手札抹殺3積み時代の【デッキ破壊】の狂気
・前書き
・EX-R 必須カードの再録と強力な新規
・クロス・ソウル 相手モンスターを生け贄に
・手札抹殺 手札交換カードの代表
・手札抹殺は「制限理由が時代とともに変化している」カード
・当時の環境 2000年11月23日
・まとめ
【前書き】
【第2期の歴史17 制限改訂2000/11/1 苦渋エクゾ規制されず】の続きとなります。ご注意ください。
2000年11月1日の制限改訂によって【デッキ破壊】がやや勢いを落とし、【グッドスタッフ】も少なからず被害を被りました。その一方で【苦渋エクゾディア】に対しては規制がかからず、相対的に環境における支配力を高める格好となります。
その後、同年11月21日にVジャンプの付録で「絶対防御将軍」が誕生するなどの小さな出来事があったものの、環境は穏やかに推移していきました。
しかし、同月にスターターデッキの第3弾が販売され、その状況に振動が走ります。
【EX-R 必須カードの再録と強力な新規】
2000年11月23日、「EX-R」が販売されました。収録内容は前スターターの「EX」を下敷きにしており、新規カードは2枚しか含まれていません。
前書きで取り上げた書籍同梱カードと合わせて、遊戯王OCG全体のカードプールは893種類と微増に収まる格好となっています。また、そもそも再録元の「EX」もこの時期はまだショップに在庫が残っており、入手は難しくない状況でした。定価も3000円と割高だったこともあり、再録目当ての購入はそれほど多くはなかったのではないでしょうか。
そうした事情から、この「EX-R」の実質の購入目的は新規カードに集まる形となっていました。
クロス・ソウル 相手モンスターを生け贄に
1枚目の新規カードは「クロス・ソウル」という魔法カードです。
このカードを使用する場合、使用ターン自分はバトルフェイズを行う事ができない。フィールド上の相手モンスター1体を自分のモンスターの代わりに生け贄として使用できる。
相手モンスター1体を生け贄に使用できる効果を持っています。ただし、その代償として発動ターンはバトルフェイズを行えなくなるデメリットが課せられています。
相手のエースモンスターを生け贄に上級モンスターを召喚するなど、ある部分においては「心変わり」に近い働きすら期待できる面白いカードです。特に当時はリバースモンスター全盛期であり、セットモンスターに安全に対処できるこのカードは当初は高く評価されました。
しかし、バトルフェイズを行えなくなるデメリットの存在から、考えなしに採用できるカードというわけでもありません。分かりやすい損失はないものの、額面以上に失うものは大きく、これが原因で逆に不利になってしまうケースも多々見られます。
何より、これ単体では全く仕事をしないという欠点が足を引っ張ってしまいます。【グッドスタッフ】の理念からはやや外れてしまう格好となり、採用率は次第に落ち着いていきました。
手札抹殺 手札交換カードの代表
本命の2枚目は「手札抹殺」です。
お互いの手札を全て捨てた後、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数だけカードを引く。
お互いに手札を全て捨て、その枚数分ドローするという効果となっています。ただし、自分は「手札抹殺」の分のディスアドバンテージを負うため、単純に使うだけでは損をしてしまうことには注意しなければなりません。
しかし、このカードはそうしたデメリットが問題にならないほどのカードパワーを秘めています。様々な面においてコンボに組み入れる余地があり、むしろ純粋に手札交換目的で採用されることの方が稀なケースであったほどです。
この時期はまだ真価を発揮できる土壌が整えられていませんでしたが、それでも利用方法は多く、数少ない新規カードだったことも手伝ってプレイヤーの注目を集めていました。
当時、このカードの誕生を最も歓迎したのは【デッキ破壊】でした。
「手札抹殺」はその性質上、デッキ破壊効果を持ったカードとして扱うこともできます。そのため【デッキ破壊】においては「相手の手札の枚数分、相手のデッキを削るカード」として運用可能です。もちろん手札交換カードの役割を兼ねることもできるため、デッキ破壊を進めると共に不要牌を効果的に捌いていけます。
結果的に、この「手札抹殺」を得た【デッキ破壊】は直前の制限改訂で失った「攻め手」と「回転力」をある程度取り戻すこととなり、当時の環境での立ち位置をしっかりと固め直しました。むしろ部分的には強化されており、時には「手札抹殺」の連鎖によって一瞬でゲームが終わってしまうなど、狂気的なパワーを発揮することさえあったほどです。
当然、【デッキ破壊】を仮想敵とするデッキにとっては非常に悪い知らせです。
特に【苦渋エクゾディア】は手札破壊を苦手としており、やや難しい状況に立たされることになります。
運悪く初手に「封印されしエクゾディア」を握ってしまい、「手札抹殺」で捨てさせられて即ゲームセットといったシチュエーションも珍しいことではありません。かといって、デッキに残しておいてもデッキ破壊で墓地に落ちてしまう危険があり、常に二律背反の苦しい選択を強いられる形となりました。
手札抹殺は「制限理由が時代とともに変化している」カード
そんな「手札抹殺」というカードですが、実は他のカードにはない面白い逸話や特徴がいくつか存在することでも知られます。
中でも「制限カード指定を受けている理由が時代とともに変化していっている」という事実は特筆すべき事項に数えられるでしょう。
上述の通り、「手札抹殺」は当初は【デッキ破壊】での活躍がメインとなっており、2002年5月頃に制限カード指定を受けたのも【現世と冥界の逆転】でエンドカードとして悪用されたことが理由でした。つまり、第2期~第3期頃においては「相手のデッキを簡単に削れる凶悪なデッキ破壊カード」として恐れられていたということであり、墓地利用カードとしてはそこまで凶悪だと思われていなかった節があります。
その後はディスカードを起点に動く【暗黒界】が現れた頃から墓地利用カードとしても有力視されるようになっていますが、この時点でも【デッキ破壊1キル】などのコンボデッキでの濫用が目立っていたため、やはり汎用墓地利用カードとしてはあまり注目されていません。そのため、【デッキ破壊】系列のデッキが衰退した第5期頃は規制緩和が期待されていた時期もあり、実際に復帰してもおかしくない程度のカードパワーに落ち着いていました。
しかし、時を同じくして墓地利用戦術の重要度が高まり始めた(※)ため、いつの間にかデッキ破壊カードとしての評価と墓地利用カードとしての評価が逆転してしまい、その後はカードプールの増加とともにひたすら緩和までの道のりが遠のいていくという状況に置かれています。
(※この辺りの経緯は「おろかな埋葬」の記事に詳しくまとめてあります)
それから更なる時間が経過した現在では調整版「天使の施し」のようなカードと化しているため、制限カードから移動する可能性はかなり低くなっていると言わざるを得ません。むしろ「相手にも恩恵を与えるリスクがある」という弱点から辛うじて制限カードに踏みとどまっている印象はあり、仮にこれが自分専用であればとうの昔に禁止カードになっている(※)ような恐ろしいカードであると言えるでしょう。
(※実際、海外では一時期禁止カード指定を受けていたこともありました)
その他、変わったところでは「増殖するG」による強制ドローと組み合わせてデッキデスを狙うといった運用法も開拓されるなど、ここにきて再びデッキ破壊カードとしての側面を獲得していっています。実際に【未界域】などでは実戦レベルでこのコンボが脚光を浴びていたこともあり、これだけ時代に応じて性質が変わっていくカードはOCGでも非常に稀なのではないでしょうか。
【当時の環境 2000年11月23日】
「手札抹殺」の誕生で【デッキ破壊】が再び勢力を盛り返し、環境の最大勢力として復活を果たしました。
その一方で【苦渋エクゾディア】がやや厳しい状況に追い込まれ、何らかの対策を求められることになります。とはいえ、直接的な打撃ではなく、あえて手札破壊を無視して逃げ切ってしまうパターンも散見されました。
【グッドスタッフ】では「手札抹殺」が使われるケースは少なく、ほとんど状況が変わっていません。一部では「クロス・ソウル」が試されることもありましたが、やはり扱いにくさが足を引っ張り、目立った活躍はありませんでした。
ファンデッキの動向としましては、【リアニメイト】がデッキパワーを高めています。
「手札抹殺」の誕生により、手札で腐りやすかった上級モンスターを手軽に処理できるようになったことがその理由です。同じ理由で「クロス・ソウル」とも相性が良く、デッキの主要パーツとしての立場を確立しています。
結論としては、環境トップ周辺は再び三つ巴の状況に立ち返る格好となり、またもや苛烈な勢力争いが繰り広げられることになりました。
【まとめ】
「EX-R」の販売によって起こった変化については以上です。
新規カードの少なさから急激な変化は現れていませんが、それでも「手札抹殺」の誕生が環境に与えた影響は決して無視できません。力を失いかけていた【デッキ破壊】が一気に勢いを取り戻すほどであり、カード1枚が及ぼしたものとしては非常に大きな作用となっていました。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません