壊れテーマ【インゼクター】参戦 甲虫装機ダンセル無制限時代

2019年7月17日

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【前書き】

 【第7期の歴史22 【ラヴァル】環境上位へ 2011年の大爆発】の続きになります。ご注意ください。

 「炎熱伝導場」の誕生によって【ラヴァル】が新勢力としてメタゲームに加わり、遊戯王OCGは徐々に高速環境へと移行が進んでいくことになりました。これに関連して起こった誘発環境到来の兆しも大きな出来事の一つであり、まさに時代の区切り目となる重要な時期であったと言えるでしょう。

 第7期環境も終盤に近付く11月の折、この時に販売されたレギュラーパックによって環境に激震が走ることになります。

 

ダンセルショウカン 虫地獄の訪れ

 2011年11月19日、レギュラーパック「ORDER OF CHAOS」が販売されました。新たに80種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは5161種類に増加しています。

 結論を先に言ってしまえば、第7期終盤及び第8期初頭環境のインフレを招いた元凶とも言えるパックです。もちろん、「フォトン・スラッシャー」や「機甲忍者ブレード・ハート」などの健全な範囲で活躍した名カードも多く含まれていましたが、それ以上に禁止・制限級の凶悪カードの存在が目につく極悪パックだったことは否めません。

 中でも、新テーマである【甲虫装機】の誕生は第7期当時の常識を覆すほどの衝撃を孕んでいたのではないでしょうか。

1ターンに1度、自分の手札・墓地から「甲虫装機」と名のついたモンスター1体を装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。
このカードに装備された装備カードが自分の墓地へ送られた場合、デッキから「甲虫装機 ダンセル」以外の「甲虫装機」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。
また、このカードが装備カード扱いとして装備されている場合、装備モンスターのレベルは3つ上がる。

 上記は【甲虫装機】の中核カード、「甲虫装機 ダンセル」の当時のテキストとなります。もはや【甲虫装機】を知るプレイヤーにとっては説明不要のモンスターであり、まず間違いなく2012年という時代を代表する筆頭カードと言っていい存在です。

 その固有効果は「自身に装備された装備カードが墓地へ送られた場合に【甲虫装機】モンスターをリクルートする」というもので、一見するとありがちなカテゴリサポート効果に見えなくもないデザインです。

 しかし、これは【甲虫装機】というテーマにとっては凄まじい化学反応を引き起こす劇薬そのものであり、これにより「ダンセルショウカン」のトラウマを多くのプレイヤーに刻み付けていくことになります。

 

「展開のついでに除去」の狂気 現代遊戯王の芽吹き

 事態の引き金となったのは、同じく【甲虫装機】に属するモンスターである「甲虫装機 ホーネット」の存在でした。

1ターンに1度、自分の手札・墓地から「甲虫装機」と名のついたモンスター1体を装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。
このカードが装備カード扱いとして装備されている場合、装備モンスターのレベルは3つ上がり、攻撃力・守備力はこのカードのそれぞれの数値分アップする。
また、装備カード扱いとして装備されているこのカードを墓地へ送る事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 色々と効果が盛り込まれていますが、重要なのは最後の「装備状態の自身を墓地に送って万能除去を行う効果」です。多くの【甲虫装機】は共通効果として同カテゴリのモンスターを装備する効果を持つため、これは「自身が墓地に存在する場合、毎ターンフィールドの【甲虫装機】の数だけ万能除去を行う効果」と言い換えることができます。

 これだけでも第7期当時の水準を超えるカードパワーを内包していることは明らかですが、最大の問題は上記の「甲虫装機 ダンセル」との凶悪なシナジーにあったことは間違いありません。

 具体的には、甲虫装機 ダンセル」で「甲虫装機 ホーネット」を装備することで除去とリクルートを同時に行い、なおかつリクルートした【甲虫装機】で更なる除去に繋げるという異次元のコンボが成立します。このリクルート先に「甲虫装機 センチピード」という強力なサーチャーが存在していたことも事態の深刻化を招き、【甲虫装機】は都合4枚分のカード・アドバンテージを容易に叩き出す壊れテーマとして羽化を果たすことになりました。

 ちなみに、「甲虫装機 センチピード」のサーチで2枚目の「甲虫装機 ダンセル」を持ってくることで次のターンも同様の展開が行えるため、本質的には【ガジェット】や「E・HERO エアーマン」のような自己完結型のアドモンスターと同類のギミックであったとも言えます。

 しかし、【甲虫装機】の場合はそこに万能除去とリクルートがついてくるという酷い有様であり、いくら何でも「作る時に何かおかしいと思わなかったのか」と言わざるを得ない惨状です。

 いわゆる「展開のついでに除去」という概念の走りがこれであり、究極的には【甲虫装機】の誕生こそがアドバンテージ概念の形骸化した「現代遊戯王」の芽吹きであったと言っても過言ではないでしょう。

 

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グルフ不在の隙 初動がやや脆かった時代

 とはいえ、この時点の【甲虫装機】はまだパーツが十分に出揃っておらず、十分につけ入る隙があったことも事実です。

 最大の弱点はやはり甲虫装機 グルフ」不在による初動の脆さであり、これこそが初期の【甲虫装機】における数少ない「可愛げのようなもの」であったとも言えます。上記項目で用いた「展開のついでに除去」という表現ですが、正確には「除去の的がなければ展開できない」という表現がふさわしく、相手フィールドにカードがない場合には動こうにも動けないデッキだったからです。

 もちろん、自分のカードを割って無理矢理動くことはできますが、その場合は「エフェクト・ヴェーラー」などを食らってしまうと大幅に損を負ってしまうため、リスクを考慮するとやはり動けないというケースは決して少なくありません。

 何より、装備先と装備元の両方が揃わなければ展開が始まらない点が苦しく、一定数のゲームを事故によって落としてしまうコンボデッキ的な弱みを抱えていました。単純に考えても6-3コンボであり、ここに「終末の騎士」などの補助輪を追加することを考慮しても通常のビートダウンデッキ以上の安定感は望めません。

 つまり、当初の【甲虫装機】は根本的には甲虫装機 ダンセル」「甲虫装機 センチピード」というアタッカー要員に「甲虫装機 ホーネット」という装備カードを付けることを狙うコンボデッキだったと言い換えることもでき、その意味ではOCGに最初期から存在する【装備ビート】にも通ずるコンセプトを掲げていた(※)と言えるでしょう。

(※強さに関しては猫とライオンほどに違いはありますが……)

 一方で、こうしたデッキパーツの少なさを逆手に取った派生構築の開発も盛んに行われており、カードガンナー」「ライトロード・マジシャン ライラ」「ネクロ・ガードナー」などを積んで墓地利用ギミックを積極的に取り入れた型や、「キラー・トマト」や「召喚僧サモンプリースト」を採用してリクルートに特化した型、あるいは「ライオウ」をメインから投入して【準メタビート】に寄せた型など、様々な【甲虫装機】が研究されていました。

 逆に言えば、こうした型の派生が起こる程度には【甲虫装機】の土台が未成熟だったということでもあり、この時点では他の主流デッキともそこまで極端な格差は生じていなかった印象はあります。また、同じ【甲虫装機】であっても型によって性格が若干異なっていたため、虫地獄とは言われつつも比較的多様性のある環境が成立していたのではないでしょうか。

 

フリーチェーン除去と誘発の流行 奈落幽閉が遅い環境

 当然のことながら、【甲虫装機】の環境入りは当時の遊戯王OCGのゲームバランスに多大な影響をもたらしました。

 上述の通り当初は弱点も少なからず存在していたデッキですが、やはり「甲虫装機 ダンセル」を起点としたアドバンテージ獲得能力は脅威的であり、ひとたびコンボの成立を許せば事実上のゲームエンドに持ち込まれることは避けられません。そのため、これ以降は常に「甲虫装機 ダンセル」を意識したカード選択、及びプレイングが求められることとなり、カードプールの段階から全く新しい環境が再構築されていくことになります。

 その中でも最も早い段階で引き起こされた変化は、次元幽閉」「奈落の落とし穴」などの発動条件が限定された罠カードの採用率が急激に低下したことでしょう。

 【甲虫装機】を相手取る場合、安易にフィールドにカードを残すこと自体が友情コンボのようになってしまう以上、これを回避できない反応系の罠カードはまともに運用することすらままなりません。例外は「神の警告」や「激流葬」などの「甲虫装機 ダンセル」を止められる一部のカードに限られ、結果として多くの罠カード(※)は環境に居場所を無くしてしまっています。

(※とはいえ、この時期の「奈落の落とし穴」は純粋にパワーカードだったため、不利を抱えながらも一定の採用率はキープしていました)

 一方、逆に採用率が跳ね上がったのが「サンダー・ブレイク」「デモンズ・チェーン」などのフリーチェーンの罠カード、そして「エフェクト・ヴェーラー」などの手札誘発カードです。

 一旦回り始めれば無類の強さを発揮する【甲虫装機】ですが、代わりに初動に対する妨害、具体的には甲虫装機 ホーネット」を装備した直後の優先権タイミングでの妨害は非常に苦手としているため、これを狙い撃ちにできるフリーチェーンの除去はかなりの威力を発揮します。手札誘発に至っては「ダスト・シュート」などのハンデス以外ではほぼ対処されないため、非常に信頼性の高い妨害札として機能していました。

 特に、安定性に難を抱えていた初期の【甲虫装機】に対しては滅法刺さるカードであり、ゲーム展開によってはこれらの妨害を1~2回差し込むだけで沈黙してしまうことすらあったほどです。

 その他、上記カード群ほどではありませんが「連鎖除外」(※)もサイド要員として流行し、「甲虫装機 ダンセル」を止めるカードとしてはもちろん、何かの間違いでモンスターゾーンに出てきた「甲虫装機 ホーネット」を根絶するカードとしても活躍していました。

(※ただし、「甲虫装機 センチピード」からの展開に対してはむしろ養分になってしまうため、これ1枚のみを伏せるのは逆に危険とも言われていました)

 

【HEROビート】環境上位へ 虫退治専門家?

 こうしたフリーチェーン除去の流行を受け、突如として環境上位に浮上を果たしたのが【HEROビート】(※)と呼ばれるデッキです。

 第6期後期環境における【メタビート】の代表である【次元エアトス】から派生した【光デュアル】から更に派生したアーキタイプであり、大本としては【オーシャンビート】を開祖とするデッキです。そのややこしい成立経緯からも見て取れる通り、この時期の【HEROビート】は【メタビート】としての性質を色濃く引き継いでおり、大まかには「デュアルスパーク」「ヒーロー・ブラスト」「ミラクル・フュージョン」の三種の神器(※)を軸に戦う【準メタビート】に属していました。

(※つまり、現在で言うところの【デュアルHERO】に近いアーキタイプです)

 いずれにしても、構造上フリーチェーンの除去を多用するデッキであったことは間違いなく、必然的に【甲虫装機】の弱点を突きやすいという優位点を備えていました。また、サブウェポンである「超融合」による割り込み不可能な疑似除去も【甲虫装機】に対しては強烈に作用し、とにかく【甲虫装機】のメタデッキとしては極めて有用だったのです。

 もちろん、その代償として純粋なデッキパワーにおいては若干不利がつきやすい弱みを抱えていましたが、主流デッキにメタを張ったデッキ、つまり【メタビート】としては破格の強さであり、環境にマッチしたデッキとして一気に流行が進んでいます。最終的には【次元ラギア】とともに環境を代表するメタデッキにまで成長を遂げ、虫地獄における虫退治専門家として名を馳せていきました。

 とはいえ、デッキの性質上「カードガンナー」の処理をかなり苦手としていたため、いわゆる「カーガンリビデ」型の【甲虫装機】には部分的に不利がついていたという弱みもあります。

 というより、最終的に【甲虫装機】の主流型が「カーガンリビデ」型に収束したのも【HEROビート】の影響によるところが大きく、【甲虫装機】側も【HEROビート】を相当強く意識していたことは間違いありません。

 しかし、【HEROビート】側も同じ頃に「H-C エクスカリバー」を獲得していたこと、また【アライブHERO】への派生といった複数の対抗策によって【甲虫装機】に食らいついており、最終的には制限改訂で直々に規制が入るほどの巨大勢力に成長を遂げています。

 単純にデッキパワーを比べるだけでは到底起こり得ない環境推移であり、まさに【メタビート】の面目躍如たる実績を残していたのではないでしょうか。

 

【中編に続く】

 参入直後の【甲虫装機】についての話は以上です。

 何と言っても「ダンセルショウカン」からの4アド展開は凶悪の一言であり、従来のトップデッキであった【TG代行天使】を押しのけて環境トップに躍り出ています。しかし、この時点ではまだデッキパーツが十分に出揃っておらず、それが結果的にある程度バランスの取れた環境を作り出していたという背景も存在します。

 しかし、当パックから参入を決めた新勢力は【甲虫装機】だけではありません。むしろ単純な凶悪さそのものでは【甲虫装機】をも上回る、疑似先攻1キルデッキとも言われた極悪デッキが完成に至っていたのです。

 中編に続きます。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。