魔法の筒(マジック・シリンダー)全盛期 一般販売前に制限カードに
【前書き】
【第2期の歴史22 グラヴィティバインドが突破できない時代】の続きとなります。ご注意ください。
一風変わったカードが多数収録されていた「Thousand Eyes Bible -千眼の魔術書-」でしたが、環境目線では目立った影響もなく、【グッドスタッフ】【デッキ破壊】【苦渋エクゾディア】の三つ巴の状況は動いていません。
続く12月21日に書籍同梱カードが現れるものの、いずれも実戦級と言える性能ではなく、「悪夢の鉄檻」が多少の注目を集めた程度です。やはり環境への影響は皆無であり、依然として三雄がしのぎを削る状況が続いていました。
そんな折、2000年最後となるカードプールの更新がなされます。
【PREMIUM PACK 4 魔法使い系パック】
2000年12月23~24日、ジャンプフェスタ2001が開催され、その会場内で「PREMIUM PACK 4」が販売されました。全6種の収録内容であり、その内の「ブラック・マジシャン」「ブラック・マジシャン・ガール」の2枚は再録カードです。
ただし、「ブラック・マジシャン・ガール」は大会賞品カードとなっており、当時はごく一部のプレイヤーしか所持していませんでした。ほとんどのプレイヤーにとっては幻のカードと言っても差し支えない希少品だったため、例外的にこの日に誕生したものとして扱わせていただきます。
マジックシリンダー 攻撃を跳ね返す魔法の筒
さて、肝心の収録内容に関する話になりますが、この時のパックでは全体的に「魔法使いチック」なフレーバーを持ったカードが中心となっていました。
その中でも一際存在感を放っていたのは「魔法の筒」という罠カードです。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、相手のライフポイントにそのモンスターの攻撃力分ダメージを与える。
相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを与える効果を持っています。言わずと知れた有名カードであり、原作漫画でも活躍の多かったカードです。
アドバンテージ面から性能を見る場合、カード1枚使って攻撃を一度防ぐだけと見返りに乏しい部分は見られます。しかし、バーン性能に関しては圧倒的であり、下級モンスタークラスでも2000近いダメージを叩き出すことが可能です。初期ライフの4分の1を1枚で吹き飛ばすというのはバーンカード全体でも屈指の高効率となり、扱い方次第では強烈な地雷として運用できるでしょう。
ただし、やはりカード・アドバンテージでは損をしてしまっている点は決して見過ごすことはできません。何も考えずに使って強さを発揮するカードではなく、現在では玄人向けのカードとして見られています。
しかし、第2期当時ではゲームスピードの関係上、ライフ・アドバンテージは今以上に重要な概念とされていました。そのため、この「魔法の筒」もプレイヤーの間では非常に高く評価され、汎用カードとしての立ち位置を確立していくことになります。
実際のところ、このカードがプレイヤーの意識に与えた影響は「聖なるバリア -ミラーフォース-」に勝るとも劣らないものがありました。
セットカードが1枚でも存在する場合、攻撃を丸々跳ね返されてしまう危険性が生まれたため、駆け引きの範囲が大きく広がっています。下級アタッカーライン以下にライフを減らしてしまったが最後、常に即死のリスクを抱えてゲームを進めなければなりません。
これに伴い、同様にバーン効果を持つカードが再評価されることになりました。リバースモンスターメタに過ぎなかった「停戦協定」は安定した火力に化け、「破壊輪(エラッタ前)」に至っては必須カードと言えるレベルにまで需要が高まっています。
ひょっとすると、この時期に【アロマ・チェイン】が流行し始めたことにはこうした事情も絡んでいたのかもしれません。
そうした流れがあった結果、次の制限改訂では「魔法の筒」は早々に制限カードに指定されてしまうことになります。なんと一般販売前の規制であり、先行販売時に購入していなかったプレイヤーは最初から1枚しか使用できないという状況でした。
補足となりますが、この「魔法の筒」は「最強サイクロン」と同様、プレイヤー同士のトラブルを誘発しやすかったカードとしても有名です。「マジックシリンダー返し」という言葉に身に覚えのある方も、決して少なくはないのではないでしょうか。
【当時の環境 2000年12月23日】
「魔法の筒」の誕生により、ライフ・アドバンテージの概念は次第に重要性を増していくことになります。
とりわけ同月に現れた「破壊輪(エラッタ前)」との相乗効果は極めて大きく、シチュエーションによっては半分以上ライフが残っている状態から突然ゲームを落とすことすらあったほどです。
全体的に「低ライフを相手に晒す」という行為そのものに高いリスクが発生する格好となり、少しでもライフを守るプレイングを取るようにするなど、プレイヤーの意識に対しても多くの影響を及ぼしていました。
ただし、「魔法の筒」も含めて当時のバーンカードの多くは罠カードに分類されており、【グッドスタッフ】の必須カードである「人造人間-サイコ・ショッカー」の対応範囲内に含まれていたことも事実です。つまりバーン特化のデッキを組んでも【グッドスタッフ】相手には思うような活躍は望めず、【バーン】というアーキタイプとして成立するには至っていません。
【デッキ破壊】や【苦渋エクゾディア】にはそうした用意はありませんが、元々戦闘を行わないデッキタイプであり、そもそも「魔法の筒」自体が刺さらない状況です。
もちろん、逆に上記2デッキが「魔法の筒」を使う利点もそれほど大きくはありません。率直に申し上げるのであれば、「和睦の使者」などを積んだ方が遥かに役に立つでしょう。
つまり、この時期に「魔法の筒」を活用できたのは【グッドスタッフ】だけであり、その影響も【グッドスタッフ】同士のミラーマッチで明確に現れる形となりました。
具体的には「ライフ・アドバンテージをしっかり意識しているプレイヤーが勝ちやすい」という土壌が生まれています。このゲームバランスの変化には意外な落とし穴が用意されており、特に中級者プレイヤーが陥りやすい罠として機能していました。
これは遊戯王に限らず多くのカードゲームに言えることですが、ある程度ゲームの経験を積んでくると「ライフ・アドバンテージはそれほど重要ではない」という事実を理解し始めることになります。その結果、必要以上にライフを軽視する悪癖がついてしまい、逆に勝率を落としてしまう結果に陥るケースは少なくありません。
「魔法の筒」の存在はまさにこの状況を生み出し、そうしたプレイヤーに対して意識改革の機会が訪れることになりました。
とはいえ、ライフを重視するあまりカード・アドバンテージを蔑ろにしてしまっては本末転倒です。従来のセオリーを大前提に置きつつ、頭の片隅で常にライフの計算を行っていかなければなりません。
そうした舵取りは中々難しいものがあり、結果的にこれまで以上に歯ごたえのあるゲームバランスの成立に繋がっています。同じデッキを使用していても「カードに使われている」プレイヤーが勝利を得ることは難しくなり、実力差が結果に反映されやすい「上級者向けゲーム」としての側面を持ち合わせるようになっていきました。
【まとめ】
「PREMIUM PACK 4」の販売、もとい「魔法の筒」の誕生によって起こった変化は以上です。
「Thousand Eyes Bible -千眼の魔術書-」の販売時と同じく、上位3デッキの勢力図に関してはほとんど動きのない時期となっています。しかし、プレイヤーの意識に対して及ぼした影響は無視できないものがあり、とりわけ【グッドスタッフ】同士の対戦ではそれが明確に表に出てくる形となりました。
また、遊戯王OCGにおける2000年代の出来事はこれが最後です。前年とは比較にならないほどゲーム性は深まっており、次第に原作漫画とは分離した独自の人気を集め始めていました。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
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