励輝士ヴェルズビュート参戦 ランク4インフレの火付け役
・前書き
・実質ブラロ裁き ランク4最強の一角
・地獄のビュート環境の到来 「ビュートケア」の浸透
・ヴェルズビュート事件 世界大会の悲劇
・そして禁止カードに(海外) 日本でも禁止論争が勃発
・中編に続く
【前書き】
【第8期の歴史21 そして【征竜】1強環境へ 親征竜3積み時代の始まり】の続きとなります。ご注意ください。
制限改訂によってカードプールに大規模な調整が入った結果、【征竜】を頂点とするピラミッド環境が組み上がることになりました。弱体化してなお最強のパワーを誇る【征竜】の支配下に置かれていた時代であり、当の【征竜】を含めどの勢力も例外なく【征竜】への対処を強いられていた形です。
第8期も徐々に終わりが見える2013年後期の折、年内最終弾となるレギュラーパックによって大きく環境が動くことになります。
実質ブラロ裁き ランク4最強の一角
2013年11月16日、レギュラーパック「LEGACY OF THE VALIANT」が販売されました。新たに85種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは6169種類に増加しています。
カテゴリプッシュの強かった第8期としては珍しく、全体的に優秀な汎用カードの収録が多く見られたパックであり、トーナメントレベルで実績を残したカードを多数輩出しています。参入直後から【征竜】を中心に活躍した「虹クリボー」はその筆頭ですが、他にも「神樹の守護獣-牙王」などの従来のカードパワー水準を超えた強力なシンクロ・エクシーズも現れており、個々のカードパワーそのものが上昇傾向にあったことが窺える内容です。
中でも「励輝士 ヴェルズビュート」の誕生は極めて凄まじい衝撃を孕んでいたと言うほかありません。
レベル4モンスター×2
相手の手札・フィールド上のカードを合計した数が自分の手札・フィールド上のカードを合計した数より多い場合、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。この効果を発動したターン、相手プレイヤーが受ける全てのダメージは0になる。
この効果は自分のメインフェイズ時及び相手のバトルフェイズ時にのみ発動できる。
言わずと知れた第8期出身ランク4エクシーズ最強の一角であり、これ以降のランク4エクシーズのインフレを決定付けたと言っても過言ではないモンスターです。条件やデメリットこそあるものの、レベル4モンスター2体を全体除去に変換できるというのは明らかに何かが狂っています。
実際、これと類似の効果を持つカードは「ブラック・ローズ・ドラゴン」や「裁きの龍」など比較的重いモンスターばかりであり、そしてそれですら過去には規制が入ったほどのパワーカードです。にもかかわらずランク4という軽量級モンスターにこれを与えてしまったというのは、時代の変化を鑑みても流石に調整ミス以外の何物でもありません。
そもそもの話、第8期当時のランク4エクシーズと単純比較するだけでも根本的に別格すぎるパワー(※)を持っていることは一目瞭然であり、「励輝士 ヴェルズビュート」のデザインが許されたという事実そのものが開発側のバランス感覚の崩壊を物語っていたことは疑いようもないでしょう。
(※参考までに、この直前までは「交響魔人マエストローク」が最強のランク4と言われていました)
地獄のビュート環境の到来 「ビュートケア」の浸透
実際のところ、「励輝士 ヴェルズビュート」は当時の基準においてはあまりにも常軌を逸したカードで、これの参戦は当時のOCG環境に多大な影響をもたらしました。
強力なリセット効果を持ったエクストラデッキのモンスターという意味では「ブラック・ローズ・ドラゴン」という先駆者が存在しますが、「励輝士 ヴェルズビュート」はそれとは比較にならないほど召喚条件が緩いカードです。ランク4が入るデッキではもちろん、【征竜】のようにランク4の展開ルートがごく僅かしかないデッキですら採用されていたほどであり、純粋な遭遇率の高さは「ブラック・ローズ・ドラゴン」の比ではありません。
おまけに「励輝士 ヴェルズビュート」のリセット効果は疑似フリーチェーンであるため、本来は有効とされる「奈落の落とし穴」などの召喚反応罠ですら強引に破られてしまいます。要するに通常採用される汎用除去の範囲内では満足に対処し切れないということであり、さながら起動効果ルール変更前の「裁きの龍」が蘇ったかのような悪夢のカードだったのです。
よってこれ以降の環境では「レベル4モンスターが2体並ぶ≒ビュートが通る」という図式が成立してしまうこととなり、この対策として「ビュートケア」と呼ばれる定石が大々的に定着に向かうことになります。
これは一言で言えば「お互いの手札・フィールドに枚数差がある場合はなるべくカードを場に置かない」というシンプルな言葉で片付きますが、実際にはもう少し複雑なやり取りが絡むケースも多々あります。
具体的には、お互いのリソースが拮抗している盤面においてはボタンのかけ違い1つでリセット効果の発動条件を満たせなくなるリスクがあるため、使う側・使われる側ともにこのケアを確実に意識しなければなりません。
代表的なのが「強制脱出装置」などの「カードが減るカード」が絡むケースであり、これによって一気に計算が狂うというのは非常に多発するシチュエーションです。特にリセット効果目当てに強引に手札を減らしていた場合などは致命的なダメージを被ってしまうため、豪快な性能の割に「励輝士 ヴェルズビュート」の使用タイミングにはかなり気を遣う必要があります。
一方、逆に「励輝士 ヴェルズビュート」を使う側が「カードが減るカード」を使用してビュートケアを返してくることも少なくなく、ビュートケアができているからと安易に場を固めると酷い目に遭うケースもありました。現実問題、こうしたプレイングレベルの対策だけで完全なケアを行うことはやはり困難であり、どう取り繕っても「励輝士 ヴェルズビュート」を使う側が有利なバランスが生まれていたことは確かです。
しかし、それを踏まえても比較的実力差が出やすいタイプのカードだったことは間違いなく、外見の印象に反して中々に面白い駆け引きを誘発する奥深いカード(※)だったのではないでしょうか。
(※とはいえ、上述の通り根本的にカードパワーが高すぎるカードでもあったため、少なからず倦厭されている側面もありました)
ヴェルズビュート事件 世界大会の悲劇
一方、「励輝士 ヴェルズビュート」にはこうしたカードゲーム的な背景とは別に、いわゆる効果処理ミスに伴う曰くつきのエピソードも存在します。
もちろん、ゲームにおいて何らかのミスが起きてしまうことは至極当然の話ではあるのですが、「励輝士 ヴェルズビュート」に関してはよりによって世界大会という大舞台で処理ミスが発生してしまったことが事件を有名にしていると言えるでしょう。
事の発端となったのは、2015年世界大会決勝(ジュニアの部)における「クリフォート・エイリアス」の存在です。
③:通常召喚したこのカードは、このカードのレベルよりも元々のレベルまたはランクが低いモンスターが発動した効果を受けない。
見て分かる通り、特定の条件を満たすことによって自身のレベル未満のモンスター、つまりレベル・ランク7以下のモンスター効果に耐性を得る効果を持っており、「励輝士 ヴェルズビュート」に対しても同様に耐性を発揮することができます。
しかし、「励輝士 ヴェルズビュート」の効果を受けない状態のはずの「クリフォート・エイリアス」が効果処理のミスにより誤って破壊されてしまい、それに気付かない(※)ままデュエルを進行してしまったというのが大まかな事の経緯となります。
(※「励輝士 ヴェルズビュート」を出した側は守備表示で特殊召喚しているため、耐性については認識していたとする説が有力です)
これが俗に「ヴェルズビュート事件」あるいは「エイリアスビュート事件」と呼ばれる事件であり、耐性持ちのカードも問答無用で吹き飛ばす様から、「励輝士 ヴェルズビュート」は以降しばらくの間「最強ビュート(※)」なる呼び名を与えられてしまうことになりました。
(※逆に耐性持ちにもかかわらず除去されてしまった「クリフォート・エイリアス」を「最弱エイリアス」などと揶揄する声もありました)
もっとも、基本的にジャッジは効果処理に限らずゲームに干渉する権限をほぼ持っておらず、またプレイヤー同士においても相手のミスを指摘する義務は存在しないため、ルール通りにゲームを進めるとこのような形に収まってしまうのも仕方がない話ではあります。
とはいえ、世界大会の決勝戦、それもジュニアの部で起こった事件であるという背景を鑑みれば中々に後味の悪い話であり、誰にとっても遺恨の残る結末となってしまった悲劇的な事件です。
そして禁止カードに(海外) 日本でも禁止論争が勃発
その後、世界大会直後の制限改訂(海外)において、「励輝士 ヴェルズビュート」は突如禁止カード指定を受けるという経緯を辿ることになります。
もちろん、流石にこんなことが理由でカードに規制が入るはずはないのですが、タイミングがタイミングということもあり、一時期は「最強ビュートのせいで禁止カードになった」などとネタ的に囁かれていたこともありました。実際には上記の事件とは完全に無関係であり、純粋に禁止級のパワーを持っていると判断されたがゆえの規制です。
ちなみに、これまでの解説の通り「励輝士 ヴェルズビュート」自体が非常に使用率の高いカードだったこともあり、日本国内でも海外に倣って遠からず禁止カード行きになるのではないかという噂が広まっていたこともあります。
また、これに関連してランク4周辺の禁止論争が巻き起こることも少なくなく、世界大会の件と合わせて何かと槍玉に挙げられがちなカードではあったのかもしれません。
【中編に続く】
「励輝士 ヴェルズビュート」についての話は以上です。
単純に2013年当時としてはあり得ないほどのパワーカードであり、実際に環境においても年単位に渡ってエクストラの必須枠を務めた実績を持っています。それどころか、このカードの誕生によってランク4エクシーズのカードパワー水準が一気に引き上げられてしまった面もあるため、まさにランク4インフレの火付け役となったと言っても過言ではない存在です。
しかし、恐ろしいことにレギュラーパック「LEGACY OF THE VALIANT」から現れた凶悪ランク4エクシーズは「励輝士 ヴェルズビュート」だけではありません。強さの方向性こそ異なれど、総合的なカードパワーでは「励輝士 ヴェルズビュート」に勝るとも劣らない大型新人も参入を決めていたのです。
中編に続きます。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
自分は最強ヴェルズビュートの件は古いテキストのままだった故に効果を把握しづらいのが問題だったと認識していたのですが。
当時初めてペンデュラム群を目の当たりにした時の第一印象はヴェノミナーガやブラックガーデン並にややこしなと思ったほどで・・・
コメントありがとうございます。
確かにPモンスターはややこしいカードですので、誕生直後は効果を把握し切れないということも多かったように思います。