冥府の使者ゴーズ参戦 第5期最強クラスの万能フィニッシャー

2018年11月12日

【前書き】

 【第5期の歴史8 2006年下半期のインフレ環境 【ガジェット】の脱落】の続きとなります。ご注意ください。

 2006年9月の制限改訂によって環境が大きく変動し、以降は前期とは全く別のメタゲームが展開されていくことになりました。特に前期環境の実質的な王者にして、来期のトップメタ筆頭と目されていた【ガジェット】の凋落は非常に衝撃的な出来事だったのではないでしょうか。

 そんな中、2006年下半期のインフレを決定付ける第5期最強クラスのパワーカードが参入します。

 

漫画の売上をオリコンランキング入りさせたカード

 2006年9月4日、「遊☆戯☆王R(第3巻)」が販売され、その書籍同梱カードとして新たに1種類のカードが誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは2522種類に増加しています。

 ここで誕生した書籍同梱カード、それは「冥府の使者ゴーズ」です。

自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

 「自分フィールドが空の状態でダメージを受ける」という条件を満たすことで手札から特殊召喚できる効果を持ち、さらにそのダメージの種類に応じて発動できる2種類の追加効果を内蔵しています。これまでの記事で再三取り上げてきたカードでもあるため、やや今更感のある紹介ですが、恐らくOCG古参プレイヤーであれば誰もが知っているほどの超有名カードなのではないでしょうか。

 具体的な評価をつける場合、まず単純に「容易に特殊召喚できる最上級モンスター」というだけで標準以上のスペックです。フィールドががら空きの状態でダメージを受けるというのは一見すると達成が難しく見えますが、実際に使用してみれば想像以上に緩い条件であることがすぐに分かるかと思います。

 にもかかわらず、ステータスは攻撃力2700、守備力2500と十分な数値を備えており、召喚の容易さを考慮すれば破格とも言える強さです。

 特に第5期時点のカードプールではバトルフェイズ中に使用できる汎用除去カードは数少なかったため、これを召喚することでほぼ確実にそのターンを生き残ることができました。当時のゲームバランスにおいては反則的な性能であり、これだけでも規制が確実視されるほどのパワーカードに該当するでしょう。

 しかし、「冥府の使者ゴーズ」の強さはこの程度では収まりません。上述の通り、受けたダメージの種類に応じて追加効果を発動できるため、常にローリスクで何らかのアドバンテージを獲得できてしまうからです。

 特に強力なのが戦闘ダメージをトリガーに発動する効果で、そのダメージに等しいステータスを持ったトークンをノーコストで特殊召喚できます。これにより相手の最高戦力をコピーすれば安定してアドバンテージを取れるため、事実上の0:1交換(※)が成立するという理屈です。

(※自爆特攻で0:1交換、除去を撃たれた場合もカード1枚分の消費を強いることができるため)

 一方、効果ダメージをトリガーにした場合は「同じダメージを相手にも与える」と地味な性能ですが、この時期は「破壊輪(エラッタ前)」という凶悪なバーンカードが現役を務めていたため、これが役に立つケースも意外に少なくないことでした。

 総じて最上級モンスターとしては異様なほどに腐りにくく、3積みしても困らないどころか、むしろ6枚積みたいとさえ言われていたほどのパワーカードです。当然のように間もなくほとんどのデッキの必須カードとなり、参入以降は一瞬にして環境を席巻することになりました。

 

ルール的にも強いゴーズ 奈落激流すり抜け

 このように、単純なカードパワーも飛び抜けている「冥府の使者ゴーズ」ですが、実はルール面でも何かと優遇されているカードです。

 何と言っても、このカード最大の優位点は「ダメージステップに特殊召喚を行う」という性質に他ならないでしょう。具体的には「奈落の落とし穴」などの召喚反応罠に引っかからずに済むため、効果そのものを無効にされない限り(※)特殊召喚を止められることがありません。

(※ただし、効果ダメージをトリガーに特殊召喚する場合は普通に引っかかります)

 当時のカードプールにおいて、ダメージステップ中にモンスター効果を無効にできるカードは少なく、実用性を考慮すれば「死霊騎士デスカリバー・ナイト」程度に限られていました。つまり、ほとんどの状況で確実な運用が望めるということであり、すなわちこれを手札に握ることがそのままアドバンテージとして約束されてしまうのです。

 特殊召喚に成功すればアドバンテージになり、しかもほぼ確実に特殊召喚できるとなれば、これを使わない理由はありません。最終的には「E・HERO エアーマン」と合わせて【エアゴーズ】セットと呼ばれるようになり、これらを積むところからデッキ作成が始まっていたと言えば、当時の「冥府の使者ゴーズ」というカードの強さが何となく想像できるのではないでしょうか。

 また、効果の発動タイミングの関係上、「首領・ザルーグ」などのハンデス効果をすり抜けるのも利点のひとつです。

 これについて説明する前に、まずは「同時に複数のカードが発動した場合」のルールに関する前提知識を下記に示します。

 

①:ターンプレイヤーの強制効果

 

②:非ターンプレイヤーの強制効果

 

③:ターンプレイヤーの任意効果

 

④:非ターンプレイヤーの任意効果

 

 簡単にまとめると、同じタイミングで複数の効果が発動した場合、上記の順番に従ってチェーンを組んでいくというルールです。この表に「冥府の使者ゴーズ」を当てはめた場合、効果の性質上どのような状況でも④のタイミングに該当するということが分かります。

 つまり、「冥府の使者ゴーズ」の特殊召喚効果は常にチェーンの最後に積まれるため、逆順処理により最初に特殊召喚されるという理屈が成り立ちます。よって「首領・ザルーグ」を筆頭に、ダメージ計算後に発動するハンデス効果が「冥府の使者ゴーズ」に対して刺さることはないのです。

 その他、意外と見落としがちなことですが、「冥府の使者ゴーズ」には召喚条件なども特に設けられていません。そのため「リビングデッドの呼び声」などで墓地から直接蘇生することはもちろん、いざとなれば普通に生け贄召喚することも可能です。

 その場合は実質バニラモンスターとなるので使い方としては弱いですが、時にはこれが役に立つこともあり、そうした隙の無さもまた「冥府の使者ゴーズ」の持つ強みと言えるのかもしれません。

 

【当時の環境 2006年9月4日】

 当然のことながら、「冥府の使者ゴーズ」の誕生は当時の環境に多大な影響をもたらすことになりました。

 その中でも最も大きな変化として現れたのは、「あえてフィールドを空にしておく」という新たなプレイングが成立したことに他ならないでしょう。

 これまでのゲームでは「相手フィールドが更地」という状況から反撃を受けることは皆無であり、数少ない例外として「クリボー」が存在する程度でした。それも防御的な意味合いが強く、戦況の有利不利を覆すようなものではありません。

 しかし、「冥府の使者ゴーズ」の存在はその価値観を根底からひっくり返します。「お供のトークンを引き連れて現れる最上級モンスター」という驚異的な存在は、明らかにゲームの流れを変えるだけの影響力を備えていたのです。

 仮に「冥府の使者ゴーズ」をデッキに3積みしている場合、ゲーム中盤以降(4~5ターン経過後)にはこれが手札に存在する確率が5割を上回ります。当然、無視するには大きすぎる確率であり、これを持たれていないことに期待するのは賢明ではありません。

 その結果、冥府の使者ゴーズ」に対処できない盤面では直接攻撃を見送るなど、従来のゲームでは全く考えられなかった光景が見られるようになりました。

 また、「冥府の使者ゴーズ」への対抗手段として、「マインドクラッシュ」「ダスト・シュート」などのハンデスカードにも更なる注目が集まっています。

 元々【エアブレード】や「封印の黄金櫃」の台頭によって表舞台に現れていたカード群ですが、この瞬間をもって汎用カードの枠組みを超えていった印象です。これ以降の環境でダストマイクラセットが必須と言われるようになったのは、間違いなく「冥府の使者ゴーズ」の影響だったのではないでしょうか。

 

専用デッキ【サイカリエアゴーズ】 パワーカードの闇鍋

 こうした環境の激変の中、この「冥府の使者ゴーズ」を使用する代表的なデッキとして、俗に【サイカリエアゴーズ】と呼ばれるアーキタイプも成立しています。

 かつては【サイカリバー】に分類されていたアーキタイプであり、直前の環境では【サイカリエアー】などと呼称されていた存在ですが、ここに「冥府の使者ゴーズ」を追加することで更なる進化を遂げた形です。

 コンセプトは単純明快、「とにかく強いモンスターを沢山入れる」という非常に原始的なもので、採用メンバーには「サイバー・ドラゴン」「死霊騎士デスカリバー・ナイト」「E・HERO エアーマン」「冥府の使者ゴーズ」といった選り抜きの面々が並びます。カード間のシナジーはありませんが、それゆえに常に安定した立ち回りを実現できることが最大の魅力と言われていたデッキであり、平たく言えば【グッドスタッフ】の一種です。

 

デッキレシピ(2006年9月4日)

 これについてはデッキレシピを見た方が早いと思われるため、当時の一般的な【サイカリエアゴーズ】のリストを下記に示します。

 

サンプルデッキレシピ(2006年9月4日)
モンスターカード(17枚)
×3枚 E・HERO エアーマン
サイバー・ドラゴン
死霊騎士デスカリバー・ナイト
冥府の使者ゴーズ
×2枚  
×1枚 異次元の女戦士
クリッター(エラッタ前)
聖なる魔術師
ならず者傭兵部隊
魔導戦士 ブレイカー
魔法カード(13枚)
×3枚 封印の黄金櫃
×2枚 増援
×1枚 押収
大嵐
サイクロン
月の書
天使の施し
貪欲な壺
早すぎた埋葬
ライトニング・ボルテックス
罠カード(10枚)
×3枚 ダスト・シュート
マインドクラッシュ
×2枚  
×1枚 激流葬
聖なるバリア -ミラーフォース-
破壊輪(エラッタ前)
リビングデッドの呼び声
エクストラデッキ(0枚)
×3枚  
×2枚  
×1枚  

 

 当時のカードプールの代表的なパワーカードを上から順に積んだような構築に仕上がっており、まさにパワーカードの闇鍋と言うほかないリストです。類似デッキにあたる【ダークゴーズ】以上に【グッドスタッフ】志向の強いデッキであり、これを組めてしまうこと自体がシンプルに環境のインフレを物語っています。

 内容については解説する余地もほぼないようなデッキですが、一応「封印の黄金櫃」が3積みされていることについては言及しておきます。

 詳しくは上記関連記事の通りですが、当時のゲームスピードでは2ターンのタイムラグはそれほど大きなデメリットではなかったため、単なる万能サーチカード扱いでフル投入されている形です。もちろん、デメリットが無いわけではないため「冥府の使者ゴーズ」のように3積み必須だったわけではなく、採用の可否はプレイヤーの考え方によって分かれていました。

 いずれにしても、「冥府の使者ゴーズ」の存在によって【サイカリエアゴーズ】が完成してしまったことは間違いなく、いわゆる「単体で強いカードだけでデッキを固める」という【スタンダード】の概念が第5期に蘇った瞬間だったと言えるでしょう。

 

派生デッキ【サイカリミーネエアゴーズ】

 一方、型によっては「死のデッキ破壊ウイルス(エラッタ前)」との併用を前提に、黒蠍-棘のミーネ」が積まれることもありました。

 【ダークゴーズ】を筆頭とするハイビート系デッキの増加、また【ガジェット】の衰退を受けて「死のデッキ破壊ウイルス(エラッタ前)」の評価が急上昇したことを受け、それと相性の良い「黒蠍-棘のミーネ」にも注目が集まったという流れです。

 さらに、その「黒蠍-棘のミーネ」自体も当時の環境に噛み合っており、単独でも有用な働きが期待できたことも躍進の理由となっていました。具体的には守備力が1800、つまり「E・HERO エアーマン」を受け流せる数値であることが非常に強く、これによって「E・HERO エアーマン」の安易な重ね置きを控えるプレイングが生まれたほどです。

 具体的には、相手フィールドにセットモンスターが存在する場合、黒蠍-棘のミーネ」を警戒してこれを戦闘破壊できる「死霊騎士デスカリバー・ナイト」を優先して召喚するなどのプレイが該当します。ただし重ね置きとあるように、最初の1体目は受け流されてもテンポロスが少ないため、その場合は「E・HERO エアーマン」が優先される傾向にありました。

 その他、戦士族サポートの「増援」を「E・HERO エアーマン」と共有できるのも強みのひとつです。サーチ先の枯渇により「増援」が腐ってしまう状況が格段に減り、これを手元に温存する選択を取りやすくなる利点は侮れません。

 この型は特に【サイカリミーネエアゴーズ】というデッキタイプに区分され、以降のメタゲームでは有力デッキとして一定のシェアを獲得していくことになります。

 もっとも、デッキ名が長すぎるゆえに正式名称で呼ばれることは稀であり、単に【サイカリエアゴーズ】の亜種とされることがほとんどでした。そのため現在は記録もあまり残っておらず、今となっては知る人も少ない歴史に埋もれたアーキタイプです。

 

「ゴーズケア」の誤解 「攻撃力の低い順」は誤り?

 その他、「冥府の使者ゴーズ」を警戒した有名なケア手段として、「直接攻撃は攻撃力の低いモンスターから仕掛ける」という定石が環境全体で浸透していっています。もちろん、これはカイエントークンを意識したプレイングであり、その被害を少しでも軽減することを意図した考え方です。

 ただし、しばしば誤解されることですが、この定石が常に正しく当てはまるとは限りません。状況によっては攻撃順が前後するケースも多く、むしろ素直に下から攻撃することの方が少ないのではないでしょうか。

 たとえば、自分が「暗黒界の軍神 シルバ」「E・HERO エアーマン」「クリッター(エラッタ前)」の3体をコントロールしている状況を考えます。この時、最も攻撃力が低いのは「クリッター(エラッタ前)」ですが、ほとんどの場合、先に「E・HERO エアーマン」から攻撃を仕掛けるべきでしょう。

 上記のシチュエーションで「冥府の使者ゴーズ」にぶつかった場合、相手フィールドに現れるカイエントークンのステータスは攻守1800です。攻撃力2300の「暗黒界の軍神 シルバ」では「冥府の使者ゴーズ」を突破できないため、必然的に「暗黒界の軍神 シルバ」はトークンの戦闘破壊に向かうことになります。

 ポイントとなるのがこの部分で、仮にトークンのステータスが攻守1800未満だったとしても、やはり「暗黒界の軍神 シルバ」はトークンを戦闘破壊するしかありません。つまり「E・HERO エアーマン」「クリッター(エラッタ前)」のどちらが先に攻撃しても盤面の結果は同じであり、定石通りに攻撃を行うことはライフ・アドバンテージの分だけ損をしてしまう行為なのです。

 つまり、上記のケースではE・HERO エアーマン」→「クリッター(エラッタ前)」→「暗黒界の軍神 シルバ」の順に攻撃するのが最善手となります。もしくは「冥府の使者ゴーズ」をケアして「E・HERO エアーマン」→「クリッター(エラッタ前)」の段階で攻撃を止めることも考えられますが、いずれにしても「攻撃力の低い順」の定石に固執しすぎるのは危険です。

 「冥府の使者ゴーズ」参入直後の当時はこの辺りを誤解しているプレイヤーも意外に多く、不自然なアタックを見てコンバットトリックを握っていると深読みした結果、ただの相手のミスだったという状況に遭遇することも少なくありませんでした。

 とはいえ、上記のような例外的シチュエーションを一言で説明するのは難しく、無理に短くしようとすれば誤解を招く表現になってしまいます。そのため、やむなく分かりやすい言葉に簡略化した結果、予想以上に「攻撃力の低い順」という言葉だけが一人歩きしてしまったのではないか、というのが個人的な推測です。

 

【まとめ】

 第5期最強クラスのパワーカードの一角、「冥府の使者ゴーズ」の参入によって起こった出来事は以上となります。

 その凄まじい強さによって当時のゲームバランスを激変させ、さらには新たな定石を生み出すに至るなど、到底カード1枚のものとは思えない影響力を発揮した存在です。当然、こんなカードが許されるはずがなく、直近の改訂では早々に制限カード指定を下されています。

 しかし、厳しい規制を受けたあとも引き続き環境屈指のパワーカードとして猛威を振るったため、やがてプレイヤーの間ではかつての【カオス】に近い扱いを受けるまでになり、一時期は禁止カード行きの噂が囁かれることさえありました。

 現在では時代の変化もあり、無制限カードの立ち位置に落ち着いているモンスターですが、今なお「冥府の使者ゴーズ」の恐ろしさが印象に残っているというプレイヤーは少なくないのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史