【甲虫装機】1強時代 ワンキル地獄環境の訪れ

2019年8月2日

【前書き】

 【第7期の歴史31 制限改訂2012/3 トリシュ禁止行き シンクロ時代の終わり】の続きになります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

【甲虫装機】環境トップへ 順当すぎる結果

 当然のことながら、2012年3月の改訂を受けて環境トップに立ったのは【甲虫装機】でした。

 数少ないライバルであった【TG代行天使】が環境から消えたことはもちろん、ダスト・シュート」の禁止カード化によってハンデスの脅威が減ったこと、また改訂直前に手に入れていた「甲虫装機 グルフ」の存在などが追い風となり、これ以降のメタゲームを虫一色に塗り替えています。

 さらに、「氷結界の龍 トリシューラ」が禁止カード行きとなった影響も地味ながら大きく、具体的には「甲虫装機 ホーネット」を先に墓地に落としておくプレイングで裏目を踏みにくくなりました。これにより、カードガンナー」などの先出し系の墓地肥やしカードを使うリスクが比較的軽くなったため、間もなくカーガン採用型の【甲虫装機】が主流型として定着しています。

 また、「カードガンナー」で墓地に落ちた「甲虫装機 ダンセル」「甲虫装機 センチピード」を有効活用するために「リビングデッドの呼び声」を2~3枚積んだ蘇生軸の【甲虫装機】も流行し、最終的にはこの「リビデカーガン」型の【甲虫装機】へと収束していっています。手札と墓地の2方向から「甲虫装機 ダンセル」の着地を狙うパワフルな構成であり、爆発力と安定性を兼ね備えた型として完成に至った格好です。

 

甲虫王者ムシキング(大嘘?)

 こうした環境の推移を受け、これ以降は【甲虫装機】を見据えた各種メタカードが標準的にサイドデッキに用意されるようになりました。

 全体除外によって1枚でコンセプトを否定できる「マクロコスモス」を筆頭に、暗闇を吸い込むマジック・ミラー」などの闇属性メタカードや、使い切りながら奇襲性の高い墓地メタ「D.D.クロウ」、また【聖刻】メタも兼ねる「連鎖除外」など、様々な角度から【甲虫装機】を意識したメタカードが環境に浮上しています。

 変わったところでは、【装備ビート】のピンポイントメタである「大成仏」も密かに参入を果たしており、メタカードの選択肢そのものは非常に豊富であったことが分かります。各々のデッキに応じて相性の良いメタカードを用意することは難しくなく、結果的には【甲虫装機】1強環境であるがゆえに【甲虫装機】に対抗できるという若干奇妙なゲームバランスが成立していたのではないでしょうか。

 一方、メインデッキからの対策カードとして大々的に流行したのが「エフェクト・ヴェーラー」です。

 正確には、この改訂以前から採用率を徐々に上げていたカードですが、これ以降は「メインから3積みせざるを得ない」というレベルで必須になっています。同じく誘発環境として知られる【インフェルニティ】環境ですらここまでの惨状にはなっておらず、さながらインフルエンザワクチンか何かを思わせる末期的な使用率を叩き出していました。

 逆に言えば、当時の【甲虫装機】はこれだけ多方面から集中砲火を受けながらも環境トップに居座り続けたということでもあり、これが2012年の水準を遥かに超えるデッキパワーを持っていたことは間違いありません。

 実際、当時の世界大会(一般の部)では1位~4位を【甲虫装機】が独占するという異様な実績を達成してしまったほどであり、まさに「甲虫王者ムシキング」とでも言うべき虫地獄が訪れていたと言えるでしょう。

 

【暗黒界】絶滅危惧種へ 墓地メタ・闇属性メタの二重苦

 ちなみに、こうした虫環境到来の煽りを受けた最大の被害者は【暗黒界】でした。

 正確には、2011年末の時点でも既に数を減らしていたのですが、本格的に【甲虫装機】が環境を支配するにつれてメタが完全に被ってしまい、これ以降はめっきり姿を見かけなくなっています。事実上の巻き添えを食らってしまった格好であり、「環境トップのついでにメタられる」という最も不名誉な理由によって環境からの脱落を余儀なくされた形です。

 とはいえ、逆にミラーマッチを意識しなくてもよくなったという意味では追い風を受けていた面もあり、暗黒界の取引」「墓穴の道連れ」を積んだディスカード特化型の【暗黒界】として一定の成績を残しています。実際、純粋なデッキパワーそのものは相変わらず非常に高く、また「スキルドレイン」を標準搭載できるといった別軸の強みも備えていたため、環境的な逆風に晒されながらも中堅の星として活躍していました。

 裏を返せば、ミラーマッチの枷から抜けたフルパワーの【暗黒界】ですら中堅クラスで燻ってしまうほどに環境がインフレを起こしていたということでもあり、たった9ヶ月で文字通り時代が様変わりしてしまったということが窺い知れるのではないでしょうか。

 

環境上位勢がワンキルを標準搭載している狂気

 このように、【甲虫装機】の台頭は当時のメタゲームに対して極めて甚大な影響をもたらしました。実質的に全てのデッキに対して【甲虫装機】対策を強要するというだけでも相当大きな影響力ですが、特に致命的だったのは「ゲームスピードの著しい高速化を招いてしまった」という事実です。

 【甲虫装機】最大の強みは何と言っても「甲虫装機 ダンセル」と「甲虫装機 ホーネット」による莫大なアドバンテージ生成能力にあり、これらが揃った瞬間にボード・アドバンテージの有利不利は無に帰すことになります。極端な話、ライフが無傷でフィールドに「ダーク・アームド・ドラゴン」「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」が存在し、相手の手札と場にカードがなかったとしても「甲虫装機 ダンセル」ドローで全てを返される可能性があるのが【甲虫装機】というデッキであり、多少のアド差をつけたところで安泰は得られません。

 そのため、ボード・アドバンテージを稼いでビートダウンするという従来の戦い方では次第に環境に適合できなくなっていき、やがては「手札を溜め込んでから一気にワンキルを決める」という戦法が主流になっていったのです。

 当の【甲虫装機】は言うに及ばず、環境2番手である【聖刻】や、その後ろを追いかける【ラヴァル】【代償ガジェット】などの環境上位デッキ、さらには【甲虫装機】のメタデッキであったはずの【HEROビート】もワンキル型である【アライブHERO】に姿を変えており、とにかく何らかのワンキルギミックを搭載していることが一種のボーダーラインのようになっていたことが分かります。

 加えて、【ゼンマイハンデス】や【聖刻リチュア】などの疑似先攻1キルデッキの存在も上記の流れを後押しし、結果としてOCG史上でも屈指のワンキル環境へと突入してしまったというのが大まかな事の経緯です。

 一応、数少ない例外として、ヴェルズ・オピオン」「エヴォルカイザー・ラギア」の2大巨頭を使い分ける【ヴェルズラギア】や、「ヒーローアライブ」を採用せずに従来のコンセプトを汲んだ【HEROビート】などが【メタビート】として奮闘していましたが、やはりワンキル環境に歯止めをかけるほどの影響力を持っていたとは言えません。

 というより、そもそもその【HEROビート】ですらサブプランとしてワンキルギミックを搭載することが多かったため、もはやワンキル未搭載デッキに居場所はない環境だったと言っても過言ではないでしょう。

 まとめると、当時の環境上位勢は「相手よりも早くワンキルする」もしくは「相手のワンキルを徹底的に妨害する」の2種類に二極化していたということであり、なおかつ前者が圧倒的に多数派だったことになります。かつての「DDB合戦」環境を思わせるワンキル環境の到来であり、これが地獄でなくて何が地獄なのかという話です。

 とはいえ、以前と比べて対策カードが充実していたことも事実ではあったため、流石に暗黒期指定をするほどの末期環境に陥っていたわけではありません。実際、【甲虫装機】を頂点としつつも他のデッキにも十分勝機があったことは間違いなく、いわゆる「メタが正常に回っている」という最低限の状況は保たれていたからです。

 

トラゴゴーズの流行 手札からワンキル対策

 結果として、これ以降の環境では冥府の使者ゴーズ」や「トラゴエディア」などの手札誘発系の防御カードが流行することになります。

 フィールドを空けておいても即死の危険がなく、返しのターンで反撃の起点となれる一石二鳥のカードであり、環境にマッチした防御札として一気に採用が進んでいます。相手視点でも安易にワンキルを仕掛けるリスクが大きくなるため、間接的にワンキルに歯止めをかける効果も生み出していた重要なカードです。

 また、これによって上記2枚を止められる「神の警告」が必須カード扱いを受けるようになるなど、汎用妨害札のカード選択にも影響を与えていました。加えて、これらを「増殖するG」と併用する準出張セットも流行しており、細かな部分で環境の流れを左右していた「汎用メタカード」であったと言えます。

 ちなみに、こうしたトラゴゴーズ環境にいち早く適応したのは例によって【甲虫装機】でした。

 というより、適応以前に元から耐性を持っていたというのが正確で、例えば「甲虫装機 センチピード」が「甲虫装機 ホーネット」を残して殴ってくるだけでも切り返しが困難になります。そのため、多くの場合ライフを守るかアドを失うかの2択を迫られることになりますが、どちらを犠牲にしても次ターン以降がより苦しくなることは避けられず、結局は時間稼ぎ要員にしかならないケースが大半です。

 逆に言えば、時間稼ぎ要員にしかならないとしても使われる程度にはワンキルが横行していたということでもあり、当時のOCG環境のゲームバランスが危険な兆候を見せていたことはやはり否定できないのかもしれません。

 

【まとめ】

 前記事と合わせて、2012年3月の改訂で起こった大まかな出来事は以上です。

 2011年環境を席巻した【TG代行天使】に対する規制や、長らく【シンクロ召喚】界隈を支えた「氷結界の龍 トリシューラ」の禁止カード化など、当時の環境を大きく揺るがすカードプール調整が入っていました。一方で、前年末に現れていた【甲虫装機】や【ゼンマイハンデス】に関しては完全ノータッチとなっており、案の定これが災いしてゲームバランスの悪化を招いてしまうことになります。

 一応、誕生から間もないことを考慮して規制を見送らざるを得なかったとも言えますが、3ヶ月半で【六武衆】を規制した前例もある以上、この時の改訂が明らかに失敗改訂であったことは疑いようもありません。間もなく第8期が始まるというところでの調整ミスはタイミングが最悪であり、世代交代としては非常に幸先の悪いスタートを切ってしまうことになりました。

 そして、遊戯王OCGの第7期の歴史はここまでで以上となります。長時間記事にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。