【海皇水精鱗】環境トップへ 【代償マシンガジェ】との一騎打ち

2019年10月28日

【前書き】

 【第8期の歴史5 制限改訂2012/9 パワーカード大量規制 インフレ抑制改訂の鑑】の続きになります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

【海皇水精鱗】全盛期到来 トップメタ筆頭デッキ

 2012年9月改訂の施行を受けて最高の追い風に乗ったのは、直前の環境で期待の新勢力として注目されていた【海皇水精鱗】でした。

 以前の記事でも取り上げた通り、当時の【海皇水精鱗】は2012年の水準を明らかに超えたデッキパワーを持っており、【甲虫装機】環境においても高い存在感を示すほどのポテンシャルを秘めていました。そのタイミングでの環境のリセットはそうしたポテンシャルを開花させるのに十分な契機となり、間もなく2012年後期環境を代表する一大勢力にまで成長を遂げています。

 単純に前環境そのままの速度を維持しているというだけでも脅威的ですが、それ以上に盤石のサーチ体制によって常に安定したコンディションを発揮できたことが躍進に寄与していたと言えるでしょう。これは完全体の【甲虫装機】ですら持ち得なかった唯一無二の強みであり、シンプルに「事故らない」という優位点が高い勝率に貢献していたことは間違いありません。

 また、【甲虫装機】が姿を消したことで「奈落の落とし穴」「次元幽閉」などの従来の反応系トラップが復権したことも間接的な追い風となっており、これによって海皇の狙撃兵」の命中率が相対的に改善されています。これまでは「サンダー・ブレイク」などのフリーチェーン罠を踏むことで結果的に除去を回避されてしまうといったシチュエーションが頻発していましたが、これ以降は安定して0:1交換を狙えるようになった形です。

 いずれにしても、この改訂を境に【海皇水精鱗】の勢いが急激に増したことは間違いなく、この先の環境は【海皇水精鱗】をメタの中心点の一つとして推移していくことになります。

 

ソウルドレインの流行 墓地利用デッキ専用の墓地メタカード

 こうした【海皇水精鱗】環境の成立を受け、これ以降サイドカードの選択肢も徐々にこれを意識した面々にシフトしていっています。前環境から使われていた「マクロコスモス」は自然と続投を決めていますが、他にもソウルドレイン」が大々的に使われるようになったことも見逃せません。

1000ライフポイントを払って発動できる。
このカードがフィールド上に存在する限り、ゲームから除外されているモンスターの効果及び墓地に存在するモンスターの効果は発動できない。

 墓地メタとしての効力は「マクロコスモス」に劣る反面、代わりに【HEROビート】などの墓地利用デッキであっても問題なく採用できるという利点があり、デッキタイプを問わず使用可能なメタカードとして一気に流行が進んでいます。さらに、効果の性質上マクロコスモス」と違い後出しであっても妨害が間に合うため、ジェネクス・ウンディーネ」や「水精鱗-アビスパイク」の効果にチェーン発動することで【海皇】の残弾を無駄に消費させる(※)といった芸当も可能です。

(※特に「海皇の竜騎隊」は3枚でも足りないと言われるほど使用頻度が高いため、これを1枚潰すことは外見以上に刺さります)

 一方で、本体側の効果に関しては全く止められないこと、また「サルベージ」や「貪欲な壺」の利用を許してしまうという抜け道もあり、総合的には「マクロコスモス」の方がメタの信頼性が高いと言われていました。そのため、墓地を利用しないデッキでは「マクロコスモス」を、そうでない場合は「ソウルドレイン」を用意するという定石(※)が広まり、将来的にはこのどちらかをサイドに積んでおくことが常套化しています。

(※ただし、【聖刻】などを意識する場合はあえて「ソウルドレイン」が優先されるケースもありました)

 ちなみに、当の【海皇水精鱗】では当然これらを採用することはできないため、次善のメタカードとして「透破抜き」に声がかかっています。

手札または墓地で発動する効果モンスターの効果の発動を無効にしゲームから除外する。

 使い切りのカウンターであり、永続的に盤面を抑え込むことはできませんが、ミラーマッチでは腐る場面がないため単純に万能カウンターとして機能するカードです。特に「水精鱗-メガロアビス」を着地前に潰せる数少ないカードである点が優れており、上手く使えば1:2交換以上(※)に持ち込むこともできました。

(※例えば、「透破抜き」1伏せという盤面で「海皇の狙撃兵」を捨てさせれば除去の的が消えるため、疑似的にアドバンテージを取ることができます)

 こうした【海皇水精鱗】対策の流行を受け、【海皇水精鱗】側も「対策の対策」を講じていくことになります。

 メインデッキからの「サイクロン」投入は当然として、サイドデッキレベルでは「砂塵の大竜巻」などのお馴染みのサイク系除去や、変わったところでは邪神の大災害」のような大振りなカードにも脚光が当たっています。通常のデッキではやや持て余しやすいカードですが、「アビスフィアー」の恩恵で伏せ除去を受けにくい【海皇水精鱗】では比較的安定して発動に漕ぎ着けることが可能(※)だったからです。

(※なおかつ、これもまた【甲虫装機】が居なくなったことが大いに関係していたと言えます)

 

【代償マシンガジェ】台頭 アドバンテージの鬼

 このように、新環境の幕開けは【海皇水精鱗】が牽引する形で展開されていくことになりましたが、それに次ぐ勢力として頭角を現したのが【代償マシンガジェ】です。

 苦手としていた【甲虫装機】が衰退したことはもちろん、ワンキル環境の終息によってボード・アドバンテージ重視のゲームバランス(※)に移行したことも追い風となり、次第に環境屈指のアドバンテージ・デッキとして勢いを増していくことになります。デッキの安定感に関しても上記の【海皇水精鱗】以上であり、爆発力と安定感を兼ね備えた高いデッキパワーを武器にトーナメントシーンを席巻しています。

(※というより、本来はこれが正常なゲームバランスなのですが……)

 なおかつ、【代償マシンガジェ】は基本的に「マシンナーズ・フォートレス」以外では墓地利用を行わないため、【海皇水精鱗】メタである「マクロコスモス」を負担なくサイドに用意できる強みがありました。二重召喚」の発見によって【マシンナーズ】ギミックはピン挿しが主流になっていたこともあり、サイド戦ではこれと「マクロコスモス」を入れ替える(※)ことで自然と対策を取ることが可能です。

(※逆に、サイド後も【マシンナーズ】ギミックを残すプランを取る場合は「ソウルドレイン」が選択される傾向にありました)

 

「サイドラ+魔デッキ」パッケージの流行 一石二鳥の対策

 当然のことながら、【代償マシンガジェ】の台頭は当時の環境に対して多大な影響を及ぼしました。ビートダウン環境における先攻「ギアギガント X」の威力は絶大であり、これを生かしたままターンを返すことは下手をするとゲームを決めかねないほどの致命的な影響をもたらすからです。

 この対策として真っ先に持ち上がったのは「スキルドレイン」や「ライオウ」といったお馴染みの面々ですが、「スキルドレイン」はメタ範囲が広すぎるために逆にデッキを選ぶメタカードであり、ライオウ」は一旦「ギアギガント X」を通してしまった後は上手く機能しなくなるという弱みが存在します。

 結果として声がかかったのが「キメラテック・フォートレス・ドラゴン」です。

 言わずと知れた【機械族】メタの筆頭カードであり、実際に過去には【ガジェット】を環境上位から追い落とした実績もあります。もちろん、この時期においても「キメラテック・フォートレス・ドラゴン」が【ガジェット】の天敵であったことに変わりはなく、ギアギガント X」を実質1:1交換(※)で処理できる数少ないカードとして流行が進んだ格好です。

(※外見上は0:1交換ですが、サーチ効果によるアドバンテージを含めると1:1交換となります)

 とはいえ、この方法で出した「キメラテック・フォートレス・ドラゴン」の打点は2000、つまり返しの「ギアギガント X」によって容易に戦闘破壊されてしまう欠点があったため、これ単体ではメタとしては今一つの働きしか期待できない面もありました。あくまでも不利を五分に持っていくためのカードであり、返しの攻め手を凌いで初めて安泰が得られるという世話の焼けるカードでもあったのです。

 その結果、次第に「魔のデッキ破壊ウイルス」とのセット運用が浸透していくことになります。

 「魔のデッキ破壊ウイルス」は下級ビートに対しては絶大な威力を発揮する反面、発動コストの関係でデッキを選ぶ欠点を抱えているメタカードです。そのため、【暗黒界】などの元々相性の良いデッキを除けばジャイアント・オーク」などを併用せざるを得ない扱いにくさがありましたが、「キメラテック・フォートレス・ドラゴン」であればこの問題を綺麗に解決することができます。

 単体でもメタカードとして働きつつ、その後詰めとして「魔のデッキ破壊ウイルス」が控えている体制を作り出せるのはシンプルに強く、2枚揃えば【代償マシンガジェ】を抑え込むのも難しいことではありません。もちろん、No.50 ブラック・コーン号」などを媒体に積極的にウイルス発動を狙っていくこともでき、後引きの「サイバー・ドラゴン」は保険としてキープするのも強力です。

 事実上、それぞれが多角的にメタを張りながらもシナジーを形成している格好であり、この発見以降は【代償マシンガジェ】対策の筆頭メタカードとして大々的に広まっています。最終的には【代償マシンガジェ】自身すらもこのパッケージを搭載するようになるなど、近年でも屈指のウイルス環境が成立していました。

 ちなみに、「魔のデッキ破壊ウイルス」は【代償マシンガジェ】だけでなく【海皇水精鱗】に対しても一定の効力が見込めるため、これを標準搭載できる【暗黒界】が復権の気配を見せるといった面白い展開も起こっています。

 丁度1ヶ月後に魔界発現世行きデスガイド」の来日が控えていたこともあり、有力デッキの一角として注目を集めていた時代です。

 

エレクトリック・ワームがミラー最強カードだった時代

 他方では、【代償マシンガジェ】のミラーマッチ対策としてエレクトリック・ワーム」と「サイバー・ヴァリー」のセットが流行したことも見逃せません。

このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。相手フィールド上のドラゴン族・機械族モンスター1体を選択し、エンドフェイズ時までコントロールを得る。

以下の効果から1つを選択して発動できる。
●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、このカードをゲームから除外する事でデッキからカードを1枚ドローし、バトルフェイズを終了する。
●このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択してゲームから除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。
●このカードと手札1枚をゲームから除外し、その後自分の墓地のカード1枚を選択してデッキの一番上に戻す。

 一見するとシナジーの見込めない微妙なカードチョイスですが、状況次第では強欲な壺」の上位互換のように働くことさえある非常に強烈なメタカードです。

 具体的には、「エレクトリック・ワーム」で奪った「ギアギガント X」で「サイバー・ヴァリー」をサーチし、2ドローに変換してしまうことで脅威の1:3交換が成立します。相手のサーチ分を考慮しても大幅に有利を取れる画期的なギミック(※)であり、ミラーマッチではこれを仕込んでいるかどうかが有利不利に大きく影響していました。

(※ただし、性質上サイド枠を3~4枠取られるという欠点もあったため、採用の可否はプレイヤーによってまちまちでした)

 

【カラクリ】が地味に追い風を受けていた頃

 その他、メタゲームの中心部からは遠ざかりますが、個人的に【カラクリ】の動向についても触れておきます。

 【カラクリ】は「カラクリ大将軍 無零怒」のシンクロ素材としてレベル5の機械族モンスターを要求されるテーマであり、「簡易融合」と「メカ・ザウルス」のセットが必須と見なされるほどにこれを重要視しています。要するに元々「サイバー・ドラゴン」とも非常に親和性が高かったため、同環境においては疑似的に【代償マシンガジェ】にメインからメタを張っているかのような状況が成立していたのです。

 一方で、「サイバー・ドラゴン」自体が【カラクリ】のメタにもなるという弱みもあり、環境全体で見れば【代償マシンガジェ】のついでにメタを張られる厳しいポジションにあったことは否めません。しかし、【カラクリ】は先攻では「カラクリ大将軍 無零怒」よりも「ナチュル・ビースト」を優先して立てるケースが多いため、序盤から中盤にかけての間はこれをケア(※)することも不可能ではありません。

(※もちろん、それでもかなり苦しいメタカードであることに変わりはありませんが……)

 また、単純に環境全体のゲームスピードが落ち着いていたことも躍進の後押しとなっており、シンクロ召喚とメタビ戦術を絡めて戦う【準メタビート】として侮れない健闘を見せていました。流石に数そのものは決して多いとは言えない中堅勢力という印象でしたが、【カラクリ】にとっては中々の追い風が吹いていた時代です。

 

【まとめ】

 前記事と合わせて、2012年9月の改訂で起こった大まかな出来事は以上です。

 【甲虫装機】を筆頭に、当時の環境を荒らしていたカードを中心とした規制が入っており、ゲームバランスの正常化を強く意図した改訂だったことが窺えます。それによってワンキル環境が終息するとともにボード・アドバンテージ重視の中速環境が到来し、以降は【海皇水精鱗】や【代償マシンガジェ】が環境トップの後釜に収まることになりました。

 もちろん、その裏では細かな勢力争いも起こっており、中速環境特有の複雑な動きが見られた改訂だったのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。