真竜皇V.F.D.が禁止カードになった理由

2021年9月14日

【前書き】

 「真竜皇V.F.D.」というカードが存在します。

真竜皇V.F.D.(しんりゅうおう ザ・ビースト)

エクシーズ・効果モンスター
ランク9/闇属性/幻竜族/攻撃力3000/守備力3000
レベル9モンスター×2体以上
①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、属性を1つ宣言して発動できる。このターン、以下の効果を適用する。この効果は相手ターンでも発動できる。
●フィールドの表側表示モンスターは宣言した属性になり、宣言した属性の相手モンスターは攻撃できず、効果を発動できない。
②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の手札の「真竜」モンスターの効果で破壊するモンスターを相手フィールドからも選ぶ事ができる。

 このページでは具体的に効果の仕組みを解説することはしませんが、ひとたび効果が通ればフィールドのモンスターをほぼ無力化することができ、さらに同属性であれば手札や墓地のモンスターすら封殺できるというとんでもないカードです。書いてあることだけを見れば間違いなく最強スペックのモンスターであり、実際に2017年環境においては【恐竜竜星真竜皇】のリーサルウェポンとして暴れ回っていたこともありました。

 とはいえ、これ自体がランク9という重いモンスターであること、また周辺カードに対する規制などが入っていたこともあって長年規制を免れていましたが、このたび2021年10月の制限改訂をもって遂に禁止カード指定を下されることとなりました。

 この記事では、そんな「真竜皇V.F.D.」がなぜ禁止カード指定を受けるに至ったのかについて解説いたします。

 

【電脳堺】での活躍 VFD朱雀+αの展開

 理由についてはいくつかありますが、最大の理由という意味ではやはり【電脳堺】の先攻制圧札として多用されていたことが規制の決定打となったのではないでしょうか。

 【電脳堺】における「真竜皇V.F.D.」の成立パターンは以下の3つです。

 

①:レベル9シンクロモンスター2体

 

②:レベル9シンクロモンスター+レベル6電脳堺モンスター+「電脳堺門-朱雀」の墓地効果(レベルを上げる)

 

③:「電脳堺狐-仙々」+「電脳堺門-朱雀」の墓地効果(レベルを下げる)+レベル3チューナー

 一見ややこしく見えますが、要するに「9+9」「9+(6+3)」「(9-3)+3」のうちどれか1つを作ることで「真竜皇V.F.D.」が成立します。そしてテーマ内のカードが2枚揃えば大半の組み合わせで上記のいずれかに繋がるため、非常に安定して「真竜皇V.F.D.」を立てることができました。

 また、【電脳堺】のエンジンである「電脳堺都-九竜」「電脳堺媛-瑞々」らを展開に絡める(※)ことで「電脳堺門-朱雀」を自然と確保できるため、メインギミックの動きだけで「VFD+朱雀」の布陣を作れてしまうのも問題でした。単純にフリーチェーンの妨害が増えるのはもちろんですが、本来有効であるはずの効果無効系カードが「電脳堺門-朱雀」によってケアされてしまい、他のデッキが使う「真竜皇V.F.D.」に比べて対処がより困難だったからです。

(※「電脳堺媛-瑞々」をサーチ可能な「電脳堺門-青龍」を各種【電脳堺】モンスターから墓地に落とせるため、ケアルートを考慮しなければこちらも大体成立します)

 加えて、展開の過程で「電脳堺狐-仙々」が墓地に落ちている関係で返しのワンキルが見えているほか、ゲームが長引いた際のリソース確保すらこなせているという盤石ぶりです。よって時間的な猶予も短い上に長期戦にも対応可能という質の高い布陣を敷くことができたため、額面通りの「VFDが立っているだけ」とは到底言えないほどの多角的な制圧盤面を形成していました。

 要するに一度「真竜皇V.F.D.」が出てしまうと処理の難易度が跳ね上がるため、実質的には展開途中で動きを止めるしかないわけですが、それを「VFD対策」と称するのは少々身も蓋もない話ではあり、そのことが逆に「真竜皇V.F.D.」の理不尽なパワーを証明してしまっていたことは否めません。

 もちろん、【電脳堺】も2枚初動デッキである以上は常に都合よく展開に成功するとは限らず、具体的には「電脳堺媛-瑞々」を「灰流うらら」で止められて負け、といった半事故もしばしば起こり得るデッキだったことは事実です。

 しかし、それでも「真竜皇V.F.D.」の存在がOCG環境を少なからず歪めていたこと自体は間違いなく、そうした背景が今回の規制を招いたと言えるのではないでしょうか。

 ちなみに、「真竜皇V.F.D.」は禁止行きになる以前に2021年4月改訂の時点で制限カード指定を既に受けていたわけですが、これが無制限カードだった頃は現在以上に問題を引き起こしていたという事実にも触れておきます。

 具体的には、展開系デッキが通常苦手とする原始生命態ニビル」なども「電脳堺悟-老々」「電脳堺門-玄武」を残すことで光属性宣言→2体目の「真竜皇V.F.D.」で貫通できてしまっていた(※)ため、全盛期の「真竜皇V.F.D.」を安定して止めるには「アーティファクト-ロンギヌス」などのピンポイントなメタカードを持ち出す必要がありました。

(※この場合、ニビルを握れていないと「真竜皇V.F.D.」が2体並ぶか、もしくは「セイクリッド・トレミスM7」などを追加されてしまいます)

 

ハリファイバー1枚からVFD+2ドロー ハリラドン展開

 とはいえ、これだけであれば単に【電脳堺】が強かっただけではないか、と思ってしまいそうな話でもあるため、もう一点だけ「真竜皇V.F.D.」に絡んだ有名な話についても触れておきます。

 それは水晶機巧-ハリファイバー」1枚から「真竜皇V.F.D.」を立てるルートが開発されてしまっていたという事実です。

 

①:何らかの手段で「水晶機巧-ハリファイバー」をリンク召喚する。

 

②:「水晶機巧-ハリファイバー」の効果で「ブンボーグ001」(※)をリクルートする。(※「ジェット・シンクロン」でも可)

 

③:「水晶機巧-ハリファイバー」「ブンボーグ001」を素材に「幻獣機アウローラドン」をリンク召喚し、効果で幻獣機トークン3体を特殊召喚する。

 

④:墓地の「ブンボーグ001」を自己蘇生する。

 

⑤:「幻獣機アウローラドン」の効果により、「幻獣機アウローラドン」と幻獣機トークン1体をコストに「幻獣機オライオン」をリクルートする。

 

⑥:「幻獣機オライオン」と幻獣機トークン1体を素材に「ガーデン・ローズ・メイデン」をシンクロ召喚する。(※「ブラック・ガーデン」のサーチは任意)

 

⑦:「幻獣機オライオン」の効果で幻獣機トークン1体を特殊召喚する。

 

⑧:「ガーデン・ローズ・メイデン」と「ブンボーグ001」を素材に「瑚之龍」をシンクロ召喚する。

 

⑨:「瑚之龍」と幻獣機トークン1体を素材に「飢鰐竜アーケティス」をシンクロ召喚し、2ドロー(※)する。(※「瑚之龍」で1ドロー、「飢鰐竜アーケティス」で1ドロー)

 

⑩:墓地の「ガーデン・ローズ・メイデン」を除外し、墓地の「瑚之龍」を蘇生する。

 

⑪:「瑚之龍」と幻獣機トークン1体を素材に「任意のレベル9シンクロモンスター」をシンクロ召喚する。

 

⑫:「飢鰐竜アーケティス」と「任意のレベル9シンクロモンスター」を素材に「真竜皇V.F.D.」をエクシーズ召喚する。

 

 いわゆる「ハリラドン展開」として知られる展開ギミックであり、「VFD+2ドロー」というシンプルに強い展開を行うことができます。実質的には「水晶機巧-ハリファイバー」さえ出せるのであればどのようなデッキにも出張できる余地があるため、もはや何でも出てくると言っても過言ではありません。

 つまり汎用性という観点においては【電脳堺】以上に危険性が高いギミックであり、もはや当初言われていた「VFDは重いから許されている」という免罪符は既に失われてしまったと見るべきでしょう。

 もっとも、このギミック自体が禁止になるほど強かったかというと決してそういうわけでもなく、実際【電脳堺】が使う「真竜皇V.F.D.」ほど大々的に存在感を示していたわけではありません。上述の通り「真竜皇V.F.D.」は単体であれば対処法がないわけではなく、またいくら汎用性が高いとは言っても「ハリラドン展開」ギミック自体がそこそこ重いこともあり、これが「真竜皇V.F.D.」の禁止行きの理由(※)になったかというと少々首をかしげてしまうところではあります。

(※というより、これに関してはVFDどうこうではなく、むしろハリラドン側の問題である可能性が高いです)

 もっとも、この「ハリラドン展開」に限らず「真竜皇V.F.D.」を出す手段そのものは増加の一途を辿っており、今後もカードプールの拡大とともにその危険性が上昇していくであろうことは間違いありません。

 そのため、やはり禁止行きを決定付けたという意味では【電脳堺】での濫用、及び「ハリラドン展開」の存在が間接的にこれを招いたと言えますが、実際のところは将来的な影響を鑑みた上での規制という側面も少なからず含まれていたのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 「真竜皇V.F.D.」についての話は以上です。

 個人的には今年の4月時点で禁止行きを予想していたカードでもあるのですが、それでも全盛期ほどではないにしろ現時点でもパワーカードであったことに変わりはなく、「真竜皇V.F.D.」の存在そのものがメタゲームを定義付けている側面もありました。

 実際、「通ってしまうと終わり」という点においては「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」に通ずるものもあり、これに対する規制自体は極めて妥当な話でしょう。

 とはいえ、そうなってくると【恐竜竜星真竜皇】の時に禁止行きにならなかったのはなぜなのかという疑問がちらついてこないこともないのですが、やはり現代では「ハリラドン展開」などの強力な展開ギミックが幅を利かせてしまっている以上、もはや「真竜皇V.F.D.」に限らず制圧側を生かし続けておくこと自体が難しい時代に入りつつあるのかもしれません。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史