遊戯王最弱テーマ【トゥーン】誕生 「デッキとして成立しない」の衝撃
・前書き
・Pharaoh’s Servant -ファラオのしもべ-
・攻撃力 倍化と半減
・リクルーターの誕生
・全体強化フィールド魔法
・ティウンティウントゥーン
・史上最弱 当時の【トゥーン】の(悲惨な)デッキレシピ
・後編に続く
【前書き】
【第2期の歴史6 第1期絶版カードの再録パック アクアマドールくじ】の続きとなります。ご注意ください。
第1期初期に誕生したカードの再録パックが連続で販売され、それらのカードの入手難易度がやや下がる形となりました。とはいえ、大半のプレイヤーにとっては実の薄いカード群となっており、この時期は環境の変動もほとんど起こっていません。
終わりの見えないハンデス地獄が続く遊戯王OCGでしたが、二ヶ月半にも及ぶ停滞の末に、遂に状況が動くこととなります。
【Pharaoh’s Servant -ファラオのしもべ-】
2000年7月13日、「Pharaoh’s Servant -ファラオのしもべ-」が販売され、新たに52種類のカードが誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは825種類となり、第2期突入から二度目のカードプールの更新がようやく成された格好となります。
前弾と同じく、当弾にも優秀な新規カードが多数収録されており、凶作であった再録パックから一転して実入りの多い内容となっていました。
攻撃力 倍化と半減
恐らく、この時に最も人目を引いていたカードは「巨大化」という装備魔法でしょう。
自分のライフポイントが相手より下の場合、このカードは装備モンスター1体の攻撃力を倍にする。自分のライフポイントが相手より上の場合、このカードは装備モンスター1体の攻撃力を半分にする。その攻撃力とは装備モンスターの元々の攻撃力である。
驚くべきことに、自分のライフが相手より低い場合、装備モンスターの攻撃力を2倍にするという豪快な効果を持っています。非常にインパクトのあるカードであり、当時は衝撃をもって受け入れられました。
性能に関しては、「デーモンの斧」のような純粋な装備カードとは違い、やや尖ったバランスとなっています。
もちろん、攻撃力を倍化させる効果が強力であることは言うまでもありません。下級アタッカーに装備させるだけでも打点負けすることは少なく、戦闘補助としては信頼できるカードです。
しかし、自分のライフが相手より高い場合に攻撃力が半減してしまうデメリットの存在から、有利な場面ではむしろ足枷となってしまう欠点があります。
つまるところ、このカードを起点として反撃に応じた場合、戦闘ダメージによってライフ差がひっくり返ってしまい、一気に装備モンスターの打点が縮んでしまう形となります。事実上モンスターを使い捨てているようなものであるため、アドバンテージの損失は非常に重いものとなるでしょう。
ただし、こちらのライフが高い時に、相手モンスターに装備させて弱体化させるというテクニックも存在します。攻撃力が半減すれば大抵のモンスターは戦力外となるため、戦闘破壊することも難しくありません。
しかしながら、そもそも純粋に戦闘補助として使うのであれば「デーモンの斧」で十分であり、そちらは安定して運用できる上に自己回収効果も付随しています。全体的にピーキーな性能と言わざるを得ず、上述したような真っ当な使い方を目的にデッキに採用されることはそれほどありませんでした。
こうした事情から、「巨大化」は真っ当でない目的のために悪用されていく形となりました。
ライフが逆転することで装備モンスターが弱体化するのであれば、一撃で相手のライフを0にしてしまえば良いという理屈です。「神の宣告」などで自分からライフを削って相手のライフを下回り、しかる後に大型モンスターに「巨大化」を装備させて殴るという、どちらかというと即死コンボよりの使い方が主流となっています。
とはいえ、この頃は実際には一撃でライフが0になるケースは少なく、このコンボで大ダメージを与えた後、他のモンスターの追撃でとどめを刺すパターンが大半でした。
逆に申し上げれば、将来的には一撃必殺を狙いに行くことに特化したデッキが現れるということでもあります。これをキーカードに据えた【デビフラ1キル】はあまりにも有名なのではないでしょうか。
リクルーターの誕生
他に特筆すべき変化としては、リクルーターの誕生があります。
一例として、「キラー・トマト」のテキストを以下に記します。
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体をフィールド上に召喚(表向き攻撃表示。レベル5以上でも生け贄不要)してもよい。その後デッキをシャッフルする。
戦闘破壊されて墓地へ送られた時、デッキから対応属性のモンスター1体を特殊召喚する効果を持っています。「キラー・トマト」の場合は闇属性です。
戦闘で破壊されても即座に後続へと繋げることができるため、非常にアドバンテージを失いにくい強みがあります。また、リクルーター自身もリクルート範囲に含まれている関係上、自分自身を呼び続けることで粘り強く戦線を維持できるモンスターです。
もちろん、攻撃力1500以下でさえあれば上級モンスターであっても呼び出すことができます。展開手段に乏しかった当時においてはその補助パーツとしての側面も併せ持っており、全体的にスペックの高いカード群となっていました。
この時に誕生したリクルーターは「キラー・トマト」だけでなく、各属性対応の全6種が生まれています。いずれも属性部分が異なるだけで共通の効果を与えられていました。
そのため、攻撃力1500という数値は「リクルーターライン」とされ、以降の環境では一つの基準として扱われていくことになります。この「リクルーター」という概念は現代にも引き継がれており、形を変えて環境に存在し続けている歴史の長いカード群です。
全体強化フィールド魔法
リクルーターとは別方向の属性関連カードとして、全体強化効果を持った各種フィールド魔法もこの時に現れています。
全ての闇属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップ! 守備力は400ポイントダウン!
上記は「ダークゾーン」のテキストとなります。全ての闇属性モンスターの打点を500上昇させる効果を持ち、下級アタッカーの攻撃力を上級ラインまで押し上げることができます。
こと戦闘においては相当の影響力を発揮するカードですが、この「全て」というのが曲者で、相手モンスターも含めて強化してしまうという大きな問題点を抱えていました。特に、【グッドスタッフ】においてはカード選択が似通ってしまう傾向にあったため、お互いに強化が入って結局打点が動かないままというケースも少なくありませんでした。
結果的にフィールド魔法を張った側がカード1枚分損をする形となる以上、少なくとも当時の【グッドスタッフ】で使われることはなかったと記憶しています。
専用デッキを組むのであればその限りではないのでしょうが、その場合はフィールド魔法を引けなければ総崩れとなってしまうなど、デッキコンセプトとして成立させるのも難しい状況となっていました。
ティウンティウントゥーン
しかし、上記のフィールド魔法カードも、ここで誕生した「トゥーン」シリーズのカード群に比べればまだ救いようがありました。
トゥーンモンスターについて詳しく触れる前に、まず一例として「トゥーン・マーメイド」のテキストをご覧ください。
場に自分の「トゥーン・ワールド」がないと召喚不可。召喚ターンには攻撃不可。500ライフ払わなければ攻撃不可。「トゥーン・ワールド」が破壊された時このカードを破壊。相手がトゥーンをコントロールしていない場合このカードは相手を直接攻撃できる。トゥーンが存在する場合、相手のトゥーンを攻撃対象に選ばなければならない。
非常に込み入った内容の効果となっていますが、要するに「トゥーン・ワールド」というカードが無ければ使いものにならないモンスターです。「トゥーン・ワールド」が張られていなければ場に出すことすらできず、更には「トゥーン・ワールド」が破壊された瞬間に自滅してしまう超虚弱体質となっています。
では、肝心の「トゥーン・ワールド」の性能はどうなのか、ということですが……結論を先に申し上げますと、非常に苦しいと言わざるを得ないカードでした。
プレイされた時に1000ライフポイントを払う。さらに、毎回自分のスタンバイフェイズに500ライフポイントを払わなければ、このカードは破壊される。このカードがフィールドから墓地に送られた時、それまで払った分のライフポイントを自分のライフポイントに加算する。
当時の「トゥーン・ワールド(エラッタ前)」のテキストです。この時のものはエラッタ前となっており、現在のものとは効果が異なっています。
こちらもまた複雑なテキストが記述されていますが、ご覧の通り自分に損になることしか書かれていません。メリットとなる効果が一切無いにもかかわらず、毎ターン維持コストとしてライフを吸われ続けるというとんでもないカードです。
墓地へ送られれば払った分のライフが戻ってくるため、一応の救済措置は用意されていると言えなくもないでしょう。しかし、その場合はトゥーンモンスターが全滅してしまう上に、そもそもこのカード1枚分のディスアドバンテージを負ってしまっており、大損していると言うほかありません。
そして、とどめとなるのはトゥーンモンスターそのものの性能の低さです。
これほどまでに苦労して得られるものは単なるダイレクトアタック能力と見返りに乏しく、しかも攻撃の度に更にライフコストを要求される始末です。とことんプレイヤーを苦しめる仕様となっており、遊戯王OCG全体で見ても扱いにくさで右に出るカテゴリはそうありません。
史上最弱 当時の【トゥーン】の(悲惨な)デッキレシピ
これについては実際にデッキレシピを見た方が早いです。当時の【トゥーン】がどれだけ悲惨な状況に置かれていたのかが分かります。
モンスターカード(22枚) | |
---|---|
×3枚 | キラー・スネーク(エラッタ前) |
クリッター(エラッタ前) | |
黒き森のウィッチ(エラッタ前) | |
聖なる魔術師 | |
トゥーン・デーモン | |
トゥーン・マーメイド | |
メタモルポット | |
×2枚 | |
×1枚 | ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン |
魔法カード(17枚) | |
×3枚 | 苦渋の選択 |
トゥーン・ワールド(エラッタ前) | |
×2枚 | 強奪 |
死者蘇生 | |
天使の施し | |
×1枚 | 強欲な壺 |
心変わり | |
サンダー・ボルト | |
ハーピィの羽根帚 | |
ブラック・ホール | |
罠カード(1枚) | |
×3枚 | |
×2枚 | |
×1枚 | 聖なるバリア -ミラーフォース- |
エクストラデッキ(0枚) | |
×3枚 | |
×2枚 | |
×1枚 |
「苦渋の選択」や「天使の施し」が複数枚積まれているなど、現在の価値観では恐ろしさが目に付く箇所も見受けられますが、デッキパワーはお世辞にも高いとは言えません。単体では死に札となるカードがデッキ内に大量に存在するため、非常に事故を起こしやすく、むしろ常に事故っているようなデッキです。
そもそもの話として「トゥーン・ワールド(エラッタ前)」がなければ全く身動きが取れない以上、これをどうにかして引き込む必要がありますが、当然のように専用サーチなどという贅沢なサポートはありません。よって「天使の施し」や「メタモルポット」によるドロー、もしくは「苦渋の選択」と「聖なる魔術師」を駆使した疑似サーチを駆使するしかなく、この時点でビートダウンデッキとしては既に相当出遅れています。
しかし、先に述べた通り「トゥーン・ワールド(エラッタ前)」自体も単体では役に立たないため、このデッキを回す上では「単体では役に立たないカードのために単体では役に立たないカードを集める」というよく分からない行為を要求されることになります。
とはいえ、これを意識していないと「天使の施し」のディスカードで「トゥーン・ワールド(エラッタ前)」を捨て始める現象が発生するため、多少の非効率さには目を瞑る寛容さが必要になってくるデッキと言えるでしょう。
ところが、仮に【トゥーン】セットを首尾よく揃えられたとしても順調にゲームが進むとは限りません。ひとたび「トゥーン・ワールド(エラッタ前)」を設置してしまうとその後は継続的にライフを吸われるようになるため、悪く言えば自分自身に時限爆弾を仕掛けるような話になってしまうからです。
それどころか、「トゥーン・ワールド(エラッタ前)」を張るだけで1000LP、【トゥーン】モンスターの召喚酔いの1ターンで500LP、【トゥーン】モンスターの攻撃宣言で500LP、つまり初期投資だけでも2000ものライフを失ってしまうため、時限爆弾を設置する時ですら既に結構なダメージを受けています。もはや漫才か何かに見えてくる話ですが、実際は大真面目にプレイを進めた結果であり、むしろそれが逆に悲劇です。
そして先に述べた通り、ここまで苦労しても得られるものはデメリット持ちのダイレクトアタッカーに過ぎません。つまりこの時期の【トゥーン】のコンセプトを一言でまとめると「サーチできない永続魔法と専用モンスターを自力で揃え、場合によっては生け贄要員もフィールドに用意し、2000LPの初期投資を支払い、その後はランニングコストも払い続けながら、あまつさえ除去1枚で全てが壊滅するリスクを背負った上で、激重デメリットダイレクトアタッカー(召喚ターンに攻撃できない上に攻撃のたびにライフロス発生)の召喚を狙うデッキ」であり、まさに想像を絶する弱さです。恐らくこれ以上に弱いデッキは(あからさまなネタデッキを除けば)遊戯王に存在しないのではないでしょうか。
そんな【トゥーン】も現在では専用サポートカードも増え、ファンデッキとしての体裁を取れるだけの地力は獲得しています。しかし、この時期に限って申し上げれば「デッキとして成立しない」レベルの性能だったという評価を付けざるを得ないでしょう。
このように、OCGでは悲しい性能のトゥーンモンスターではありますが、原作漫画では「王国編」のラスボスが使用したカード群であり、その反則的な効果で主人公を危ういところまで追い詰めています。
流石にそのままの性能でOCG化することは難しかったと思われますが、それを踏まえてもあまりにも悲惨すぎる弱体化であると言わざるを得ません。原作のトゥーンモンスターに憧れてカードを揃えたは良いものの、その扱いにくさに頭を抱えたプレイヤーも少なくなかったのではないでしょうか。
【後編に続く】
2000年7月13日に起こった出来事の内、明るい部分に関することは以上になります。
倍化半減という特殊な効果を持つ装備魔法や、リクルーターなどの革新的なデザインのモンスター、そして原作出身ながらあまりにも扱いにくすぎる【トゥーン】モンスターなど、様々なカードが同時期に生まれ、当時のカードプールはにわかに色付く形となりました。
しかしながら、この時に起きた変化は平和なことばかりではありません。上記の真っ当なカード群とは異なり、「ハンデス三種の神器」と同等クラスの禁止級カードが現れています。
遊戯王屈指の凶悪なリバース効果を持つ、「サイバーポッド」の誕生です。
後編に続きます。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
トゥーンは原作が強すぎた反動でOCGでも「あの凶悪さを再現してしまったら遊戯王というゲームが崩壊しかねない…」という運営側の恐れと葛藤の末にやりすぎた結果、生まれてしまったデメリットの数々ではないかなと子供心ながら思っていました
コメントありがとうございます。
当時は初期ということで原作カードのOCG化のバランスが掴めていなかったというのもあるとは思われますが、それを加味してもこの頃のトゥーンは本当に救いようがなかったように思います。もちろん強すぎるよりは弱すぎる方がまだ良いとも言えますので(後世の失敗の数々を思えば)結果的にはベターな調整だったのかもしれません。
そういえば出た当初はトゥーンのもくじのトゥーンのサーチカードが無かったから使ってる人まったくと言っていい方見かけなかったな アニメ版の効果なら実用性があったかもしれないけど流石に強すぎるからなぁ
コメントありがとうございます。
この頃のトゥーンはサポートがあまりにも貧弱で、もはやテーマとしての体を成していなかったように思います。流石に原作効果で出すのは強すぎたという事情もありますが、もう少し手心的なものはあってもよかったのかもしれません。
そういえば少し思い出しましたけどトゥーンデッキにあえてスキルドレインを入れてトゥーン系「主にトゥーンブルーアイズとトゥーンデーモン他にデメリットモンスターを入れたデッキ」を効果を無効にして無理やり攻撃特化にしたデッキを使ってた人もいましたけど、実際当時の環境だとスキルドレインとトゥーン系は相性良かったのんでしょうか・・・確かに普通に考えればデメリットカードの効果も無効にできて、ワールドが破壊されてもスキルドレインがフィールドにある限りトゥーンのモンスターはフィールドに維持できるけど?
コメントありがとうございます。
トゥーンモンスターとスキルドレインを併用するデッキは非常に面白い発想かと思います。当時はまだスキルドレインが未登場だったためこの時期に、という意味では無理ですが、いわゆる変則的な【スキドレバルバ】のようなコンセプトのデッキに仕上げることはできるかもしれません。
ただ、実際のところ普通に本家の通常モンスターを使った方が安定する上にサポートも豊富であることは否めませんので、相性が良いのかという点に関しては難しい話になりそうです……。