【魔導書】が健全に強い環境デッキだった頃 神判被害者の会

2019年11月4日

【前書き】

 【第8期の歴史10 【炎星】カテゴリ黎明期 【ユウシビート】が強かった時代】の続きになります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

ジュノンが【魔導書】の切り札だった時代

 レギュラーパック「COSMO BLAZER」によって強化されたもう1つのテーマ、それは【魔導書】と呼ばれるカテゴリでした。

デッキから「グリモの魔導書」以外の「魔導書」と名のついたカード1枚を手札に加える。
グリモの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。

 上記は【魔導書】の中核をなすキーカードである「グリモの魔導書」の当時のテキストです。同名カード以外の【魔導書】カードを手札に加えるというシンプルに優秀なサーチカードであり、【魔導書】デッキにおける最高の潤滑油として機能する1枚です。

 これ自体は2012年4月頃に現れていたカードですが、当初は【魔導書】自体のカードプールがあまり育っていなかったため、ほとんど真価を発揮できない状況に置かれていました。しかし、時間経過によって徐々に【魔導書】のサポートが充実していった結果、2012年下半期に入ってようやく日の目を見ることになったという経緯があります。

 話がそこそこ長くなるため、ここでは一旦【魔導書】の過去を軽く振り返りつつ解説を入れていこうと思います。

手札の「魔導書」と名のついた魔法カード3枚を相手に見せて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
また、1ターンに1度、自分の手札・墓地の「魔導書」と名のついた魔法カード1枚をゲームから除外して発動できる。フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 上記は【魔導書】の切り札である「魔導法士 ジュノン」の当時のテキストです。【魔導書】カテゴリの成立と同時に生まれた【魔導書】の看板モンスターであり、カード自体の性能はもちろん、いわゆるアイドルカードとしても今なお高い人気を誇っています。

 実際のところ、「魔導法士 ジュノン」は2012年当時の基準においてはパワーカードの部類に入るポテンシャルを持っており、参入当初から新たなアーキタイプを成立させ得るカードとして期待を集めていました。実際、カタログスペックそのものは「ダーク・アームド・ドラゴン」や「マスター・ヒュペリオン」に比肩するところもあり、周辺カードさえ整っていればトーナメントレベルで実績を残していても不思議ではなかった逸材です。

 とはいえ、蓋を開けてみれば環境どころか中堅にも手が届かず、いちファンデッキとしてシーズンを終えるという経緯を辿っています。これは2012年3月~9月のワンキル環境に【魔導書】が適応できなかったという背景もありますが、何よりこの頃の【魔導書】は自発的にアドバンテージを稼ぐ手段がほとんど存在せず、そもそもゲーム最序盤でもなければ「魔導法士 ジュノン」を召喚すらできない(※)という致命的なボトルネックを抱えていたからです。

(※というより、根本的に【魔導書】の種類自体が少なかったため、構築によっては物理的に召喚不可能なことさえありました)

 そのため、基本的には「魔導召喚士 テンペル」からリクルートするか、「ネクロの魔導書」で蘇生するかが前提となっていたカードだったのですが、いずれにしても二度手間の運用となってしまうことは否めず、デッキコンセプトの柱をなすカードとして見るには不安定さが目立つと言われていました。

 結局、こうした苦しい状況では純構築の【魔導書】を実戦レベルで組むのは難しく、現在で言うところの【ヒュグロビート】に近い混合メタビ的なコンセプトにせざるを得なかったという背景が存在します。

 

システィが最強のアドモンスターと言われた時代

 そんな【魔導書】が環境レベルで注目されるようになったのは、7月下旬に「ABYSS RISING」が販売された後のことでした。

 パックのテーマとしては【水精鱗】が押し出されていたタイトルですが、【魔導書】を含む既存カテゴリのプッシュも行われており、魔導教士 システィ」「ゲーテの魔導書」「アルマの魔導書」「魔導書院ラメイソン」などの有力な【魔導書】サポートが一斉に誕生しています。いずれも【魔導書】では必須カード級のポジションにあるカードであり、実際にこの頃から【魔導書】がトーナメントシーンに姿を見せるようになっています。

 上記4枚の中でも特に【魔導書】界隈を大きく動かしたのは「魔導教士 システィ」の存在です。

自分が「魔導書」と名のついた魔法カードを発動した自分のターンのエンドフェイズ時、フィールド上のこのカードをゲームから除外して発動できる。デッキから光属性または闇属性の魔法使い族・レベル5以上のモンスター1体と、「魔導書」と名のついた魔法カード1枚を手札に加える。
魔導教士 システィ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 条件付きとはいえ、単純に手札を2枚増やす効果が弱いはずがありませんが、このカードの真価は「魔導法士 ジュノン」をサーチしつつ【魔導書】のハンドカウントを増やせることにあります。つまり、上記項目で取り上げた「魔導法士 ジュノン」の弱点を非常にスマートに解決することができたため、これ以降は「魔導法士 ジュノン」を【魔導書】のメインアタッカーとして運用することが十分に現実的なものとなったのです。

 ちなみに、サーチ効果の発動タイミングがエンドフェイズと遅い欠点も存在しますが、当時はむしろこれが強みに転じていたという裏事情もありました。

 具体的には、この時期はルールの関係で「エフェクト・ヴェーラー」の無効化効果がエンドフェイズまでしか持続しなかったため、結果的にサーチを妨害されずに済むという抜け道を持っていたからです。

 

ラメイソンを維持しながら戦う中速コントロール

 このように、「魔導教士 システィ」を獲得したことで急激に強化された【魔導書】カテゴリでしたが、当然この時に【魔導書】が得たものはこれだけではありません。

 当時の【魔導書】のデッキコンセプトを最終的に決定付けたのは、何と言っても「魔導書院ラメイソン」の存在です。

自分フィールド上または自分の墓地に魔法使い族モンスターが存在する場合、1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動できる。「魔導書院ラメイソン」以外の自分の墓地の「魔導書」と名のついた魔法カード1枚をデッキの一番下に戻し、デッキからカードを1枚ドローする。
また、このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の「魔導書」と名のついた魔法カードの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスター1体を手札・デッキから特殊召喚できる。

 これ単体では何もしない置物に過ぎませんが、自分スタンバイフェイズに墓地の【魔導書】をデッキボトムに送って1ドローする効果を持っており、上手く維持できれば毎ターン確実にアドバンテージを取ることができます。継続的に墓地リソースを消費する点も「グリモの魔導書」と「魔導書士 バテル」をループさせることで比較的安全にカバーできるため、総じてローリスクミドルリターンの優秀なアドバンテージ・ソースです。

 一方、後半のリクルート効果も除去の牽制としては悪くなく、自身を含めて3枚の【魔導書】があれば「魔導教士 システィ」をちらつかせてプレッシャーをかけることもできます。

 とはいえ、性質上少なくとも2回はドロー効果を発動しなければ元が取れない以上、考えなしに設置したところであまり役には立ちません。特にドロー効果に「サイクロン」などをチェーンされるとリクルート効果がタイミングを逃してしまう(※)ため、どちらかというとお互いに除去を撃ち終わった中盤以降に強さを発揮するタイプのカードです。

(※いわゆる「時の任意効果」ゆえの弱点です)

 その結果、これ以降の【魔導書】は魔導書院ラメイソン」を維持しながら戦う中速コントロールデッキに変貌を遂げることになります。

 上述の通り、「魔導書院ラメイソン」の投資分を回収するには最低2ターンこれを守り切る必要がありますが、最初からデッキコンセプトをコントロールに寄せておけばこの達成は難しいことではありません。仮に除去されたとしても各種除外コストに充ててからの「アルマの魔導書」で回収できるため、一旦有利な状況に持ち込めればそのまま逆転を許さずにゲームを支配できる強力なドローエンジンです。

 

ゲーテは奥の手 1ゲームに1発が限界

 こうした【魔導書】のコントロール戦略を裏から支えていたのが「ゲーテの魔導書」の存在です。

自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在する場合、自分の墓地の「魔導書」と名のついた魔法カードを3枚までゲームから除外して発動できる。このカードを発動するために除外した魔法カードの数によって以下の効果を適用する。
ゲーテの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。
●1枚:フィールド上にセットされた魔法・罠カード1枚を選んで持ち主の手札に戻す。
●2枚:フィールド上のモンスター1体を選んで裏側守備表示または表側攻撃表示にする。
●3枚:相手フィールド上のカード1枚を選んでゲームから除外する。

 発動時のコストに応じて3種類の効果を発揮するというカードですが、特筆すべきは3つ目の除外効果であり、なんと「フリーチェーンかつ対象を取らない除外」というOCG最高峰の除去能力を持っています。現在の価値観においてすら非常に強烈な性能であり、2012年当時においてはこれで対処できないカードはほぼ存在しなかったと言っても過言ではありません。

 もっとも、効果の強さに合わせて発動コストも相応に重く設定されており、現実的には1ゲームに1発撃つのがやっとです。2発目を狙う場合も「月の書」効果で折り合いを付けるケースが多く、感覚としては一度限りの奥の手に近い使用感を持っていました。

 しかし、コントロールデッキが最も苦手とする「一旦着地を許してしまった脅威」に少なくとも1回は確実に対処できるというだけでも破格であり、取り回しに難がありながらも必須除去として活躍していたカードです。そもそもサーチできる疑似「月の書」という時点で並以上のパワーがあるため、この頃から既に「ゲーテの魔導書」2枚積みが定着していた印象はあります。

 そんな「ゲーテの魔導書」最大のネックはやはり「魔導書院ラメイソン」と競合してしまうという欠点であり、むしろこの構造的欠陥こそが当時の【魔導書】の躍進を阻んでいたと言っても過言ではないでしょう。

 一応、上記の「グリモバテル」ループに「ヒュグロの魔導書」を経由させれば「魔導書院ラメイソン」影響下でも墓地の【魔導書】カウントを増やしていくことはできますが、墓地肥やしのためだけに「ヒュグロの魔導書」を使うのはあまり良い選択ではありません。最悪の場合、魔導書ループが途切れて「魔導書院ラメイソン」すら維持できなくなってしまう危険もあるため、あくまでも適切なタイミングを見極めて使うべき(※)カードです。

(※相手視点に立つと分かりやすいですが、「魔導書ループを止めるためにヒュグロを使わざるを得ない状況を作りつつその迎撃準備を整える」のと「相手が漠然と使ってきたヒュグロを止める」のでは難易度に天と地ほどの差があります)

 こうした背景もあり、この時期の【魔導書】界隈では両者の併用は無理に狙わず、「ラメイソンが回っているならゲーテは撃てなくても良しとする」という考え方が主流でした。それぞれのポテンシャルの高さを鑑みれば非常に勿体ない話であり、この絶妙なアンチシナジーに歯がゆい思いを抱いていた【魔導書】ファンは少なくなかったのではないでしょうか。

 

セフェルの魔導書 【魔導書】が本当に欲しかったもの

 前置きが非常に長くなってしまいましたが、要するにこの問題を解決したカードこそが「COSMO BLAZER」収録の「セフェルの魔導書」だったわけです。

自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在する場合、このカード以外の手札の「魔導書」と名のついたカード1枚を相手に見せ、「セフェルの魔導書」以外の自分の墓地の「魔導書」と名のついた通常魔法カード1枚を選択して発動できる。このカードの効果は、選択した通常魔法カードの効果と同じになる。
セフェルの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。

 上記項目で取り上げた【魔導書】の弱みを全般的に改善し、なおかつ強みをさらに引き上げるかのようなデザインに纏まっており、強すぎず弱すぎずの良調整がなされたOCG屈指の名カードです。単純に「グリモの魔導書」をコピーするだけで【魔導書】を墓地に溜めるスピードが倍になり、「ヒュグロの魔導書」をコピーすればほとんどの大型モンスターを討ち取れる縦の突破力が手に入り、「アルマの魔導書」であれば除外ゾーンの【魔導書】をスムーズに回収することができます。

 また、魔導書院ラメイソン」と「アルマの魔導書」の両方が墓地に落ちたとしてもサルベージの手段を残せるようになったため、結果的にコントロールデッキとしての基盤がより盤石になるといった副次効果も生まれていました。

 これにより「ワンダー・ワンド」などの外部のアドバンテージ・ソースにもそこまで依存せずに済むようになるなど、直接的、間接的問わず「セフェルの魔導書」が当時の【魔導書】にもたらした恩恵は計り知れません。文字通り【魔導書】においては何でもできると言っても過言ではないカードであり、まさに全ての【魔導書】ファンが待ち望んでいたような最高のサポートカードだったのではないでしょうか。

 実際、この頃から徐々に【魔導書】が環境デッキとして頭角を現していっており、やがてはメタゲームにおいても無視できないほどの存在に成長を遂げています。流石に使用率そのものは主流デッキには及ばないラインにありましたが、それでも過去のファンデッキ然とした姿を思えば目を見張るべき躍進ぶりです。

 正真正銘、【魔導書】のコンセプトに沿う形でその真価を引き出していた格好であり、この時代こそが【魔導書】にとっての「真っ当な」全盛期であったことは間違いないでしょう。

 

【まとめ】

 2012年までの【魔導書】についての話は以上です。

 正直な話、カテゴリの知名度としては2013年の【神判魔導】のインパクトに隠れてしまっている印象は否めず、それ以前の環境における活躍はそれほど知られていない節があります。しかし、カテゴリ成立当初から戦い方が模索されていたことに始まり、「魔導教士 システィ」などの有力サポートにより徐々に存在感を増していった中堅時代、そして「セフェルの魔導書」を手に入れてトーナメントシーンに進出を果たした環境デッキ時代など、第8期初頭から中盤にかけて堅実に足跡を残していた実直なカテゴリでもありました。

 いわゆる「【魔導書】と【神判魔導】は別物」あるいは「神判最大の被害者は【魔導書】」という【魔導書】ファンの言葉は上記の背景を踏まえた上での発言であり、2012年代の試行錯誤を台無しにされてしまった不毛さを嘆く声だったのかもしれません。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。