【マドルチェ】が地味に環境デッキだった頃 世界大会での活躍も

2019年11月27日

【前書き】

 【第8期の歴史27 アーティファクト-モラルタ+神智がぶっ壊れと言われた時代】の続きとなります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

マドルチェ・エンジェリー誕生 【マドルチェ】の心臓

 レギュラーパック「PRIMAL ORIGIN」によって大幅に強化されたカテゴリ、それは【マドルチェ】と呼ばれるデザイナーズデッキでした。

このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻す。
また、このカードをリリースして発動できる。デッキから「マドルチェ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは戦闘では破壊されず、次の自分のターンのエンドフェイズ時に持ち主のデッキに戻る。
マドルチェ・エンジェリー」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 上記は「PRIMAL ORIGIN」新規出身の「マドルチェ・エンジェリー」の当時のテキストです。結論を先に言ってしまえば、【マドルチェ】というカテゴリにおいて最大の心臓を務めるキーカードであり、このカード無くして【マドルチェ】は成り立たないと言っても過言ではありません。

 とはいえ、「マドルチェ・エンジェリー」がどれだけ優秀なのかを語り始めてしまうとそれだけで1記事になってしまうため、ここでは詳しい解説は割愛します。物凄く大雑把にまとめればマドルチェ・ホーットケーキ」と強烈なシナジーを形成していることが最大の理由となりますが、こうして乱暴にまとめるのが勿体なくなるほどに【マドルチェ】の強化に貢献した存在です。

 もっとも、単に「マドルチェ・ホーットケーキ」とのシナジーに着目するだけでも相当驚異的な話であることは間違いありません。

このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻す。
また、自分のメインフェイズ時に、自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターをゲームから除外し、デッキから「マドルチェ・ホーットケーキ」以外の「マドルチェ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
マドルチェ・ホーットケーキ」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 恐らく【マドルチェ】をよく知らないプレイヤーであっても一瞬でシナジーを把握できるほどに噛み合ったカードであり、まさに「マドルチェ・エンジェリー」とは運命の赤い糸で繋がった関係に置かれています。

 少し話が逸れますが、元々【マドルチェ】は何をおいても「マドルチェ・ホーットケーキ」を通さなければ始まらないデッキです。ほとんど全ての展開が「マドルチェ・ホーットケーキ」のリクルートを起点に成り立っているため、これを機能させなければデッキがうんともすんとも言いません。

 しかし、カテゴリの共通効果の関係で墓地コストの安定調達が難しく、この解決を【マドルチェ】以外のギミック(※)に頼らざるを得ないというボトルネックを抱えていました。

(※代表的なのが【TG】出張ギミックです)

 ところが、「マドルチェ・エンジェリー」はこうした諸問題を1枚で解決することができます。つまり従来のように外付けのギミックに依存する必要がなくなったということであり、実質的にはマドルチェ・エンジェリー」の誕生をもってようやくテーマが完成したと言っても過言ではないでしょう。

 もちろん、単純に「マドルチェ・ホーットケーキ」の初手存在率を高めるという意味でも非常に有用なカードであり、これを得たことによる【マドルチェ】の恩恵は計り知れません。

 

「第8期以上第9期未満」という独特な感覚

 その一例として、「マドルチェ・エンジェリー」を絡めた展開を下記に示します。

・手札に「マドルチェ・エンジェリー」「マドルチェ・ミィルフィーヤ」の2枚が存在する場合

 

①:「マドルチェ・ミィルフィーヤ」を召喚し、効果で「マドルチェ・エンジェリー」を特殊召喚する。

 

②:「マドルチェ・エンジェリー」をリリースして「マドルチェ・ホーットケーキ」をリクルートする。

 

③:「マドルチェ・ホーットケーキ」の効果で「マドルチェ・メッセンジェラート」をリクルートする。(※除外コストは「マドルチェ・エンジェリー」)

 

④:「マドルチェ・メッセンジェラート」の効果で「マドルチェ・シャトー」をサーチし、発動する。

 

⑤:「マドルチェ・ミィルフィーヤ」「マドルチェ・ホーットケーキ」の2体で「虚空海竜リヴァイエール」をエクシーズ召喚する。

 

⑥:「虚空海竜リヴァイエール」の効果で「マドルチェ・エンジェリー」を帰還させる。(※素材コストは任意)

 

⑦:「マドルチェ・エンジェリー」「マドルチェ・メッセンジェラート」の2体で「クイーンマドルチェ・ティアラミス」をエクシーズ召喚する。

 

⑧:「クイーンマドルチェ・ティアラミス」の効果で相手フィールドのカードを2枚までデッキバウンスする。(※自身のエクシーズ素材1つ+手順⑥で取り除いた素材を使用する)

 

⑨:「マドルチェ・シャトー」の効果が適用されるため、⑧で使用した【マドルチェ】2体はデッキに戻る代わりに手札に戻る。

 

 以上の手順により、自分側で+3アド、相手側で-2アド、つまりは最大で5枚分ものアド差をつけることができます。盤面にアド源となるエクシーズモンスター2体を設置し、さらに対象を取らないデッキバウンスという最高峰の除去を経由した上での5アド展開であり、初動2枚から始まったとは思えないほど凶悪な動きです。

 おまけに手順⑨で回収するカードを「マドルチェ・エンジェリー」「マドルチェ・ミィルフィーヤ」にすれば次のターンも同様の展開が狙えるなど、アドバンテージの取り方が第8期以前のデッキとは根本的にややズレています。主に古参プレイヤーの間で俗に「遊戯王してない感」などと称される例の感覚であり、前記事の「神智モラルタ」同様に「第8期以上第9期未満」のパワーを持っていたと言えるカード群です。

 

【マドルチェ】ガチデッキ化 回り切れば最強クラス

サンプルデッキレシピ(2014年2月15日)
モンスターカード(20枚)
×3枚 増殖するG
マドルチェ・エンジェリー
マドルチェ・ホーットケーキ
マドルチェ・マジョレーヌ
マドルチェ・ミィルフィーヤ
マドルチェ・メッセンジェラート
×2枚 D.D.クロウ
×1枚  
魔法カード(10枚)
×3枚 サイクロン
×2枚 禁じられた聖槍
マドルチェ・シャトー
マドルチェ・チケット
×1枚 大嵐
罠カード(10枚)
×3枚 デモンズ・チェーン
×2枚 強制脱出装置
奈落の落とし穴
×1枚 激流葬
スターライト・ロード
マドルチェ・ハッピーフェスタ
エクストラデッキ(15枚)
×3枚  
×2枚 虚空海竜リヴァイエール
クイーンマドルチェ・ティアラミス
×1枚 スターダスト・ドラゴン
インヴェルズ・ローチ
ガガガガンマン
機装天使エンジネル
深淵に潜む者
No.16 色の支配者ショック・ルーラー
No.30 破滅のアシッド・ゴーレム
No.101 S・H・Ark Knight
No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド
M.X-セイバー インヴォーカー
励輝士 ヴェルズビュート

 

(※上記は個人的に使用していた【マドルチェ】のデッキレシピです)

 上述の通り、「マドルチェ・エンジェリー」は当時の【マドルチェ】にとってはまさに革命的な存在で、これ以降【マドルチェ】はいわゆるガチデッキの仲間入りを果たすことになりました。

 実際、デッキが回った時の爆発力は間違いなく当時の環境トップクラスであり、展開が上振れすれば【AF先史遺産】は言うに及ばず、あの【征竜】にすら一方的に勝つことができます。

 もちろん、この時期の【征竜】は度重なる規制によって全盛期の足元にも及ばない出力にパワーダウンしていましたが、それを踏まえても元々カジュアルデッキの一種に過ぎなかった【マドルチェ】が環境デッキとも戦えるようになったことは驚異的な話です。カテゴリ成立から2年もの下積み期間を経てようやく花開いた格好であり、その点においてはキャラデッキから成り上がった【先史遺産】とも共通するところがあります。

 ちなみに、【マドルチェ】はデッキコンセプトの都合上フィールド魔法を標準搭載しているため、この時期に大流行していた「竜の渓谷」を安定して上書き処理(※)できるという地味ながら大きな強みも持っていました。

(※当時のルールではフィールド魔法は1枚しか存在できない扱いでした)

 もちろん、逆に自分が上書きされるリスクも存在しますが、こちらは「マドルチェ・メッセンジェラート」によって安定的にサーチできるため、一旦デッキが回り始めた後はほぼ確実に上書き状態をキープできます。また、墓地に行った「マドルチェ・シャトー」も「クイーンマドルチェ・ティアラミス」のコストに逆利用しやすく、状況によってはむしろ友情コンボ(※)のようになることさえあったほどです。

(※実際、【マドルチェ】ではコスト確保のために自分の「マドルチェ・シャトー」を「マドルチェ・シャトー」で上書きするケースもあります)

 将来的にはマスタールール3の導入とともに消滅してしまう優位点ですが、それまでの1ヶ月強の間は中々侮れない活躍を見せていた【マドルチェ】固有の強みです。

 

弱点は初動の脆さ 奈落1枚で死亡?

 とはいえ、そんな【マドルチェ】もトーナメントシーンでは苦しい戦績が続いていたことは否定できません。

 単純な話、【マドルチェ】はデッキが回り切れば最強クラスのパワーを発揮する反面、そうでなければ勢いが全く出ないという非常に気難しいデッキでもあったからです。

 よく言われるのが「初動札の枚数に不安がある」という弱点ですが、やはりそれ以上に致命的なのは「妨害耐性が無さすぎる」という根本的な欠陥だったのではないでしょうか。

 これまでの解説の通り、【マドルチェ】は「マドルチェ・ホーットケーキ」を通すことによってスイッチが入るデッキです。よって「奈落の落とし穴」などの汎用除去は言うに及ばず、「エフェクト・ヴェーラー」「増殖するG」といった代表的な手札誘発でも立ち止まってしまい(※)、満足に盤面を作れないままターンを渡すことを余儀なくされます。

(※むしろ途中で立ち止まれないため、最低でも2枚はドローされてしまうのですが……)

 この「満足に盤面を作れない」というのは文字通りの意味で、何らかの制圧力を持つモンスターはおろか、まともに高打点モンスターを置くことすらままなりません。要するに相手にとって脅威となるカードを一切用意できないため、実質的には各種汎用罠・手札誘発に防御を任せるしかなくなるわけです。

 この初動の鈍重さは率直に言ってあまりにも致命的であり、ゲーム最序盤の遅れを取り戻せないまま負けてしまうことは決して少なくありません。「マドルチェ・マジョレーヌ」からスタートした場合は更に1ターン潰れてしまうため、下手をすると本当に「奈落の落とし穴」1枚でゲームを落としかねない危うさがあります。

 一応、この対策として「二重召喚」や「血の代償」などを積んで展開に厚みを持たせる試みも行われていましたが、やはり根本的な解決にはならず、終始初動の脆さに頭を悩まされ続けていました。こうした【マドルチェ】の弱点は現在に至るまで解消されておらず、これがある程度改善に向かったのは第10期に「マドルチェ・プティンセスール」を獲得した時のことです。

 とはいえ、上述の通り【マドルチェ】が2014当時の水準を一部上回るポテンシャルを秘めていたことは間違いありません。

 実際、2014年の世界大会ではジュニアの部において準優勝を果たすという快挙を成し遂げており、【マドルチェ】の持つ可能性を大々的に実績として示しています。これは大会限定で特殊なカードプールが設定されていた背景も無関係ではありませんでしたが、それを踏まえても驚異的な話であり、地力の不安定さに負けない健闘を見せていた良テーマだったのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 【マドルチェ】についての話は以上です。

 カテゴリそのものは2012年4月頃には既に成立しており、それ以降も細々とサポートを獲得していたテーマですが、展開の不自由さから長らく環境レベルでは日の目を見ない状況が続いていました。しかし、第8期終盤にて「マドルチェ・エンジェリー」という次世代兵器を得たことで遂に花開き、2年越しにメタゲームの舞台に上がることに成功しています。

 また、こうしたゲーム的な背景とは別に、いわゆる「イラストアド」の面でも人気の高いカード群であり、今なお多くのファンを持つOCG屈指の名カテゴリと言えるでしょう。

 そして、遊戯王OCGの第8期の歴史はここまでで以上となります。長時間記事にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

 

Posted by 遊史