地雷デッキ【チェーンビート】爆誕 別名【逃げ逃げビート】の闇

2019年10月31日

【前書き】

 【第8期の歴史8 ゼンマイシャーク来日 【ゼンマイ】が壊れテーマと化した瞬間】の続きになります。特に、この記事では前中後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

ヴェルズ・サンダーバード×ゼンマイラビット夢の競演

 前記事、前々記事で触れた通り、「EXTRA PACK 2012」の参戦は魔界発現世行きデスガイド」「ゼンマイシャーク」の2枚を中心とした大規模な環境変遷を誘発しました。その影響は「ガイドクリッター」出張ギミックの流行に始まり、【暗黒界】や【ゼンマイ】の復権などといった出来事に現れており、まさに10月以前のメタゲームを一新するほどの作用をもたらしています。

 しかし、そうした大々的なものとは別に細かな変化も引き起こされており、中でも【チェーンビート】の成立は非常に大きな話題となっていたのではないでしょうか。

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、自分フィールド上のこのカードをゲームから除外できる。この効果は相手ターンでも発動できる。
この効果で除外したこのカードは次のスタンバイフェイズ時にフィールド上に戻り、攻撃力は300ポイントアップする。
ヴェルズ・サンダーバード」の効果は1ターンに1度しか発動できない。

自分フィールド上の「ゼンマイ」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを次の自分のスタンバイフェイズ時までゲームから除外する。この効果は相手ターンでも発動できる。
また、この効果はこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り1度しか使用できない。

 上から順に、それぞれ「ヴェルズ・サンダーバード」「ゼンマイラビット」の当時のテキストとなっています。いずれも自身を一定期間だけ除外するフリーチェーンのエスケープ効果を持っており、疑似的にほとんどの除去に対して耐性を持っている生存特化のモンスターです。

 そのため、第8期当時のゲームスピードにおいては単に汎用下級アタッカーとしてもそこそこ強く、実際に「ヴェルズ・サンダーバード」は【ヴェルズラギア】で、「ゼンマイラビット」は【ゼンマイ】で、それぞれ採用実績を残していました。

 しかし、これらはあくまでも下級枠の1体という扱いにとどまり、エースアタッカーを任せられるような重要ポジションにあったわけではありません。どれほど強力な除去耐性を持っていようとも所詮は下級クラスの戦力に過ぎない以上、単独では上級ラインすら超えられないという弱点を抱えていたからです。

 つまり、基本的には大型モンスターの横に随伴させるファンネル的な役割(※)のカードだったということであり、上記の【ヴェルズラギア】や【ゼンマイ】においても変則的なダイレクトアタッカーに近い運用がなされていました。

(※ただし、「ゼンマイラビット」は【ゼンマイ】のコンセプトともシナジーしていたため、単なるアタッカーにとどまらない多角的な活躍をしていたカードです)

 ……と、ここで話が終わるのであれば特別に話題に取り上げるような事柄ではありませんが、ここで【メタビート】界隈によって逆転の発想がもたらされることになります。

 具体的には、大型モンスターの代わりに大量の除去を用意することで疑似的に上級ラインを突破できる状況を作り出し、本来は随伴戦力に過ぎないはずの「ヴェルズ・サンダーバード」「ゼンマイラビット」らをむしろメインアタッカーに据えてしまうという極端すぎるコンセプトの専用デッキが開発されてしまったのです。

 いわゆる「同じ役割のカードが6枚あればデッキが組める(※)」という理論からなる話であり、この雛形がシェイプアップされることによって間もなく【チェーンビート】として完成に至ることになります。

(※例えば、かつての【除去ガジェット】の派生型である「6ガジェ」がこれと同じ理屈で組まれています)

 

【チェーンビート】の成立 メタビ界隈の異端児

 

サンプルレシピ(2012年10月13日)
モンスターカード(9枚)
×3枚 ヴェルズ・サンダーバード
カードカー・D
ゼンマイラビット
×2枚  
×1枚  
魔法カード(7枚)
×3枚 サイクロン
×2枚 強欲で謙虚な壺
×1枚 大嵐
ブラック・ホール
罠カード(24枚)
×3枚 強制脱出装置
積み上げる幸福
×2枚 神の警告
強制退出装置
激流葬
次元幽閉
聖なるバリア -ミラーフォース-
つり天井
奈落の落とし穴
マクロコスモス
×1枚 神の宣告
スターライト・ロード
エクストラデッキ(15枚)
×3枚  
×2枚  
×1枚 スターダスト・ドラゴン
(+各種汎用エクシーズ)

 

 上記リストは個人的に使用していた【チェーンビート】のデッキレシピです。【チェーン】の名を冠してはいますが、チェーンカードは「積み上げる幸福」しか採用されておらず(※)、【チェーン】系のデッキとは完全に別物であることが分かります。

(※型によっては「連鎖爆撃」が採用されるケースもありました)

 ちなみに、【チェーンビート】の成立経緯に関しては諸説ありますが、個人的には【サンダーバード・コントロール】を開祖としている説を支持しています。というより、元々【サンダーバード・コントロール】の派生型の1つに「積み上げる幸福」などのチェーンカードを軸にした型が存在していたため、そこに「ゼンマイラビット」を取り入れる形で自然と【チェーンビート】が組み上がったというのが大まかな経緯だったのではないでしょうか。

 ともあれ、デッキの性質上【チェーンビート】のモンスター枠は基本的に6枚+αのみにとどまり、それ以外の大半のカードが除去枠で占められるという歪なバランスに仕上がっています。要するにアドバンテージを失いにくい小粒モンスターを除去でバックアップして戦う【除去ビート】のようなコンセプトであり、実質的には往年の【除去ガジェット】と趣を同じくするアーキタイプです。

 上記の+αの部分は自由枠となりますが、基本的には「カードカー・D」もしくは「ガイドクリッター」出張ギミックのどちらかが搭載される傾向にありました。

 「カードカー・D」については説明不要ですが、「魔界発現世行きデスガイド」の方は単純に「クリッター(エラッタ前)」を呼び出すだけでも強いこと、1枚でランク3エクシーズを作れること、また「発条空母ゼンマイティ」から「ゼンマイラビット」を呼び出して一気にライフを取りに行けることなど、複数のシナジー(※)によって声がかかった格好です。

(※しかし、逆に腐っていたはずの除去の的をみすみす作り出してしまう結果にもなりかねず、【チェーンビート】のコンセプトとは若干噛み合っていない面もありました)

 そんな【チェーンビート】の大きな強みとして挙げられるのは、やはり「強制退出装置」を非常に強く使えるという事実です。

お互いはそれぞれ自分フィールド上のモンスター1体を選び、そのモンスターを持ち主のデッキに戻す。

 単体では2:1交換、サクリファイス・エスケープを駆使しても2:2交換止まりの苦しい性能のカードですが、【チェーンビート】であれば事実上ノーコストのデッキバウンス除去として使うことができます。大量展開に対しては効力が薄い欠点も「激流葬」や「つり天井」といったカードでカバーできるため、まさに【チェーンビート】を象徴するにふさわしいキーカード(※)です。

(※というより、このカードを使いたいがために【チェーンビート】を組んでいるというプレイヤーも少なくありませんでした)

 他にも、上記レシピでは不採用ですが爆導索」と「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム」のセットを組み込むこともできるなど、【チェーンビート】だけが持つ固有の武器は決して少なくありません。デッキコンセプトの異様さだけが一人歩きすることも多いアーキタイプですが、そうした外見とは裏腹に中身はしっかりと練られた立派な【メタビート】の一員です。

 

【ゼンマイ】の先攻展開に(若干)対抗できるという強み

 【チェーンビート】の大まかな特徴については以上ですが、もちろん【チェーンビート】も【メタビート】の一種である以上、メタゲーム的な背景とは切っても切れない関係にあります。

 【チェーンビート】が当時の環境で少数ながらも結果を出せたことには、【ゼンマイ】の先攻展開に比較的対抗できたことが大きく関係していたのではないでしょうか。

 【ゼンマイ】は2012年下半期環境では最高クラスの展開力を備えたテーマでしたが、その代償に展開の過程で大量のデッキリソースを消耗してしまう構造的欠陥を抱えており、ワンキルを防がれると途端に不利に陥るという弱点が存在しました。

 これは先攻展開に関しても例外ではなく、例えば【ゼンマイ】の先攻展開の1つである「マイティアサシンルーラーラビット」展開の場合、ゼンマイマジシャン」3枚、「ゼンマイシャーク」2枚、「ゼンマイネズミ」1枚、「ゼンマイラビット」1枚の計7枚のデッキリソースを消耗してしまう計算となります。つまり、事実上デッキ内の展開要員が「ゼンマイシャーク」1枚と「ゼンマイネズミ」2枚しか残らないことになり、仮に先攻盤面を返されると相当苦しい状況に立たされることは避けられません。

 もっとも、そう簡単に先攻盤面を返せるかというとそんなこともなく、普通のデッキでは基本的にサイド戦からでしか対抗できない強固な制圧布陣(※)として機能していたという背景があります。

(※当時の環境で「エフェクト・ヴェーラー」などの手札誘発が流行したのもこれが理由です)

 ところが、面白いことに【チェーンビート】には【ゼンマイ】の先攻展開が制圧として機能しないため、実質的にはバニラモンスターが並んでいるだけという状況と捉えることができます。なおかつ、通常は盤面返しの大きな障害となる「奈落の落とし穴」などの妨害も【チェーンビート】に対しては紙同然になるなど、絶妙な部分で【ゼンマイ】の先攻展開に耐性を持っている(※)デッキだったのです。

(※個人的な話にはなりますが、【ゼンマイ】最強盤面の1つであるコートルーラー展開を「つり天井」で返して勝ったこともあります)

 一方で、「ゼンマイハンター」型の先攻展開、つまりハンデスが絡んだ展開には何ら有利を発揮できないという穴もあり、十全に【ゼンマイ】のメタデッキとして機能していたわけではありません。元々意図的に【ゼンマイ】メタとして組まれたデッキではないので当然と言えば当然ですが、ハンター型の存在さえなければ【ゼンマイ】メタとして流行した可能性もなくはないため、【チェーンビート】界隈にとっては何とも惜しい話です。

 

根本的にデッキパワー不足 【メタビート】としても苦しい地力

 このように、2012年10月~11月頃の【ゼンマイ】環境においては意外な追い風を受けていた【チェーンビート】でしたが、やはりトーナメントレベルで大々的に実績を残すのは難しいことだったという現実があります。

 理由は至ってシンプルで、ただ単にデッキが弱すぎたからです。

 これはもう正直どうしようもない問題で、とにかく根本的にデッキパワーが不足している以上、相性イーブンのマッチアップでは相当苦しい戦いを強いられます。自発的にアドバンテージを稼ぐギミックが「積み上げる幸福」や「カードカー・D」しか存在しないため、どう足掻いてもアドバンテージ・ゲームで優位に立つことはできません。

 一応、相手にアドバンテージを稼がせないことによって食い下がることは可能ですが、逆に言えば相手に展開を許してしまった時が最期です。かつてのような1:1交換重視のゲームバランスが成立しなくなっている以上は如何ともしがたい話であり、要するに相手の繰り出す脅威の数よりも多く除去を引けるかどうかを祈るゲームになってしまいます。

 また、【チェーンビート】はライフを取るスピードが非常に遅いため、他の【メタビート】以上に逆転を許しやすい弱みも抱えています。たとえ序盤~中盤は完璧にコントロールを決めていたとしても、何ターンもかけてライフを削っている間に手札を溜め込まれてしまい、最後の最後でひっくり返されるという悪夢のような展開(※)も珍しい話ではありません。

(※むしろ【チェーンビート】の典型的な負けパターンの1つです)

 事実上、【チェーンビート】に限らず【除去ビート】というコンセプトそのものが時代にそぐわなくなっていた格好であり、いわゆる「時代が違う」という厳しい現実の前に打ちのめされてしまったデッキなのかもしれません。

 

【まとめ】

 【チェーンビート】についての話は以上です。

 本来は脇役に過ぎない「ヴェルズ・サンダーバード」や「ゼンマイラビット」をむしろ主役に据えてしまうという逆転の発想によって成立に至ったアーキタイプであり、主に【メタビート】界隈に大きな衝撃をもたらしています。その異様なコンセプトから色物デッキ呼ばわりをされることも少なくないアーキタイプですが、実際には【除去ビート】の基本に沿って組まれた立派な【メタビート】であったと言えるでしょう。

 反面、慢性的な地力不足を抱えていたためにトーナメントレベルではあまり実績を残せませんでしたが、それだけに一部で根強い人気を誇った知る人ぞ知る良デッキです。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。