ギアギガントX誕生 【代償マシンガジェ】環境上位へ
・前書き
・ギアギア・ガジェット(大嘘) 【機械族】の星
・【代償マシンガジェ】全盛期到来 歴代最強の時代
・環境的には向かい風 ボード・アドの概念の敗北
・「二重召喚」の発見 実質追加ターン
・後編に続く
【前書き】
【第8期の歴史1 交響魔人マエストローク全盛期 最強のランク4と言われた時代】の続きとなります。ご注意ください。
遊戯王の基本セットとも言えるスターターデッキから「交響魔人マエストローク」という大型新人が参入し、当時の環境に少なくない波紋が広がりました。2012年当時のカードパワー水準を露骨に上回っていたカードであり、これ以降は年単位に渡ってランク4代表の座を背負っていくことになります。
世代交代早々にインフレの気配が浮き彫りとなる衝撃のスタートを飾った第8期環境でしたが、それに追い打ちをかけるように続々と新時代のランク4が参入を決めることになります。
ギアギア・ガジェット(大嘘) 【機械族】の星
2012年4月14日、レギュラーパック「RETURN OF THE DUELIST」が販売されました。新たに80種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは5406種類に増加しています。
将来的にトーナメントシーンで名を馳せる遅咲きのカテゴリを多数輩出したパックとして有名で、かの【征竜魔導】環境を成立させた【魔導書】を筆頭に、【先史遺産】や【マドルチェ】といった環境上位に名を連ねたテーマ(※)が一斉に現れています。
(※ただし、この時点ではサポートも出揃っておらず、ファンデッキの扱いを受けていました)
一方、ループ系コンボのお供として熱狂的に愛されていた「地霊神グランソイル(エラッタ前)」や、一時期【チェーンビート】のキーカードとして時の人となった「強制退出装置」など、特定の界隈で人気を博した有名カードも見逃せません。特に「地霊神グランソイル(エラッタ前)」はあまりにも悪用されすぎたせいで遂にはエラッタが入ってしまったほどであり、トーナメント級に届かないカードとしては極めて異例な措置を下されています。
とはいえ、やはり当パックの目玉がランク4エクシーズの新規枠にあったことは間違いなく、中でも「ギアギガント X」の誕生は非常に大きな注目を集めていたのではないでしょうか。
機械族レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。自分のデッキ・墓地からレベル4以下の機械族モンスター1体を選んで手札に加える。
また、このカードがフィールド上から離れた時、自分の墓地からレベル3以下の「ギアギア」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。
言わずと知れた【機械族】最強のサポートカードであり、デッキ・墓地からレベル4以下の機械族モンスターをサーチ・サルベージするというシンプルに強力なエクシーズ効果を与えられています。単純に考えてもサルベージに対応する「増援」が弱いはずがなく、【機械族】デッキ全般において幅広い活躍が期待できる効果です。
というより、このカードを出すためだけに4軸のギミックが仕込まれることも珍しくなく、文字通りこのカードの存在が【機械族】を組む理由の1つになっていると言っても過言ではありません。実際に環境で【機械族】絡みのデッキが流行するたびに需要が生じているほどであり、第8期に限らず世代を超えて活躍している名カードです。
一方、後半の効果は【ギアギア】カテゴリ専用のサポートとなる蘇生効果であり、基本的には「隠された効果」扱いを受けていることは否めません。しかし、出張単位で【ギアギア】を利用する場合にはこれが役に立つこともあり、存在を忘れていると稀に痛い目を見ることもありました。
いずれにしても、「ギアギガント X」というカードが現在においてすら通用するほどの優秀な【機械族】サポートであることは間違いなく、2012年当時においても参入直後からトーナメントシーンで採用実績を残していくことになります。
【代償マシンガジェ】全盛期到来 歴代最強の時代
2012年当時の環境において、「ギアギガント X」の誕生を最高の追い風として受けたのは、言うまでもなく【ガジェット】系列のアーキタイプでした。
第4期という古の時代から続く由緒正しきデッキであり、この時期の環境においては【代償ガジェット】として結果を残している状況にありました。直前の2012年3月改訂で「血の代償」を規制されたことで爆発力をやや落としていましたが、代わりに「ブリキンギョ」を新規獲得するといった追い風も受けており、総合的には強化されていたと言っていい時代です。
そこに現れた「ギアギガント X」の存在は当時の【ガジェット】にとってはまさに天からの恵みであり、これ以降は一気に環境上位へと浮上を果たしています。「ギアギガント X」から「ブリキンギョ」を確保し続けることで安定したランク4ビートが約束されるため、これまでのように「血の代償」に依存することなく戦線を維持できるようになったからです。
実際、ハンド・アドバンテージを保ちつつ2300打点を場に残せるというだけでも当時のゲームバランスにおいては驚異的であり、「ブリキンギョ」と「ギアギガント X」をループさせているだけで勝ててしまうことも決して珍しくありません。次のターンまで「ギアギガント X」が生き残れば更に手札を増やすこともでき、一旦回り始めれば手が付けられないほどのアドバンテージ獲得能力を発揮します。
このように【ガジェット】界隈が急激な盛り上がりを見せる中、最終的に最適解として導き出されたのが【代償マシンガジェ】と呼ばれる型です。
これ自体は第6期終盤の時点で既に成立していた派生型ですが、「ギアギガント X」によって「マシンナーズ・ギアフレーム」を素早く、かつ安定して確保できるようになったため、間もなく【ガジェット】系における主流型として定着しました。実質的に各種【ガジェット】が「マシンナーズ・フォートレス」をサーチ範囲に含んでいるというのはシンプルに強力であり、最終的には「マシンを積まない理由がない」とまで言われるほどの必須パッケージと化しています。
事実上、【マシンナーズ】と【ガジェット】の強い部分だけを切り取った理想形態と言っても過言ではなく、【マシンガジェット】としてはもちろん、【ガジェット】の歴史上においても歴代最強クラスの時代です。
これに匹敵し得る勢いを持っていたのは【デビフラ1キル】との複合である【フラガジェ】や、【未来オーバー】との複合である【キメラガジェ】程度であり、禁止・制限リストに引っかかるデッキと肩を並べている事実からも当時の【代償マシンガジェ】の強さが窺えるのではないでしょうか。
環境的には向かい風 ボード・アドの概念の敗北
このように、多くのサポートを携えて鳴り物入りでトーナメントシーンに躍り出た【代償マシンガジェ】でしたが、必ずしもその高いカタログスペックを発揮できる環境が成立していたわけではありません。
理由は至ってシンプルで、この時期のメタゲームは【甲虫装機】という強大なデッキを中心に回っていたからです。
上述の通り、【代償マシンガジェ】はアドバンテージの安定確保に長けているデッキですが、裏を返せば瞬間的に大量のアドバンテージを稼ぐことは難しいデッキでもありました。「血の代償」という例外的なワンキルカードこそありますが、基本的には「ブリキンギョ」からのランク4ビートを軸に戦っていく中速ビートデッキに当たります。
結論から言ってしまえば、これは当時の【甲虫装機】環境においてはあまり噛み合った戦い方ではなく、デッキパワーの高さを上手く発揮できない状況にあったことは否めません。具体的な経緯は上記関連記事にまとめてありますが、当時は「手札を溜め込んでから一気にワンキルを決める」というワンキル戦法が主流になっており、【代償マシンガジェ】のように堅実にボード・アドバンテージを稼いでいくデッキは根本的な部分で環境に適合できていなかった(※)のです。
(※加えて、そもそも【ガジェット】自体が【甲虫装機】を苦手としていた問題もあります)
とはいえ、元々【ガジェット】は罠ビートの一種でもある以上、【ヴェルズラギア】のように「相手のワンキルを妨害する」タイプのデッキとして居場所を見出すことは可能でした。実際、大量の罠で時間を稼いで強引にアドバンテージ・ゲームに持ち込むというのは理に適った選択であり、当初はどちらかと言うとメタデッキ的な役割が期待されていた側面があります。
しかし、メタモンスターを前に置かない、つまり伏せカードと手札誘発だけでワンキルから身を守り続けるのは現実的ではなく、次第に【メタビート】戦術だけで戦っていくのは限界があるという厳しい事実が判明していきました。
「二重召喚」の発見 実質追加ターン
結果として、当時の【代償マシンガジェ】は「二重召喚」という新兵器を取り込み、自分自身も環境の高速化に身を委ねるという選択を取ることになります。
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。
「二重召喚」は単体では効率が悪すぎる召喚権増加カードに過ぎませんが、【ガジェット】においてはディスアドバンテージを即座に取り返すことができるため、長年に渡って【ガジェット】の優良サポートとして活躍していたカードです。とはいえ、根本的に腐りやすいタイプのカードではあるため必須枠に収まることはなく、あくまでもオプションの1つとして認識されている状況にありました。
しかし、これを「ギアギガント X」「ブリキンギョ」と併用することを考えた場合、「二重召喚」は「このターン追加のエクシーズ召喚を行う」という強力な展開札に変貌します。つまり、本来は2ターンかけて行うことを1ターンに圧縮することができるため、実質的には追加ターンを得るに等しい働きをこなしていると言っても過言ではないわけです。
もちろん、単純に各種【ガジェット】からすみやかに「ギアギガント X」を立てるカードと考えても使い勝手がよく、事実上の「ブリキンギョ」6枚体制を作り出すカードにもなり得ます。総じて序盤の動きを支える潤滑油にも、中盤以降の攻め手にもなる強力なエンジンであり、当時の【代償マシンガジェ】の躍進はまさにこのカードの発見によって成り立っていたのではないでしょうか。
実際、これ以降は間もなく「二重召喚」採用型の【代償マシンガジェ】が主流となっており、当時の選考会においてもこの型が代表の一角を射止めています。環境参入直後の苦境からは考えられない大躍進であり、ゲームバランスのインフレに負けない高いポテンシャルを示した快挙であったと言えるでしょう。
ちなみに、こうした【代償マシンガジェ】の躍進は2012年上半期環境にとどまらず、来期に当たる2012年9月環境でも引き続き結果を残しています。制限改訂の影響で環境がデフレを起こしていたことも追い風となり、一時期はトップメタの一角に食い込むほどの健闘を見せていました。
もっとも、最終的には2013年の【征竜魔導】環境に飲み込まれるという結末を迎えることになるのですが……。
【後編に続く】
「ギアギガント X」についての話は以上です。
素材縛りがあることを考慮しても高いカードパワーを持っていたランク4エクシーズであり、当時のトーナメントシーンにおいても【代償マシンガジェ】を環境上位に導くという偉大な功績を残しています。カード1枚の持つ影響力としては極めて多大であると言うほかなく、これが第8期初弾のレギュラーパックから現れた衝撃は大きなものだったのではないでしょうか。
しかし、当パック出身の強力なランク4エクシーズは「ギアギガント X」だけではありません。「打点は正義」を体現する超高火力によって環境を動かした次世代アタッカーも参入を決めていたのです。
後編に続きます。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
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