そして【征竜】1強環境へ 親征竜3積み時代の始まり

2019年11月18日

【前書き】

 【第8期の歴史20 制限改訂2013/9 【征竜魔導】環境の終わり】の続きになります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

同率1位から単独トップに 弱体化しても最強

 【征竜】【魔導】という2大巨頭が制限改訂によって大幅な弱体化を余儀なくされ、2013年の暗黒期はひとまずの終わりを迎えました。誕生から僅か半年での禁止カード行きを5枚同時に行うという荒治療の結果であり、これほど思い切った措置を開発側に決断させたというのは極めて異例と言わざるを得ません。

 とはいえ、上述の通り当改訂によって【征竜魔導】環境が終息したというのは事実です。つまり、治療の成果は十分に出ていたということであり、それを裏付けるように以降の環境では【征竜】が環境トップに躍り出ることになります。

 一見すると何を言っているのか分からない話に聞こえますが、実際何を言っているのか分からない話であり、むしろ意味不明な話です。シンプルに言えば【征竜魔導】環境が終わって【征竜】環境が始まったという表現になりますが、シンプルにしたところで分からないものは分からないとしか言いようがないでしょう。

 現実逃避を止めるのであれば、要するに【征竜】は子征竜を失った程度では全く止まらず、身も蓋もない言い方をすれば「弱体化しても最強」のアーキタイプだったのです。

 

「竜の渓谷」が【征竜】に寝返っていた頃

 上記関連リンク記事でも解説している通りですが、そもそも【征竜】は「馬頭鬼をサーチできる馬頭鬼」を12枚搭載したデッキであり、冷静に考えればその時点で異常なパワーを秘めていることは明らかです。子征竜を失ったことで前期環境のような瞬発力こそ発揮できなくなりましたが、【征竜】最大の強みである絶大なアドバンテージ生成能力が失われたわけではない以上、これを土台にコンセプトを組み直すことで再起を図るのは難しいことではありません。

 結果として、これ以降の【征竜】は無限のリソースを軸に戦う中速コントロールデッキに姿を変えることになります。

 そのコンセプトの中核となったのは、やはり何と言っても「竜の渓谷」の存在です。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札を1枚捨て、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●デッキからレベル4以下の「ドラグニティ」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
●デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。

 先述の通り、【征竜】は墓地≒手札の公式が成り立つ脅威のカード群ですが、これはあくまでも「墓地に送られても損にならない」という意味に過ぎず、ただ手札に抱えているだけでは旨味はほとんどありません。よって【征竜】自体を墓地に送り込むギミックと併用することで初めて真価を発揮するということであり、その点においては元祖である「馬頭鬼」と同じ立ち位置にあるカード群です。

 前期環境においてはこの役割を子征竜というマスターピースが担っていたわけですが、「竜の渓谷」もこの後継カードとしてはまずまずの強さを発揮します。手札コストを要求した上での墓地送りは一見すると重いディスアドバンテージが伸しかかるように見えますが、【征竜】の性質を鑑みれば「毎ターンノーコストで征竜をサーチするフィールド魔法」と同等の効率であり、健全なカードプールにおいてこれ以上を望むのは流石に少々贅沢でしょう。

 中でも大きな意味を持っていたのが、「渓谷を張ることで積極的に【征竜】の色を使い潰せるようになる」という事実です。

 例として、「嵐征竜-テンペスト」「焔征竜-ブラスター」「瀑征竜-タイダル」の3枚が墓地に存在するシチュエーションについて考えます。

 この場合、子征竜時代であれば3色いずれかの子征竜から色をキープしたままランク7エクシーズに向かうことができますが、親征竜だけでは【征竜】を展開した時点で動きが止まってしまうため、追加で「ドラグニティ-コルセスカ」や「ガード・オブ・フレムベル」などのチューナーを経由しなければ戦力が盤面に定着しません。つまり、展開の過程で強制的に【征竜】の色が1つ潰れてしまうということであり、これこそが子征竜時代とそれ以降の【征竜】の決定的な違いに当たります。

 よって一旦色を確保すればそれで良かった子征竜時代とは異なり、色が揃った後も継続的に色を補給し続ける必要があるということなのですが、これを実際に行うのは中々の難題です。「竜の霊廟」などの単発の墓地肥やしカードでは文字通り使い切りのリソースとなってしまい、及第点以上の評価を与えることはできません。

 ところが、ここで話を戻して「竜の渓谷」に目を向けると、これが上記の課題をおおむね解決できるカードであることが見えてきます。

 「毎ターン色を補給できる」というのはすなわち「毎ターン色を使い潰せる」ということであり、つまりは「毎ターン戦力を送り出せる」ということでもあります。消費した色をその都度「竜の渓谷」で補給することで実質【征竜】の色をキープしたまま展開できるため、疑似的に子征竜による盤面展開(※)を劣化再現しているわけです。

(※むしろ、これを素で行っていた子征竜時代がどれだけ狂っていたかが窺える話でもありますが……)

 また、こうした「竜の渓谷」の流行には当時のルール的な背景も密接に絡んでいたと言えるでしょう。

 具体的には、この頃のフィールド魔法はフィールド全体で1枚しか存在できず、さらに張り替えによって古い方が破壊されるというルールが取られていました。よって相手の張った「竜の渓谷」を自分の「竜の渓谷」で上書きするというプレイが成立するため、疑似的に「竜の渓谷」が「竜の渓谷」メタになるという関係が成立していたのです。

 言い換えれば、逆に自分が「竜の渓谷」を使用しない場合は相手だけが一方的に「竜の渓谷」の恩恵を受けることになりかねず、これを防ぐには自分も「竜の渓谷」を使うしかありません。まさに毒を以て毒を制すという状況そのものであり、実質的には「使わないという選択肢がないカード(※)」だったのではないでしょうか。

(※当時の環境で【征竜】が極端に増えたのもこれが理由の1つです)

 

同色の【征竜】を揃えることの重要性に関して

 とはいえ、当時の【征竜】が持ち合わせていた墓地送りギミックはこうした外付けの機能だけではありません。

 よくよく考えれば当たり前の話ですが、当の【征竜】自身も手札を捨てる固有効果を与えられているため、同色の【征竜】を揃えることで容易かつ自然にアドバンテージを取ることができます。

 例として、「封印の黄金櫃」「瀑征竜-タイダル」の2枚を手札に持っているケース(※)のことを考えます。

(※話を簡略化するため、通常ドローの内容は考慮しないものとします)

 

1ターン目:「封印の黄金櫃」で「嵐征竜-テンペスト」を除外し、2枚目の「嵐征竜-テンペスト」をサーチする。

 

2ターン目:何もしない。

 

3ターン目:「封印の黄金櫃」で除外した「嵐征竜-テンペスト」が手札に入るため、「嵐征竜-テンペスト」2枚を捨てて「瀑征竜-タイダル」をサーチし、その後「瀑征竜-タイダル」2枚を捨てて「焔征竜-ブラスター」を墓地に送る。

 

4ターン目:「嵐征竜-テンペスト」「瀑征竜-タイダル」を除外して「焔征竜-ブラスター」を特殊召喚し、「ドラグニティ-コルセスカ」「瀑征竜-タイダル」をサーチする。その後、「ドラグニティ-コルセスカ」から8シンクロを立てる。(※この時、可能であればドラゴン族のシンクロモンスターを優先する)

 

5ターン目:「焔征竜-ブラスター」「瀑征竜-タイダル」を除外して「嵐征竜-テンペスト」を特殊召喚し、「ガード・オブ・フレムベル」「幻水龍」をサーチする。その後、「ガード・オブ・フレムベル」から8シンクロを立てる。(※または「焔征竜-ブラスター」をサーチして色をキープする)

 

6ターン目:「瀑征竜-タイダル」「幻水龍」を捨てて「巌征竜-レドックス」を墓地に送る。

 

7ターン目:「巌征竜-レドックス」を含む墓地のドラゴン族4体を除外して「瀑征竜-タイダル」「嵐征竜-テンペスト」を特殊召喚し、「巌征竜-レドックス」をサーチする。その後、2体で攻撃後に「幻獣機ドラゴサック」を立てる。

 

8ターン目:「巌征竜-レドックス」「嵐征竜-テンペスト」を除外して「瀑征竜-タイダル」を特殊召喚し、「幻木龍」「嵐征竜-テンペスト」をサーチする。その後、「幻木龍」と「瀑征竜-タイダル」でランク7エクシーズを立てる。

 

(※キリがないのでここで区切ります)

 子征竜時代と比べると非常に緩やかな展開スピードですが、継続的にアドバンテージを稼ぎ出す能力に関しては相変わらずピカイチであり、元々2枚のカードから始まったとは思えないほどの盤面を築くことができます。もちろん、通常ドローの内容を考慮できる実際のゲームでは上記以上に効率的なルートも辿れる(※)ため、基本的に真っ向からのアドバンテージ・ゲームで不覚を取ることはまずありません。

(※逆にドローで何も引かない≒妨害札を引き続けるということでもあるため、どちらにせよ何らかのゲームプランは整います)

 というより、そもそも展開してもリソースが減らないこと自体が既に第8期当時としては異様な概念であり、実質的には第9期以降のデザイナーズデッキのそれを先取りしていた(※)と言っても過言ではないでしょう。

(※逆に言えば、第9期以降のインフレは親征竜時代のパワーが標準だったということでもありますが……)

 

「メタが分散する」という当たり前の平和

 このように、全体としては【征竜】が頭一つ抜けた勢いを持っていた時代ではありましたが、流石に前期環境のように極端なパワーバランスが成立していたわけではありません。

 環境の相対的なデフレによって各種中堅勢力にも復権の見込みは生まれており、これ以降のメタゲームではいわゆる「メタの分散」が起こることになります。

 というより、カードゲームにおいてメタが分散するというのはむしろ当たり前すぎる話なのですが、その当たり前のことすら起こっていなかったのが前期の【征竜魔導】環境です。もっと言えば、これこそが【征竜魔導】が暗黒期と言われるに至った理由でもあるわけですが、何にせよ暗黒期の終息によって各勢力が次々と環境に浮上したことは間違いありません。

 中でも【海皇水精鱗】や【ヴェルズ】の躍進は特に目を引きます。

 いずれも第8期においては過去にトップデッキとして一時代を築いた存在であり、そのポテンシャルの高さは2013年後期においても健在でした。【ヴェルズ】は前期環境から引き続き【征竜】のメタデッキとして、【海皇水精鱗】は単純に地力の高さから再浮上を果たした格好です。

 実際のところ、これらの勢力の台頭は【征竜】にとっても無視できない出来事で、これに対して何らかの対策を講じる必要に駆られています。前者に関しては説明不要ですが、後者に関しても瞬間速度の面では不利がついており、ワンキルからの不意の敗北を貰いやすい弱みがあったからです。

 

「群雄割拠」まさかの共闘 【魔導】から【征竜】に

 極めて興味深いことに、こうした状況下において【征竜】が取り上げた筆頭サイドカードは「群雄割拠」でした。

お互いのプレイヤーはそれぞれ種族が1種類になるように、フィールド上の自分モンスターを墓地へ送る。
このカードがフィールド上で存在する限り、お互いに自分のフィールド上に出せるモンスターの種族はそれぞれ1種類だけになる。

 前期環境においては当の【征竜】に対するメタとして使われていたカードであり、これが逆に【征竜】のサイドに採用されるというのは一見信じがたい話です。しかし、上記の展開例にもある通り子征竜時代以降の【征竜】はシンクロ召喚を主体とした構成にシフトしていたため、これがアンチシナジーを形成することは意外に多くはありません。

 基本的に「No.11 ビッグ・アイ」「幻獣機ドラゴサック」の2大巨頭が主力であったランク7エクシーズとは異なり、8シンクロはモンスターの層が非常に厚く、何なら主力層とされるのは【ドラゴン族】の面々です。有名どころだけでも「スクラップ・ドラゴン」「閃珖竜 スターダスト」「琰魔竜 レッド・デーモン」などがパッと思い浮かぶほどであり、これを主力とするのであれば「群雄割拠」の種族縛りはむしろ有効に働きます。

 実際、「群雄割拠」の有用性は過去の【征竜】が身をもって証明済みであり、種族が散っているデッキに対しての威力は絶大です。最大の仮想敵にあたる【ヴェルズ】はもちろん、【海皇水精鱗】に対してもまずまずの抑止効果が見込め、ゲーム展開によっては「群雄割拠」を「閃珖竜 スターダスト」で守っているだけで勝ててしまうことさえありました。

 

そしてビートダウン環境へ 【征竜】健全化?

 他方では、こうした環境の推移を受けての【征竜】のメインデッキの変化も目を引きます。

 ゲームスピードの低速化によってデッキ全体の罠比率が高まったことはその筆頭ですが、それ以上に注目すべきはバトルフェーダー」や「トラゴエディア」などの防御系カードが標準搭載されるようになったことです。

 正確には、前期の【征竜】においても「速攻のかかし」という防御系カードが使われてはいましたが、これは「クリムゾン・ブレーダー」対策としての側面が強く、上記の面々とは採用の意図が異なります。

 具体的には、こちらはシンプルに防御カードとしての働きに期待した起用であり、噛み砕いて言えば「コントロールデッキが使う時間稼ぎカード」に当たるわけです。特に「トラゴエディア」のような「総合的なカードパワーが高いカード」が優先して使われるというのはまさにビートダウン環境の典型例であり、これほど分かりやすい形で【征竜】の変化を表している事例は他にありません。

 事実上、速度を切り捨てて完全に長期戦を見据えたコンセプトにシフトした瞬間であり、これを境に【征竜】は子征竜時代とは全く別種のアーキタイプに姿を変えた(※)と言えるでしょう。

(※とはいえ、やはり完全に健全化していたかというと多少賛同しかねる部分もあります)

 

【まとめ】

 前記事と合わせて、2013年9月の改訂で起こった大まかな出来事は以上です。

 【征竜魔導】環境の終息、そしてそれに伴う環境のデフレによってゲームバランスが正常化し、遊戯王OCGは健全なカードゲームとしての姿を取り戻すことに成功しました。序盤から終盤に至るまでが【征竜】と【魔導】の一騎打ちに終わった暗黒期であり、遊戯王OCGの歴史上においても間違いなく唯一無二の時代です。

 しかし、普通では味わえない特殊な世界を体感できた時代だったことも事実ではあり、今となっては良い思い出と言える環境だったのかもしれません。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。