【世紀末蟲惑魔】VS【世紀末十二獣】

2018年5月12日

【目次】
前書き


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【前書き】

 この小説は、「遊戯王ADSで世紀末トーナメント」シリーズの三次創作です。作者様である本体氏から掲載許可をいただき、投稿いたしております。

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【1】

「メイン入ります」

「どーぞ」

 モルモラットの先攻でデュエルが始まる。

 ルールはマスタールール3。よってフィールドにエクストラモンスターゾーンは存在しない。代わりにPゾーンが左右に陣取り、ペンデュラム召喚が完全な力を発揮できる盤面が構築されている。

 将来的にはともかく、現在の世紀末次元では新マスタールールの導入は進んでいない。カードプールについても同様だ。2017/4/1以降に誕生するカードは基本的に使用不可能とされている。

 ともあれ。

 手札は5枚。「幽鬼うさぎ」「十二獣モルモラット」「増殖するG」「十二獣ラム」「コズミック・サイクロン」だ。初動があり、妨害も3枚。誘発を踏んでもそれなりに戦える。悪くない初手だろう。

 モルモラットは一度だけ深呼吸を行い、すぐに手を動かし始めた。

「モルモラット召喚、効果を発動します」

「通し」

 初動は当然、「十二獣モルモラット」だ。

 「十二獣モルモラット」は召喚成功時にカテゴリ専用墓地肥やしを行える効果を持っている。墓地に落とすカードは定石通り「十二獣の方合」……ではない。

 この次元にやってきて得た新たなる力、「十二獣の相生」だ。

 簡易デュエルフィールドによって自動的にカードが選択され、デッキから「十二獣の相生」が墓地に送られた。当然、シャッフルも自動で実行されている。

 精霊は他人にデッキを触らせることができない。こうしたカットの自動化は必須機能とも言える。

 ……が、便利だ。精霊に限らず、普通の人間であっても喉から手が出るほど欲しい機能に違いない。

「何かありますか?」

 効果解決後、モルモラットがサラに確認を取る。仮に「増殖するG」を握っているのであれば、ここが発動タイミングのひとつだろう。

 流石の簡易デュエルフィールドもプレイヤーの意思を察知することはできない。よって優先権の確認はやはり手動で行うことになる。

「うーん……三味線引いてもいいけど、もう全部何もなしで」

 サラは手札を裏向きに机へと置き、だらしなく椅子に身体を預けて寛ぎ始めた。マナーが良いとは言えない態度だが、不思議と彼女にはその振る舞いが似合っているようでもある。

 モルモラットは少し考えて、遠慮なく先攻展開に集中することにした。現実問題、【サラ蟲惑魔】に誘発を積むスペースはない。絶対にあり得ないと断言できるほどではないが、相手から申告があったのであれば問題ないだろう。

「モルモラットに重ねてワイルドボウX召喚、続けてブルホールをX召喚します」

 「十二獣」Xモンスターはそれぞれ1ターンに1度、同名カード以外の「十二獣」モンスター1体の上に重ねてX召喚できる特殊な召喚条件を備えている。【十二獣】の中核にして象徴となるギミックであり、それは【相生十二獣】に姿を変えた今でも変わらない。

 さらに、これらの「十二獣」Xモンスターは元々の攻守がゼロである代わりに、X素材として持っている「十二獣」モンスターの合計ステータス分の強化を受ける共通効果を持っている。今はX素材の関係上ステータスはゼロのままだが、状況次第では最上級モンスター並の打点を得ることも不可能ではない。

「ワイルドボウを外してブルホーンのサーチ効果発動、デッキからヴァイパーを手札に加えます」

 X素材となっていた「十二獣ワイルドボウ」をコストに、「十二獣ブルホーン」の固有効果が発動される。デッキから「通常召喚可能な獣戦士族モンスター」1体をサーチする効果を持つ、【十二獣】における最高のエンジンと言っても過言ではない存在だ。

 その強力かつ汎用性の高い能力により、OCG次元では長らく禁止カード指定を受け続けている。だが、この世紀末次元においてはその限りではない。

 世紀末次元のレギュレーションはやや特殊だ。それぞれのカテゴリごとに全盛期のレギュレーションが適用されるため、デッキによって使用できるカードプールが異なるという環境が成立している。

 例えば【EMEm】は2015/10/1のレギュレーションで固定されているため、「Emヒグルミ」や「EMモンキーボード」を3枚積むことができる。代わりに2016/1/1以降に誕生したカード、例えば「灰流うらら」などのカードは一切使用することができない。

 モルモラットも――【十二獣】もこれと同様のルールだ。2017/1/1のレギュレーションで固定されているため、「十二獣の会局」を始めとする強力なカテゴリカードを好きなだけ投入できる。

 ともあれ。

 「十二獣ブルホーン」の効果でサーチされたのは「十二獣ヴァイパー」。変則的な手札誘発効果を持つことから攻防ともに使い勝手がよく、様子見にサーチされる筆頭カードと言えるだろう。

「ブルホーンに重ねてドランシアをX召喚します」

 続けて【十二獣】のエースモンスター、「十二獣ドランシア」がX召喚される。表側表示限定ながら、フリーチェーンの万能除去効果を持つ強烈なXモンスターだ。このカードの存在こそが【十二獣】の強みの半分を担っていたと言っても過言ではない。

 とはいえ、本来であればこのタイミングで「十二獣ドランシア」を置く意味はなかった。相手が誘発を握っていないことが確定している今、あえてケアルートを通る必要はない。

 必要はないが、意味はある。相手の厚意によって手札が明かされている以上、本来通るはずだったルートを進むのは暗黙の了解と言っていいだろう。

「そして……墓地の相生のサルベージ効果発動。エクストラデッキが12枚丁度なので、手札コストの代わりにデッキコストを払います」

 発動されたのは、「十二獣の相生」の③の効果、手札の「十二獣」モンスターをコストに自己サルベージを行う効果だ。ただし、自分のエクストラデッキの枚数が12枚丁度である場合、代わりにデッキの「十二獣」モンスターをコストに使用できるという極めて強烈なアドバンテージ生成能力を備えている。

 【相生十二獣】を象徴する世紀末カードであり――それはモルモラットという少女から引き出された潜在能力そのものでもあった。

「デッキからヴァイパーを墓地に送り、相生を手札に加えます」

 コストとして「十二獣ヴァイパー」を墓地に送りつつ、墓地の「十二獣の相生」が手札に回収される。これで手札は6枚。さらに墓地アドバンテージすら稼いでいるのだ。明らかに尋常な話ではない。

「相生を発動、対象はヴァイパーです」

 そして、回収された「十二獣の相生」が即座に発動される。効果はカテゴリ専用の「早すぎた埋葬」だ。ただし、コストなどは特に存在せず、これが場から離れても蘇生したモンスターが自壊することはない。

 単刀直入に言って、凄まじい効果である。

「ヴァイパーの効果発動。ドランシアの下に重ねてX素材とします」

 蘇生されたばかりの「十二獣ヴァイパー」が即座に「十二獣ドランシア」に吸収される。さらに、「十二獣」Xモンスター共通のステータス強化効果により、攻撃力が1200、守備力が400に上昇した。

 この時、装備されていた「十二獣の相生」は墓地へ送られるが、ここからが【相生十二獣】の本領発揮と言っていい。

「墓地の相生の効果発動。エクストラデッキが12枚丁度なので、デッキからサラブレードを墓地に送って自己サルベージします」

 疑似ループの始まりである。

 ただし、エクストラデッキが12枚でなくなった瞬間、具体的にはX召喚を行った瞬間、ループは呆気なく途切れてしまう。一見するとお手軽ループコンボパーツにも見える「十二獣の相生」だが、実際にはかなり繊細なプレイングが要求される上級者向けのカードでもある。

 とはいえ、雑に使っても強いほどのパワーカードでもあるのは事実だが……。

 デッキから「十二獣サラブレード」が墓地へ送られ、代わりに「十二獣の相生」が手札に舞い戻る。先ほどと違いコストは「十二獣ヴァイパー」ではないが、これはデッキ・アドバンテージを意識した動きだった。

 基本的に【相生十二獣】はデッキの中の「十二獣」モンスターの数がそのまま継戦能力となる。必要以上にリソースをすり減らして寿命を縮めるべきではない。

「ブルホーンを外し、モルモラットを素材としているドランシアの効果発動。デッキからモルモラット1体をリクルートします」

 「十二獣モルモラット」。

 【十二獣】の顔そのものであり、かつての【十二獣】をトップメタに押し上げた張本人でもある。その効果は、自身をX素材として持っている獣戦士族Xモンスターに対し、「十二獣モルモラット」1体を手札・デッキから特殊召喚する「効果を付与する」という能力だ。

 つまるところ、これ1体からレベル4のモンスターがずらずら並んでいくと考えていい。本人の戦闘能力は皆無だが、その展開力の高さは常識の範疇を超えている。

 コストとして取り除かれるのは当然「十二獣ブルホーン」だ。ここで「十二獣モルモラット」を切った場合、次に重ねるXモンスターがリクルート効果を得られなくなってしまう。

「相生を発動、対象はサラブレードです」

 「十二獣モルモラット」が特殊召喚されたのち、「十二獣の相生」が再び発動される。

 蘇生対象は「十二獣サラブレード」だが、その「十二獣サラブレード」はそもそも「十二獣の相生」によって墓地へ送られたものなのだ。都合1枚コンボであり、実質は「おろかな埋葬」と「早すぎた埋葬」が1枚になったカードとも言える。

 もはやドリブルか何かを連想する行為だが、この程度は序の口、【相生十二獣】の入り口にすら入っていない。

「特殊召喚したサラブレードの効果発動。手札のラムを捨て、デッキから1枚ドローします」

 「十二獣サラブレード」は召喚・特殊召喚に成功した場合、損失無しの手札交換を行える効果を持っている。これにより「十二獣ラム」が墓地へ送られ、代わりにモルモラットの手札に不確定の札が1枚加わった。

 引いたカードは――「灰流うらら」だ。

 ――よしっ!

 「灰流うらら」。

 手札誘発モンスターの1体であり、「デッキに触れる効果」全般を止められる強烈なカウンター効果を備えている。現存する手札誘発の中では最強と囁かれるパワーカードだ。

 これを握っているのと握っていないのではゲームの行方が全く違ってくると言っていい。ここで引き込めたのは大きいだろう。

 ――握られちゃったかぁ……。

 さり気なくモルモラットの様子を観察していたサラは、相手の表情から彼女が何か良いカードを引いたらしいことを悟った。これから一体何枚引かれるのかは分からないが、1発目から当たりを握られるのは精神衛生上良いとは言えない。

「モルモラットとサラブレードを素材にエメラルをX召喚します」

 続けて「十二獣モルモラット」と「十二獣サラブレード」の2体を素材にランク4のXモンスター、「ダイガスタ・エメラル」がX召喚される。【十二獣】においては非常に重要な立ち位置を占める潤滑油的なモンスターだ。

 だが、この瞬間モルモラットのエクストラデッキが11枚となり、「十二獣の相生」のデッキコスト条件を満たせなくなった。ここからはループに頼らず立ち回るしかない。

「装備モンスターがX素材となることで墓地へ送られたため、相生の効果を発動します。対象はドランシアです」

 しかし、ここで「十二獣の相生」の②の効果が発動される。装備モンスターがX素材となることで自身が墓地へ送られた場合、自分フィールドの「十二獣」Xモンスターの下に重ねてX素材にできるという効果だ。

 他の効果に比べてやや地味な印象はあるが、これも決して悪い効果ではない。むしろこの効果がなければ【相生十二獣】の展開ルートは半分が潰れるとすら言えるほどだ。派手な活躍はないものの、まさしく縁の下の力持ち的な効果だろう。

「モルモラットを外してエメラルのドロー効果発動。対象はモルモラット、ブルホーン、ワイルドボウの3体です」

 X素材として「十二獣モルモラット」が取り除かれ、「ダイガスタ・エメラル」のX効果が発動される。墓地のモンスター3体をデッキに戻したのち、1枚ドローするという効果だ。

 墓地回収によりデッキリソースを回復させるとともにハンド・アドバンテージを稼げるため、優秀な汎用Xモンスターとして相性のいいデッキでは重宝される。デッキリソースが継戦能力に直結する【相生十二獣】においては、まさしく無くてはならない存在と言っても過言ではない。

 ちなみに、実はもう一つ効果を持っているが、こちらが使われる機会は少ない。【相生十二獣】においては皆無と断言してもいいほどだ。

 効果により、「十二獣モルモラット」「十二獣ブルホーン」「十二獣ワイルドボウ」の3体がデッキに戻される。これによりメインデッキ内の「十二獣モルモラット」の数が2体に増え、さらにエクストラデッキの枚数は13枚に回復した。

 その後カードが1枚ドローされる。引いたカードは――

 ――ここで会局……ルート切り替え、かな?

 モルモラットは盤面を確認し、小考した。

 「十二獣の会局」。それは【十二獣】はもちろん、【相生十二獣】でも最強の展開パーツのひとつと目されるカードだ。初手から握っていた時ほどの強さはないが、展開途中でもルートを切り替えるだけの価値はあるカードと言って良い。

 実際のところ、モルモラットの頭の中には膨大な展開ルートの数々が収まっている。当然、今のような状況に対するルートも構築済みだ。

 念のためルート選択にミスがないことを確認してから、モルモラットは止めていた手を再び動かし始める。

「相生を外してドランシアの効果発動。エメラルを破壊します」

 「十二獣ドランシア」の効果により、効果を使い終わった「ダイガスタ・エメラル」が破壊される。一見すると自爆行為に他ならない動きだが、【相生十二獣】においてはその限りではない。

「ドランシアに重ねてライカをX召喚します」

 エメラルを墓地に落としたのち、「十二獣ドランシア」の上に重ねて「十二獣ライカ」がX召喚される。本来の【十二獣】においては「増殖するG」ケアとなる代表的な動きだが、【相生十二獣】では別の意味も併せ持っている。

「墓地の相生の効果発動。エクストラデッキが12枚丁度なので、デッキからヴァイパーを墓地に送って自己サルベージします」

 モルモラットのエクストラデッキが12枚となったことにより、「十二獣の相生」のデッキコスト条件が再び満たされる。

 疑似ループの再開だ。

「ドランシアを外してライカの効果発動。墓地からドランシアを蘇生します」

 「十二獣の相生」が手札に回収されたのち、「十二獣ライカ」の効果が発動される。

 「十二獣ライカ」は「十二獣」モンスター専用の蘇生効果を持っている。この効果で蘇生したモンスターはターン終了時まで効果が無効化され、X召喚の素材にもできないが、以降のターンでは制約は消滅する。

 つまり、先攻展開に組み込む場合はそれほど大きなデメリットにはならないということだ。

 X素材となっていた「十二獣ドランシア」が取り除かれ、そのまま効果の対象に取られて墓地から釣り上げられる。当然効果は無効化されているが、上述の通り問題はない。

「相生を発動します。対象はヴァイパーです」

 再度「十二獣の相生」が発動され、「十二獣ヴァイパー」が蘇生される。

「ヴァイパーの効果発動。対象はドランシアです」

 直後、「十二獣ヴァイパー」が「十二獣ドランシア」のX素材として吸収される。効果が無効化されているためステータスはゼロのままだが、実質の数値は1200/400となった。

「装備モンスターがX素材となることで墓地へ送られたため、相生の効果を発動します。対象はライカです」

 「十二獣の相生」のX素材化効果の発動条件は「装備モンスターがX素材となること」だ。X召喚に使用された場合以外も条件を満たすことができる。

 つまり、最初の「十二獣ヴァイパー」の時もX素材化条件を満たしていたということになる。展開ルートの都合上、その時は効果は発動されなかったが、これも忘れてはならない重要なテクニックと言って良い。

「相生を外し、モルモラットを素材としているライカの効果発動。デッキからモルモラット1体をリクルートします」

 X素材となった「十二獣の相生」を即コストとし、「十二獣モルモラット」のリクルート効果が発動される。これでメインデッキ内の「十二獣モルモラット」は残り1体となった。

「墓地の相生の効果発動。エクストラデッキが12枚丁度なので、デッキからサラブレードを墓地に送って自己サルベージします」

 もはや何度目かも分からない「十二獣の相生」のサルベージ効果が発動される。コストとしてデッキから送られたのは「十二獣サラブレード」。既に1体墓地に落ちているため2体目は必要ないが、コストである以上は支払わなければならないことは言うまでもない。

 元々、モルモラットのデッキに採用されている下級十二獣は「十二獣モルモラット」「十二獣ヴァイパー」「十二獣サラブレード」「十二獣ラム」の4種類だけだ。定石通り、それぞれ3、3、3、2の枠を取っている。

 つまり、サルベージ効果使用時におけるデッキ内の下級十二獣は「十二獣モルモラット」1体、「十二獣サラブレード」2体、「十二獣ラム」1体の計4体が全てとなる。「十二獣モルモラット」は論外として、コストとして墓地に送れる下級十二獣は僅か3体しか残っていない計算だ。

 単刀直入に言って、「墓地肥やし」というメリットを「デッキリソースの消費」というデメリットが上回り始めていると言って良い。メタのスペースを確保するために、ぎりぎりまでメインギミックを切り詰めたことによる弊害だろう。

 ともあれ、モルモラットの手札には「十二獣の相生」が舞い戻ったが……ここでようやくルートの切り替えが行われる運びとなる。

「それから……会局を発動します」

 満を持して発動されたのは「十二獣の会局」だ。

 ――今引き、かな。

 魔法&罠ゾーンに張られた「十二獣の会局」に視線を落とし、サラが内心推測を立てる。それほど詳しいわけではないが、初手に握っていたのであればもう少し効率的なルートを取っていたはずだ。

 問題は「十二獣サラブレード」と「ダイガスタ・エメラル」のドロー、どちらのタイミングで引いていたかということだろう。展開ルートを熟知していれば判断できることだが、流石に初見で見抜けるほど単純な話ではない。

 一度目のドローで「十二獣の会局」を引いたから喜んだのか? それとも、一度目は一度目で良いカードを引いた上で、さらに二度目のドローで「十二獣の会局」を引いたのか?

 サラは表情を変えないまま、己の不勉強さを密かに悔やんだ。ごく僅かな情報アドバンテージの違いだが、時にはこうした知識量の差が明暗を分けることもある。

「会局の効果発動。対象は会局です」

 自分フィールドの表側表示のカードを対象にとって破壊し、デッキから「十二獣」モンスター1体をリクルートする効果。言葉にしてしまえば簡単だが、このカードの取り回しの良さは外観の遥か上を行く。純構築の【十二獣】はもちろん、他の多くのデッキを【十二獣】で染め上げてしまったほどのパワーカードだ。

 リクルート効果だけでなく、自分のカードを能動的に破壊できることも強みのひとつと言って良い。今回の展開ルートではそちらが活かされることはないが、場合によっては「効率的にディスアドバンテージを稼ぐ」助けになることもあるだろう。

「会局の効果で会局を破壊し、サラブレードをリクルートします」

 自分自身を破壊しつつリクルート効果を発動する――冷静に見ると違和感を覚える動きだが、「十二獣の会局」を使う場合は見慣れた光景とも言える。

 ちなみに、しばしば誤解されることがあるが、ルール上の問題は一切ない。永続カードの効果の発動が不発となるケースは効果解決時以前に限られるからだ。

 魔法&罠ゾーンの「十二獣の会局」が破壊され、「十二獣サラブレード」がデッキから特殊召喚される。

 残り2体。うち1体は「十二獣モルモラット」であるため、実質の残弾は「十二獣ラム」1体だけだ。

「サラブレードと会局の効果発動。チェーン1にサラブレード、チェーン2に会局、対象はドランシアです」

 リクルートされた「十二獣サラブレード」と同時に、効果破壊された「十二獣の会局」の第2の効果が発動される。

 カードの効果で破壊され墓地に送られることを条件とし、自分フィールドの「十二獣」Xモンスターの下に重ねてX素材にできるという効果だ。当然、自分自身の効果で破壊された場合も例外ではない。

「チェーン2解決。会局をドランシアの下に重ねてX素材とします」

 墓地の「十二獣の会局」が「十二獣ドランシア」のX素材として吸収される。魔法カードであるためステータス強化は入らないが、単純にX効果を発動するためのコストを調達できるだけでも十分に強い。

「チェーン1解決。手札の相生を捨て、1枚ドローします」

 「十二獣サラブレード」の手札交換効果によって「十二獣の相生」が捨てられ、別のカードへと変換される。

 ――まあ、悪くはないかな……。

 引いたカードは「十二獣の方合」。

 カテゴリ専用のサポート罠カードだが、普通に発動されることはまずない。一言で言えば、墓地に行くのが仕事のカードだろう。

「墓地の相生の効果発動。エクストラデッキが12枚丁度なので、デッキからラムを墓地に送って自己サルベージします」

 最後。

 「十二獣の相生」のサルベージ効果が発動される。これにより、とうとうデッキ内の下級十二獣は「十二獣モルモラット」1体のみとなった。「十二獣モルモラット」はリクルート用に残されているため、実質全ての下級十二獣をここで使い切ったことになる。

「相生を発動。対象はサラブレードです」

 だが、まだモルモラットの先攻展開は終わらない。ここからが最後の仕上げ、ようやく最終盤面を構築していくことになる。

「サラブレードの効果発動。方合を捨て、1枚ドローします」

 蘇生された「十二獣サラブレード」の効果で「十二獣の方合」が捨てられ、不確定の札が1枚加わる。

 ――聖杯!

 「禁じられた聖杯」。

 フィールドのモンスター1体を対象とし、その効果をターン終了時まで無効化するとともに攻撃力を400上げる速攻魔法カード。非常に使い勝手がよく、あらゆるデッキに入る可能性を秘めている汎用カードだ。

 特にこのマッチアップにおいては最も信頼できるカードの1枚と言っても過言ではない。おおむね何枚握っても損にならない引き得カードだろう。

「モルモラットとサラブレードを素材にエメラルをX召喚します」

 レベル4モンスター2体をX素材に「ダイガスタ・エメラル」がX召喚される。素材となったのは「十二獣の相生」を装備している方の「十二獣サラブレード」だ。

「装備モンスターがX素材となることで墓地へ送られたため、相生の効果を発動します。対象はライカです」

 「十二獣の相生」のX素材化効果が発動され、「十二獣ライカ」のX素材が1つ増える。

 現在は合計3つ。丁度足りている計算だ。

「ライカに重ねてタイグリスをX召喚します」

 続いて「十二獣ライカ」に重ねて「十二獣タイグリス」がX召喚される。

「ライカを外し、モルモラットを素材としているタイグリスの効果発動。デッキからモルモラット1体をリクルートします」

 しかし、固有効果が発動される前に「十二獣モルモラット」がリクルートされた。これでデッキの中の十二獣は完全に尽きたことになる。

 コストとして取り除かれたのは「十二獣ライカ」。墓地のXモンスターの数は2体に増え――そして現在のモルモラットのエクストラデッキの枚数は10枚だ。

「モルモラットを外してエメラルのドロー効果を発動します。対象はモルモラット、ライカ、エメラルです」

 即座に「ダイガスタ・エメラル」のドロー効果が発動される。X素材として取り除かれた「十二獣モルモラット」を含む3体のモンスターがデッキに舞い戻り、1枚ドローに変換される。

 引いたカードは「次元障壁」だ。

 ――う、強いけど弱い……。

 「次元障壁」。

 発動ターン中、お互いに「指定した種類のモンスター」の特殊召喚を封じ、さらに既にフィールドに存在しているものも効果を無効化してしまうという強烈な効果を持っている。対応しているのは、儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムの5種類だ。

 普通の効果モンスターやリンクモンスターには対応していないが、その制圧力は極めて高い。使い切りとはいえ、否、使い切りだからこそ強力足りえる展開抑制系パワーカードと言えるだろう。

 しかし、ここまで展開し切った今に限れば、それほど効果的に作用するカードではない。相手だけでなく自分も巻き込まれる以上、安易にX宣言すれば待っているのは破滅だ。

 だが、そもそもの話――このマッチアップではほぼ死に札に近いカードであるとも言える。先撃ちすれば辛うじて効かないこともないが……少なくとも引いて嬉しいカードではない。

「相生を外してタイグリスの効果発動。フィールドの対象はドランシア、墓地の対象はサラブレードです」

 気を取り直すように、「十二獣タイグリス」の固有効果が発動される。それは墓地の「十二獣」モンスター1体を自分フィールドの任意のXモンスターの下に重ねてX素材とする効果だ。

 この効果を発動するためにX素材を消費するため、X素材の数としては差し引きゼロの計算となるが、任意のX素材を張り替える効果は非常に小回りが利く。

 「十二獣モルモラット」を筆頭に、下級十二獣はX素材となることで様々なメリットを生み出す共通効果を持っている。直接的なアドバンテージこそないが、「十二獣タイグリス」の固有効果も一線級の性能を備えていると言えるだろう。

 変わったところでは、X素材に持っている「十二獣モルモラット」を取り除き、即座に下に重ね直すことでリクルート効果を2回使用するテクニックもある。これが活きる状況は限定的だが、覚えておいて損はない。

 ともあれ、「十二獣タイグリス」の効果で「十二獣サラブレード」が「十二獣ドランシア」の下に重ねられた。これにより「十二獣ドランシア」の実質の打点は2800にまで上昇する。

 ステータス強化に貢献しない「十二獣の会局」も、単純にX効果の発動コストと考えれば十分に強力だ。高打点、具体的には2500打点以上を維持したまま除去効果を発動できるという事実は、とりわけこのマッチアップにおいては極めて重要な意味を持つ。

「墓地の相生の効果発動。エクストラデッキが12枚丁度なので、デッキからモルモラットを墓地に送って自己サルベージします」

 「十二獣タイグリス」の効果を発動するために墓地へ送られていた「十二獣の相生」のサルベージ効果が発動される。

 コストとして墓地に送られるのは「十二獣モルモラット」。先ほど「ダイガスタ・エメラル」の効果でデッキに戻されていた分だ。

「モルモラットとサラブレードを素材にエメラルをX召喚します」

 さらに、レベル4のモンスター2体を素材に「ダイガスタ・エメラル」がX召喚される。これも先ほど「ダイガスタ・エメラル」の効果でエクストラデッキに回収されていた分だ。

 ――エメラルが2体。3積みしてるっぽいね。

 フィールドに並んだ「ダイガスタ・エメラル」を眺め、サラが密かに考察を固める。仮に2積みの場合、盤面を流されれば二度とリソースを補給できなくなる。仮にも精霊デュエリストであるからには、そこまでリスキーな布陣は構築しないはずだ。

 そして、「十二獣」Xモンスターの枠は10枠もしくは11枠が主流。「ダイガスタ・エメラル」に3枠取っている場合、残りは必然的に1~2枠となる。

 果たしてその枠に取られているXモンスターは何なのか? それとも、Xモンスター以外のモンスターを取っているのか? 「飛翔するG」ケアに6シンクロが取られている可能性も低くはない。

「モルモラットを外してエメラルのドロー効果を発動します。対象はモルモラット2体とラムです」

 思考に耽るサラを置き去りに、モルモラットが展開の手を進める。墓地の「十二獣モルモラット」2体と「十二獣ラム」がデッキに戻され、カード1枚に変換されていく。

 これでモルモラットが引いたカードの枚数は計6枚。初期手札を上回る枚数だ。うち3回は「十二獣サラブレード」による手札交換だが、それを踏まえても尋常な話ではない。

 ――うさぎ2枚目。これはこれで……。

 ラストドローは「幽鬼うさぎ」。

 一言でまとめれば、「フィールドで効果を発動したカード」を破壊する効果を持った手札誘発モンスターだ。厳密には処理が異なるが、イメージとしてはそのようなものとなる。

 発動された効果を無効にする効果はないが、永続系カードに対しては間接的にカウンターとして機能する点も見逃せない。制約により1ターンに1度しか効果を使用できないとはいえ、十分に強い引きだろう。

「タイグリスに重ねてハマーコングをX召喚します」

 そして最後に、「十二獣タイグリス」に重ねて「十二獣ハマーコング」がX召喚される。

 その固有効果は、自身以外の「十二獣」モンスターが相手の効果の対象に取られなくなるという強力な耐性付与能力だ。ただし、「十二獣ハマーコング」がX素材を持っていない場合、この効果は適用されなくなるという欠点もある。

 また、お互いのエンドフェイズごとに自動でX素材が1つずつ失われていくデメリットも無視できない。仮に1つしかX素材を持っていなかった場合、召喚したターンの終わりには実質バニラモンスターと化してしまうことになる。

 だが、今現在の「十二獣ハマーコング」のX素材は3つ。次の自分ターン終了時までは耐性付与が続く計算だ。長期戦は考えられないが、短期決戦を前提に戦うのであれば十分な時間だろう。

 ……というよりも、ゲームが長引けば勝てなくなるのは目に見えている。本来【相生十二獣】は長期戦向けのデッキだが――【サラ蟲惑魔】を相手に悠長に時間をかけるのは自殺行為と言って良い。

「カードを3枚セットします」

 モルモラットは手札からカードを3枚選び、魔法&罠ゾーンにセットした。伏せられたのは「コズミック・サイクロン」「次元障壁」「禁じられた聖杯」の3枚だ。

 無いよりはマシの「コズミック・サイクロン」、完全なブラフの「次元障壁」、そして本命の「禁じられた聖杯」。3伏せにしては弱いバックだが、盤面の脅威と手札誘発を絡めればゲームをコントロールしきるのも難しいことではない。

 X素材を3つ持つ2800打点の「十二獣ドランシア」が1体、「十二獣」モンスターに耐性を付与する1200打点の「十二獣ハマーコング」が1体。さらに「ダイガスタ・エメラル」が2体並び、返しのターンのリソース回復を予約している。

 手札は6枚。

 「灰流うらら」が1体、「幽鬼うさぎ」が2体、「増殖するG」が1体の誘発3種。「増殖するG」は直接的には刺さらないが、それ以外の2種は明確に効力を発揮する。上手く使いどころを見極められるかが勝利の鍵となるだろう。

 加えて「十二獣ヴァイパー」が疑似戦闘補助カードとして待ち構えているのも見逃せない。フリーチェーンで「十二獣」Xモンスターの攻撃力を1200上昇させることができるため、単純なステータスの殴り合いにおいては非常に大きな強みとなる。

 残りの1枚は「十二獣の相生」。これを握っていれば万一の場合も再展開が行える。「ツインツイスター」などをケアする場合はブラフとして伏せることも考えられるが、普通は手札にキープしておくのが丸い選択だろう。

 通常のマッチアップに限るのであれば、それは極めて常識的な判断だ。

 だが……【サラ蟲惑魔】を相手取る場合、その法則は残念ながら当てはまらない。一瞬でも隙を見せれば最期、ここは何が何でも「禁じられた聖杯」を守りに行くのが正答だった。

 モルモラットはこの次元にやってきて日が浅い。こうした経験不足も致し方ない部分はあるだろう。

 ――伏せ3。ツイツイが欲しくなる、けど。

 もっとも、このゲームではモルモラットは命拾いをしている。サラは「ツインツイスター」を握っていなかった。ネタばらしになるが、次のドローで都合よくトップすることもない。

 とはいえ、考え方によっては失敗を経験して成長する機会を失っているとも言える。どちらがよかったのかはこれからのモルモラットが決めることだろう。

「エンドフェイズに入ります。……えっと、何かありますか?」

「ん、ないよ」

 長い長いメインフェイズ1が終わり、ようやくエンドフェイズに入る。この世紀末次元では、先攻1ターン目のメインフェイズ1が最も長いケースが多い。

 中にはエンドフェイズが一番長い異質なデッキも存在するが……それは恐らくモルモラットが一生戦わないであろう相手だ。気にすることはない。

 気にしてもどうにもならないとも言えるが。

「ハマーコングの効果が誘発します。タイグリスを外します」

 「十二獣ハマーコング」のデメリットによってX素材が1つ取り除かれる。これで残りのX素材は2つ。

 完璧ではないが、モルモラットはおおよそ最善に近い行動を取った。あとは相手の出方を窺うだけだ。

「ターンを終了します」

 ターン終了宣言に伴い、簡易デュエルフィールドのターンカウントが2に進む。

 ここからはサラのターンだ。

 

【2】

「じゃ私のターンね、ドロー」

 デッキに手をかけ、カードを引く。たったそれだけの動作にもデュエリストの個性は現れる。

 サラのドローは美しかった。一切癖がなく、基本をそのままなぞるような動き。それでいて真っ直ぐではない。何かを引き込むような「重圧」を隠し持っている。

 モルモラットはそのドローに【メタビート】の姿を見た。

「それじゃドローフェイズに……えいっ」

 直後、サラが手札からカードを発動する。

 「皆既日蝕の書」だ。

 ――いきなりマスカン!

 一手目から撃たれた的確な対処に、モルモラットが内心で動揺する。

 「皆既日蝕の書」は、フィールドのモンスターを全て裏側守備表示にする強力な返し札だ。反面、エンドフェイズに相手フィールドのセットモンスターを表側にし、その枚数分カードを引かせてしまうデメリットもある。

 だが、この「皆既日蝕の書」のように、対象を取らない破壊以外の除去カードは数少ない。それも速攻魔法ともなれば、実用レベルの性能を持つものはこのカードをおいて他にないだろう。

 モルモラットの構築した盤面も「皆既日蝕の書」1枚で崩されてしまう。OCG次元ではリンクモンスターの参戦を受け、やや信頼性を落としつつあるが――この世紀末次元では最強格の除去カードと言って良い。

「チェーン2、手札の灰流うららを捨てます」

 だが、そんな「皆既日蝕の書」にも弱点はある。効果の中に「カードをドローする効果」を含んでいるため、「灰流うらら」のカウンターに引っかかってしまうのだ。

「ん、どーぞ」

「解決します」

 サラの対応はない。そのままチェーンが解決され、「皆既日蝕の書」の効果が無効になる。

 とはいえ、現実問題1ターン目から手札誘発モンスターの効果を止める手段は多くはない。OCG次元には「墓穴の指名者」という最強の誘発返しがあるが、世紀末次元にそれらのカードが現れるのはまだ先のことだ。

 しかし、これでモルモラットは貴重な「灰流うらら」を失ってしまったことになる。仮に2枚握っていたとしても、このターン中はサーチ・リクルート・墓地肥やしのいずれも止められないということだ。

 【サラ蟲惑魔】相手に「灰流うらら」が腐ることはあり得ない。だが、だからこそ序盤に「撃たされてしまった」ことの意味は大きい。

「ある?」

「ありません。メインまでお願いします」

 「皆既日蝕の書」を墓地に置きつつ、サラが小首をかしげてモルモラットを見上げる。ここで動くとしたら「増殖するG」を撃つかどうかだが、モルモラットはまだ動かずにいることを選んだ。

「んじゃメイン……強貪」

 メインフェイズにおいて、サラが取った最初の行動は「強欲で貪欲な壺」を発動することだった。

 効果は単純にして最強、2枚ドローだ。かの「強欲な壺」と同等のドロー能力、弱いはずがない。

「トップ10枚除外して……と」

 だが、発動コストとしてデッキトップ10枚を裏側で除外しなければならないという重いデメリットも存在する。同名ターン1制限と合わせて、到底気軽に撃てるドローカードではない。強さに見合ったリスクを備える名カードと言えるだろう。

 ――カズーラが逝ったかぁ……しゃーない。

 除外された中で痛手となり得るカードは「カズーラの蟲惑魔」「トリオンの蟲惑魔」「狡猾な落とし穴」の3枚。それぞれ1枚ずつ除外されている。残りの7枚は緑一色だ。

 サラは「カズーラの蟲惑魔」を1枚しか採用していない。「強欲で貪欲な壺」のコストで飛んでしまっても文句は言えないだろう。サラもそれは織り込み済みでデッキを組んでいる。

「通ります」

 ――強貪、そっちが本命だったんだ……。

 「灰流うらら」の当てどころを見誤ったことに、モルモラットが密かに歯噛みする。

 「皆既日蝕の書」を先に撃ったということは「強欲で貪欲な壺」を通したかったということ。つまりサラは手札が良くなかったということになる。

 要は「皆既日蝕の書」は「灰流うらら」を釣るための罠だったのだ。結果論ではあるが、恐らくは通しても問題はなかった。

 とはいえ、流石に一手目の「皆既日蝕の書」を見過ごすわけにはいかない。これをミスというのは酷だろう。

「2枚引いて……動いていい?」

「はい」

 そして案の定、サラは動ける手札を手に入れたようだった。

「ランカ召喚」

「通ります」

 サラが手札から「ランカの蟲惑魔」を召喚する。

 最初から握っていたのであれば「皆既日蝕の書」を囮に使うことはなかったはずだ。恐らくは「強欲で貪欲な壺」で引いたカードだろう。

 「蟲惑魔」モンスター共通の「落とし穴」及び「ホール」通常罠カードの効果を受けない耐性に加え、召喚成功時に「蟲惑魔」モンスター1体をサーチできる優秀な効果を持っている。もう1つの効果と合わせて、下級蟲惑魔のエースとも言える存在だ。

「効果はやめとくかな……動いていい?」

「はい」

 だが、「ランカの蟲惑魔」のサーチ効果が発動されることはなかった。欲を出して「神の通告」を踏んでしまえば敗北は必至。丸い選択だろう。

「成金」

 優先権が戻ってきたことを確認し、サラが次の行動を取る。発動されたのは「成金ゴブリン」、相手ライフを1000回復させる代わりに1ドローする魔法カードだ。

 実質ノーリスクで損失なしの手札交換が行えるため、相性の良いデッキでは非常に重宝される。流石にどんなデッキにも入るカードではないが、【サラ蟲惑魔】では3積み確定クラスの必須カードだ。

「通ります」

「じゃチェーンして月の書、対象ランカ」

 続けて「月の書」がチェーン発動される。

 対象は「ランカの蟲惑魔」。これが意味することはすなわち――

「んでサラ公開、特殊X召喚」

 「月の書」のチェーン発動に割り込む形でエクストラデッキの「サラの蟲惑魔」が公開され、そのまま「ランカの蟲惑魔」と「月の書」をX素材として特殊X召喚が行われる。

 特殊X召喚。

 この世紀末次元にのみ存在する、通常のX召喚とは異なる形式で行われる召喚方法。特定の条件を満たした際に、チェーンブロックを作らず即座に特殊召喚が実行される。

 原則として同名モンスターは1ターンに1体しか特殊召喚できないが、それを踏まえても強力な召喚方法と言えるだろう。

 「サラの蟲惑魔」に与えられている召喚条件は「Xモンスター以外の「蟲惑魔」モンスターが攻撃・効果の対象になること」だ。条件を満たした場合、それを無効にし、その無効にしたカードと対象となったカード全てを素材として特殊X召喚することができる。

 例えば、「十二獣ドランシア」で「ランカの蟲惑魔」を破壊しようとした場合、その「十二獣ドランシア」は「サラの蟲惑魔」のX素材として吸収されてしまうということになる。事実上、全ての下級蟲惑魔が対象を取る効果に耐性を持っているような状況と言って良い。

 今回の場合、対象となったのは「ランカの蟲惑魔」、それを対象に取っていたカードが「月の書」だ。よって「月の書」の効果を無効にしつつ、2枚を素材として「即座に」に特殊X召喚が行われることになる。

 即座に、という部分がこの召喚方法の最も特徴的な要素でもあるだろう。形としては、「月の書」が発動されてから「サラの蟲惑魔」が特殊X召喚されるまでがチェーン2の最中であるということになる。

 つまりその間にモルモラットが行動を差し込む余地はない。優先権が回ってくるタイミングでは既に「サラの蟲惑魔」の着地を許してしまっているということだ。

 ――増Gを撃つタイミングがない……。

 モルモラットは未知の召喚方法に戸惑いを隠せなかった。これまでの常識が通じない相手というのはそれだけで脅威に値する。

 分かりやすく既存の処理に当てはめるのであれば、「永続効果を適用するタイミングで行われる、条件による特殊召喚」というような形になるだろうか。それも恐らくは厳密には異なるだろうが、少なくともルール上はそのように解決していいはずだ。

 ちなみに、「条件による特殊召喚」である以上は「神の通告」などで特殊召喚を無効にすることもできる。

 もっとも、チェーン2以降に召喚された場合、発動タイミングを逃すというところは既存のルールと変わりない。つまりサラが先に「成金ゴブリン」を発動していたのは、カウンター罠の発動タイミングを回避するためだったということだ。

 ともあれ、「サラの蟲惑魔」が着地したことにより、その永続効果が適用され始めることになる。

 その効果は単純にして強烈。「蟲惑魔」モンスターを除き、フィールドで発動するモンスター効果及び特殊召喚を封じるという凶悪極まりない制圧効果だ。

 前者は効果の発動を封じるだけで無効にはならず、またフィールド外で発動する効果には無力だが、それでも対応範囲は非常に広い。特殊召喚封じに至っては、大半のデッキが機能不全を起こすほどの制圧力だろう。

 事実上、「虚無魔人」と「威光魔人」が1枚になったモンスターとも言える。

 加えて、その攻撃力は2500という恵まれた数値。前述の制圧効果と合わせて、並のモンスターでは太刀打ちできない強烈な制圧モンスターだ。

 さらに、X素材を持っている場合、罠カードの効果を受けなくなる耐性も備えている。「次元障壁」などの通常罠カードはもちろん、「神の通告」などのカウンター罠の効果も一切受け付けない完全耐性だ。

 もちろん、召喚自体を無効にされてしまえば無力だが、一旦着地してしまえばカウンターを恐れる必要はなくなる。「拮抗勝負」などの一部のカードには対処されうるため完全に無敵ではないが、「サラの蟲惑魔」に対処できる罠カードはおおよそ存在しないと言って良い。

 結論としては、この世紀末次元の基準に照らし合わせても、間違いなく最強格に位置するパワーカードに他ならないだろう。

「チェーン3、聖杯を発動します。対象はサラの蟲惑魔です」

「む……」

 だが、どんなカードにも弱点はある。召喚早々、チェーン3で「禁じられた聖杯」をチェーン発動され、サラが思わず声を漏らす。

 モンスターカード、罠カードには滅法強い「サラの蟲惑魔」だが、魔法カードに対しては無防備だ。当然、「禁じられた聖杯」の効果もあっさり通ってしまう。

 ここで「サラの蟲惑魔」を無力化された場合、「サラの蟲惑魔」によって無力化されていた「十二獣ドランシア」が効果を発動できるようになる。そうなれば破壊効果を「サラの蟲惑魔」にぶつけられることは明らかだ。

 仮に「サラの蟲惑魔」を失った場合、サラがそのまま順当に敗北してしまうことは避けられない。

 ――ま、今は何とかなるけど。

「ランカ切ってサラ効果。特殊召喚の方ね」

 「禁じられた聖杯」にチェーンして「サラの蟲惑魔」の効果が発動される。それはフリーチェーンで「蟲惑魔」モンスター1体を特殊召喚または召喚するという強力な展開能力だ。

 単純にモンスターが増えるという強みもあるが、状況に応じて特殊召喚と召喚を使い分けられる対応力の高さは尋常ではない。下級蟲惑魔の性質上、効果の発動タイミングを逃さないように注意する必要はあるが、それを踏まえても非常に優秀な効果と言えるだろう。

「考えます」

 ――うさぎ。ここで切るべき?

 モルモラットは思考時間に入ることを宣言し、手札の「幽鬼うさぎ」を見つめながら思案する。

 既に「禁じられた聖杯」を切っている以上、チェーン解決後に「十二獣ドランシア」が復活することは確定している。つまり、無力化した「サラの蟲惑魔」を除去することができるため、ここで「幽鬼うさぎ」を切る必要はない。

 だが、それは相手が何も対応してこなかった場合の話。

 相手の手札は3枚。多くはないが、少なくもないラインだ。何もないことも考えられるが、何かあってもおかしくない。

 問題になるのは「禁じられた聖衣」と「禁じられた聖槍」の2枚だろう。前者は効果破壊耐性と対象耐性を、後者は魔法・罠耐性を与える効果を持っている。

 2戦目以降は「我が身を盾に」なども警戒しなければならないが、現状意識するべきはその2枚と言って良い。

 どちらか片方を握っているか、どちらも握っていないか。もしくは両方握っているか。最後のパターンは流石に極低確率だが、全くないとは言い切れない。

 当然、最も警戒しなければならないのは「禁じられた聖衣」だ。効果破壊耐性を付けられた場合、「幽鬼うさぎ」は無駄撃ちとなる。1:1効果であり、不利な取引ではないが、「十二獣ドランシア」でも同じことができることを考えれば相対的には損だろう。

 だが、相手が「禁じられた聖槍」を握っていることを考えた場合、話は変わる。魔法・罠耐性を付けられた場合、「禁じられた聖杯」が通らなくなってしまうからだ。

 そうなれば「十二獣ドランシア」は無力化されたままの状態になる。つまり、「幽鬼うさぎ」を切らなかったことが裏目になってしまうということだ。

『迷った時は相手の立場になって考えるといい。きっと上手くいく』

 思考の袋小路に陥ったモルモラットの頭によぎったのは、ある竜剣士の言葉だった。

 相手の立場になって考える。自分が同じ状況であればどうしていたかを考えるのだ。

 戦友のアドバイスを思い出したことで幾分冷静さを取り戻し、彼女はあらためて盤面を見渡す。

 ここで読み取るべきなのは、相手の狙いが一体何なのかということ。つまり、相手が「サラの蟲惑魔」の効果を発動した意図だ。

 たとえ「禁じられた聖槍」を握っていたとしても、「幽鬼うさぎ」は回避できない。よって「幽鬼うさぎ」をケアする場合、「サラの蟲惑魔」の効果は発動できないことになる。

 だが、ブラフによって「幽鬼うさぎ」を回避し得るタイミングが存在する。

 それが今だ。

 「幽鬼うさぎ」を握っているにもかかわらず、それを温存することを選ぶ――現に今、モルモラットがその状況に置かれているではないか。

 すなわち、相手の意図は3パターン。「うさぎをブラフで回避しつつ後続を展開したい」、もしくは「ドランシアに潰されるくらいならうさぎを道連れにしたい」、そして「元々うさぎを回避できる札を握っている」のいずれかだ。

 2パターン目、3パターン目の場合は簡単だろう。どちらにしても「幽鬼うさぎ」を切る意味はない。

 重要なのは1パターン目。より正確には、その選択肢をサラが取るのかどうかということだ。

『効果はやめとくかな……動いていい?』

 思い返すのはつい先ほどのサラの行動。あの時、サラは「神の通告」をケアするために後続をサーチする選択を見送った。

 前例があるのだ。

 カウンターを警戒して「ランカの蟲惑魔」の効果を発動しないほど慎重なプレイヤーが、ここに来て後続1体のために「サラの蟲惑魔」を失うリスクを冒すのか?

 恐らく違うはずだ。プレイングに一貫性が無くなる。もしも「禁じられた聖槍」を握っているのであれば、危ない橋は渡らず素直に「禁じられた聖槍」をチェーンしているに違いない。

 そうしないということは、必然的に相手の意図は2パターン目か3パターン目に絞られる。

 つまり。

 ここで「幽鬼うさぎ」を切る必要はない。

「通ります」

 おおよそ1分ほどの長考を経て、モルモラットが1つの結論を導き出す。手札の「幽鬼うさぎ」は2枚とも温存されることになった。

「んじゃ解決。サラから」

 ――釣れなかったか……ま、それならそれで。

 サラの対応はなかった。モルモラットの推測通り、「禁じられた聖槍」は握っていなかったということだ。

 だが、サラが得た情報アドバンテージも侮れない。

 このタイミングで長考したということは、モルモラットが「幽鬼うさぎ」を握っていることはほぼ確定したと言って良い。ブラフで長考してみせた可能性もあるが、元々「幽鬼うさぎ」がある前提で動いているサラ相手には然程意味のない行動だ。相手もそれは理解しているだろう。

 そもそもモルモラットの性格上、そうしたグレーゾーンのプレイングを取ることはないという対人メタ的な都合もある。おおよそのところ、ここからサラは「幽鬼うさぎ」の存在に確信を持って行動するようになるだろう。

「トリオン特殊召喚」

 ともあれ、チェーンブロックを積み終えたことにより、逆順処理に移行する。まずはチェーン4、「サラの蟲惑魔」の特殊召喚効果の解決だ。

 特殊召喚されたのは「トリオンの蟲惑魔」。理由は後述するが、この状況では当然の選択と言える。

「チェーン3。聖杯の効果を適用します」

 その後、「禁じられた聖杯」の効果により「サラの蟲惑魔」の効果が無効化される。ステータス強化効果によって攻撃力は2900にまで上昇したが、「十二獣ドランシア」の前では打点の高さは意味を成さない。

「チェーン2は月の書ね。スルーで」

 チェーン2は「月の書」の解決だが、既に特殊X召喚の処理によって変則的に解決されている。空撃ちはもちろん不発にも該当しない状況ゆえに表現に迷うところだが、とにかくチェーン処理が進む。

「最後に成金解決。1ドロー」

 そして、最後に「成金ゴブリン」を解決し、サラがカードを1枚引いた。これで手札は4枚だ。

 同時にモルモラットのライフが1000回復し、総ライフは9000となる。

 ――ここで羽根帚トップとか……。

 ドローしたカードは「ハーピィの羽根帚」。相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する強力なバック除去カードだ。仮に初手に握れていれば、まず間違いなくサラの勝利は確定的なものとなっていただろう。

 間にシャッフルを挿んでいるため、最初の「成金ゴブリン」だけで引けていたわけではない。だが、だからと言って、あまり面白い結果ではないのは事実だ。

 とはいえ、流石に制限カードの「ハーピィの羽根帚」を引くことを期待して動くのは無理がある。サラのプレイングが間違っていたわけではない。

「トリオン誘発。対象はそいつね」

 そのまま特殊召喚に成功した「トリオンの蟲惑魔」の効果が誘発する。その効果は、特殊召喚成功時に相手フィールドの魔法・罠カード1枚を「強制的に」破壊するというものだ。

 下級蟲惑魔の特殊召喚成功時の効果は「時の任意効果」、つまりチェーン2以降ではタイミングを逃すが、この「トリオンの蟲惑魔」のみ例外的に強制効果となっている。よってどのような状況であれタイミングを逃すことはない。

「通ります」

「なら解決」

 お互いに優先権を放棄したことで処理が進み、対象のカード――「次元障壁」が破壊される。

 ――障壁、ね。残り1枚は相生かな。

 セットカードが残り1枚に絞られたことにより、サラが一つの判断を下す。

 対【サラ蟲惑魔】では全伏せが基本。それを知っているのであれば、当然相手も「十二獣の相生」をブラフとしてセットしているはずだからだ。

 ……だが、サラは見誤った。上級者同士の対戦に慣れると忘れがちなことだが、常に相手が完璧なプレイングを取ってくるとは限らないのだ。

「バトル」

 今引きの「ハーピィの羽根帚」は温存しつつ、サラがバトルフェイズに入ることを宣言する。さり気なく手札をシャッフルしておくのも忘れない。

「どうぞ」

 モルモラットが優先権を放棄したことにより、メインフェイズ1が終わるとともにバトルフェイズへと移行する。

「殴っていい?」

「はい」

 バトルフェイズ開始時、より正確にはスタートステップ時、お互いのプレイヤーには優先権が与えられる。両者が優先権を放棄しない限り、ターンプレイヤーはバトルステップに入ることはできない。

 サラが攻撃の意思を見せることで暗に優先権を放棄することを示し、それを受けてモルモラットも優先権を放棄する。これによりスタートステップが終了し、バトルステップへと移行した。

「んじゃ……サラでそっちのエメラルに攻撃。通る?」

 攻撃宣言。

 「サラの蟲惑魔」が片方の「ダイガスタ・エメラル」に攻撃を行う。この時点ではまだダメージステップには移らない。

 この時、ターンプレイヤーであるサラには優先権が与えられるが、既に彼女は優先権を放棄していることが分かる。攻撃が通るかどうかを相手に聞くということは、優先権を放棄する意思を見せていることに等しいからだ。

「会局を外してドランシアの効果発動。対象はサラです」

 ――エメラル……やっぱり聖衣かぁ。

 半ば確信を持ちながらも、モルモラットが「十二獣ドランシア」の効果を発動する。

 「禁じられた聖衣」には耐性付与効果のほかに、攻撃力を600下げるステータス変更効果もある。つまり、耐性を付与すると同時に「サラの蟲惑魔」の攻撃力が2300にまで下がるため、「十二獣ハマーコング」に攻撃を仕掛けることはできない。

 とはいえ、仮に打点が足りていたとしても攻撃するかどうかは難しい判断だろう。今の「十二獣ハマーコング」には――正確には「十二獣ヴァイパー」を素材としている「十二獣ハマーコング」には特殊な除去効果が備わっているからだ。

「聖衣。対象サラ」

「通ります」

「ん、解決」

 案の定、サラの手札から「禁じられた聖衣」が発動される。そのままスムーズに解決され、「十二獣ドランシア」の破壊効果は実質的に空振りとなった。

 もっとも、アドバンテージ面では0:1交換でモルモラットが得をしている。対処を迫ったという意味においては、むしろ不利に置かれたのはサラの方だ。

 これでサラの手札は3枚。うち1枚は「ハーピィの羽根帚」、残りのカード次第ではサラは詰む。

 ちなみに、「十二獣ドランシア」の効果の発動をエンドフェイズまで待ち、セットの隙を窺うこともできるが、それは悪手と言わざるを得ない。このターンをやり過ごせば「サラの蟲惑魔」が復活する、つまり遅かれ早かれ「十二獣ドランシア」の効果を使わざるを得ないことが分かっている以上、「禁じられた聖衣」を伏せる理由がないからだ。

「ダメステ計算まで行っていい?」

「はい」

 ダメージステップ移行直前、サラがモルモラットに手順省略の確認を取る。

 ダメージステップの処理は遊戯王OCGの中でも煩雑な部類だ。全てを確認していてはキリがないため、しばしばこうして省略されることが多い。

 「ダイガスタ・エメラル」が戦闘によって破壊され、モルモラットに対して500ポイントの戦闘ダメージが入る。総ライフは8500となった。

「メイン」

「どうぞ」

 そのままサラはバトルフェイズを終了する。「トリオンの蟲惑魔」は攻撃表示で立たされているが、1600打点ではどのモンスターも超えられない。

 一応、「十二獣ハマーコング」に殴りかかれば手札の「十二獣ヴァイパー」を釣り出せるが、流石に自爆特攻をしてまでやることではないという判断だろう。

「2伏せ。エンド」

 この時、サラは選択を誤った。

 ブラフと見抜いたセットカードに「ハーピィの羽根帚」を撃つ理由はない。それは正しい判断だ。

 だが、それがブラフではない場合。途端にその選択は危ういものへと変わる。

 特に、今のサラは「絶対に守らなければならないカード」を抱えているのだ。勿体ない使い方だが、エンドサイクをケアするのであれば「ハーピィの羽根帚」は撃っておかなければならなかった。

「エンドにコズサイを発動します。対象は……」

 ――っ、そう来たか。

 エンドフェイズに入ってから、モルモラットが最後のセットカードを発動する。「コズミック・サイクロン」、1000ポイントのライフコストがついた代わりに対象を除外する「サイクロン」だ。

 墓地利用や破壊耐性が増えた近年において、そのどちらにも引っかかる「サイクロン」はやや信頼性を落としている。ライフコストが必要になるとはいえ、除外によってそれらを無視できる「コズミック・サイクロン」が優先されるのも無理はない。

 よく比較対象に挙げられるのは「ツインツイスター」だろう。単純に2枚破壊できるため、とにかく枚数を取りたい場合はそちらが優先される。

 実際、サラが採用しているのは「ツインツイスター」の方だ。デッキコンセプト、そして使用者の性格の違いによるカード選択の相違とも言える。

 50%。

 思いがけず訪れた敗北の危機に、サラは内心冷や汗を流した。表面上は平静を保ちながら、慌てて失敗の原因を探る。

 全伏せの定石を知っておきながら、あえて「十二獣の相生」を伏せなかったということはあり得ない。定石は基本的かつ最善だからこそ定石足りえるのだ。奇をてらったプレイングで勝てるほどこのゲームは甘くない。

 つまり……モルモラットは「全伏せの定石を知らない」。事実上、ラッキーパンチが直撃した格好になる。

「対象は、サラさんから見て左側のカードです」

 ――あっぶな……。

 除外されたのは「強欲で貪欲な壺」。サラは生き残った。

 つまり、手札に残している1枚は「ハーピィの羽根帚」。もちろん、伏せなかったのには理由がある。

 蟲惑魔を既に握っている可能性を示唆することで、相手の択を少なからず増やすことができるからだ。より具体的には、「ランカの蟲惑魔」のサーチ効果に「灰流うらら」を撃つかどうかを悩ませることができる。

 「ツインツイスター」を警戒させることもできるだろう。どちらも微々たる効果だが、やっておいて損はない。

 とはいえ、今の状況では裏目に出ていることは明らかだ。セットカード2枚と3枚に大きな違いはないが、1枚と2枚では大きく違う。結果論ではあるが、「ハーピィの羽根帚」もブラフとしてセットしておいた方が相手の択は増えていただろう。

「ハマーコングの効果が誘発します。モルモラットを外します」

 「コズミック・サイクロン」の解決後、「十二獣ハマーコング」のデメリットが誘発する。X素材のうち「十二獣モルモラット」が取り除かれ、残りのX素材は「十二獣ヴァイパー」のみとなった。

 無事に危機を乗り越えたことを認識し、サラが密かに胸を撫で下ろす。仮に逆側を狙われていれば、あるいは伏せが「ツインツイスター」であれば、サラはそのままゲームを落としていただろう。

 まだまだ経験が足りない。これまでそうしてきたように、これからも腕を磨き続けなければならない。デッキパワーの上にあぐらをかいていればあっという間に置いていかれてしまうのだ。

「ターンもらいます」

「どーぞ」

 簡易デュエルフィールドのターンカウントが3に進む。

 ここまで僅か往復1ターン。極めて密度の高いゲームだが、むしろ真の戦いはここから始まると言って良い。

 3ターン目。全てはそのターンに決まるのだ。

 

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