暗黒期到来 八汰烏の脅威と【グッドスタッフ】の最期
【前書き】
【第2期の歴史35 デビルフランケンの浮上 制圧効果持ちの融合モンスター】の続きとなります。ご注意ください。
カードプールの変化によって【デッキ破壊】が勢力を縮小させ、当時の環境は【グッドスタッフ】によって制圧されたかに見えました。
しかし、そうした通常のデッキとは別軸の強さを持つ、【宝札エクゾディア】などの先攻1キルデッキの脅威も依然として残ります。【エクゾディア】(第1期)と異なり対抗手段こそありましたが、後攻時の場合は成す術がなく、根本的にゲームが成り立たないシチュエーションに遭遇することも珍しくありません。
暗雲立ち込める空気の中、事態は遂に最悪の方向へと動き始めていました。
【蘇りし魂 終わりの始まり】
2001年11月29日、「Mythological Age -蘇りし魂-」が販売され、新たに51種類のカードが誕生しました。同年10月25日発売の「STRUCTURE DECK-城之内編-」収録の2種類と合わせて、遊戯王OCG全体のカードプールは1200種類に増加しています。
第2期中最も凶悪と名高いパックであり、当時どころか現在ですら恐れられる禁止級カードを数多く輩出しています。
もちろん、それらが環境に及ぼした被害は計り知れません。ほとんどのフェアデッキはことごとく駆逐されてしまい、これ以降は否定の余地のない暗黒時代に突入していくことになります。
八汰烏 遊戯王史上最悪のモンスター
遊戯王OCGの歴史には、様々な形で脅威を振り撒いていたモンスターが存在します。単純に順位をつけられるものではありませんが、その中でも「最悪」と評されるモンスターは「八汰烏」に他ならないでしょう。
このカードは特殊召喚できない。召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに持ち主の手札に戻る。このカードが相手プレイヤーにダメージを与えた場合、次の相手ターンのドローフェイズをスキップする。
スピリットモンスターの1体であり、特殊召喚できず、エンドフェイズに手札に戻るという2つの共通特性を与えられています。ステータスは攻撃力200、守備力100と貧弱そのもので、到底戦闘に耐えうる数値ではありません。
しかし、戦闘ダメージを与えた場合に「次の相手のドローフェイズを飛ばす」という、他のカードゲームでも類を見ないほど凶悪な効果を持っていることが「八汰烏」を最悪のカード足らしめていました。
遊戯王OCGというカードゲームは、毎ターンカードをドローすることを前提にゲームバランスが整えられています。近年のインフレ環境ではそうした前提も覆されつつあります(※)が、少なくとも第2期当時は通常ドローが重要なウェイトを占めていたことは間違いありません。
(※そのため、現在ではかつてほどの凶悪さは無くなっているのではないかという声もあります)
「八汰烏」はそれを壊してしまうカードであり、その凶悪さは遊戯王全体を見渡しても指折りです。「刻の封印」など、ドローロック効果を持ったカードが以前にも存在していなかったわけではありませんが、それらは多くの場合「単発のドローロック」であり、継続的にドローを封じる能力はありません。
しかし、このカードの場合は毎ターンの直接攻撃によって非常に容易くドローロックを維持することができます。性質上、一度この状況が完成してからのロック突破は不可能であり、「決められたら負け」という恐るべきコンボです。
もちろん、手札にカードが残っている場合は活路を見出せるケースもあるでしょう。たとえば、守備力200以上のモンスターをセットするだけでもひとまずロックから抜け出すことはできます。
ただし、それだけでは時間稼ぎにしかならず、依然として脅威は去っていないことを忘れてはなりません。結局のところ「八汰烏」に対処できなければ状況は悪化していく一方です。時間を稼いでいる間に何らかの回答を引けない限り、いずれは完全に打つ手がなくなってしまうでしょう。
つまり、上記のように一旦ソフトロックが決まってしまった場合、そこから完全ロックに移行するのは時間の問題となります。これを打破するには元々手札に回答を握っているか、もしくは猶予ターン中に奇跡的にドローを光らせるしかありません。
もっとも、「八汰烏」はターン終了時に手札に戻ってしまうため、スペルスピード1の除去では対処不可能です。除去する場合は罠カードなどフリーチェーンのものを用いるか、ハンデスで手札から捨てさせるといった若干手間のかかる手段が必要となるでしょう。
そのため、手札次第では直接「八汰烏」を潰すのではなく、間接的に盤面に対処する必要性も出てきます。具体的には、相手モンスターを全滅させるなどして壁モンスターが生存できる状況を作り出し、「八汰烏」の攻撃を通せないようにする、といった形の対処法です。
効果こそ恐ろしい「八汰烏」ですが、単体では弱小モンスターに過ぎません。ひとたび機能し始めれば無類の制圧力を発揮する反面、周囲の脅威を念入りに潰すことで間接的に無力化できます。
……しかしながら、そもそもそんなことができるほど優位に立っているのであれば「八汰烏」どうこうの話ではなく、元々自分が圧倒的に有利な状況だったからソフトロックにかからなかっただけという身も蓋もない話でしかありません。どちらかというと「こじつけ的」な弱点であり、何もこのカードに限ったことではないでしょう。
結論としましては、「サンダー・ボルト」などの単純なパワーカードとは根本的に住んでいる世界が違うカードです。どちらが強いかという議論はさておき、どちらが「悪い」かという話については一瞬で結論が出てしまうのではないでしょうか。
ちなみに、上述の通り凶悪さでは「八汰烏」の足元にも及ばない「刻の封印」ですが、現在ではそれすら禁止カードに指定されている状況です。カード単体の性能ではなく、コンボによる使い回しを踏まえた規制(※)ではあるものの、それが逆に「八汰烏」の凶悪性を際立たせていることは言うまでもありません。
(※とはいえ、個人的には「刻の封印」の禁止指定は過剰な規制だと考えていますが……)
【八汰ロック】の成立
こうした都合もあり、「八汰烏」は誕生早々に【グッドスタッフ】の常連パーツを務めていくことになりました。
その凶悪さもさることながら、「クリッター(エラッタ前)」などから必要な時にサーチできる柔軟性がこのカードの強みを引き上げている格好です。【グッドスタッフ】そのものが持つ豊富な除去、ハンデスも合わせて「八汰烏」が活躍する土壌が整っており、まさにこの時のために【グッドスタッフ】というデッキが用意されていたと言わんばかりの状況です。
しかし、前述の通り「八汰烏」によるドローロックは極めて強烈な制圧力を持っています。それさえ決まれば勝ててしまうというほどであり、アドバンテージを度外視してでも狙いに行かない理由がありません。
そのため、これまでのようにリソースを意識したプレイではなく、いかに「八汰烏」の攻撃を通すかという駆け引きに終始する歪なゲームバランスが組み上がってしまうことになりました。それはもはや【グッドスタッフ】というよりも【八汰ロック】そのものであり、【ハンデス三種の神器】の時と同様にデッキコンセプトを乗っ取られてしまった形です。
次第にデッキの採用枠も「八汰烏」を最大限サポートするためのカード選択に傾いていくことになります。場を空けるための除去カードが優先して積まれるようになったほか、遂には「聖なる魔術師」などの「遅い」モンスターが抜けてしまうケースすらあったほどです。
「八汰烏」が入っていなければ【グッドスタッフ】ではなく、そして「八汰烏」が入っている【グッドスタッフ】は【八汰ロック】以外の何物でもありません。事実上、【グッドスタッフ】が環境から消滅してしまった瞬間であり、これ以降は【八汰ロック】に姿を変えて暗黒時代を築き上げていくことになりました。
遊戯王の歴史に名を刻む数々の暗黒時代たち
ちなみに、以上のように遊戯王屈指の暗黒時代を作り上げた「八汰烏」というカードですが、OCGにおいて暗黒期の引き金となったカードは当然これだけではありません。むしろ遊戯王初期の環境では健全なゲームバランスが成立していることの方が珍しかった(※)ため、わざわざ暗黒期という言葉で区別すること自体がそもそも不毛であると言えます。
(※例えば【八汰ロック】の半年前に現れていた【宝札エクゾディア】なども分類上は暗黒期に該当するデッキでしょう)
しかし、そうした暗黒時代の中でも本当の意味で暗黒期指定を下すべき時代は少数に限られることも事実です。
暗黒期の定義については様々ですが、個人的な見解としては「遊戯王OCGという媒体そのものに致命的な被害を及ぼすほどの影響力を持っていること」が条件にあたるのではないかと考えています。
1999年11月~ | 【エクゾディア】 |
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【第1期の歴史19 遺言状エクゾと無限射出バーン 遊戯王最初の「ワンキル」の概念】 | |
2001年12月~ | 【八汰ロック】 |
※当記事参照。 | |
2001年12月~ | 【現世と冥界の逆転】 |
【第2期の歴史39 処刑人マキュラ 環境を荒廃させた遊戯王史上最悪のカード】 | |
2003年4月~ | 【カオス】 |
【第3期の歴史20 【カオス】の降臨 遊戯王の終わりの始まり】 | |
2003年8月~ | 【サイエンカタパ】 |
【第3期の歴史8 魔導サイエンティスト 1枚で環境を壊したカード】 | |
2005年9月~ | 【トランス】 |
【第4期の歴史20 元祖TOD【トランス】の成立 署名運動と緊急のルール改訂も】 | |
2005年9月~ | 【Vドラコントロール】 【MCV】等 |
【第3期の歴史23 ヴィクトリー・ドラゴン誕生 遊戯王最大の過ち】 | |
2008年11月~ | 各種シンクロデッキ全般。 (【SDL】等) |
【第6期の歴史13 ダーク・ダイブ・ボンバー全盛期伝説 最速禁止入りの極悪シンクロ】 | |
2013年3月~ | 【征竜魔導】 |
【第8期の歴史18 【征竜魔導】環境の幕開け 2013年の暗黒期】 | |
2015年10月~ | 【EMEm】 |
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以上が先の条件を踏まえた上での暗黒期指定デッキの一覧となります。流石に数はそこまで多くはないですが、いずれも何らかの形で遊戯王にダイレクトアタックを決めた実績を持つ面々です。
なお、非常に恐ろしい話ではありますが、当記事で取り上げている【八汰ロック】は上記一覧の中ではまだしも大人しい部類であると言えるでしょう。確かに【グッドスタッフ】という巨大な概念を1枚で半壊させたことは当時のOCGの常識をひっくり返すような事態ですが、あくまでもビートダウン界隈での話に過ぎず、地球で例えるとユーラシア大陸が吹き飛ぶ程度の影響しかないからです。
逆に【トランス】や【MCV】などは純粋なデッキパワーは低めですが、対人問題に絡んだ騒動を巻き起こし、遂には署名運動を誘発してしまうなど、明らかに遊戯王を壊しにかかっています。よって暗黒期の中でも最上位に入る凶悪さを持っていると考えるべきであり、現在の時代情勢においてこれを上回る暗黒時代が訪れることはまずあり得ないでしょう。
一方で、こうした暗黒時代が到来するケースは【EMEm】を最後に途絶えていることも見て取れます。
もちろん、現在においてもメタゲームが不健全な形で固まってしまうケース、例えば1強環境などが組み上がることは多々ありますが、暗黒期指定に至るほどゲーム性が崩壊した例はありません。というより、そもそも暗黒時代がそう何度も訪れる方がむしろおかしいわけですが、それはそれとして開発側の環境整備能力が徐々に改善に向かっていることは確かです。
もっとも、世の常として平和が永遠に続くことはあり得ないため、今後何らかの形で暗黒時代が訪れることは恐らく避けようがない話ではありますが……。
【中編に続く】
遊戯王史上最悪のモンスター、「八汰烏」の誕生によって引き起こされた出来事は以上です。
たった1枚のカードが【グッドスタッフ】という巨大なアーキタイプを塗り潰し、遂には【八汰ロック】の成立を招いてしまいました。あまりにも常識の範疇から逸脱したカードパワーを持っていると言うほかなく、その影響力の大きさは「ハンデス三種の神器」の比ではありません。
その上、この時が全盛期ではなく、第3期に入って「混沌帝龍 -終焉の使者-(エラッタ前)」が現れてからは更なる脅威を振り撒くことになります。最終的に禁止カード指定を受けるまで環境を荒廃させ続けた、まさしく「最悪」を名乗るにふさわしいモンスターです。
しかし、恐ろしいことに事態はこれだけでは終わりませんでした。考えようによっては「八汰烏」以上の凶悪性を持つ、「ラストバトル!」というカードが生まれていたからです。
中編に続きます。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
このシリーズは定期的に読み返してみると面白いですね、八咫烏はついに復帰するところまでインフレしましたし(実際のところ数年前には既にそこまで強くはなかった説はありますが)
暗黒期については個人的にティアラメンツ1強時代は該当するようにも思いましたが一応アトラクター等でメタデッキ自体の生存権は本当ギリギリですがあったのと遊戯王自体にダメージを与えたというほどではない感じな気もします、その辺りも含めてここ数年で該当しうるデッキがあるとしたら何かお伺いしたいです
コメントありがとうございます。
ティアラメンツを筆頭に、いわゆる2022年問題として色々語られている世代ではありましたが、特定のデッキが特定の時期に、となると確かにそこまで致命的な事態を起こしていたとは言えないかもしれません。どちらかというと連続的にスリップダメージを食らい続けていたような印象はあり、確かにこれは健全な状況ではなかったように思いますが、暗黒期とまで言ってしまっていいのかは意見が分かれるところもありそうです。(ただ、処理に時間がかかりすぎて紙媒体というゲームが破綻しかけた、と言われてしまうと否定しきれない部分もありますが……)
個人的には(結構昔の話ですが)2017年10月~11月頃の【SPYRAL】環境が中々苦しかった思い出はありますが、それでも遊戯王にダメージを与えるというほどではなかったように思いますし、もはや近年以降においては暗黒期という概念自体があまり当てはまらなくなっているのかもしれません。