悪夢の蜃気楼 全てのデッキが4ドローを標準搭載する末期世界

2018年2月16日

【前書き】

 【第2期の歴史42 ヴァンパイア・ロード 第2期最強格の上級アタッカー】の続きになります。ご注意ください。

 除去耐性という、第2期当時としては革新的な効果を持った上級モンスターが現れましたが、単体の性能は「人造人間-サイコ・ショッカー」に及ばず、強みを活かすコンボなども発見されていない状況でした。

 また、先攻1キルに対してはほとんど意味を成さない効果でもあり、思うような採用率を得るには至っていません。カタログスペックの高さに反して活躍の機会は意外にも少なく、やはり総合力では「人造人間-サイコ・ショッカー」が上回っていた次第です。

 さらに、ある程度時間が経過したことで【現世と冥界の逆転】も開発が進み始めており、次第にその知名度を高めていました。「処刑人-マキュラ」を利用したコンボデッキの一種であり、もはや見飽きたとすら言える先攻1キルデッキの一種です。

 そんな折、遂に第2期最後となるカードプールの更新が行われます。

 

【王家の守護者 環境の破壊者】

 2002年3月21日、「Pharaonic Guardian -王家の守護者-」が販売され、新たに52種類のカードが誕生しました。また、同日に「STRUCTURE DECK-ペガサス・J・クロフォード編-」が販売され、ここでも新規カードが6種類現れています。

 合わせて58種類の新規カードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは1270種類に増加しました。

 第2期最後を飾るレギュラーパックにふさわしく、この「Pharaonic Guardian -王家の守護者-」も様々な趣向が凝らされていた商品です。パック全体のフレーバーとしてエジプト的、ピラミッド的な要素が盛り込まれており、その影響からかアンデット族関連のサポートカードが多数収録されていました。

 もちろん、ゲーム面でも有用なカードは多く、中には規制経験を持つものも少なくありません。とりわけ「悪夢の蜃気楼」「ダスト・シュート」の2枚は現在でも禁止カードに指定され続けているほどです。

 一方、「STRUCTURE DECK-ペガサス・J・クロフォード編-」からは「トゥーン」シリーズの新規カードが現れています。この世代のトゥーンは初期と異なり「トゥーン・ワールド」が存在しない場合でも召喚可能となっており、不遇すぎる立場にあった【トゥーン】の地位向上のための工夫の跡が見て取れるデザインです。

 このように、いくつもの面白い出来事があったカードプール更新ではありましたが、残念ながら良い面ばかりというわけではありません。ここで誕生した一部のカードが当時の環境に大きな被害をもたらしてしまうことになります。

 

極悪ドローエンジン 悪夢の蜃気楼

 その一因となったのは、上記で少し触れた「悪夢の蜃気楼」という永続魔法カードです。

相手のスタンバイフェイズ時に、自分の手札が4枚になるようにカードをドローする。自分のスタンバイフェイズ時に、その効果でドローした枚数分だけカードを手札からランダムに捨てる。

 やや複雑なテキストですが、簡単にまとめれば「一時的にカードを引けるが、その後ドローした枚数分カードを捨てる」という効果となっています。捨てるカードがランダムに選ばれる都合もあり、これだけでは何の役に立つか分からないように見えますが、実際には他のカードと組み合わせることで凶悪なドローソースに変貌してしまうカードです。

 ポイントは「ドローのタイミングとディスカードのタイミングが異なっている」という部分です。この「カードを捨てる」処理はフェイズ毎に発生する個別の誘発効果であるため、その時点でフィールドに存在していなければ効果が適用されることはありません。

 つまり、「悪夢の蜃気楼」の効果でカードを引いた場合であっても、その後に何らかの手段でこれを除去することでカードを捨てる必要がなくなります。もちろん、「王宮の勅命(エラッタ前)」などで効果を無効にした場合も同様です。

 その場合、「悪夢の蜃気楼」は最大で4枚ものドローをもたらす超高性能のドローエンジンに化けます。「悪夢の蜃気楼」の処理にカード1枚を使うことを考慮しても2:4交換となり、コンボ前提とはいえ凄まじいアドバンテージ生成能力であると言うほかありません。

 ただし、スタンバイフェイズに除去しなければならない関係上、上記コンボの再現にはスペルスピード2のカードが必須となります。2002年当時のカードプールにおいてこの条件を満たせるカードはごく僅かだったため、「悪夢の蜃気楼」を上手く使いこなすには少々の工夫が必要だったのです。

 

サイクロン 「蜃気楼サイク」6枚セットで流行

 では、魔法・罠カードを除去する効果を持つ、スペルスピード2のカードとは一体何が挙げられるでしょうか?

 「サイクロン」です。

全フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。

 単体魔法罠除去の代表とすら言える速攻魔法であり、遊戯王を象徴するカードの1枚でもあります。この時期は「ハーピィの羽根帚」や「大嵐」が現役だった都合上、後世ほどの高評価は受けていませんでしたが、それでも「強奪」や「早すぎた埋葬」のメタカードとして優先的に採用されることもあったほどの存在です。

 そこに「悪夢の蜃気楼」の存在が加わり、4ドローを成立させるためのコンボカードとして一気に注目を受けるようになっています。当然、普通に魔法・罠除去として使うこともできるため、コンボカードでありながら腐るということがまずありません。

 また、自分ターン中は手札からも発動できるため、たとえコンボが揃っていなくとも「悪夢の蜃気楼」で引いてきた「サイクロン」でこれを処理できる可能性があるなど、型にとらわれない融通の利きやすさも魅力となるでしょう。

 何より重要だったのは、相手の使う「悪夢の蜃気楼」をこれで止めることが可能だったという事実です。

 つまり、「悪夢の蜃気楼」のコンボパーツでありながらそのメタカードでもあったため、二重の意味で「悪夢の蜃気楼」と相性の良さを持っていました。言い換えれば、「サイクロン」を使わないということは「自分はコンボの恩恵を受けられず、相手にはコンボの恩恵を一方的に享受される」ことを意味する以上、実質的には「使うしかないカード」だったと言っても過言ではありません。

 こうした事情により、この「悪夢の蜃気楼」を「サイクロン」と合わせて6枚セットでフル投入するという定石が次第に浸透していくことになります。性質上、先攻1キルデッキで声がかかることはありませんでしたが、ビートダウン系のデッキでは【八汰ロック】を含め必須ギミックの立ち位置を確立していたほどです。

 この「蜃気楼サイク」のセットが最も広まったのは第3期初頭頃のことで、より具体的には2002年5月16日~2003年1月1日の半年ほどの間となります。理由はいくつかありますが、大まかには第3期初頭に現れたサンダー・ブレイク」及びその周辺カードとの複合的なシナジーが注目された結果だったと言えるでしょう。

 さらに補足ですが、このカードの現役時代は「大嵐」などの全体魔法罠除去カードが一時的に評価を落としています。全体除去に「悪夢の蜃気楼」を巻き込んだ場合、コンボされるまでもなくディスカードのタイミングが失われ、事実上の友情コンボが成立してしまうからです。

 汎用魔法罠除去でもある「サイクロン」とは役割が被るという都合もあり、本来高いカードパワーを持つはずの全体除去カードをデッキに採用しなくなったプレイヤーも少なからず存在していました。

 

非常食 実はあまり使われず

 上記の「サイクロン」と似た役割を持つコンボパーツとして、「非常食」というカードについても触れておきます。

このカードを除く自分のフィールド上の魔法または罠カード1枚を墓地へ送る事で1000ライフポイント回復する。

(※テキストの通り、この頃は現在とは違い1枚しか墓地に送れない効果でした)

 使い方については「サイクロン」と同様ですが、こちらはライフゲインがついており、またコストで墓地に送る関係上相手に妨害されることもありません。アニメGXシリーズでは主人公である十代が多用していたこともあり、恐らく知名度だけで言えば上記の「蜃気楼サイク」よりも有名なコンボです。

 しかしながら、実は「非常食」が「悪夢の蜃気楼」とセットで使われるケースは少なく、特にトーナメントレベルではほとんど見かけなかったカードでもあります。

 確かにライフゲイン+妨害耐性という明確なメリットが2点存在する以上、コンボに限定すれば「サイクロン」以上の仕事ができるカードであることは間違いありません。しかし、逆にコンボ以外にはあまり使い道がなく、下手に積んでも事故要員にしかならないケースが大半です。

 一方、「サイクロン」は上述の通り単体でも汎用除去として機能するため、こうした問題を引き起こすリスクは無視できます。コンボカードにとって「コンボしなくても強い」というのは最も重要な評価点の一つであり、そうした「単体での使い勝手の良さ」の有無によって明暗が分かれたと言えるでしょう。

 ただし、ややこしいことに悪夢の蜃気楼」と「非常食」が同じデッキに共存するケース(※)はあったため、この辺りが誤解を招く原因になったのかもしれません。

(※詳しくは下記の記事の通りです)

 

現環境では更に凶悪 永久禁止カードの実力

 ちなみに、やや話が横道に逸れてしまいますが、この「悪夢の蜃気楼」は禁止カードの中でも指折りの極悪囚人として知られており、いわゆる永久禁止カードの一種として恐れられているカードでもあります。

 もはや具体的に理由を説明するのも億劫な話ではありますが、このカードが復帰した瞬間に下記のような特徴を持つカード全般が一斉にバランス崩壊を起こしてしまうからです。

 

①:相手ターンに手札から使用できる各種手札誘発カード全般

 

②:相手ターンに手札のモンスターを展開する効果を持つカード全般

 

③:手札コストを要求するフリーチェーン効果持ちのカード全般

 

④:墓地へ送られることでメリットを生み出すカード全般

 

⑤:「サイクロン」を内蔵したカード全般

 

 5つとも全て危険ですが、特に危険なのは最後であり、この理由だけでも禁止級のリスクを孕んでいます。カードプールが広がった現在ではサイク内蔵型のカードなど何処にでも転がっている(※)ため、コンボ達成難易度はかつての比ではありません。

(※むしろ誘発効果の場合はカードを消費しないことも多く、文字通りの4ドローになってしまいます)

 また、既存のカードはもちろんのこと、上記のカード群を新たにデザインするたびに「悪夢の蜃気楼」の存在を考慮しなければならないということになります。言うまでもなく相当面倒な事態になること請け合いであり、現役復帰の見込みは限りなくゼロに近いカードです。

 

ダスト・シュートが弱小ハンデス扱いされていた頃

 その他、同パック出身の禁止カード「ダスト・シュート」についても軽く解説しておきます。

 結論を先に言えば上記の「悪夢の蜃気楼」とは異なり、この時点では「ダスト・シュート」が環境レベルで影響を及ぼすことはありませんでした。

相手の手札が4枚以上ある時に発動可能。相手の手札を見てモンスターカード1枚を相手のデッキに戻してシャッフルする。

 「強引な番兵」と同様、相手の手札を確認し、その中の1枚をデッキに戻すという強烈な効果を与えられています。ただし、罠カードゆえに発動までにタイムラグがあり、モンスターカードしか選択できず、その上発動条件として相手の手札が4枚以上存在することを要求されるなど、当時現役だった「ハンデス三種の神器」には大きく使い勝手で劣っています。

 とりわけゲーム後半では大抵腐ってしまう欠点が痛く、「ハンデス三種の神器」との性能差は比べるのも酷と言うほかありません。現在では禁止カードに指定されている凶悪ハンデスカードではありますが、流石に【ハンデス三種の神器】が現役だった当時にわざわざこれを使う意義は薄く、当初はほとんど注目されていませんでした。

 

【中編に続く】

 「Pharaonic Guardian -王家の守護者-」に収録されていたカードのうち、現在まで禁止されているカードについては以上となります。

 2枚とも非常に危険なカードであることは事実ですが、当時のカードプールでは「ダスト・シュート」が評価されることはなく、その他大勢の中に紛れている状況でした。また、現在の価値観で考えた場合であっても、やはり「悪夢の蜃気楼」と「ダスト・シュート」では大人と子供程度にカードパワー格差がついていることは否めません。

 一方、「悪夢の蜃気楼」は「サイクロン」という相棒と共に評価され、必須カードとして当時の環境で名を馳せていくことになりました。

 しかしながら、当パックの恩恵を最も強く受けていたデッキは【八汰ロック】ではありません。真の主役は【現世と冥界の逆転】を始めとする先攻1キルデッキ達であり、そのコンボパーツとなるカード達です。

 中編に続きます。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。