【代行天使】環境入り ストラク大幅強化の先駆け

2019年6月25日

【前書き】

 【第7期の歴史6 【六武衆】全盛期到来 六武の門が3枚積めた時代】の続きとなります。ご注意ください。

 「六武の門」と【真六武衆】という2つの武器を手に入れた【六武衆】が大幅に躍進を遂げ、間もなく環境屈指のトップデッキとして名を馳せていきました。ファンデッキからの急浮上という意味では過去にも類例はありましたが、これほど強烈なテコ入れが入ったのは遊戯王全体でも稀なケースです。

 強力な新勢力の台頭によって環境が急激に変化する中、続く12月に再び大型新人が参入を決めることになります。

 

マスター・ヒュペリオン 【代行天使】版ダムド

 2010年12月11日、ストラクチャーデッキ「-ロスト・サンクチュアリ-」が販売されました。新たに5種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは4647種類に増加しています。

 第6期突入頃から続くストラク優遇の例に漏れず、非常に強力な新規サポートを輩出していたことで有名です。もちろん、再録商品としても豊富なラインナップに仕上がっていましたが、やはり当ストラクの最大の目玉が新規枠にあったことは間違いありません。

 中でもパッケージを飾る「マスター・ヒュペリオン」の存在は一際目を引きます。

このカードは、自分の手札・フィールド上・墓地に存在する「代行者」と名のついたモンスター1体をゲームから除外し、手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、自分の墓地に存在する天使族・光属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、この効果は1ターンに2度まで使用できる。

 【代行天使】の名を広めた天使族最強格のエースモンスターであり、これ以降のストラク優遇の流れを決定付けたと言っても過言ではないパワーカードです。最上級モンスターでありながら手札から特殊召喚できる効果を持ち、さらに墓地の天使族・光属性モンスターを除外コストに万能除去が撃てるなど、どことなく「ダーク・アームド・ドラゴン」を彷彿とさせるデザインが取られています。

 つまり、その時点で他を圧倒するカードパワーを秘めていたことは間違いなく、実際「マスター・ヒュペリオン」の強さは第7期当時としては破格でした。一応、特殊召喚にコストが要求される点、また除去効果に回数制限が設けられているといった調整は施されていますが、逆にコストさえあれば墓地枚数に左右されずに運用可能という強みもあります。

 そのため、調整版ダムドでありながら単純な下位互換カードとはならず、むしろ【代行天使】においては「ダーク・アームド・ドラゴン」以上に強力なフィニッシャーとして機能していました。実際に12月中の時点から「マスター・ヒュペリオン」を切り札に据えた【代行天使】が続々と結果を残しており、間もなくメタの一角としてトーナメントシーンに参入を果たすことになります。

 

代行者アース 【代行天使】の心臓

 こうした【代行天使】の躍進を根元から支えたのは、【代行者】の1体である「神秘の代行者 アース」の存在でした。

このカードが召喚に成功した時、自分のデッキから「神秘の代行者アース」以外の「代行者」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。
フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、代わりに「マスター・ヒュペリオン」1体を手札に加える事ができる。

 【代行者】ストラクの新規枠の1体であり、召喚成功時に同名カード以外の【代行者】をサーチする効果を持っています。【代行者】にとっては待望のサーチ要員兼アドバンテージ源であり、おまけにチューナーであるためにシンクロ召喚のサポートすらこなせるなど、まさにストラク新規にふさわしい大盤振る舞いのカードです。

 考えようによっては上記の「マスター・ヒュペリオン」以上に重要なキーカードと言っても過言ではなく、このカードの存在がなければ【代行天使】の環境入りはなかった(※)とまで言われます。というより、「マスター・ヒュペリオン」の安定運用を支えていたカードこそが他ならぬ「神秘の代行者 アース」だったため、デッキの土台としての働きにおいては右に出るものはありません。

(※実際、2012年3月に「神秘の代行者 アース」が制限カードとなった後の【代行天使】は勢いを大きく落としています)

 数少ない弱点があるとすれば、攻撃力が1000と非常に心もとないことですが、これもシンクロ素材にしてしまえば実質ノーリスクとなります。逆に言えば、シンクロ素材などにできない状況で召喚すると損をするということでもありますが、それを踏まえても十分に強力なアドモンスターです。

 また、【代行天使】含め【光属性】系デッキには「オネスト」という心強い味方もおり、打点の低さが欠点として露呈するケースは他の類似カードほど多くはありません。この時期はまだ準制限カードだったこともあって「オネスト」を安定して構えやすかったため、むしろ「神秘の代行者 アース」をあえて棒立ちさせることでブラフを仕掛けることもできました。

 その他、当ストラクの有望株はこれら2枚だけではなく、具体的には「天空の宝札」という優良ドローソースの獲得も強い後押しとなっています。もはやこの時のストラクが意図的に環境クラスのデッキパワーに調整されていたことは明らかであり、実際当時はこれを3箱買うだけでそのまま大会に出られるという話も広まっていたほどです。

 いずれにしても、この時を境に【代行天使】の流行が始まったことは間違いなく、将来的には2011年を代表するアーキタイプへと大成長を遂げることになります。

 

全盛期は2011年環境 当初はメタの一角止まり

 とはいえ、流石の【代行天使】であっても当初から勢いに乗っていたわけではありません。

 理由についてはいくつかありますが、やはり最大のネックは「エクシーズ召喚が未実装だったこと」が挙げられるのではないでしょうか。

 これは現在においても当てはまる話ですが、【代行天使】の大きな強みの一つは何と言っても「創造の代行者 ヴィーナス」による展開力にあります。ライフコスト1500と引き換えに「神聖なる球体」を並べてからのリンク召喚・エクシーズ召喚は基本中の基本展開であり、これなくして【代行天使】を語ることはできません。

 しかし、2010年12月は未だシンクロ時代の只中にあり、この時期の【代行天使】は事実上最大の武器を欠いた状況にありました。つまり、リクルートした「神聖なる球体」を単独でリソースに変換する手段(※)も存在しておらず、「神秘の代行者 アース」「朱光の宣告者」などのチューナーと併用しなければ真価を発揮できなかったのです。

(※そのため、初期型においては「馬の骨の対価」などが試されていた時期すらあります)

 これをカバーするために「神の居城-ヴァルハラ」が標準搭載されていた背景もあったのですが、流石にそれだけでエクシーズモンスター不在の穴を埋めるというのは明らかに不可能なことでした。むしろ当時のヴィーナス展開は「マスター・ヒュペリオン」や「大天使クリスティア」の布石としての側面が強く、あわよくばシンクロ召喚のサポートも狙えるという認識が主流だったのではないでしょうか。

 一方、逆にエクシーズ召喚導入後の【代行天使】の躍進は目覚ましいものがあり、とりわけ「ガチガチガンテツ」との抜群のシナジーは大きな話題を集めていました。というより、【代行天使】で活躍したという実績が「ガチガチガンテツ」の高評価に繋がったと言っても過言ではなく、この両者がウィンウィンの関係にあったことは間違いありません。

 実際、こうした時代の追い風を受けて【代行天使】はやがて【TG代行天使】(※)に姿を変えて猛威を振るい、2011年の世界大会では優勝の栄光にも輝いています。当時のトップデッキであった【ジャンクドッペル】や【六武衆】を抑えての勝利であり、2種類の召喚法を使いこなせることの強さをはっきりと証明した快挙だったと言えるでしょう。

(※詳しくは下記の記事で解説しています)

 

クリスティアを準制限カード行きにした元凶

 その他、【代行天使】が持つ大きな強みとしては、「大天使クリスティア」をメインから積めるというものがあります。

自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、墓地へ行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。

 単独で盤面を制圧できる強力な特殊召喚メタ効果に加え、そもそも単純にアタッカーとしても普通に強いという【天使族】屈指のエースモンスターです。当然、これが【代行天使】においても非常に噛み合うことは言うまでもなく、むしろ「大天使クリスティア」を最も強く使えるデッキは【代行天使】をおいて他になかったと言っても過言ではないでしょう。

 具体的には、従来の【天使族】系デッキでは難しかった墓地枚数調整を「マスター・ヒュペリオン」「創造の代行者 ヴィーナス」らによって容易にこなすことができ、また「神の居城-ヴァルハラ」による直接展開を狙うことも難しくはありません。おまけに最悪の場合は「天空の宝札」「朱光の宣告者」のコストにしてしまうこともできるなど、まさに「大天使クリスティア」を使うデッキとしてはうってつけの土台です。

 他方では、当時の環境的に「大天使クリスティア」自体のメタ能力が輝きやすかったという後押しもあります。何と言っても2010年末~2011年3月環境は完全体の【六武衆】の脅威が著しかった時代であり、その対策となるカードはどのようなものであれ一定の評価を受けていたからです。

 実際、【六武衆】側がメインから「大天使クリスティア」に触れる手段は「六武衆の露払い」を除けば「月の書」「ブラック・ホール」などの限られたカードしかなく、状況次第ではイージーウィンに持ち込むことも不可能ではありませんでした。当時の環境トップの一角にメインからメタを張れるというのは非常に大きな強みであり、むしろこれがあったからこそ【代行天使】が当初から結果を出していたとも言えます。

 反面、同じく当時のトップメタであった【旋風BF】には「ゴッドバードアタック」「BF-月影のカルート」が、【デブリダンディ】には「サンダー・ブレイク」という対抗手段が標準搭載されていたため、流石に「大天使クリスティア」だけで勝ちを拾うというのは難しかったのは確かです。しかし、逆に一時的な足止め手段と割り切れば十二分に機能するカードではあり、タイミングよく使えば相手に無理な対処を強いることで1:2交換以上を狙うこともできました。

 こうした環境での活躍の結果、2011年3月の改訂では「大天使クリスティア」が準制限カード指定を下されるという結果に繋がっています。その後は4年後の2015年4月に至るまでその位置にとどまり続けるなど、かなり慎重な扱いを受けることになりました。

 事実上、【代行天使】での活躍が危惧されたことによる規制であり、それだけ当時の「大天使クリスティア」が強かったということを裏付けているのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 環境参入直後の【代行天使】についての話は以上です。

 現在では伝統となりつつあるストラク強化の先駆け的な存在であり、当時においても2011年環境を中心に大躍進を遂げることになります。当初はやや逆風の状況にあったことは事実ですが、それでもメタ上位に名を連ねていた地力の高さは間違いなく本物でしょう。

 将来的にはエクシーズ召喚というシステムにいち早く適応した実績もあり、何かと時代の追い風を受けていた印象もある新進気鋭のアーキタイプです。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史