新エキスパートルールの制定 はびこる最強サイクロン
【前書き】
【第1期の歴史23 ドローソースの規制とクリッターの裁定変更 初期エクゾディアの最期】の続きとなります。ご注意ください。
厳しい規制が入ったことにより【エクゾディア】が弱体化し、当時の環境は無事に健全化を迎えることになりました。
しかし、間もなく第1期がその歴史に幕を閉じ、ここで一旦OCGの歴史に大きな区切りが入ることになります。実際に何かが起こったという訳ではありませんが、この頃に丁度アニメの放送が始まったこともあり、どことなく空気が高揚していたことを覚えています。
遊戯王OCGは遂に第2期へと入り、新たな時代に突入していく形となりました。
【第2期のカードデザインについて】
第2期に入ると共に、カードのデザインが一新されています。
全てのカードに共通することとして、カードイラスト右下にカードナンバーが記載されるようになりました。更に、テキスト欄右下に特殊なホログラム加工が入り、カードの偽造対策がなされることとなります。
次はカードの種別ごとの変化についてです。
モンスターカードは、「攻撃力・守備力」と記載されていた部分が「攻・守」と省略され、効果テキストを記述するスペースが従来よりも広く取られるように改善されました。この変更はプレイヤーにとってもテキストを読みやすくなるなどのメリットがありましたが、開発側も複雑な効果を持ったカードをデザインできるようになり、間接的にゲームの幅を広げる一因となっていたものと思われます。
魔法・罠カードは、現在にも通ずる種別アイコンが導入されたことで、カードの分類を判断しやすくなりました。この変更はプレイヤーにとっては非常に有難く、効果の誤解釈などの問題が起こりにくくなりました。
また、これに関連して罠カードの挙動も変更が加えられています。
これまでは通常罠カードには使用後に破壊される効果が含まれていましたが、その処理がルールに統合され、永続アイコンのない罠カードは自動的に破壊されるようになりました。
しかし、事前に雑誌などで情報を取得していなかったプレイヤーにとっては突然の変更であり、逆に通常罠カードを永続罠カードと誤解してしまうなど、やや混乱も起こっています。
【新エキスパートルールの導入】
しかし、何と言っても一番の変更点は「新エキスパートルール」が導入されたことです。
公式ルール、エキスパートルールの両方が同時に廃止され、代わりに制定されたルールとなります。非常に完成度の高いルールとして有名で、遊戯王OCGの現行ルールの多くがこの時期に成立しました。
第2期から第5期までの長期に渡って採用され続けていたことからも、その完成度を窺い知ることができるのではないでしょうか。
前ルールからの変更点
第1期のルールからの変更点は以下の通りです。
・手札の最大枚数が6枚までに制限される。
・デッキがなくなり、ドローできなくなったプレイヤーは敗北する。
・先攻プレイヤーもカードをドローする。
・サイドデッキの枚数が15枚に増加する。
・通常罠カードが自動的に自壊する。
一つずつ触れていきます。
手札の最大枚数が6枚までに制限
現在と同様に手札に枚数制限が設けられ、ターン終了時に手札が7枚以上ある場合、6枚となるように捨てなければならなくなりました。ただし、ゲーム中に一時的に制限枚数を超過することは許されています。
とはいえ、普通に戦っていて手札が7枚以上になるケースは少なく、ゲームバランスに大きな影響を与えることはありませんでした。
デッキがなくなり、ドローできなくなったプレイヤーは敗北
これまではデッキ切れとなった時点でライフの多いプレイヤーが勝利すると定められていましたが、デッキからカードを引けなくなったプレイヤーが敗北するというルールに変更されました。
これにより、【デッキ破壊】が戦術として成立するようになります。
先攻プレイヤーもカードをドロー
先攻プレイヤーも後攻プレイヤーと同様、1ターン目からカードをドローするというルールです。先攻後攻でハンド・アドバンテージに差がつくことが不利を生むと判断されたのか、このルールは遥か未来の第8期終盤まで採用され続けることになります。
サイドデッキの枚数が15枚に増加
これまではサイドデッキの枚数は10枚と定められていましたが、15枚に拡張されました。対策カードを積みやすくなり、メタゲームの土壌が生まれた他、アグレッシブ・サイドボーディングの戦術を取り入れやすくなりました。
通常罠カードが自動的に自壊
上記で触れたように、罠カードの自壊処理がルール自体に組み込まれました。ゲームに直接影響する変更ではありませんが、今後を見据えれば罠カード全てに自壊効果を記述するのは効率が悪く、妥当な変更です。
ルールの革命 「チェーン」と「スペルスピード」
また、上記とは方向性の異なる変化として、「チェーン」や「スペルスピード」の概念が取り入れられた時期でもあります。
どちらも遊戯王OCGの根幹を成す重要なルールであり、これなくして高度なゲームはあり得ないと断言できるほどの概念です。
これに関しましては、一から解説しているとそれだけで記事が埋まってしまうため、詳細は割愛させていただきます。ご容赦ください。
一応、簡潔にまとめますと「カードの発動、効果の発動に対し、更に発動を重ねること」を指します。アニメをご存知であれば、キャラクターの応酬を思い浮かべていただければ分かりやすいかもしれません。
……が、このアニメというのが本当に曲者で、それが原因で逆にトラブルを生んでしまうケースも少なくありませんでした。
最強サイクロン
そのトラブルの筆頭は、まず間違いなく「最強サイクロン」に他ならないでしょう。
全フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。
上記は当時の「サイクロン」のテキストです。フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊する効果を持っています。非常にシンプルなデザインの魔法罠除去カードであり、特に複雑な処理を行う要素はありません。
しかし、ルールそのものに対して誤解がある場合、こんな部分からもトラブルが発生してしまいます。
具体的には、「カードを破壊されたら効果も無効になる」という誤解です。
速攻魔法(効果の誤解釈/使用不可)
ルール上、このカードのスペルスピードは3として扱う。相手ターン中、このカードの発動は手札からもできる。
①:フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードの効果を無効にし、破壊する。
先に結論から申し上げますが、この「サイクロン」によってできることは「カードの破壊」のみとなります。破壊したカードの効果を無効にすることはできません。
例えば「強欲な壺」の発動にチェーンしてそれを破壊したとしても、ただカードが破壊されるだけで効果を止めることはできないことになります。効果を無効にしたい場合、「神の宣告」などで発動自体を無効にするか、「王宮の勅命.」などの「カードの効果を無効にする効果」を持つカードを用いなければなりません。
しかし、当時の遊戯王OCGは黎明期ゆえにルールが浸透し切っておらず、個人個人のローカルルールが錯綜する入り組んだ状況となっていました。
単刀直入に申し上げて、遊戯王OCGのルールは複雑です。「難しい」ではなく、「複雑」です。何が違うのかと思われる方もいらっしゃるとは存じますが、他に言葉が見つからないため、こうした表現を取らせていただいております。ご容赦ください。
総じて初心者には入りにくい世界であり、経験者にとっても難解な部分は少なくありません。特殊裁定などに関連したルール的な欠陥も多く、現在においてすらそうした問題は完全には解決されていません。
そのため、プレイヤーの多くは原作漫画やアニメを参考にルールを学んでいくことになり、わざわざルールブックを熟読する生真面目なプレイヤーは少数派となっていました。
しかし、基本的に原作ルールとOCGのルールは別物です。元々、遊戯王OCGは「作中に存在するカードゲームを現実に再現する」というプロジェクトの産物であり、その過程で様々な変更が加えられています。
言い換えれば、原作で可能だったプレイが現実でも可能であるとは限りません。むしろ全体的にカウントした場合、できなくなっていることの方が多いでしょう。
……ここまでご覧になって、何か嫌な予感を覚えてしまった方はいらっしゃるでしょうか? もしいらしたのであれば、その予想は当たっています。
アニメと現実の戦争です。
アニメを参考にルールを学んだプレイヤーは、当然それに準じたプレイを取ってくることになります。相手ターンに手札から魔法カードを発動するのは序の口で、スペルスピード3の「神の宣告」に対してスペルスピード1の「死者蘇生」をチェーンしてくることすら珍しくありませんでした。
それどころか「聖なるバリア -ミラーフォース-」を「魔法の筒」でカウンターするなど、とんでもないローカルルールを持ち出してくるプレイヤーも居たほどです。(「聖なるバリア -ミラーフォース-」はバリア効果で相手の攻撃を跳ね返しているため、同じく攻撃を跳ね返す「魔法の筒」によってカウンターできるという理屈)
上記の「最強サイクロン」もそうしたルールの誤解の一つです。当時のローカルルールの中では、まだしも大人しい方であったことが分かるのではないでしょうか。
アニメの影響で低年齢層のプレイヤーが増え始めたことも遠因になっていたと思われます。とはいえ、そうした小さな子供がフリーデュエルを申し込んでくることは少なく、住み分けも自然と取られていました。
しかし、全くトラブルに遭遇しないということは難しく、プレイヤー同士で剣呑な空気となってしまうケースも少なくありませんでした。
【まとめ】
新エキスパートルールに関する話は以上です。
現行ルールで採用されているルールの多くが一気に取り入れられ、遊戯王OCGというカードゲームのひな形が完成した格好となります。
また、このルールの導入によって【デッキ破壊】が構築できるようになるなど、環境に対しても大きな影響を及ぼしていました。
しかし、当時私の周囲には実際に【デッキ破壊】を組んでいたプレイヤーは居なかったと記憶しています。というより、ルール変更から即座に【デッキ破壊】を思いつかれた頭の柔らかい方は当時どれほどいらっしゃったのでしょうか……?
ちなみに、実は第2期のレギュラーパック販売前に「LIMITED EDITION 2」の応募企画が実施されています。第2期デザインのカードとしては初のカードで、9種類中3種類が新規カードとなっており、遊戯王OCG全体のカードプールは720種類となりました。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
ミラフォを攻撃の無力化で無効にするとかあった気がしますね。
コメントありがとうございます。
ミラフォ無力化は原作でもあったシチュエーションということもあり、現実でも似たような場面を見かけることは少なくなかった印象です。あの頃は割と何でもありの時代で、プレイヤー層ごとに別のカードゲームを遊んでいるような感覚があったことを覚えています。
まさに文中の低年齢層プレイヤーでした。
1992生でアニメ開始当時7歳だったので、ホーリーバーストストリームとか全然やってました。
ウルトラマンとか戦隊のなりきりアイテムの延長位に捉えてたんだと思います。
コメントありがとうございます。
ホーリーバーストストリームは後に公式に取り上げられてOCG化されたこともあり、印象に残っているシーンの1つです(原作とは効果が違うのが玉に瑕ですが……)
遊戯王初期の頃は今ほど競技志向も強くなく、どちらかというとコレクションアイテムとしての側面が強い時代だったように思いますし、全体の総数としてはむしろルール通りに遊ぼうとする層の方が少数派だったのかもしれません。
こんにちは。 これも興味深いエントリです。 蘇生制限ルールが適用されたのはこれが初めてでしたか? ゲール・ドグラの栄光の日々は前回のエントリーで数ヶ月しか続かなかったとおっしゃっていましたが、これが起こったのはこの時だったと思います。 ただし、このテキストでは蘇生制限ルールについては触れていません。よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
蘇生制限の制定時期については第2期に入ってからということは分かっていますが、正確な制定日はヴァリアブルブックなどの公式書籍にも記載がなく、ネット上でも信頼できる一次資料を発見できなかったため、ここでは取り上げていません。ご容赦ください。
答えてくれてありがとう。 不足している情報について心配する必要はありません。 このブログは、とにかくインターネット上で英語で見つけることができるものよりも有用で完全です。 私は最後まで読み続けます。助けがなければ日本語が完全に理解できなくても、あなたの作品の大ファンになりました。