三幻神降臨 バージョン別商法と捨てられた良心
・前書き
・ゲーム同梱カード 恐怖のバージョン別商法
・遊戯デッキの目玉1 破壊輪
・遊戯デッキの目玉2 魔封じの芳香
・海馬デッキの目玉 ブラッド・ヴォルス
・不作の城之内デッキ
・当時の環境 2000年12月7日
・評判最悪 DM4
・まとめ
【前書き】
【第2期の歴史18 手札抹殺3積み時代の【デッキ破壊】の狂気】の続きとなります。ご注意ください。
「手札抹殺」の参戦によって【デッキ破壊】が力を取り戻し、当時の環境は再び三つ巴の状況へともつれ込みました。激化していく勢力争いは年末になっても衰えず、それに呼応するようにプレイヤーの熱気も高まっていきます。
しかし、そうした環境の動きとは関わりのない部分において、遂に恐れていた事態が起こります。
バージョン別商法の始まりです。
【ゲーム同梱カード 恐怖のバージョン別商法】
2000年12月7日、「遊戯王デュエルモンスターズ4最強決闘者戦記」が販売され、その同梱特典カードとして新たに15種類のカードが誕生しました。
更に同ゲーム攻略本の上下巻が同日に販売され、やはり書籍同梱カードとしてそれぞれ1種類、計2種類の新規カードが現れています。合計で17種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは910種類となりました。
この時のゲーム同梱カードは例によってランダム収録となっています。収録内容も15種類と歴代最多であり、自力でのコンプリートは簡単ではありません。
もちろん収録枚数もソフト1つにつき3枚です。やはり同梱カード目当てにゲームを大量購入するのは現実的とは言い難く、実質の入手方法はシングル買いに限られていました。
しかし、この時のコナミは普段とは一味違いました。
なんと、ここで販売されたゲームはかの有名なバージョン別商法が取られており、しかもバージョン毎に同梱カード内容が異なっていたからです。
バージョン別商法とは読んで字の如く、同一ソフトに複数のバージョンを用意し、売り上げの向上を狙う商法を意味します。いわゆるポケモン商法とも呼ばれているため、ご存知の方は少なくないのではないでしょうか。
このゲームの場合は「遊戯デッキ」「海馬デッキ」「城之内デッキ」の3つのバージョンが存在していました。収録内容はそれぞれ5種類ずつに分かれており、加えて初回特典として三幻神が封入されているという仕様です。「遊戯デッキ」に「オシリスの天空竜(原作仕様)」、「海馬デッキ」に「オベリスクの巨神兵(原作仕様)」、「城之内デッキ」に「ラーの翼神竜(原作仕様)」が収録されています。
その者、降臨せしむれば、灼熱の疾風大地に吹き荒れ、生きとし生ける者すべて屍とならん。
上記はこの時の「オベリスクの巨神兵(原作仕様)」のテキストです。
カード裏面が青色に加工されているなど、特殊なフォーマットのカードデザインとなっており、公式のデュエルでは使用できません。そのため、厳密にはOCGの分類ではなく、あくまでもコレクションアイテムの区分に含まれます。
このカードを含む三幻神は、原作漫画ではストーリーの根幹部分にまで関係する重要な存在であり、その人気の高さもエクゾディアに勝るとも劣らないものがありました。OCGで使用できないとはいえ、これらのカードを欲しがるプレイヤーも多く、それに伴って当ゲームの需要も増していく格好となっていました。
補足になりますが、OCG版の三幻神シリーズカードが現れるのは遥か未来である第6期以降の話です。「オベリスクの巨神兵」が2009年、「ラーの翼神竜」が2010年、「オシリスの天空竜」が2012年と、それぞれ期間を空けての誕生となっていました。
遊戯デッキの目玉1 破壊輪
さて、肝心の同梱カードについての話ですが、まずは遊戯デッキに収録されていたものから取り上げていきます。
1枚目は「破壊輪(エラッタ前)」です。
フィールド上の表側表示のモンスター1体を破壊し、お互いにその攻撃力分のライフポイントダメージを受ける。
フィールドの表側表示モンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージをお互いのプレイヤーに与える効果を持っています。この時のものはエラッタ前のテキストになっており、現在のものとは効果が異なっていました。
先に結論を申し上げますが、この「破壊輪(エラッタ前)」は非常に高いカードパワーを持った凶悪な除去カードです。ノーコストかつフリーチェーンでモンスターを除去できる利便性もありますが、何より極めて緩い発動条件の高火力バーン効果を内包している点が尋常ではありません。
事実上ダイレクトアタック1回分のダメージを気軽に相手に通せるため、ある程度盤面が整っていたとしても安泰は得られなくなりました。表側表示のモンスターを残している場合、それだけで直接火力で焼かれるリスクが生まれてしまったからです。
つまりこのカードを伏せている場合、相手のライフ以上の攻撃力を持つモンスターがフィールドに出た瞬間、勝利が確定することになります。この頃のアタッカーは「ヂェミナイ・エルフ」が務めていましたが、流石にカード1枚で1900もの直接火力を撃ち込まれてはたまったものではありません。
もちろん、自分のモンスターも起爆剤にできるため、場合によっては自分で出したモンスターを除去の的にすることも視野に入ってくるでしょう。アタッカーで殴った後にそのアタッカーを「破壊輪(エラッタ前)」で破壊し、バーンでとどめを刺すといったシチュエーションに遭遇することも珍しくありませんでした。
お互いにダメージを受けるという部分がデメリットに思えますが、実際にはプレイングでカバーできる範囲の欠点です。このカードの有能さを考えれば些細なリスクと言うほかなく、当時からほとんど問題にはされていません。
また、同時にライフが0になった場合は引き分け扱いになるため、本来逆転不可能な状況から強引にドローゲームへと持ち込むことすらできます。当時のゲームにおける引き分けは、その9割がこのカードによって引き起こされていたと言っても過言ではありませんでした。
ちなみに、現在ではエラッタによって大幅に弱体化している「破壊輪.」ですが、それですら一時期は制限カードに指定されていたほどです。完全体のこのカードの凶悪さは、もはや語るまでもないということなのかもしれません。
遊戯デッキの目玉2 魔封じの芳香
2枚目は「魔封じの芳香」という永続罠カードです。
このカードがフィールド上にある限り、魔法カードは一度フィールドにセットし、次の自分のターンが来るまで使用できない。
やや複雑なテキストが記されていますが、簡単にまとめれば「お互いに魔法カードの発動を1ターン分遅らせる」効果を持っています。一度セットしてからでなければ魔法カードを発動できなくなるため、罠カード以上のテンポロスが発生してしまう格好です。
魔法カードは元々タイムラグなく使用できる前提でデザインされたカードであり、その使用感を大きく狂わせる「魔封じの芳香」の妨害能力は決して低くありません。魔法カードを多用するデッキへのメタカードとしてはもちろん、ゲームスピードの加速した現在においては強力な制圧札としても機能する優秀なカードとして評価されています。
とはいえ、第2期当時はゲームスピードも緩やかであり、1ターン動きを遅らせる程度では効果的とは言えなかったのも事実です。ポテンシャルの高さは目を見張るものがありますが、漠然とデッキに投入するだけでは真価を発揮し切れません。
しかし、その独特な効果ゆえにデュエリストの本能を刺激されるプレイヤーも多く、相手にカードをセットさせることに着目して【アロマ・コントロール】などの専用デッキも考案されています。特に「魔力の枷」を搭載した型は知名度も比較的高く、【アロマ・チェイン】と呼ばれて区別されていました。
ただし、この「魔封じの芳香」は極めて長い間再録の気配がなく、極端な品薄状態が続いていました。事実上この時のゲーム同梱カードでしか入手できず、2010年で再録されるまではショップでも高価格で取引されていたと記憶しています。
海馬デッキの目玉 ブラッド・ヴォルス
次は海馬デッキ収録の同梱カードについてです。
何と言っても、この時の注目カードは「ブラッド・ヴォルス」に他ならないでしょう。
星4/闇属性/獣戦士族/攻撃力1900/守備力1200
「ヂェミナイ・エルフ」に続く、待望の1900ラインアタッカーです。先駆者である「ヂェミナイ・エルフ」は守備力900だったため、実質的な上位互換カードとなっています。
もちろん、アタッカーとして運用する場合はほとんど問題にならない差ですが、守備表示の場合でも「クリッター(エラッタ前)」「黒き森のウィッチ(エラッタ前)」などに戦闘破壊されないという違いがあります。微々たる差ですが、ゲームではこの差が勝負を分けることもあり、ぎりぎりまで勝ちを追求するプレイヤーにとっては「3枚揃えて当然」とされる恐ろしい世界となっていました。
また、単純にアタッカーが2種類に増えたことで、1900ラインアタッカーを6枚体制にできるようになったという変化も現れています。
元々【グッドスタッフ】においては3積み確定だった「ヂェミナイ・エルフ」ですが、この「ブラッド・ヴォルス」の参戦によって3~6枚の間で採用枚数が揺れ始めています。3枚と6枚ではかなり大きな違いが出るため、プレイヤーの間でそれぞれのデッキの色が現れるようになりました。
総評としましては、カード単体で見た場合の全体的な評価は「ヂェミナイ・エルフ」とそう変わりません。しかし広い視点ではデッキ構築に大きな影響を及ぼし、当時の【グッドスタッフ】を強烈に支えたカードです。
ただし、こちらは再三取り上げているように希少度が圧倒的に高く、「ヂェミナイ・エルフ」以上に入手が難しい状況が続いていました。たたでさえ高価な「ヂェミナイ・エルフ」よりも更に一回り高騰しており、3枚揃える際の出費は相当のものになるでしょう。
個人的な話になりますが、私の場合はアタッカー4枚体制の構築を取っていました。「ブラッド・ヴォルス」を1枚しか持っていなかったからです。
不作の城之内デッキ
「破壊輪(エラッタ前)」「魔封じの芳香」の遊戯デッキ、「ブラッド・ヴォルス」の海馬デッキと、それぞれバージョン毎に目玉となる同梱カードが含まれていました。
しかし、最後のバージョンである城之内デッキにはこれと言って強力なカードが収録されていません。どれも当たり障りない性能であり、コレクションアイテム以上の価値を見出しにくいカードばかりとなっています。
ここで収録されていた「攻撃の無力化」や「マジックアーム・シールド」も決して弱いカードではないのですが、ドリームチームそのものである【グッドスタッフ】で採用枠を取れるほどのポテンシャルは持っていません。【デッキ破壊】などのコンセプトデッキであっても上位互換は多く、デッキスペースを割いてまで使われるような性能ではないのは事実です。
時代が進んでカードプールが広がってくると状況も変わり、「攻撃の無力化」などは他の類似カードとも差別化が図られていくことになります。しかし、その頃には既に再録されて入手が容易になっており、やはりここでわざわざ手に入れる意義は薄かったと言わざるを得ません。
総評としましては、ゲームソフト本体の良し悪しはともかく、同梱カードに関しては不作の状況となっていました。
【当時の環境 2000年12月7日】
「破壊輪(エラッタ前)」や「ブラッド・ヴォルス」といったパワーカードが誕生したことを受け、【グッドスタッフ】が堅実にデッキパワーを高めました。特に前者は後世で禁止カードに指定されるほどの凶悪な性能であり、誕生当初から即戦力としてデッキに投入されていっています。
ただし、この頃は「人造人間-サイコ・ショッカー」が現役を務めていた時代です。罠カードである「破壊輪(エラッタ前)」はこれに封殺されてしまうため、あまり勿体ぶらずに使ってしまうようにするなど、プレイング面でやや意識する必要がありました。
「魔封じの芳香」に関しては、そのトリッキーな性能ゆえに上記とは異なる方向で評価されています。単純に使うだけでは真価を発揮できないため、【アロマ・チェイン】などの専用デッキでの活躍にとどまる形となりました。
しかし、上記で再三触れたことですが、これらのゲーム同梱カードは非常に希少度の高いレアカードとしての顔も持ち合わせています。
大半のプレイヤーにとっては手が届かないカードであり、ゲームでの遭遇率もそれほど高いわけではありません。また、そもそも在庫数自体が乏しいことからショップでのシングル買いも難しく、3枚揃えることは極めて困難だったと言わざるを得ない状況です。
そのため、これらのカードはトーナメント志向の強い一部のプレイヤーにのみ行き渡る格好となり、一般プレイヤーの立場では指をくわえて見ているしかない状況となっていました。
【評判最悪 DM4】
こうした事情もあってか、この時コナミが行ったバージョン別商法は世間的に大きな批判を集めてしまうことになりました。元々ランダム同梱商法に対する意見が一部で囁かれていましたが、それが一気に表面化した格好です。
もっと言えば、ゲームそのものの内容に関しても問題が多く、ポケモンなどの同様の商法を利用している他のゲームとは大きく実態が異なっていました。
通常は「基本的なゲーム内容は同じで細部が異なっている」点を下敷きにした商法であるはずですが、このDM4は「ソフト毎に使用できるカードを1/3に制限することで無理矢理別バージョン扱いにする」という手法で3つのソフトを作り出していました。言うなれば元々一つのソフトだったものを3分割したような形であり、いくらなんでも足元を見すぎていると言うほかありません。
季節的にクリスマス戦略の一環だったとも考えられますが、控えめに申し上げて「えげつない」商法だったと結論付けずにはいられないでしょう。
そんなDM4ではありましたが、個人的には少なからぬ思い入れを抱いているゲームでもあります。
恥ずかしい話で恐縮ですが、この頃は年齢のせいもあってか若干不良になっており、親に隠れてこのゲームを購入していました。もう記憶もおぼろげですが、この時に「ブラッド・ヴォルス」を引き当てたことだけは強く印象に残っています。
ちなみに、このDM4が私が人生で初めて遊んだゲームです。何もかもが新鮮で、かじりつくように遊んでいた思い出が今でも脳裏に浮かびます。
後日談ですが、あまりにも夢中になりすぎたせいか色々と脇が甘くなり……クリア前に見つかって没収されてしまいました。その流れでカードも巻き添えになってしまい、ストレージと収納ファイルが持っていかれた記憶があります。(デッキだけは死守しました。今思うと見逃してもらっていたような気がしなくもないですが……)
もちろんその後は永遠に返ってくることはなく、今でもエンディングを見ていないのが小さな心残りです。
【まとめ】
この時のバージョン別商法に関連する騒動については以上となります。
高価なゲームにランダム収録の同梱カードを用意するだけでは飽き足らず、ソフトすら分割して売り上げの向上を目論むという始末です。流石に擁護することも難しく、思い出補正で誤魔化せるレベルではありません。
補足になりますが、コナミ発売の遊戯王関連のゲームでバージョン別商法が取られているソフトは、現在のところこれが唯一となっています。販売側としても色々と問題のある売り方だったと認識しているということでしょう。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
ゲーム的な話だと城之内Verが一番ゲーム内で使えるカードが優秀なんですよね…
特典カードが強い代わりにゲームが難しい遊戯、海馬Verか特典カードが微妙な代わりにゲームが遊びやすい城之内Verか…
コメントありがとうございます。
あまり詳しくはないですが、改めて見ると城之内バージョンは罠が強い、というよりはどちらかというと他のバージョンのカードプールがあまりにも弱すぎるという印象を受けます。
といっても当時はゲーム的な内容については何も疑問に思わず遊んでいたのですが、同梱カード面も含めもう少しバランスを考える余地はあったのかもしれません。