デビルズ・サンクチュアリが最高の生け贄サポートだった頃

2018年3月6日

【前書き】

 【第3期の歴史9 同族感染ウィルス 禁止歴11年の「元」壊れカード】の続きとなります。ご注意ください。

 「魔導戦士 ブレイカー」「魔導サイエンティスト」「同族感染ウィルス」という3体の魔物が同時に現れ、当時の環境に大きな衝撃が走りました。

 いずれも目に見えて強烈なパワーカードであり、どんなデッキにも入り得るポテンシャルを秘めていることは明らかです。とりわけ「魔導サイエンティスト」は将来的に【サイエンカタパ】を生み出すことになるなど、悪名高さという面ではこの中でも群を抜いています。

 大型新人の参戦によって混乱が巻き起こる最中、それに続くように書籍同梱カードからも有力な新人が現れていました。

 

【ザ・ヴァリュアブル・ブック5 書籍同梱カード】

 2002年10月4日、「ザ・ヴァリュアブル・ブック5」が販売されました。書籍同梱カードとして新たに2種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは1446種類に増加しています。

 上述の通り、書籍同梱カードとしては珍しく2枚とも実戦級の性能を持ち合わせていました。流石に必須カード級の飛び抜けた強さはありませんでしたが、デッキによっては十分に選択肢に入り得る優秀なカードと言えるでしょう。

 

扱いやすい生け贄要員 デビルズ・サンクチュアリ

 1枚目は「デビルズ・サンクチュアリ」という魔法カードです。

「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を自分のフィールド上に1体特殊召喚する。このトークンは攻撃をする事ができない。「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、かわりに相手プレイヤーが受ける。自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 自分フィールドに特殊なトークンを1体呼び出す効果を持っています。具体的には、「攻守0、自分から攻撃できず、戦闘ダメージを相手に押し付け、毎ターン維持コストに1000ライフを要求する」といった性質です。

 単刀直入に申し上げて、素直に使っても強さを発揮するカードではありません。戦闘ダメージを相手に押し付けると言えば聞こえは良いものの、自分から攻撃できないのでは宝の持ち腐れ以外の何物でもないでしょう。加えて維持コストとして毎ターン1000ライフが消えていくため、壁として運用することすら困難です。

 そもそも戦闘破壊耐性なども持っていないことから基本使い捨てであり、例えば「キラー・スネーク(エラッタ前)」に殴られれば僅か300ダメージと引き換えに処理されてしまいます。そうでなくとも根本的にアドバンテージを失ってしまう点が苦しく、やはり「使うと損をするカード」という評価を付けないわけにはいきません。

 このように、額面通りに捉えると弱さが際立つカードですが、実は上記の評価をひっくり返すだけの重大な事実が隠されています。

 呼び出したトークンに生け贄に関する制約が全く存在しないという事実です。

 これまでにも「スケープ・ゴート」など、召喚権を使用せずにモンスターを展開する手段はありましたが、いずれも何らかの形で制約がついて回り、純粋な展開要員として運用するのは難しいという事情がありました。これは「死者蘇生」などの蘇生カードや、「心変わり」などのコントロール奪取カードですら例外ではありません。

 しかし、このカードの場合は状況を選ばず、発動コストもなく、文字通り無条件で生け贄を確保することができます。生け贄召喚の補助カードとしては最高峰の使い勝手の良さであり、実際に後世では【帝コントロール】の主要パーツとして一時期活躍を見せた(※)こともあるカードです。

(※その後は「黄泉ガエル」の誕生を受けて姿を消していますが、構築次第では使われることもありました)

 もっとも、この時期はそもそも肝心の【生け贄召喚】が使われるような環境ではなく、このカードに声がかかる機会そのものがない状況だったことは否定できません。そして、普通に使って強いカードではないことは前述の通りであり、結果的にこのカードの評価もそれ相応の位置に落ち着くこととなりました。

 ちなみに、この「デビルズ・サンクチュアリ」は【サイエンカタパ】のキーカードの1枚でもあることでそれなりに知られています。召喚権を消費せずに「モンスターゲート」の発動コストを賄えるほか、状況次第では「カタパルト・タートル(エラッタ前)」や「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」の生け贄要員にもなるため、基本的にフル投入推奨のデッキパーツとして見られていました。

 

3000の壁 メタル・リフレクト・スライム

 2枚目は「メタル・リフレクト・スライム」という罠カードです。

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。このカードは攻撃をする事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 「アポピスの化神」に次ぐ遊戯王OCG2体目の罠モンスターです。本家とは違いフリーチェーンで展開できるため、相手の思惑を崩しやすいという強みもあります。

 しかし、やはり目に付くのはそのステータスであり、なんと守備力3000と最上級ラインに到達しています。これを戦闘で突破できるモンスターは当時のカードプールでは「お注射天使リリー」程度しか存在せず、効果による除去もバトルフェイズ中であれば大抵は回避できるでしょう。

 つまり発動タイミングさえ間違わなければ相手の攻撃を1ターン受け流すカードとして運用できます。とりわけこの時期は【八汰ロック】の「八汰烏」や【トマハン】の「首領・ザルーグ」など戦闘ダメージが致命傷に繋がるモンスターが環境内に多かったため、そうしたカードへの対策として有力な選択肢となり得るカードです。

 一方で、モンスター状態であっても罠カードとして扱うため、「サイクロン」などで除去されてしまう弱みもあります。この時期は「悪夢の蜃気楼」とのコンボで「サイクロン」が蔓延していた関係上、こうしたシチュエーションとぶつかるケースは決して少なくありません。

 また、何と言っても当時は「魔導戦士 ブレイカー」の全盛期であり、魔法・罠カードを盤面に残すことはリスクが大きいとされていました。

 そのため、逆にみすみす的を与えてしまう結果に終わることも多く、総合的には逆風の状況と言わざるを得ません。

 とはいえ、使い方次第では壁モンスターを残せる「和睦の使者」として扱える強みもあり、同期の「デビルズ・サンクチュアリ」とは異なり当初から一定の注目を集めていたことは事実です。種族的に「同族感染ウィルス」の自滅を誘えるという独自の除去耐性も評価され、一部ではデッキに採用されることもありました。

 

【当時の環境 2002年10月4日】

 「デビルズ・サンクチュアリ」「メタル・リフレクト・スライム」の2枚が現れたことにより、「実質的にモンスター枠となる魔法・罠カード」という概念がプレイヤーの間で成立しました。

 実際にはこれ以前にも「アポピスの化神」という先人が居たため、厳密には初出ではありません。しかし、そちらは様々な面において中途半端な性能からそれほど注目されておらず、新たな概念を成立させるほどの器ではなかったという印象です。

 上記2枚のうち、「デビルズ・サンクチュアリ」は環境的に活躍の機会に恵まれず、どちらかと言うと遅咲きのカードとなっています。逆に「メタル・リフレクト・スライム」は安定した性能から即戦力として取り上げられるケースもあり、当初から環境においても一定の存在感を示していくことになりました。

 もっとも、デッキ単位でメタゲームの動きを誘発するほどの影響力はなく、あくまでも一戦力としての起用となります。辛うじて【デビフラ1キル】が「メタル・リフレクト・スライム」を警戒する向きもありましたが、やはりことさらに取り上げるような変化ではなかったのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 「ザ・ヴァリュアブル・ブック5」の販売、もとい書籍同梱カードの参戦によって起こった出来事については以上となります。

 2枚とも一定の性能を持ち合わせた優秀なカードではありましたが、その時点で大きな影響を及ぼすことはなく、時間をかけて浸透していったという印象です。とはいえ、逆に1枚で環境を揺るがすようなカードの方が異常であることは明らかであり、そうした意味では健全な変化だったと言えるのかもしれません。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史