べて取り扱うことに場違いさは覚えますが、一応「名工 虎鉄」というカードにも触れておきます。
リバース:自分のデッキから装備魔法カードを1枚選択し、手札に加える。
リバースモンスターの1体であり、リバース時に装備魔法カード1枚をデッキから手札に加える効果を持っています。純粋な打点強化系装備魔法はもちろん、「早すぎた埋葬」や「強奪」などの強力なカードをサーチすることもできる優秀なリバースモンスターです。
とはいえ、当時は環境の変化からリバースモンスター自体が全体的に評価を落としており、あえてこのカードを採用するメリットも特に見当たりませんでした。実際、【八汰ロック】や【トマハン】とのゲームでこのカードと遭遇した経験は記憶にある限り皆無です。
しかし、特定の装備魔法カードを確実に手札に引き込みたいコンボデッキなどでは話が変わります。具体的には、前回の制限改訂で姿を消した【ギアフリード1キル】においては、制限カード指定を受けた「蝶の短剣-エルマ」の代わりとなり得るパーツとして高く評価されることになりました。
その場合、サーチカードを含めて「蝶の短剣-エルマ」4枚体制となるため、むしろ安定性は上がっていると考えることもできるでしょう。元々「鉄の騎士 ギア・フリード」と相性の良い「盗人の煙玉」をサーチできる地味ながら小回りの利く強みもあり、新たな形の【ギアフリード1キル】として再構成が成されています。
しかし、これ自身がリバースモンスターという遅いカードであることに加え、1枚しかない「蝶の短剣-エルマ」をハンデスされた瞬間にコンセプトが死んでしまうなど、構造的な欠陥が随所に見られるのは事実です。墓地回収用に「聖なる魔術師」を積むといった対策が用意できないわけではありませんが、いくらなんでも悠長すぎると言わざるを得ません。
無限ループを搭載しているとはいえ暗黒期指定には程遠いデッキパワーであり、結局はファンデッキの一種として細々と開発されていく結末を迎えることになりました。
【当時の環境 2003年2月20日】
【第3期の歴史17 黒蠍-棘のミーネ参戦 【ミーネ・ウイルス】の中核モンスター】以降の前後編の記事内容を総括した項目となっています。ご注意ください。
【ミーネ・ウイルス】のキーカードである「黒蠍-棘のミーネ」が誕生しましたが、この時期は環境的に「死のデッキ破壊ウイルス(エラッタ前)」がそれほど強くなかったため、当デッキが成立する気配もありませんでした。
一方で、「黒蠍-棘のミーネ」は単体でも優秀なモンスターと評価され、ビートダウン系のデッキを中心に採用候補に挙がっています。とはいえ、流石に必須カード級のカードパワーは持っておらず、並居るパワーカードの影に隠れている印象があったことは否めません。
おおむね遅咲きのカードであり、やはり当初はそれほど目立ってはいなかったと考えるべきでしょう。
「月読命」の存在は、将来的には遊戯王のゲームバランスそのものに新たな基準を作り上げるほどの影響を及ぼすことになりますが、当初はあまり注目されておらず、その他大勢の中に埋もれている状況でした。
それ以外の影響としましては、一応、装備魔法のサーチ効果を持つ「名工 虎鉄」の影響で【ギアフリード1キル】が再び構築可能になっています。しかし、以前にもまして構造的な欠陥が目立ち、ファンデッキの域を出ることはなかった印象です。
総評としましては、やはりこの時のカードプール更新は短期的には全く影響がなかったと結論付けざるを得ません。前期と同じく【八汰ロック】【トマハン】【デビフラ1キル】【ジャマキャン】の4デッキが上位を占めている形は動かず、当時のメタゲームは停滞期を迎えていました。
【まとめ】
前記事と合わせて、「闇魔界の脅威」販売によって起こった出来事は以上となります。
「黒蠍-棘のミーネ」や「月読命」など、今後の環境で活躍する有力な新人が現れてはいたものの、この時期に限れば取り立てて目を引くカードではなく、むしろ即戦力としては「名工 虎鉄」が一番注目されていたという始末です。
そしてそれすらもファンデッキレベルの話でしかなく、やはり当パック販売の影響がほぼ皆無であったことは否定できないのではないでしょうか。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
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