エキスパートルール 生け贄召喚の導入とOCG最初の制限改訂
【前書き】
【第1期の歴史3 遊戯王初期ルールの滅茶苦茶バランス 高攻撃力至上主義の札遊び】の続きとなります。ご注意ください。
遊戯王OCG開始直後から続いていた「最上級モンスター至上主義」の環境。攻撃力の高いモンスターを召喚した方が勝つ、とまで言われた戦略性に乏しいゲームでしたが、ある出来事により、そんな遊戯王OCGに土台から激震が走りました。
エキスパートルールの導入です。
【ルールの革命 エキスパートルールの導入】
1999年5月5日、公式ルールと並行して「エキスパートルール」と呼ばれるルールが導入(※)されました。しかし、公式ルールが消滅した訳ではなく、あくまでもこの時点では二つ目の新たなルールという扱いとなっています。
(※大変恐縮ですが、このエキスパートルールが公表された際の最初の情報源については判明しておりません。記憶が正しければ「公式ガイドスターターブック」内には記載されていたはずですが、手元に資料がなく、確認が取れない状況です。ご容赦ください)
とはいえ、公認大会などでは「エキスパートルール」が採用されていた背景もあり、手前勝手で恐縮ですが今後はそちらのルールを前提に解説させていただきます。
さて、具体的にどのようなルールだったのかということですが、これまでとは大きく二点の違いがありました。
それは「生け贄召喚の導入」と「魔法・罠カードの使用制限枚数の撤廃」です。
特に重要だったのが生け贄召喚で、レベル5以上のモンスターを召喚する場合、そのレベルに応じて生け贄となるモンスターが要求されるようになりました。
レベル5・6の上級モンスターは1体、レベル7以上の最上級モンスターは2体です。これは額面以上に重いコストであり、単純なアドバンテージの損失という意味だけでなく、フィールドに生け贄を揃えるまでのテンポ・アドバンテージ、更には構築段階で下級モンスターに一定数の枠を割かれるなど、様々な見えないコストがかかります。
しかし、これによって最上級モンスターのカードパワーに調整が入ると共に下級モンスターの地位が向上し、結果的に下級から最上級までの全てのモンスターに役割が生まれる形となりました。
これまでの常識を覆す大きなルール改革であり、当時は革命的とすら言われて驚きと共に受け入れられました。遊戯王OCGのゲーム性は一気に拡大し、デッキの構築にも工夫の余地が生まれていく形となります。
対して、魔法・罠カードの使用制限枚数の撤廃については、ごく小さな影響に留まりました。
元々、当時の魔法・罠は実戦級のカードが限られており、1ターン中に何枚も発動するシチュエーションはそれほど多くありませんでした。はっきりとした意味を持っているとは言えない曖昧なルールであり、このルールの削除は妥当な措置と言えるでしょう。
もしくは、将来を見据えた長期的な目線でのルール変更だった可能性もあります。当時あまり多用されていなかった魔法・罠カードの地位を向上させる狙いがあったのかもしれません。
大幅に弱体化した最上級モンスター達
公式ルールとエキスパートルールの大きな違いについては以上です。
では、そんなエキスパートルールの導入によって、環境に一体どのような変化が生まれたのでしょうか?
もちろん一番の打撃を受けたのは、これまで幅を利かせていた最上級モンスター達です。
生け贄となるモンスターが居なければ召喚することすらできなくなったため、最上級モンスターが手札に固まると身動きが取れなくなるリスクが生まれました。
よってデッキへの投入率から考え直す形となり、とりあえず詰め込めばいいという今までの理屈は通じなくなりました。必然的にゲームは下級モンスターを中心としたものに移り変わり、隙を見て生け贄召喚を行うという戦略が主流になっていきます。
また、モンスターの平均打点が引き下げられたことで、相対的に装備魔法カードの立場がやや改善された時期でもありました。
しかし、特定のモンスターしか装備できないという欠点は如何ともし難く、やはり実戦級とはとても言えないカードとなっていました。
【ルールの革命その2 制限改訂の導入】
さらに、これと時を同じくして遊戯王OCGにおける最初のリミットレギュレーション(※)が制定されています。
(※これに関しては情報が正確ではない可能性があります。詳しくは下記の関連記事の通りです)
禁止カード(デッキに入れられないカード)や準制限カード(デッキに2枚まで入れられるカード)の概念はまだなく、制限カード(デッキに1枚だけ入れられるカード)のみ存在していました。
指定されたカードは以下の3枚です。
・「ブラック・ホール」
・「落とし穴」
いずれも除去カードであり、当時の開発側が除去を危険視していたことが分かる改訂です。この時代のゲームはモンスター同士の殴り合いが主体の環境であり、それを崩すカードは良しとされなかったのかもしれません。
当時の強力な除去カードが軒並み規制されたことにより、大幅な弱体化を受けた最上級モンスターの地位はある程度守られることになりました。
召喚の難易度が上がった反面、盤面制圧の信頼性も高まり、同じ最上級モンスター以外には突破されない少数精鋭のフィニッシャーとして活躍していくことになります。
とはいえ、実際のゲームは泥臭い下級モンスターの殴り合いが中心となっていたため、一度も召喚されずにゲームが終わってしまうことも少なくありませんでした。
【当時の環境 1999年5月5日】
エキスパートルールの導入により、下級モンスター、上級モンスター、最上級モンスター、それぞれの価値が大幅に上下しています。
これまで四番手であった「カース・オブ・ドラゴン」は、生け贄が1体で済むことから主役の座を獲得しました。比較的簡単に出せる高攻撃力モンスターであり、ゲームの流れを左右するに足る存在として存在感を示していきます。
しかし、三番手の「暗黒騎士ガイア」は「青眼の白龍」「ブラック・マジシャン」に出番を奪われ、活躍の機会は一気に失われていきました。
それだけでなく、最上級モンスター自体の採用枚数も低減し、「青眼の白龍」「ブラック・マジシャン」でさえも両種合わせて2~5枚程度に抑えられるようになりました。
対照的に、下級モンスターはデッキの半数近くの割合を占めるようになり、ゲームでの出番が最も多いモンスターとなっていきます。アタッカーラインは1200が基本で、攻撃力1500の「ワイルド・ラプター」が主力アタッカーとして活躍した時期でもありました。
その中でも特に重要性を増していったのは、「ホーリー・エルフ」「ハープの精」などの壁モンスターの存在です。
恐らく当時のルール改訂で最も強化されたカードの一つであり、「同じ下級モンスターに突破されない」という事実が何倍もの意味を持つようになりました。
それどころか、上級モンスターである「カース・オブ・ドラゴン」にすら戦闘破壊されないため、時間稼ぎ要因としてはこれ以上ないほど最高の仕事をこなします。
展開手段に乏しい当時の環境において生け贄召喚を成功させうる数少ない手段の一つとなり、これで耐えてから「青眼の白龍」などに繋げる動きは非常に強力な戦法でした。
同じ理由で「光の護封剣」もゲームを左右するカードの1枚として数えられるようになっています。不利な状況をしのぐカードとしても、反撃の芽を潰すカードとしても優秀なカードと評価され、多くのプレイヤーに愛用されました。
また、「死者蘇生」も単純な蘇生カードではなく、召喚権を使用せずに生け贄要因を用意するカードとしても重宝されることになります。
更に、壁モンスターへの対策として、「地割れ」も注目を集めました。デメリットであった「攻撃力の一番低いモンスターしか除去できない」という点も、攻撃力の低い壁モンスターを確実に狙い打てるという意味で逆にメリットになり得たからです。
しかし、それ以外にはこれといって壁モンスターに対処する術がなく、1体の壁モンスターを前にアタッカーが立ち往生するといったシチュエーションも散見されるなど、全体的に見れば壁モンスターの理不尽な強さ(※)が表に出ていた時代でもありました。
(※詳しくは動画をご覧ください)
【まとめ】
以上がエキスパートルールの導入により起こった大まかな環境の変化です。
新ルールによって様々なカードに光が当たるようになり、この時から遊戯王OCGは徐々にカードゲームとして成熟していくことになります。
とはいえ、コンボやギミックを用意するほどの自由度はなく、当時組めるデッキは単体で強いカードを上から順に積んだ【グッドスタッフ】だけという状況でした。(当時は【グッドスタッフ】という呼び方は広まっていませんでしたが、便宜上【グッドスタッフ】と呼称しています)
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
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