ゼンマイシャーク来日 【ゼンマイ】が壊れテーマと化した瞬間
・前書き
・【ゼンマイ】第2の全盛期 ハンデスからビートダウンへ
・コートオブアームズが当たり前のように使われる狂気
・当時の【ゼンマイ】の主な展開ルート
・【ゼンマイ】の弱点 デッキリソースを消耗するリスク
・手札誘発は天敵 「見えていない脅威」筆頭
・後編に続く
【前書き】
【第8期の歴史7 魔界発現世行きデスガイド参戦 最初から準制限カードで来日】の続きとなります。特に、この記事では前中後編の中編の話題を取り扱っています。ご注意ください。
【ゼンマイ】第2の全盛期 ハンデスからビートダウンへ
「EXTRA PACK 2012」から現れた二人目の大型ルーキー、それは「ゼンマイシャーク」と呼ばれるモンスターでした。
自分フィールド上に「ゼンマイ」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚された時、このカードを手札から特殊召喚できる。
また、1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●このカードのレベルをエンドフェイズ時まで1つ上げる。
●このカードのレベルをエンドフェイズ時まで1つ下げる。
カード名の通り【ゼンマイ】カテゴリに属するモンスターであり、【ゼンマイ】モンスターの召喚・特殊召喚に反応して手札から特殊召喚する1つ目の効果、自身のレベルを1つ分上下させる2つ目の効果を持っています。いずれも直接アドバンテージを生み出す効果ではないため、「発条空母ゼンマイティ」や「ゼンマイハンター」などに比べると地味な性能に見えなくもないカードです。
しかし、実際のところ「ゼンマイシャーク」は極めて優秀な【ゼンマイ】サポートであり、【ゼンマイ】というカテゴリはこのカードの参戦によって完成したと言っても過言ではありません。むしろ完成を通り越して壊れテーマと化していた部分すらあり、大人しい外見に反して非常に恐ろしいポテンシャルを秘めているカードです。
というのも、従来の【ゼンマイ】はカテゴリ内で完結した展開ギミックを持ち合わせておらず、唯一「発条空母ゼンマイティ」のみがその穴を補っているという状況に置かれていました。かつての【ゼンマイ】で「俊足のギラザウルス」などのカテゴリとは無関係なカードが使われていたことにもこうした背景があったのですが、言い換えれば【ゼンマイ】は「発条空母ゼンマイティ」が無ければ何もできない(※)ほどに「発条空母ゼンマイティ」に依存し切った歪なカテゴリだったのです。
(※実際、「発条空母ゼンマイティ」規制後の【ゼンマイ】はほぼ息をしていない状況でした)
もちろん、【ゼンマイ】にも「ゼンマイマジシャン」や「ゼンマイネズミ」などの優秀な展開要員は所属していますが、これらはいずれも単独では上手く機能しないという弱みがあります。よって「リビングデッドの呼び声」などの蘇生カードを絡めて無理矢理に展開を広げるしかなく、まさに「歯車が噛み合っていない」状態だったことは否めません。
ところが、ここで話を戻して「ゼンマイシャーク」に目を向けると、これが上記の問題をおおむね解決するに足るカードであることが分かります。やっていること自体は単に召喚権を使用せずにモンスターを出しているだけですが、これがそのまま「ゼンマイマジシャン」らの「単独では機能しない」という欠点を埋めることに繋がるからです。
コートオブアームズが当たり前のように使われる狂気
このように、「ゼンマイシャーク」の来日は当時の【ゼンマイ】にとって強烈な起爆剤となり、間もなく環境屈指のパワーデッキとして名を馳せていくことになります。
その展開力は「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」などのピーキーなカードが当たり前のようにメインギミックに組み込まれるほどで、さながらビートダウンの皮を被ったコンボデッキのようですらあったアーキタイプです。
レベル4モンスター×3
このカードが特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上の全てのエクシーズモンスターの効果を無効にする。
また、自分のメインフェイズ時、このカード以外のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。エンドフェイズ時まで、このカードは選択したモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。
「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
一見する限り、まともに使いこなすのは難しいと察してしまう類のカードですが、「ゼンマイシャーク」を得た【ゼンマイ】であれば十全に使いこなすことができます。主な用途(※)は「発条空母ゼンマイティ」の効果を同一ターン中に再使用することであり、実質的には2枚目以降の「発条空母ゼンマイティ」として声がかかった格好です。
(※場合によっては「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」の二重縛りに使うケースもあります)
つまり、「【ゼンマイ】モンスター1体をリクルートする」という効果を使うためにレベル4モンスター3体を用意するギミックを大真面目に実戦投入していたということであり、冷静に考えると非常に型破りな発想と言わざるを得ません。カード3枚を使ってカード1枚を呼び出すという頭がおかしくなりそうなコンボであり、むしろ効率を度外視してでも「発条空母ゼンマイティ」を経由することを最優先する辺りに、【ゼンマイ】の爆発的な展開力と融通の利かなさが同時に表れているのではないでしょうか。
こうした【ゼンマイ】特有のピーキーさによって発掘されたマイナーカードは多く、中でも「フォトン・バタフライ・アサシン」は上記の「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」に勝るとも劣らない重要ポジションに収まっています。
レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを表側攻撃表示にし、その攻撃力を600ポイントダウンする。
主に「ゼンマイマジシャン」でリクルートした「ゼンマイネズミ」を攻撃表示にするために使うカードであり、実質的には条件付きの蘇生カードのように振る舞うランク4エクシーズです。もちろん効率そのものは「発条空母ゼンマイティ」に遠く及びませんが、逆に「発条空母ゼンマイティ」を温存したまま「発条機雷ゼンマイン」+「ゼンマイマジシャン」という盤面(※)を構築できるため、間接的に「始祖の守護者ティラス」のような切り込み要員としても機能する強みがありました。
(※当然、「発条空母ゼンマイティ」を使う場合はワンキルルートの起点も務めます)
また、状況によっては「発条機甲ゼンマイスター」で裏にした各種エクシーズモンスターを起こして効果を連発する(※)といった使い道をすることもあり、全体的な使用頻度では「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」を上回っていたカードです。本来の用途とは全く異なる形で脚光を浴びた格好であり、どのようなカードであれ活躍の可能性は秘められているという遊戯王OCGのゲーム性を示しているカードだったと言えるでしょう。
(※「No.61 ヴォルカザウルス」などの除去効果持ちを再利用する機会はそれなりに多いです)
当時の【ゼンマイ】の主な展開ルート
当時の【ゼンマイ】で使われていた展開ルートのうち、代表的なものを下記に示します。
①:「ゼンマイマジシャン」(A)を召喚する。
②:①に反応し、手札から「ゼンマイシャーク」を特殊召喚する。
③:②に反応し、「ゼンマイマジシャン」(A)で「ゼンマイマジシャン」(B)をリクルートする。
④:「ゼンマイシャーク」の効果で自身のレベルを3にする。
⑤:④に反応し、「ゼンマイマジシャン」(B)で「ゼンマイネズミ」をリクルートする。
⑥:「ゼンマイマジシャン」2体で「フォトン・バタフライ・アサシン」をエクシーズ召喚する。
⑦:「フォトン・バタフライ・アサシン」で「ゼンマイネズミ」を攻撃表示にする。
⑧:「ゼンマイネズミ」で「ゼンマイマジシャン」(B)を蘇生する。
⑨:「ゼンマイシャーク」と「ゼンマイネズミ」で「発条空母ゼンマイティ」をエクシーズ召喚する。
⑩:「発条空母ゼンマイティ」で「ゼンマイハンター」をリクルートする。
⑪:⑩に反応し、「ゼンマイマジシャン」(B)で「ゼンマイマジシャン」(C)をリクルートする。
⑫:「ゼンマイハンター」で「発条空母ゼンマイティ」をコストにハンデスする。
⑬:⑫に反応し、「ゼンマイマジシャン」(C)で「ゼンマイラビット」をリクルートする。
⑭:「ゼンマイマジシャン」2体で「ダイガスタ・エメラル」をエクシーズ召喚する。
⑮:「ダイガスタ・エメラル」で「発条空母ゼンマイティ」を含むモンスター3体を回収し、1ドローする。
⑯:「ゼンマイハンター」と「ゼンマイラビット」で「発条空母ゼンマイティ」をエクシーズ召喚する。
⑰:「発条空母ゼンマイティ」で「ゼンマイネズミ」をリクルートする。(※コストは「ゼンマイハンター」)
⑱:「ゼンマイネズミ」で「ゼンマイハンター」を蘇生する。
⑲:「ゼンマイハンター」で「発条空母ゼンマイティ」をコストにハンデスする。
⑳:「ゼンマイネズミ」と「ゼンマイハンター」で「発条機雷ゼンマイン」をエクシーズ召喚する。
上記は【ゼンマイ】の基本展開である「マジシャンシャーク」ルートであり、その中でも「ゼンマイハンター」を使用するタイプ(※)に当たります。2ハンデス+1ドローに加えて「発条機雷ゼンマイン」「フォトン・バタフライ・アサシン」「ダイガスタ・エメラル」が場に残る強力な先攻展開であり、第8期どころか第9期以降の水準と比べても見劣りしない制圧力です。
(※その他、「魔界発現世行きバス」を絡めて3ハンデスを狙うロマンルートなども考案されていました)
よく誤解されがちですが、これは【ゼンマイハンデス】のように手札破壊による事故勝ちを狙っているわけではなく、純粋にアド差をつけるためという側面が強い先攻展開です。ここに付随する2ハンデス+1ドローはあくまでもアドバンテージ・ゲームを有利に進めるためのものであり、極端に言えば盤面を返されることは前提に入っている布陣とも言えます。
もちろん、「ダイガスタ・エメラル」が生き残ったままターンが返ってくればほぼ勝ち確の状況となるため、先攻制圧としても十分な威力が見込めるプランです。逆に相手視点では多少無理矢理にでも「ダイガスタ・エメラル」の処理に動かなければならず、ハンデスも相まって非常に苦しい状況に追い込まれることになります。
弱点はやはり後攻スタートの場合に「ゼンマイハンター」が腐りやすいという問題で、下記の「ゼンマイウォリアー」型に比べて柔軟性の面で劣っていることは否めません。一応、「発条空母ゼンマイティ」を自発的に墓地に落とせることによって成立する展開ルートもありますが、「ゼンマイウォリアー」ほどの応用性はないというのが実情です。
一方で、「ゼンマイハンター」や「ゼンマイマジシャン」の2枚目以降が手札に来た場合もルートが瓦解せずに済むため、先攻盤面の強さが比較的安定しやすいという利点もありました。流石に両方を同時に引いてしまった場合は諦めて別のルート(※)を取るしかありませんが、片方であれば⑩~⑪の手順の際に素引きした方を「発条空母ゼンマイティ」で呼び出すことでカバーできます。
(※この場合、「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」+「ゼンマイラビット」の盤面を目指します)
①:「魔界発現世行きデスガイド」を召喚し、リクルート効果から「発条空母ゼンマイティ」をエクシーズ召喚する。
②:「発条空母ゼンマイティ」で「ゼンマイマジシャン」(A)をリクルートする。
③:②に反応し、手札から「ゼンマイシャーク」を特殊召喚する。
④:③に反応し、「ゼンマイマジシャン」(A)で「ゼンマイマジシャン」(B)をリクルートする。
⑤:「ゼンマイシャーク」の効果で自身のレベルを3にする。
⑥:⑤に反応し、「ゼンマイマジシャン」(B)で「ゼンマイウォリアー」をリクルートする。
⑦:「ゼンマイウォリアー」で「ゼンマイシャーク」のレベルを4にする。
⑧:「ゼンマイマジシャン」2体と「ゼンマイウォリアー」で「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」をエクシーズ召喚する。
⑨:「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」で「発条空母ゼンマイティ」の効果をコピーし、「ゼンマイネズミ」をリクルートする。(※コストは「ゼンマイウォリアー」)
⑩:「ゼンマイネズミ」で「ゼンマイウォリアー」を蘇生する。
⑪:「ゼンマイウォリアー」で「ゼンマイネズミ」のレベルを4にする。
⑫:「ゼンマイネズミ」と「ゼンマイシャーク」と「ゼンマイウォリアー」で「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」をエクシーズ召喚する。
一方、こちらは「魔界発現世行きデスガイド」からの「発条空母ゼンマイティ」を起点に動くパターンで、なおかつ「ゼンマイウォリアー」を使用するタイプの展開ルートです。先攻1ターン目に出てくる「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」の強さはもはや言葉にするまでもなく、この後ろに罠を置ければ強固な布陣を敷くことができます。
また、展開の過程で「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」を立てているため、返しのターンに場が残っていれば「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」の二重縛りが狙えるのも強みです。これが決まればほとんどの状況でそのままゲームエンドに持ち込めますが、「強制脱出装置」などのフリーチェーン除去で場を崩される危険(※)もあるため過信はできません。
(※特に罠宣言に除去を合わせられると返しの反撃で酷い目に遭う可能性が高いです)
上記の「ゼンマイハンター」型と比較した場合、盤面の制圧力では大きく上回っている反面、「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」を処理されると途端に場が弱くなってしまうという特徴があります。最悪なのが宣言すべきカードの種類を外してしまった際の裏目であり、代表的なところでは【海皇水精鱗】に対する魔法宣言などがこれに当たります。
まとめると、どちらの型にもメリット、デメリットが存在するため、一概にどちらが強いと言い切ることはできません。一応、理屈の上では両方のギミックを仕込むことも不可能ではありませんが、その場合メイン枠はともかくエクストラ枠が相当苦しくなるため、貴重な汎用エクシーズ枠を更に切り詰めなければならないのがネックです。
①:「ゼンマイマジシャン」(A)を召喚する。
②:①に反応し、手札から「ゼンマイシャーク」(A)を特殊召喚する。
③:②に反応し、「ゼンマイマジシャン」(A)で「ゼンマイマジシャン」(B)をリクルートする。
④:「ゼンマイシャーク」(A)の効果で自身のレベルを5にする。
⑤:④に反応し、「ゼンマイマジシャン」(B)で「ゼンマイマジシャン」(C)をリクルートする。
⑥:「ゼンマイマジシャン」(A)(B)で「発条機甲ゼンマイスター」をエクシーズ召喚する。
⑦:⑥に反応し、手札から「ゼンマイシャーク」(B)を特殊召喚する。
⑧:⑦に反応し、「ゼンマイマジシャン」(C)で「ゼンマイシャーク」(C)をリクルートする。
⑨:「ゼンマイシャーク」(B)の効果で自身のレベルを5にする。
⑩:「ゼンマイシャーク」(A)(B)で「No.61 ヴォルカザウルス」をエクシーズ召喚し、除去効果を使用する。
⑪:「ゼンマイマジシャン」(C)と「ゼンマイシャーク」(C)で「フォトン・バタフライ・アサシン」をエクシーズ召喚する。
⑫:「発条機甲ゼンマイスター」と「フォトン・バタフライ・アサシン」で「No.61 ヴォルカザウルス」をひっくり返す。
⑬:「No.61 ヴォルカザウルス」の除去効果を使用し、その上に「迅雷の騎士ガイアドラグーン」を重ねてエクシーズ召喚する。
もちろん、【ゼンマイ】が持つ展開ルートは先攻展開だけではなく、後手からのワンキルに特化した展開ルートも多数考案されています。
上記は「マジシャンシャークシャーク」展開からの派生先の1つである「ヴォルカヴォルカ」展開と呼ばれるルートです。【ゼンマイ】が苦手とする高打点モンスターをバーン効果込みで2体まで処理でき、さらに貫通持ちである「迅雷の騎士ガイアドラグーン」を立てられるため、状況次第では盤面の有利不利を無視してワンキルを狙いにいけるという強みがありました。
他にも、「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」を立てて「冥府の使者ゴーズ」などをケアするルートや、「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」を経由することで「交響魔人マエストローク」や「発条機雷ゼンマイン」などの破壊耐性持ちを無力化するルート、あるいは「発条装攻ゼンマイオー」や「恐牙狼 ダイヤウルフ」で安全にセットモンスターを潰すルートまで、【ゼンマイ】の持つ展開ルートは無数に存在しています。基本的に「見えている脅威」に対しては後出しジャンケンの要領で最適なルートを選択できるため、大抵の盤面は悠々と超えていけると言っても過言ではありません。
【ゼンマイ】の弱点 デッキリソースを消耗するリスク
とはいえ、そんな【ゼンマイ】にも当然いくつかの弱点は存在しています。
よく言われるのは「特定のカードが揃わなければ動き出せない」という弱点ですが、これはデザイナーズデッキ全般が共通して抱える問題(※)であるため、【ゼンマイ】固有の弱みというわけではありません。
(※現在では1枚から動けるテーマも多いですが、この頃は2~3枚初動が基本でした)
【ゼンマイ】最大の弱点はやはり展開の過程で大量のデッキリソースを消耗してしまうことであり、【ゼンマイ】の脆さはそのほとんどがこれに起因する問題です。上記の展開例にもある通り、【ゼンマイ】においてはデッキ内に残っている【ゼンマイ】モンスターの数(※)がそのまま展開の残弾となるため、一度展開し切ってしまうと途端に身動きが取れない状況に陥ります。
(※特に「発条空母ゼンマイティ」が残っているかどうかは展開力に大きく影響します)
そのため、【ゼンマイ】を使う上では手札以上にデッキリソースに気を配る必要があり、いかにデッキ内の【ゼンマイ】を温存しつつ動くかということを意識しなければなりません。つまり、基本的にワンキルのチャンスも一度限りのものとなるため、それを確実に通すための「妨害を撃たせる作業」が必要になってくるデッキなのです。
当時の【ゼンマイ】が一部で「高速コントロール」なる呼ばれ方をしていたことにもこうした背景があり、これを使用する場合、外見の派手さに反して相手が隙を晒すまでチャンスを窺う辛抱強いプレイングが求められます。
というより、あまりにも我慢しすぎて「発条空母ゼンマイティ」を温存したまま勝ってしまうケースすらあるほどで、デュエルのたびに使用感が変化する奥深さを孕んでいたデッキでした。
手札誘発は天敵 「見えていない脅威」筆頭
こうした【ゼンマイ】の性質を踏まえる限り、【ゼンマイ】にとって最も恐ろしいのは「一度限りのワンキルのチャンスを潰されること」であることが見えてきます。
もちろん、初動に対する妨害もそれはそれで苦しいのですが、これに関しては保険の初動要員を確保することでカバーできます。むしろ相手の伏せを剥がす目的であえて罠を踏みに行くケースも少なくないため、どちらかと言うと展開途中に妨害を受ける方が致命傷になりやすい(※)デッキです。
(※とはいえ、中途半端に泳がせたせいで逆に反撃を許すケースもあるため、素直に初動を止めておく方が丸いプレイングとも言われていました)
具体的には、「発条空母ゼンマイティ」に対する「奈落の落とし穴」、あるいは展開終盤の「激流葬」などは特に致命的なシチュエーションに当たります。しかし、これらも事前の伏せ除去によってある程度はケアが見込めるため、弱点ではあるものの天敵というほどではありません。
本当に問題なのは「エフェクト・ヴェーラー」や「増殖するG」などの手札誘発カードであり、当時の環境においてもこれらが最大の障害として立ち塞がっていました。相手の伏せカードを剥がし切り、いざワンキルとなった瞬間に「エフェクト・ヴェーラー」を食らって頓死するというのは、恐らく【ゼンマイ】使いの誰もが恐れる最悪の負けパターンなのではないでしょうか。
そのため、【ゼンマイ】を使う上ではこれらの手札誘発をなるべく弱いタイミングで撃たせるという意識が重要になってきます。例えば「ゼンマイネズミ」であれば蘇生効果はもちろん、その後の「発条機雷ゼンマイン」によっても自爆特攻直前に「エフェクト・ヴェーラー」を釣り出す(※)ことが可能です。
(※つまり、「伏せを守るために誘発を切らざるを得ない」という状況に持ち込むことを狙います)
逆に言えば、こうした慎重な対策を取り入れなければならない程度には【ゼンマイ】が手札誘発を苦手としていたということでもあり、【ゼンマイ】のシェアが拡大するにつれて次第に環境全体で手札誘発カードの採用率が上昇していくことになりました。流石に前期の【甲虫装機】環境ほどの異様な使用率(※)には至っていませんが、少なくとも「エフェクト・ヴェーラー」「増殖するG」のどちらか一方はメインに入るというケースが増えています。
(※【甲虫装機】時代はほぼ全てのデッキが「エフェクト・ヴェーラー」をメインから3積みしているような状況でした)
2012年3月~9月環境から実に1ヶ月ぶりの誘発環境の到来であり、何とも短い間の平穏だったと言うほかない話です。
【後編に続く】
「ゼンマイシャーク」獲得直後の【ゼンマイ】についての話は以上です。
直前の改訂で「発条空母ゼンマイティ」を規制され、ほぼ息の根を止められたに等しいダメージを負っていたカテゴリですが、「ゼンマイシャーク」という最高のピースを得たことで劇的な復活を果たしています。その勢いは当時のOCG環境を誘発環境に逆戻りさせてしまったほどであり、その意味では他のどの主流デッキよりも大きくメタゲームを左右していた存在です。
このように、「EXTRA PACK 2012」の参戦は2012年下半期を形作る上で非常に重要な要素を担いましたが、実は当パックがもたらした影響はこうしたメジャーなものに限りません。流石に環境全体で見れば小さな出来事に過ぎませんが、それだけに異質な存在感を放っていた色物デッキがひっそりと成立していたのです。
後編に続きます。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません