「サイバードラゴン環境」の到来 融合前が一番優秀だった頃

2018年7月18日

【前書き】

 【第4期の歴史16 【変異カオス】の台頭 2005年環境のトップメタ】の続きとなります。ご注意ください。

 禁止カード制度導入から1年、ようやく多数の禁止カードに対処の手が入り、非常に安定したレベルで環境の健全化が成されました。【サイエンカタパ】などの先攻1キルデッキは完全に消滅し、【ノーカオス】を筆頭とする【グッドスタッフ】系デッキも緩やかな滅亡を迎えています。

 これにより当時の遊戯王OCGは中速環境に移行し、その結果【変異カオス】が頭角を現す流れに繋がったことも大きな出来事のひとつです。

 ビート・コントロール全盛の時代が到来する最中、続く5月に後々の環境にまで影響を及ぼす大型新人が参戦することになりました。

 

サイドラ革命 「サイドラゲー」の始まり

 2005年5月26日、レギュラーパック「CYBERNETIC REVOLUTION」が販売されました。新たに60種類のカードが誕生し、同時期に現れた書籍同梱カードなど3種の新規カードを合わせ、遊戯王OCG全体のカードプールは2148種類に増加しています。

 非常に多くの有名カードを輩出したパックとして知られており、パッケージイラストを飾る「サイバー・エンド・ドラゴン」はもちろん、「パワー・ボンド」「ミラクル・フュージョン」「龍の鏡」などの強力な融合サポートも魅力です。

 変わったところでは、凶悪な1キルコンボパーツである「マジカル・エクスプロージョン」の存在も見逃せません。この時期は扱いにくいバーンカードとしか思われておらず、類似カードの「ファイアーダーツ」の陰に隠れていましたが、後世では様々なデッキで声がかかり、そしてそれらをことごとく潰していった曰くつきのカードとも言えるでしょう。

 

サイバードラゴン 素材の味が一番

 そんな当パックのトップレア、それは「サイバー・ドラゴン」という上級モンスターでした。

相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

 攻撃力こそ2100と水準以下の打点ですが、相手フィールドにのみモンスターが存在する場合に手札から特殊召喚できる効果を持つため、非常に扱いやすいアタッカーとして運用できます。遊戯王OCGにおける代表的な半上級モンスターであり、今なお高い知名度を誇る優秀なカードです。

 もちろん、第4期当時としては反則的な強さを持ち、参入以降は一瞬でアタッカーラインを塗り替えてしまうことになりました。

 特に顕著だったのが「怒れる類人猿」の衰退で、以降はほとんど姿を見かけなくなっています。元々「月読命」の流行に伴って採用率を落としていたモンスターですが、単純に打点が足りなくなったというのは流石に致命的すぎたということでしょう。

 また、その召喚条件から「先攻絶対有利」の法則に一石を投じたのも大きな功績の一つです。

 これまで先攻側は先にカードを発動できる優位性に加え、モンスターの先置きにより盤面を有利に固めやすいという強みを常に握っていました。特殊召喚を多用する現環境ではイメージしにくいことですが、通常召喚が主なモンスター展開手段だった当時において、一旦差がついた盤面を巻き返すのは簡単なことではなかったからです。

 例えば、お互いに「怒れる類人猿」を3体ずつ手札に握っている場合のことを考えます。

 この場合、両プレイヤーは交互に相打ちを取っていくことになりますが、最終的には後攻側が4000ポイントのライフ・アドバンテージを失ってしまうことが分かります。この結果は「先にモンスターを置いていたかどうか」の違いだけであり、すなわちこれがそのまま「先攻絶対有利」の法則に繋がります。

 もちろん、実際のゲームでは除去カードなどの存在が絡むため、ここまで極端な事態にはなりません。しかし、そもそも除去を撃たざるを得ない状況に置かれること自体が不利であり、結局のところ先攻側が有利であることは否定しようがない事実です。

 そこに現れた「サイバー・ドラゴン」の存在はまさしく革命そのものであり、以降の環境では長きに渡って存在感を示し続けることになりました。むしろ存在感が強すぎて年単位に渡って必須アタッカーとして環境の最前線に立ち続け、なおかつ環境全体の攻撃力ラインを定義づけていたため、遂にはこれを指して「サイバードラゴン環境」、あるいはもっと直接的に「サイドラゲー」という言葉すら生まれてしまったほどです。

 「サイドラは融合前が一番強い」と言われていた理由であり、まさに「素材の味が一番」とも言うべきモンスターだったのではないでしょうか。

 

サイドラ融合体 2回攻撃と貫通攻撃

 トップレアの座を融合素材に奪われたサイドラシリーズでしたが、もちろん融合先のモンスターも見劣りはしない性能です。この時に現れたのは「サイバー・ツイン・ドラゴン」「サイバー・エンド・ドラゴン」の2体でした。

サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃することができる。

サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 「サイバー・ツイン・ドラゴン」は2回攻撃、「サイバー・エンド・ドラゴン」は貫通攻撃を持っており、どちらも極めて高い打撃能力を備えています。それぞれ攻撃力は2800、4000となっており、打点負けすることは早々ありません。

 ネックとなるのはその重さですが、例によって「デビル・フランケン」で踏み倒すことができるため、ライフさえあれば手軽に呼び出すことができました。当時のゲームスピードにおいては非常に恐ろしいコンボであり、これにより【サイドラ1キル】及び下記の【フラガジェ】を成立させてしまったほどです。

 一方で、どちらも高レベルモンスターゆえに「突然変異」からは繋げにくい弱みもありましたが、「サイバー・ツイン・ドラゴン」の方はレベル8と「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」と同レベルです。つまり除外効果で場を空けたところに2800×2の引導火力級のダメージを叩き込むことができるため、【変異カオス】では必須ギミックとして大流行しました。

 

当時の環境 2005年5月26日

 こうした新戦力参入の流れを受け、当時のメタゲームにも大きな動きが生まれています。

 その中でも最も目を引く出来事は、何と言っても【フラガジェ】の台頭に他なりません。

 

【フラガジェ】の成立 サイドスイッチマジック

 【フラガジェ】とは、一言で言えば「デビル・フランケン」ギミックを搭載した【ガジェット】の一種です。より正確には【デビフラガジェット】とも呼ばれ、その名の通り後攻1キルによる速やかなゲームの決着を狙います。

 基本形は【除去ガジェット】ですが、そこに「デビル・フランケン」「リミッター解除」を組み合わせた即死ギミックを仕込むことで、純正の【ガジェット】にはないプレッシャーを相手にかけていけるのが最大の魅力と言えるでしょう。コンボパーツである「リミッター解除」自体が【ガジェット】ともシナジーするため、他のコンボデッキと比べて構成に無駄がない強みもありました。

 この型が流行した経緯としては、当時のトップメタである【変異カオス】に対するメタデッキとしての側面が存在します。

 基本的に中速デッキである【変異カオス】は序盤の立ち上がりが遅く、そうでなくとも先攻1ターン目から「サウザンド・アイズ・サクリファイス」を召喚するのはリスク面から明確な悪手であるとされていました。これにより「デビル・フランケン」の後攻1キルが非常に刺さりやすく、アドバンテージを度外視した決着を狙えることが次第に注目を浴びていった結果です。

 これは当然ながら【変異カオス】にとっては非常に都合の悪い状況でした。本来は最高の防御カードである「スケープ・ゴート」も、攻撃力8000の貫通ダメージの前には全くの無力でしかありません。

 つまり【変異カオス】に対して最も有効だったのは、【弾圧アビス】のようなロックカードによる封殺ではなく、そもそもデッキが回り始める前に勝負を決めるというウィニー戦略に他ならなかったのです。

 こうした【フラガジェ】の台頭を受け、【変異カオス】側もその対策として「奈落の落とし穴」「炸裂装甲」といった単体除去を採用するケースが増えていきます。プレイヤーによっては「威嚇する咆哮」を用意していることすらあったほどです。

 ただし、意外なことですがデビル・フランケン」がメインから積まれるケースは少なく、サイドデッキ要員であることがほとんどでした。理由は単純で、この【フラガジェ】という型がミラーマッチに極めて弱かったからです。

 各種攻撃反応罠が豊富に積まれた【ガジェット】に対し、高打点モンスターの攻撃が素直に通ることはまずありません。その場合、【フラガジェ】側は膨大なライフとボード・アドバンテージを喪失したまま相手ターンを迎えることとなり、率直に言って敗色濃厚の状況です。

 お互いに消耗し切った中盤以降であれば光明も見えますが、コンボパーツというノイズを抱えたまま中盤を迎えること自体が困難であり、逆に言えば「手札のコンボパーツが除去なら普通に勝てていた」という話になってしまいます。もちろん、運が良ければ最序盤にコンボが決まることもありますが、そのためだけに上記の不利全てを抱え込むのはあまりにリスキーであると言わざるを得ません。

 一見すると意図が読めない「デビル・フランケン」サイドスイッチプランは、こうした自分自身という仮想敵を想定した末の結論だったのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 「CYBERNETIC REVOLUTION」販売によって起こった出来事は以上となります。

 「サイバー・ドラゴン」参入によるゲームバランスの激変、さらに「サイバー・ツイン・ドラゴン」「サイバー・エンド・ドラゴン」による【フラガジェ】の成立など、当時の環境に多大な影響を及ぼしたカードプール更新です。

 特に前者はこの時期に限らず第5期以降も猛威を振るい、遂にはシンクロ期においても活躍の場を見つけてしまうことになります。最終的には制限カード指定を受ける結末を迎えており、当時の「サイバー・ドラゴン」がいかに強かったかを物語るエピソードと言えるでしょう。

 ちなみに、この時期に限って言えば、この「サイバー・ドラゴン」よりも「サイバー・ツイン・ドラゴン」の方が高い採用率を誇っていました。2大勢力である【変異カオス】【フラガジェ】のどちらでも必須カードだったため、当時の選考会ではほとんどのプレイヤーがこれをデッキに挿していたほどです。

 現在でもエクストラデッキの必須枠と呼べるカードは存在しますが、遊戯王前半期の時点で既にその傾向は見え隠れしていたのかもしれません。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史