餅カエルが禁止カードになった理由

【前書き】

 「餅カエル」というカードが存在します。

餅カエル(もちかえる)

エクシーズ・効果モンスター
ランク2/水属性/水族
攻撃力2200/守備力0
水族レベル2モンスター×2
①:お互いのスタンバイフェイズにこのカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキから「ガエル」モンスター1体を特殊召喚する。
②:1ターンに1度、相手がモンスターの効果・魔法・罠カードを発動した時、自分の手札・フィールドの水族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。その発動を無効にし破壊する。その後、破壊したカードを自分フィールドにセットできる。
③:このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 第9期出身カード特有の「強いことしか書いていないカード」の一党であり、その次世代的カードパワーを武器に当時の【ガエル】を環境に押し上げたモンスターです。無効にしたカードを奪い取る独特な万能カウンター効果、毎ターンのリクルート効果、墓地送り時のサルベージ効果と制圧、展開、リソース確保の3種の神器を取り揃えており、純粋なカタログスペックに関しては2022年現在の水準においても頭一つ抜けたものがあります。

 また、「バハムート・シャーク」と組み合わせたギミック、いわゆる「バハシャ餅」ギミックも当時としては非常に強力で、結果として誕生から間もない2017年1月改訂において制限カード指定を下されていました。

 その後はルール変更の影響もあって段階を踏みつつ無制限カードにまで釈放されていましたが、現行ルールに移行した2020年4月には先回り規制(※)の一環で再び制限カード行きとなるなど、開発側からも一定の警戒を向けられているカードであることが窺えます。

(※類似のケースとしては「発条空母ゼンマイティ」「六武の門」などがあります)

 とはいえ、「餅カエル」にせよ「バハシャ餅」ギミックにせよ第11期現在においては第9期当時ほどの活躍は望めなくなっており、「発条空母ゼンマイティ」などと同じく環境で見かける機会そのものは限定的になっていました。

 しかし、それから2年以上が経過した2022年7月改定において「餅カエル」は突如禁止カード行きとなり、その現役時代を終えることになりました。

 この記事では、そんな「餅カエル」がなぜ禁止カード指定を受けるに至ったのかについて解説いたします。

 

【スプライト】での活躍 先攻制圧パーツ筆頭

 一言で結論を言ってしまうと、「見かける機会そのものは限定的になっていた」という重大な前提が崩れてしまったことが規制の理由であると言えます。

 発端となったのは、2022年4月23日販売のレギュラーパック「POWER OF THE ELEMENTS」から現れた新テーマ【スプライト】の存在です。

 【スプライト】とは大まかにはレベル2、ランク2、リンク2を中心としたギミックを内包するテーマであり、それらがフィールドに存在することを起点として各種展開、制圧などを行っていくという特徴があります。詳しいデッキの動きなどは本題と逸れるためここでは割愛しますが、初動の安定感、手札誘発耐性、デッキスロットの自由度など全てにおいて高水準なパワーを持つ、いわゆる次世代テーマとでも呼ぶべき存在です。

 そんな【スプライト】の大きな欠点こそが展開過程でかかる「レベル2・ランク2・リンク2のモンスターしか特殊召喚できない」という制約(※)であり、これにより一定のバランス調整が保たれているかに見えました。

(※「ギガンティック・スプライト」の制約はなぜかお互いに及ぶため、「原始生命態ニビル」などを無力化できるというメリットにもなっていました)

 つまるところ、そうした制約を台無しにしていたのが「餅カエル」の存在だったというわけです。

 前書きで触れた通り「餅カエル」は素材縛りがやや厳しいことがネックとなるカードですが、【スプライト】においては「ギガンティック・スプライト」から「鬼ガエル」をリクルートすることで容易にエクシーズ素材を調達(※)できたため、実質的には任意のレベル2モンスター2体という緩い条件から「餅カエル」に繋げることができました。

(※「鬼ガエル」で「粋カエル」を墓地に落とし、「鬼ガエル」「ギガンティック・スプライト」で「スプライト・エルフ」をリンク召喚→「鬼ガエル」蘇生+「粋カエル」自己蘇生という流れ)

 そして先述したように【スプライト】はレベル2を中心としたデッキであり、この条件を満たすことも難しいことではありません。なおかつ、悪いことに【スプライト】自体のテーマとしてのパワーも次世代水準の調整が施されていたことは既に述べた通りであり、これらの要素が絡み合うことで「餅カエル」は全盛期以上に理不尽なパワーを獲得するに至ってしまったのです。

 

スプライトエルフによる再利用体制 無限餅システム

 さらに、この「餅カエル」の制圧力に拍車をかけていたのが「スプライト・エルフ」による強固な再利用体制でした。

スプライト・エルフ

リンク・効果モンスター
リンク2/炎属性/雷族/攻撃力1400
【リンクマーカー:左下/右下】
レベル2・ランク2・リンク2のモンスターを含むモンスター2体
このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
このカードはリンク召喚されたターンにはリンク素材にできない。
①:このカードのリンク先のモンスターは相手の効果の対象にならない。
②:自分・相手のメインフェイズに、自分の墓地のレベル2モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。相手フィールドにモンスターが存在する場合、代わりにランク2またはリンク2のモンスター1体を対象とする事もできる。

 自身のリンク先に対象耐性を与える1つ目の効果、お互いのメインフェイズにレベル2モンスター+αを蘇生する2つ目の効果を持っています。一見すると【スプライト】の専用サポートであるかのような顔をしておきながら、実際のところ普通に汎用リンク2としても多少おかしな性能をしているカードですが、重要なのは「ランク2のモンスターを蘇生することもできる」という部分です。

 これにより餅カエル」を耐性付与で守りながら万能カウンターで相手のカードを無効にして奪い取り、自身のサルベージ効果でリソースを回復したのち、蘇生効果で再び「餅カエル」を構えるという強烈な制圧布陣を手軽に敷くことができました。

 加えて戦闘破壊に対しても「餅カエル」自身から「魔知ガエル」をリクルートすることでケア可能という盤石ぶりであり、ただでさえ限られる「餅カエル」への回答がさらに狭まってしまいます。これについては「魔知ガエル」がサイドに下げられるケースも増えていたため一概に言える話ではなくなっていましたが、何にせよこの布陣を作るために必要な札の少なさ(※)を鑑みればあまりにもお手軽すぎたと言うほかありません。

(※「増殖するG」が初動になってしまう程度にはお手軽でした)

 もちろん、実戦においては「餅カエル」だけでなく「スプライト・レッド」「スプライト・キャロット」「スプライト・スターター」「スプライト・スマッシャーズ」などの【スプライト】固有の制圧手段も追加で設置されることになるため、盤面の処理はより一層困難になってしまいます。性質上、完全に身動きが取れなくなるタイプの制圧でこそないものの、初動面も含めた総合的な対処の難しさという点においては近年でも屈指のものがあり、それを裏付けるように一時期は【スプライト】が環境を独占(※)していたこともありました。

(※最近は【ティアラメンツ】が勢力を伸ばしてきていたため、実際には1強ではなくなっていました)

 よってその中核となっていた「餅カエル」に問題があることは明らかであり、これに対する規制は極めて妥当な話だったのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 「餅カエル」についての話は以上です。

 誕生当時から【ガエル】や【HERO】を中心に実績を残し、それから間を置かず制限行きとなった曰くつきのカードでしたが、時代が進んだ2022年においてもその潜在能力は健在であり、あえなく禁止カード指定を宣告されることになりました。【スプライト】にとってはメインギミックが無傷ということもあり代わりの制圧手段を用意して命脈を繋ぐことはできますが、やはり「餅カエル」の担っていた役割は大きく、一定の弱体化は避けられない(※)と言えるでしょう。

(※しかし、例によって餅カエル」を失った程度で止まるほど繊細なデッキではなかったらしく、現在は【ティアラメンツ】との2強環境を形成しつつあります)

 個人的な感想としては、【スプライト】への規制はいいとして【ティアラメンツ】がノータッチだったことに少々不安を覚えてしまうところですが……。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史