【海皇水精鱗】最初期時代 エラッタ前ブリューナクが使えた頃

2019年10月24日

【前書き】

 【第8期の歴史3 H-C エクスカリバー参戦 【アライブHERO】の成立】の続きになります。ご注意ください。

 第8期初弾となるレギュラーパックから「ギアギガント X」「H-C エクスカリバー」などの強力なランク4エクシーズが参入を遂げ、【代償マシンガジェ】や【HEROビート】を中心とした環境変遷が起こりました。これに伴って派生型である【アライブHERO】が新たに成立するなど、当時のメタゲームに対しても多くの影響を及ぼしていたカードプール更新です。

 【甲虫装機】環境であっても無視できないほどの影響力を持つ新デッキの参入によって環境が大きく動く中、続く6月に2012年後期環境を代表するテーマがストラクチャーデッキから現れることになります。

 

海皇ストラク誕生 当初は「タコの無いタコ焼き」

 2012年6月16日、ストラクチャーデッキ「-海皇の咆哮-」が販売されました。新たに6種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは5417種類に増加しています。

 この時に成立した新たなカテゴリ、それは【海皇】と呼ばれるテーマでした。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上のレベル3以下の海竜族モンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
また、このカードが水属性モンスターの効果を発動するために墓地へ送られた時、デッキから「海皇の竜騎隊」以外の海竜族モンスター1体を手札に加える。

 上記は【海皇】の中核をなす重要なモンスター、「海皇の竜騎隊」の当時のテキストです。レベル3以下の海竜族モンスターにダイレクトアタック能力を付与する永続効果に加え、特定の条件で墓地に送られた場合にのみ発動するサーチ効果を与えられています。

 注目すべきは後半のサーチ効果、より正確には「水属性モンスターの効果を発動するために墓地へ送られる」という条件で発動する効果であり、これこそが【海皇】というカテゴリのコンセプトを示す最大の特徴と言えるでしょう。広義では【水属性】関連のカードと広くシナジーを形成する(※)ほか、後述する【水精鱗】とは非常に強固なシナジーで結ばれたカード群です。

(※「No.17 リバイス・ドラゴン」や「バハムート・シャーク」などの水属性エクシーズモンスターとのシナジーもよく知られています)

 一応、この時点では【水精鱗】カテゴリのカードはまだ現れていませんでしたが、情報そのものは既に出回っていた(※)ため、当ストラクも期待の新アーキタイプとして当初から注目を受けていました。上記の「海皇の竜騎隊」はもちろんのこと、リクルーターと伏せ除去を兼ねる「海皇の狙撃兵」、展開補助と表側除去を兼ねる「海皇の重装兵」など、明確な形でアドバンテージを発生させる強カードがカテゴリ内に多数含まれていたからです。

(※当時のCMでも「水精鱗-ガイオアビス」のシルエットが映っていました)

 実際、「展開のついでにアドを取る」という0:1交換の概念は2012年当時においては驚くべき話であり、これを素で内蔵した【海皇】カテゴリの誕生はかなりの衝撃があったことは間違いありません。この時期の環境では【甲虫装機】という例外が幅を利かせていたために若干陰に隠れていた印象はありますが、間違いなく時代の最先端を走っていた新進気鋭のアーキタイプです。

 とはいえ、流石にストラク単体では真価を発揮できるはずもなく、6月中の時点では「タコの無いタコ焼き」に近い状況に置かれていたカテゴリでもありました。

 

【海皇水精鱗】成立の兆し 2012年下半期の王者

 【海皇】カテゴリの繁栄はそれから約1ヶ月後、レギュラーパック「ABYSS RISING」から姿を見せた【水精鱗】の隆盛とともに訪れています。

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、手札の水属性モンスター1体を墓地へ捨てて発動できる。デッキからレベル3の水属性モンスター1体を手札に加える。
水精鱗-アビスパイク」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 上記は【水精鱗】の潤滑油の1体である「水精鱗-アビスパイク」の当時のテキストです。召喚・特殊召喚成功時に手札の水属性モンスターをコストに「レベル3の水属性モンスター」をサーチする効果を持っており、上記の【海皇】とは設計段階からシナジーするようにデザインされていることが窺えます。

 もちろん、「水精鱗-アビスパイク」以外にも優秀な【水精鱗】モンスターは多く、中でも「水精鱗-メガロアビス」は今なお【海皇水精鱗】のエースモンスターとして君臨しているほどのカードです。当然、2012年当時においても多大な期待を集めていたことは言うまでもなく、間もなく【海皇水精鱗】として環境入りを果たすことになりました。

 実際のところ、当時の【海皇水精鱗】は2012年出身のデッキの中でも極めて高水準のデッキパワーを持っており、新参でありながら早々に環境上位に食い込むほどのシェアを獲得しています。これには【海皇水精鱗】のコンセプトが当時のワンキル環境とある程度合致していたこと、具体的にはメインギミックの段階から除去とワンショットに長けていたことが少なからず寄与していたと言えるでしょう。

 とはいえ、この時期のメタゲームが【甲虫装機】を中心に回っていたことには変わりはなく、流石の【海皇水精鱗】であっても一筋縄ではいかない状況にあったことは確かです。

 さらに、【甲虫装機】のメタカードとして多用されていた「マクロコスモス」が直撃してしまうという明確な弱点を抱えていたため、この時点では2番手の立ち位置を抜け出せずにいたことは否定できません。なおかつ、当然【甲虫装機】対策の「マクロコスモス」をサイドに用意する(※)こともできず、「暗闇を吸い込むマジック・ミラー」などの次善のメタカードで対抗するしかなかったという厳しい現実があります。

(※というより、マクロコスモス」がメインから入る環境で戦うのは流石に無理があったと言わざるを得ません)

 一方で、サイク環境に強い「アビスフィアー」を標準搭載している(※)など、【海皇水精鱗】側にもメタゲームに合致した独自の強みは存在していました。この「サイク耐性」は将来的には環境全体に対して大々的に影響をもたらし、やがては「安易にサイクを伏せるのは危険」「サイクは手札に残す方が強い」といった独特なプレイングが浸透していく結果にも繋がっています。

(※ただし、当時は「ナイト・ショット」という天敵も流行していたため、完全なサイク耐性を持っていたわけではありません)

 実際に環境がデフレを起こす2012年9月以降はトップデッキの筆頭として一大勢力を築いており、まさに2012年後期環境の王者とも言える貫禄を示していたアーキタイプです。

 

ジェネクス・ウンディーネ壊れカード化 アドバンテージの塊

 こうした【海皇水精鱗】の台頭の傍らでは既存カードの再評価も盛んに起こっており、とりわけ「ジェネクス・ウンディーネ」の躍進ぶりは一際目を引くものがありました。

このカードが召喚に成功した時、自分のデッキに存在する水属性モンスター1体を墓地に送る事で、自分のデッキから「ジェネクス・コントローラー」1体を手札に加える。

 召喚成功時に「ジェネクス・コントローラー」をサーチする効果を持った【ジェネクス】サポートの一種ですが、注目すべきはその発動コストであり、なんと「デッキから水属性モンスター1体を墓地に送る」というコストを支払うことができます。ジェネクス・ウンディーネ」自体が水属性モンスターであることも含め、これが【海皇】モンスターと強烈なシナジーを形成することは言うまでもありません。

 実質的には「相手のセットカード1枚を破壊」「相手の表側表示カード1枚を破壊」「デッキから海竜族モンスター1体をサーチ」の3つの効果を自在に使い分けられる(※)ということに等しく、そのおまけとして「ジェネクス・コントローラー」のサーチがついてくる格好となります。単純に召喚するだけで2枚分のアドバンテージを得られるというだけでもシンプルに壊れていますが、やはり「サーチカードをサーチするカード」になれるという点が尋常ではなく、とにかくデッキを動かすことにかけて右に出るものはありません。

(※また、性質上「エフェクト・ヴェーラー」などが効かないという別軸の強みもあります)

 何より、【海皇水精鱗】のエンジンである「水精鱗-アビスパイク」のサーチに対応していることが「ジェネクス・ウンディーネ」の有用性を確固たるものにしていると言えます。「ジェネクス・ウンディーネ」が「サーチカードをサーチするカード」であるとすれば、水精鱗-アビスパイク」は『「サーチカードをサーチするカード」をサーチするカード』であり、これは2012年当時のゲームバランスにおいては明らかに気が狂った概念でした。

 ちなみに、その「水精鱗-アビスパイク」は「水精鱗-アビスリンデ」のリクルートに対応しており、「水精鱗-アビスリンデ」は「アビスフィアー」でリクルートでき、「アビスフィアー」は「水精鱗-メガロアビス」でサーチできるため、これを狙って呼び出すのはそう難しいことではありません。

 なおかつ、「水精鱗-メガロアビス」は「海皇の竜騎隊」でサーチでき、「海皇の竜騎隊」は「ジェネクス・ウンディーネ」で墓地に落とすことができるなど、もはや何が何だか分からないほどサーチが連鎖しています。第9期以降のインフレを彷彿とさせる凄まじいサーチ連結構造(※)であり、この盤石のサーチ体制こそが当時の【海皇水精鱗】の安定した実績を形作ったことは間違いないでしょう。

(※つまるところ、「ジェネクス・ウンディーネ」は「サーチカードをサーチするカードをサーチするカードをリクルートするカードをリクルートするカードをサーチするカードをサーチするカードをサーチするカード」であり、究極的には自分自身をサーチできることが分かります)

 そんな「ジェネクス・ウンディーネ」唯一の弱点は「デッキにジェネコンというノイズを入れなければならないこと」で、むしろこれを解決することこそが【海皇水精鱗】の最重要課題であると言っても過言ではありません。第8期当時はもちろんのこと、第9期以降の環境においても常に付き纏っていた問題(※)であり、【海皇水精鱗】界隈では「ジェネコンを素引きしない能力が欲しい」という願望が囁かれることも一度や二度ではありませんでした。

(※とはいえ、当初はゲームスピードの関係で現在ほど深刻な問題にはなっておらず、デッキ枚数を43枚~44枚に調整するだけで何とかなっていた側面もあります)

 

完全体ブリューナクを手懐けていた頃 手札コストはメリット

 ちなみに、極めて短期間の話ではありますが、【海皇水精鱗】成立直後のこの頃は氷結界の龍 ブリューナク(エラッタ前)」を使用可能だった時代でもあります。

 言わずと知れた6シンクロ最強の一角を担うシンクロモンスターであり、当時においても汎用6シンクロの筆頭としてエクストラの必須枠を務めていたパワーカードですが、「手札コスト持ちの水属性モンスター」でもあることから【海皇】とは素直にシナジーを形成します。

 実質的にバウンス効果をノーコストで使用できることはもちろん、深海のディーヴァ」→「海皇の狙撃兵」→「海皇の竜騎隊」と繋げることで容易にシンクロ召喚できるため、純粋にデッキのエースモンスターとして活躍させやすい土壌が整っていたという強みがありました。中でも「海皇の竜騎隊」との相性は抜群であり、これを捨てつつサーチした【海皇】をさらに捨てることで手札消費1枚で都合3枚分の除去を行うこともできたほどです。

 また、セルフバウンス要員としても極めて優秀で、「アビスフィアー」を回収して「水精鱗-アビスリンデ」を自壊させつつリクルート効果を再利用する、あるいは「海皇の狙撃兵」でリクルートした「海皇の竜騎隊」をセルフバウンスして即座に捨てることでサーチ効果を使用するなど、まさに八面六臂の活躍をしていました。エラッタ前の「氷結界の龍 ブリューナク(エラッタ前)」をこれ以上なく効果的に使いこなしていたデッキであり、かつての【シンクロアンデット】と同様に少なからずデッキコンセプトの柱の一部となっていた面すらあります。

 もっとも、上述の通りその蜜月の関係は長くは続かず、直後の2012年9月の改訂で「氷結界の龍 ブリューナク(エラッタ前)」が禁止カードに指定されるという結末を迎えています。【海皇水精鱗】が成立してから僅か40日の出来事であり、それだけ【海皇水精鱗】と「氷結界の龍 ブリューナク(エラッタ前)」のシナジーが危険視(※)されていたことが窺える決定です。

(※とはいえ、そもそも「氷結界の龍 ブリューナク(エラッタ前)」そのものが既にかなりの危険物だったため、遅かれ早かれ禁止行きになると言われていたことも事実ですが……)

 

【まとめ】

 最初期の【海皇水精鱗】については以上です。

 コストとして使用されることでアドバンテージを生み出す0:1交換の概念を筆頭に、様々な面で2012年当時の遊戯王の常識を塗り替えた次世代アーキタイプです。この時点では【甲虫装機】に阻まれていた関係でメタゲームにおいては不利なポジションにありましたが、そのデッキパワーの高さは2012年後期環境を牽引した実績からも明らかであると言えるでしょう。

 ちなみに、【海皇水精鱗】のサポートは第8期時点で完成していたわけではなく、将来的には「海皇子 ネプトアビス」を得て更なる強化を遂げることになります。

海皇子 ネプトアビス」の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:デッキから「海皇子 ネプトアビス」以外の「海皇」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。デッキから「海皇子 ネプトアビス」以外の「海皇」カード1枚を手札に加える。
②:このカードが水属性モンスターの効果を発動するために墓地へ送られた場合、「海皇子 ネプトアビス」以外の自分の墓地の「海皇」モンスター1体を対象として発動する。そのモンスターを特殊召喚する。

 記事内で「第9期を彷彿とさせる」という表現を用いましたが、本物の9期はこの始末であり、これが標準と化している時代が一世代先に控えているというのは何とも末恐ろしい話です。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。