【聖刻】がトップデッキだった頃 トフェニ環境の到来

2019年7月30日

【前書き】

 【第7期の歴史28 ヴェルズ・オピオン地味つよ時代 【ヴェルズラギア】環境入り】の続きになります。ご注意ください。

 「ヴェルズ・オピオン」という強力なメタモンスターの誕生により【ヴェルズラギア】が成立し、やがて2012年環境を代表する【メタビート】にまで成長を遂げることになりました。俗に言う「オピオンゲー」の概念が生まれたのもこの頃であり、参入直後から即戦力としてメタゲームを左右していたことが窺えます。

 新進気鋭のアーキタイプの参戦によって少なからず環境が揺れる中、第7期最終弾となるレギュラーパックの販売を受けて更なる環境の変動が巻き起こることとなります。

 

【聖刻】カテゴリ誕生 6軸デッキの開祖

 2012年2月18日、レギュラーパック「GALACTIC OVERLORD」が販売されました。新たに80種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは5317種類に増加しています。

 第7期の最後を飾るパックにふさわしく、数多くの有力カードを輩出したタイトルです。当時の環境トップである【甲虫装機】を完成させた「甲虫装機 グルフ」はその筆頭ですが、それ以外にも「フォトン・ストリーク・バウンサー」や「迅雷の騎士ガイアドラグーン」などの強力な高ランクエクシーズや、「エレキテルドラゴン」「竜魔人 クィーンドラグーン」を始めとする【ドラゴン族】関連の専用サポートも見逃せません。

 また、2012年上半期における「サイク6枚環境」を引き起こした「ナイト・ショット」など、トーナメントレベルで大々的に影響を及ぼした汎用パワーカードの存在も目を引きます。中でもカードカー・D」は当時の主流デッキでも標準的に3積みされるほど大流行していたため、一時期は規制が懸念されたことすらありました。

 しかし、当パックの参入による最大の出来事は、やはり新カテゴリである【聖刻】の誕生をおいて他になかったのではないでしょうか。

相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚したターン、このカードは攻撃できない。
このカードがリリースされた時、自分の手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を選び、攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。

 上記は【聖刻】の心臓とも言えるカード、「聖刻龍-トフェニドラゴン」の当時のテキストです。「サイバー・ドラゴン」と同様の特殊召喚効果に加え、自身がリリースされた場合にドラゴン族の通常モンスターを「攻守を0にして」リクルートする効果を持っています。

 この「リリース時のリクルート効果」こそが【聖刻】というテーマを象徴する共通効果となっており、これによる展開力を駆使して連続エクシーズ召喚からのワンキルを狙うというのが大まかなコンセプトにあたります。さらに、「聖刻龍-シユウドラゴン」のように【聖刻】をリリースして展開や除去を行うモンスターも充実しているなど、カテゴリ内で完結したワンショットギミックを持つことが最大の魅力であると言えるでしょう。

 補足として、この時に現れていた【聖刻】カードの中でも特に有名と思われるものを下記に抜粋しておきます。

神龍の聖刻印
聖刻龍-アセトドラゴン
聖刻龍-ネフテドラゴン
聖刻龍-トフェニドラゴン
聖刻龍-シユウドラゴン
聖刻龍王-アトゥムス
聖刻神龍-エネアード
召集の聖刻印

 いずれも【聖刻】における主要パーツとなる面々であり、カテゴリ成立当初の時点から既にデッキの完成形が出来上がっていたことが分かります。

 また、パック全体の傾向として高ランクエクシーズや【ドラゴン族】のサポートを多数収録していたことや、直前のストラクチャーデッキで「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」を筆頭に強力な種族サポートの再録が行われていた背景も踏まえる限り、当時の開発側から【聖刻】に対する強いプッシュがあったことは疑いようもありません。

 実際、【聖刻】はその環境入りから早々にトップデッキの仲間入りを果たしており、ある意味では第8期突入に向けて用意された公式の刺客であったとも考えられるのではないでしょうか。

 

アトゥムス+レダメの理不尽展開 実質ライフ3000

 このように、数々の追い風を受けて躍進を遂げることになった【聖刻】ですが、その中でも際立った強さを示していたのはレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」と「聖刻龍王-アトゥムス」の絶大なシナジーに他なりません。

ドラゴン族レベル6モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、デッキからドラゴン族モンスター1体を選び、攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 「聖刻龍王-アトゥムス」は【聖刻】の共通リクルート効果の強化版のような効果を持っており、通常モンスターという縛りなく任意のドラゴン族モンスターを呼び出すことができます。つまり、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」のように強力な効果を持つドラゴン族モンスターをリクルートすることで容易にアドバンテージを取れるため、これを起点として非常に緩い条件でワンキルを狙うことが可能です。

 一例として、下記に代表的なワンキルルートを示します。

・自分フィールドに【聖刻】モンスターが存在し、手札に「聖刻龍-シユウドラゴン」を含む【聖刻】モンスターが2体存在する場合。

 

①:フィールドの【聖刻】モンスターをリリースして「聖刻龍-シユウドラゴン」を特殊召喚する。

 

②:リリースされた【聖刻】モンスターの効果で「レベル6・ドラゴン族の通常モンスター」を特殊召喚する。

 

③:「聖刻龍-シユウドラゴン」で手札の【聖刻】モンスターをリリースしつつ伏せ除去を行う。(相手フィールドに魔法・罠カードがない場合は別のリリース手段を用いる)

 

④:リリースされた【聖刻】モンスターの効果で「レベル6・ドラゴン族の通常モンスター」を特殊召喚する。

 

⑤:「聖刻龍-シユウドラゴン」と「レベル6・ドラゴン族の通常モンスター」で「聖刻龍王-アトゥムス」をエクシーズ召喚し、効果で「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」をリクルートする。(コストは「聖刻龍-シユウドラゴン」)

 

⑥:「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」で「聖刻龍-シユウドラゴン」を蘇生する。(必要であれば「聖刻龍王-アトゥムス」をコストに伏せ除去を行う)

 

⑦:「聖刻龍-シユウドラゴン」と「レベル6・ドラゴン族の通常モンスター」で「聖刻龍王-アトゥムス」をエクシーズ召喚し、効果で「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」をリクルートする。(コストはどちらでも可)

 

⑧:「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」で適当なドラゴン族を蘇生する。

 

⑨:「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」2体で「超弩級砲塔列車グスタフ・マックス」をエクシーズ召喚し、効果で2000ダメージ。

 

⑩:「聖刻龍王-アトゥムス」の上に重ねて「迅雷の騎士ガイアドラグーン」をエクシーズ召喚する。

 

 初動札3枚という軽い条件で総攻撃力8000を優に超えつつ、さらに伏せ除去を2回(※)差し込めるという非常に強力なワンキルルートです。と言っても、現実的には「聖刻龍-シユウドラゴン」を出す段階で罠を踏むケースが多く、見た目ほど妨害耐性が高いわけではありませんが、それを踏まえても2012年当時のゲームバランスにおいては脅威的なコンボであったことは間違いありません。

(※総攻撃力が8000を下回っても良い場合、⑩を削ってさらにもう1回伏せ除去を行うこともできます)

 特筆すべきは何と言っても「超弩級砲塔列車グスタフ・マックス」による絶大な火力であり、素の打点と合わせて5000ものライフを1枚で奪い去ることが可能です。なおかつ、上述のように一旦ルートに入りさえすれば自然とエクシーズ召喚の準備が整うため、「【聖刻】相手では実質ライフ3000スタート」という言葉すら生まれてしまったほどです。

 

「トフェニケア」の概念 モンスターを置かないプレイング

 こうした【聖刻】のワンキル展開への対抗策として生み出されたのが「トフェニケア」の概念でした。

 これは言葉通り「聖刻龍-トフェニドラゴン」の特殊召喚をさせないことを意識した立ち回りのことであり、具体的には「自分からモンスターを置かないプレイング」のことを指します。

 基本的に、【聖刻】の展開パターンはフィールドに【聖刻】モンスターが存在することを前提としているため、これを達成できる聖刻龍-トフェニドラゴン」「聖刻龍-アセトドラゴン」のいずれかが無ければ身動きを取ることができません。なおかつ、「聖刻龍-アセトドラゴン」の方は召喚権を消費する関係で展開の線が細くなりやすく、結果的に多くのシチュエーションにおいて「聖刻龍-トフェニドラゴン」に初動を頼ることになります。

 言い換えれば、相手フィールドにモンスターが居ない場合は大幅に動きを制限されるということでもあり、逆に【聖刻】を相手にする上では「あえてフィールドを空けておく」ことが疑似的なメタとして機能するのです。

 もちろん、「聖刻龍-トフェニドラゴン」を封じるだけで勝てるほど【聖刻】も甘い相手ではありませんが、それでも多少プレイングを意識するだけで有効な対策が取れる以上、これをケアしない理由はありません。同環境に【甲虫装機】という「トフェニケア」に似た対策を要求されるデッキが存在していたこともこの流れを後押しし、やがては2012年環境における代表的な定石として浸透していくことになりました。

 さらに、この影響で【ラギア】系におけるジュラック・グアイバ」の採用率が急落するといった出来事も起こっています。

 フィールドを空けておくことが環境全体で一般化していった結果、「ジュラック・グアイバ」のリクルート効果が機能しづらい状況になったことが主な理由です。元々【HEROビート】に弱いことがネックとなっていたカードではありましたが、これ以降はそもそも実用レベルに届くかすら危ういラインになってしまったため、エヴォルカイザー・ラギア」の召喚は「レスキューラビット」に一任する構築が主流になっていきました。

 ちなみに、この空いたスペースに入ってきたのが「ヴェルズ・サンダーバード」や「ヴェルズ・カストル」などの各種【ヴェルズ】モンスターでした。前者は自発的にフィールドを離れられることから、後者はすみやかに「ヴェルズ・オピオン」になれることから、それぞれ採用に至ったという経緯です。

 

「連鎖除外」の流行 レダメ根絶ウイルス

 ともあれ、【聖刻】の参戦は当時の環境に対して多大な影響をもたらすことになりましたが、これによってサイドデッキレベルでの【聖刻】対策が大々的に進んでいったわけではありません。

 というのも、【聖刻】は基本的に「聖刻龍王-アトゥムス」もしくはその直前を止めることで展開の起点を潰せるため、「奈落の落とし穴」などの汎用罠だけでも十分にメタを張ることができたからです。よって「生贄封じの仮面」などの特別なメタカードを用意する必要性はさほどなく、結果的に環境のヘイトをそれほど集めずに済んだという経緯が存在します。

 とはいえ、流石に全くのノーマークということはなく、これ以降は「連鎖除外」がサイドカードとして流行(※)していくことになります。

(※より正確には、流行というより【甲虫装機】メタの流用という表現が適切です)

 本来、「連鎖除外」は攻撃力1000以下のモンスターにしか対応しないピンポイントメタの一種ですが、【聖刻】のリクルート効果は攻守を0にしての特殊召喚であるため、ほぼ全ての展開ルートでこれに引っかかることは避けられません。頼みの「聖刻龍-シユウドラゴン」も特殊召喚に成功したタイミングでリクルート効果が挿まれてしまう(※)以上、やはり「連鎖除外」の対策としては不十分です。

(※ただし、【聖刻】以外をリリースして召喚した場合などは先に除去を当てることができます)

 つまり、【聖刻】側は基本的に「サイクロン」や「ナイト・ショット」などの伏せ除去カードによってしか「連鎖除外」を見ることができなかったということであり、なおかつこれを踏んでしまうと最悪デッキコンセプトすら崩壊してしまうため、セットカードを残した状況でワンキルに向かうことには重いリスクが伸しかかるようになりました。当時の【聖刻】で「サイクロン」フル投入構築(※)が主流となったことにもこうした背景があり、これによって一周回って伏せの信頼性が下がるという逆転現象も起こっています。

(※最終的には「ナイト・ショット」も3積みされるケースが多くなりました)

 また、ベターな対抗策として「エレキテルドラゴン」と「エメラルド・ドラゴン」を1枚ずつ散らすなど、メインデッキの段階から「連鎖除外」を強く警戒した構成が取られるようになっています。さらに、プレイング面においても「連鎖除外」の影響は表れており、具体的には聖刻龍王-アトゥムス」のリクルート効果を使用する際、「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」を呼び出す前に「聖刻龍-シユウドラゴン」で様子見を入れる(※)など、新たな定石も浸透していきました。

(※実際、「アトゥムスの段階でも伏せが残っている≒奈落でも警告でも強脱でもないカード」ということになるため、その正体が「連鎖除外」であるケースは意外に少なくありません)

 いずれにしても、当時の【聖刻】にとって「連鎖除外」が不倶戴天の敵であったことは間違いなく、【聖刻】を使用する上では最も注意すべきカードの1枚として警戒されていくことになりました。

 

【後編に続く】

 2012年における純構築の【聖刻】については以上です。

 カテゴリそのものが持つ優れた展開能力はもちろん、当時は無制限カードであった「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」によるワンキル性能の高さも大きな強みとなり、やがては【甲虫装機】に次ぐ勢力を築き上げるに至っています。この時期に前後する数々の関連サポートカードによるテコ入れも含め、まさに開発側からの期待を一身に受けていたカテゴリであったと言えるでしょう。

 しかし、この時に【聖刻】が残した実績は純構築としてのものだけではありません。リリースを軸に動くというコンセプトの都合上、ある召喚法と抜群のシナジーを発揮するテーマでもあったからです。

 後編に続きます。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。