【カオス】の降臨 遊戯王の終わりの始まり

2018年3月20日

【前書き】

 【制限改訂2003/4/10 ヴァンパイア・ロード制限行き】の続きとなります。ご注意ください。

 制限改訂によってメタゲームの微調整が図られ、当時の環境は穏やかに推移していくこととなりました。

 前年の激しい動きとは一転、2003年に入ってからは大きな勢力図の入れ替わりもなく、一つの時代の節目でもある4月を迎えています。その後の出来事も書籍同梱カードが2種類ほど現れた程度であり(全1562種)、当時のプレイヤーはつかの間の平和を享受していた格好です。

 しかしながら、その安寧は嵐の前の静けさに過ぎませんでした。

 

【混沌を制す者 世界を制した者】

 2003年4月24日、「混沌を制す者」が販売されました。新たに56種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは1618種類に増加しています。

 包み隠さずに申し上げるのであれば、このパックの参戦は間違いなく遊戯王OCGというカードゲームを全くの別物へと変貌させました。「それ」は【エクゾディア】のように新たな勝利手段をもたらしたわけでもなければ、「処刑人-マキュラ(エラッタ前)」のように凶悪なコンボパーツとして猛威を振るったわけでもありません。

 ただ強すぎるという、たったそれだけの理由でゲームバランスを崩壊させてしまったのです。

 

カオス降臨 次元違いのパワーカード達

 その正体は、遊戯王最凶のシリーズカードの1つ、【カオス】に属するモンスター群でした。

このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性と闇属性モンスターを1体ずつゲームから除外して特殊召喚する。自分のターンに1度だけ、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
フィールド上に存在するモンスター1体をゲームから除外する。この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃できない。
●このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。

 上記は「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」の当時のテキストとなります。一言で申し上げれば、何もかもがおかしいとしか言えない究極のパワーカードです。

 墓地の光・闇属性のモンスターを除外コストに要求する特殊な召喚条件を与えられていますが、むしろその召喚方法こそが【カオス】の強みを支えているとも言えるでしょう。

 基本的に扱い辛かった第3期以前の特殊召喚モンスターの中では比較的召喚条件が緩く、逆に普通の最上級モンスターと比べても破格の取り回しの良さを誇ります。蘇生制限さえ満たせばいつでも蘇生できる点も大きな魅力として数えられるのではないでしょうか。

 もちろん、カタログスペック自体も飛び抜けて優れていることは言うまでもありません。

 まず、攻撃力3000という圧倒的なステータスの高さが1つ目の魅力となるでしょう。当時の上級アタッカーの打点は2000~2400の間に収まっており、最上級ラインに手が届くケースは稀でした。辛うじて【ジャマキャン】の「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム」などが該当しますが、やはりごく一部の例外と考えて差し支えありません。

 つまり戦闘においては無類の強さを発揮するモンスターであり、単純に打点だけを見ても当時最強格のアタッカーであることが分かります。

 そして2つ目の魅力にしてこのカード最大の強みとなっているのは、2種類の強烈なメリット効果を兼ね備えているという事実です。流石に1ターンに1度、かつどちらか片方しか使用できないという制約は設けられていますが、たとえ片方だけであっても許される話ではないことは語るまでもありません。

 1種類目の効果は、フィールドのモンスター1体を無条件で除外するという、当時の常識を遥かに超えた凶悪極まりない除去能力です。表示形式もカードの裏表も問わず、しかも墓地にすら送らず処理するというのは明らかに何かが狂っています。

 具体的には、「クリッター(エラッタ前)」などのサーチャー、「キラー・トマト」を筆頭とするリクルーター、「サイバーポッド」といった危険なリバースモンスターに対してこれ1枚で対処できてしまいます。いずれも第3期では活躍が多かったモンスター達であり、それらをまとめて潰せることの有用性は計り知れません。

 その割にデメリットは自身がそのターン攻撃できなくなることだけであり、実質的にはノーコストと捉えても語弊はないでしょう。リスクとリターンが見るからに釣り合っておらず、端的に申し上げて露骨に強すぎる効果です。

 一方、2種類目の効果もこれに負けず劣らずの性能です。なんと自身がモンスターを戦闘破壊した場合、さらにもう1度だけ続けて攻撃できるという強烈なアタッカー能力を与えられています。

 単純に2回攻撃できるというのはシンプルに強く、2度の戦闘破壊によって大幅にボード・アドバンテージを獲得できるでしょう。もちろん、戦闘ダメージも非常に大きな数値が期待でき、状況次第では引導火力にもなり得ます。

 加えてこのカード自体のステータスの高さも手伝い、アタッカーとしての適性にはとことん恵まれていると言うほかありません。たとえ単独であっても速やかにゲームを終わらせるだけの力を持つ強烈なフィニッシャーです。

 

生け贄召喚がスタンダードな時代に開闢が殴り込んでくる世紀末

 しかし、何よりも恐ろしかったのは、これほどのパワーカードがよりにもよって第3期に誕生してしまったという圧倒的なジェネレーションギャップに他ならないでしょう。

 上述の通り、この「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」は現在の基準に照らし合わせてすら優秀な部類のモンスターであり、第3期当時としては狂気的とも怪物的とも言える絶大なカードパワーを誇っていました。つまり、RPGで例えるならば序盤の町の周辺に唐突に魔王が出現するような話(※)に近く、それこそ遊戯王の終わりの始まりのような事態です。

(※直前の環境で「ヴァンパイア・ロード」がエースアタッカーを務めていたと言えば、当時のこのカードの「理解を超越した強さ」が窺えるのではないでしょうか)

 当然こんなカードが野放しにされるはずがなく、およそ半年後の制限改訂では早々に制限カード指定を受けています。その後は第4期中に禁止カードとなり、長い間禁止制限リストの常連メンバーとして封印され続けることになりました。

 ちなみに、この「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」は現在では無制限カードですが、その状態にまで規制緩和されたのはなんと第10期と極めて最近の出来事です。第7期に禁止カードから制限カードに復帰して以降、5年後に準制限カードに緩和され、さらにその1年後に無制限カードに制限解除されるという経緯を辿っています。

 かつての禁止カードであることを考慮しても極めて慎重な対応であり、こうしたエピソードもまたこのカードの存在感を物語っていると言えるでしょう。

 

カオスエンペラードラゴン(エラッタ前) 遊戯王の終焉

 もちろん、【カオス】シリーズに属するカードは「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」だけではありません。むしろ本命は他にあり、「混沌帝龍 -終焉の使者-(エラッタ前)」こそが真のカオスの名を冠するべきモンスターです。

このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性と闇属性モンスターを1体ずつゲームから除外して特殊召喚する。1000ライフポイントを払う事で、お互いの手札とフィールド上に存在する全てのカードを墓地に送る。この効果で墓地に送ったカード1枚につき相手ライフに300ポイントダメージを与える。

 こちらは闇属性の【カオス】であり、上記の「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」とは対を成します。ステータスも同等の数値が与えられていますが、大きく異なっているのはその効果です。

 なんとお互いの手札・フィールドの全てのカードを墓地へ送るという、遊戯王全体でも類を見ない豪快なリセット能力を与えられています。さらにこの効果で墓地へ送られたカードの枚数×300ダメージを相手に与えるバーン効果も備えており、エンドカードとしての側面も併せ持つ強烈な効果です。

 そのため、本来は有利な状況では撃ちにくいリセット効果にもかかわらず、むしろ有利な状況でこそ輝く効果として見ることができます。もちろん、自分が不利な状況では単純にリセット目当てに使ってもよく、要するにどんな状況でも腐らない反則的な効果と言えるでしょう。

 一方で発動コストは僅か1000ポイントのライフのみと非常に軽く、明らかにリスクとリターンが釣り合っていません。総じて「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」に勝るとも劣らない力を持ったパワーカードであり、第3期の混沌の象徴とも言えるモンスターとして今なお多くのプレイヤーの記憶に刻み込まれているのではないでしょうか。

 

初期形態のみ 八汰烏との完全ロックコンボが日常的に決まっていた時代

 一方、こうした単体での性能の高さも目を見張りますが、他のカードと組み合わせた時の爆発力も同等以上に凶悪です。

 最も広く知られているのは、このリセット効果に「クリッター(エラッタ前)」などのサーチャーを巻き込み、八汰烏」に繋げて完全ロックに持ち込むコンボでしょう。手札・フィールドにカードが存在しない状態でドローロック効果が決まるため、半ば自動的に勝利が確定してしまいます。

 現代ではその状態でもリカバリーの利くデッキは少なくありませんが、当時としてはほぼ成す術がないコンボです。相手のサーチャーや「闇より出でし絶望」を巻き込んでしまう、あるいは「キラー・スネーク(エラッタ前)」が墓地に落ちているなど、抵抗手段が存在しないわけではないものの、基本的には大抵の状況でゲームが終了してしまう(※)でしょう。

(※とはいえ、上記の完全ロックコンボが日常的に決まっていたのは【カオス】初期形態のこの頃だけであり、知名度の割に現役期間は短めでした)

 もちろん、これほどの極悪カードが規制の対象にならないはずがなく、「混沌帝龍 -終焉の使者-(エラッタ前)」は僅か2ヶ月半後に制限カード指定を受けることになります。「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」以上に短期間で対応が入っているという事実からも、当時のこのカードの圧倒的な凶悪さが窺えるのではないでしょうか。

 補足となりますが、そんなこのカードも現在では「混沌帝龍 -終焉の使者-」として弱体化エラッタが入っており、大幅にカードパワーを落としています。自身の召喚条件以外ではいかなる場合にも特殊召喚できず、このカードの効果を発動するターンは他の効果を一切発動できないなど、かなり大がかりな制約が設けられた格好です。

 流石にここまで念入りに調整が施されては満足に暴れることもできず、ほどなく無制限カードに制限解除されるという結末を迎えることになりました。

 とはいえ、カードプールの広がった現在では属性や種族に恵まれている強みを活かすこともできるようになり、一部のデッキでは未だに採用候補に挙がることもあります。力の大半を失いつつも活躍の場を残している事実こそが、このカードの底力を証明していると言えるのかもしれません。

 

カオス・ソーサラー 当初は鳴かず飛ばず

 同じく【カオス】に属するモンスターとして、「カオス・ソーサラー」というカードも現れています。

このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性と闇属性モンスターを1体ずつゲームから除外して特殊召喚する。フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体をゲームから除外する事ができる。この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃する事ができない。

 攻撃を放棄する代わりにモンスター1体を除外する効果を持つなど、「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」とは一定の共通部分が見られるモンスターです。ただし、こちらは表側表示のモンスターしか対象に取れず、除去として見た場合は下位互換の性能となっています。

 なおかつ、効果はこれ1つだけであり、さらには攻撃力も2300と上級並です。上記2体と同じ召喚条件を持つ割に性能だけがダウングレードされており、率直に申し上げてわざわざこれを使うメリットは皆無と言うほかありません。

 一応、【カオス】モンスターの水増し要員として扱えないこともありませんが、流石に【カオス】9枚体制では墓地コストを工面し切れないことは明らかです。実際、当時も【カオス】モンスターをフル投入しては事故率が上がってしまうと考えられ、これらが併用されるケースはほとんどありませんでした。

 もっとも、これはカオス・ソーサラー」が弱いというよりは上記2枚が強すぎるだけの話でもあります。この時期に限れば不遇の立ち位置にあったのは事実ですが、規制によってカードプールが整えられた後の環境では唯一の【カオス】として猛威を振るっていくことになります。

 それからは何度も制限、準制限の間を行き来し、一時期は禁止カードにも名を連ねていたほどの存在です。それほどの大物が当初はほとんど評価されていなかった辺り、【カオス】降臨の衝撃で当時のプレイヤーの感覚が麻痺してしまったことは間違いなかったのかもしれません。

 

【中編に続く】

 遊戯王最凶のシリーズカード、【カオス】に関する話は以上です。

 第3期当時としては常識の範疇を遥かに超えた強さを持っており、実際にこれらのカードの参戦が第3期の末路を決定付けてしまうことになっています。それこそ当時のビートダウン系デッキは軒並み【カオス】に侵食されてしまったと言っても過言ではありません。

 制限改訂でバランス調整が図られた2004年ではそれなりに落ち着きを見せていますが、それもこの時期に比べればという話であり、常に環境において大きな存在感を示し続けていました。最終的に関連カード全てが禁止カードに指定されるまで暴れ続けた経緯を持つ、遊戯王OCG屈指の恐るべきカード群と言えるでしょう。

 そんな【カオス】を生み出してしまったことで有名な「混沌を制す者」ではありますが、実はこれ以外にもパワーカードと呼んで差し支えないカードが現れていたことは意外と知られていません。流石に【カオス】と肩を並べるほどの性能ではないものの、他のパック収録であればトップレアを飾っていてもおかしくないほどの存在です。

 中編に続きます。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史