ギルファーデーモン 無限ループとタイミングを逃すルール

2018年1月27日

【前書き】

 【第2期の歴史25 制限改訂2001/1/15 苦渋エクゾディアの最期】の続きとなります。ご注意ください。

 2001年1月15日の制限改訂によって【苦渋エクゾディア】が姿を消し、当時の環境では【グッドスタッフ】【デッキ破壊】の一騎打ちが盛んに繰り広げられていました。

 「魔封じの芳香」と「魔力の枷」をキーカードに据えた【アロマ・チェイン】などのメタデッキも考案されていましたが、いまだ未熟児の状態であり、おぼろげに概念が生まれていた程度です。環境に対して明確な影響を及ぼすことはなく、活躍の機会は先に持ち越す格好となります。

 また、同月18日に「PREMIUM PACK 4」の一般販売が行われています。【第2期の歴史23 魔法の筒(マジック・シリンダー)全盛期 一般販売前に制限カードに】の記事でも触れていますが、ここに収録されていた「魔法の筒」は既に制限カードに指定されており、購入時点で1枚しかデッキに入れられませんでした。

 そんな折、様々な意味で有名な、とあるモンスターが書籍同梱カードとして誕生します。

 

【暗黒魔族ギルファー・デーモン 時の任意効果】

 2001年2月9日、週刊少年ジャンプ付録から「暗黒魔族ギルファー・デーモン」が誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは970種類となっています。

 ここで生まれた「暗黒魔族ギルファー・デーモン」のテキストは以下の通りです。

このカードが墓地に送られた時、装備カード(攻撃力/-500)となりフィールド上のモンスター1体に装備させることができる。

 何らかの方法で墓地へ送られた時、装備カード扱いとしてフィールドのモンスター1体に装備できる効果を持っています。元の場所は問わないため、「苦渋の選択」などでデッキから墓地へ送られた場合であっても効果を発動することが可能です。

 更には、この効果で装備されているこのカードが墓地へ送られた場合であっても、再び装備カードになることができます。攻撃力2200と上級モンスターとしては低めの打点ですが、装備先さえ残っていれば何度でも使用可能な打点補助カードとしても運用できるなど、当時としては非常に革新的な効果を与えられていました。

 ただし、このカードはルール的に複雑な要素を含んでおり、使用する際にはその理解が必須となります。

 例えば、このカードは「手札抹殺」で墓地へ送られている場合は効果を発動できず、天使の施し」で墓地へ送られている場合は効果を発動できます。また、戦闘で破壊され墓地へ送られた場合は効果を発動できますが、アドバンス召喚のリリースに使用され墓地へ送られた場合は効果を発動できません。

 一見すると訳が分からない処理に思えますが、この奇妙な現象には「タイミングを逃す」という遊戯王特有のルールが絡んでいます。

 

ギルファーデーモンとリーフフェアリー 頭が上がらない関係

 

リーフ・フェアリー「まず私に装備されたギルファーさんを墓地に送ります」
ギルファー・デーモン「墓地に送るだと!俺の時代がやってきたな!」
リーフ・フェアリー「まだ私の出番(一連の処理)が終わっていません。もうすこし待ってください」
ギルファー・デーモン「まあ後で出番があればいいか」
リーフ・フェアリー「私の効果が発動しますね」
ギルファー・デーモン「そろそろ俺の出番だな!効果発動!墓地に送られた時、俺はモンスター1体の装備k…」

リーフ・フェアリー「なにいってるんですか。墓地に送られたのなんてとっくの前の話でしょう。いまさらそんなことを言っても装備できませんよ」
ギルファー・デーモン「(´・ω・`)」

 出典元:暗黒魔族ギルファー・デーモンとは (アンコクマゾクギルファーデーモンとは) [単語記事] – ニコニコ大百科

 

 初心者にとっては非常に難解なルールであり、到底一言で語り切れる概念ではありません。詳しい内容に関しましては上記の外部記事にて大変分かりやすい解説がなされていますので、ご興味をお持ちの方はそちらをご覧いただければ幸いです。

 一応、簡単に解説いたしますと、「時の任意効果はその条件を満たした直後にしか発動できない」というルールにあたります。上記引用の「リーフ・フェアリー」の例では、「墓地へ送られた時」ではなく「効果モンスターの効果が発動した時」なのでタイミングを逃すという理屈です。

 普段デュエルを行っている場合はほとんど意識しない概念ですが、そもそも遊戯王OCGは極めて複雑な「タイミングの積み重ね」によってゲームが進行しています。

 例えば、「クリッター(エラッタ前)」を生け贄に「デーモンの召喚」をアドバンス召喚し、サーチ効果を発動する、というプレイを分解すると、大まかには以下のような処理となります。

 

①:「モンスターをリリースした時」及び「モンスターが墓地へ送られた時」

 

②:「モンスターを召喚する際」及び「モンスターをアドバンス召喚する際」

 

③:「永続効果が適用されるタイミング」(時ではない)

 

④:「効果モンスターの効果が発動した時」のち「モンスターを召喚した時」及び「モンスターをアドバンス召喚した時」

 

⑤:「デッキからカードを手札に加えた時」

 

⑥:「ターンプレイヤーが優先権(スペルスピード2)を得るタイミング」(時ではない)

 

⑦:「非ターンプレイヤーが優先権(スペルスピード2)を得るタイミング」(時ではない)

 

⑧:「ターンプレイヤーが優先権(スペルスピード1)を得るタイミング」(時ではない)

 

 非常に込み入った処理となるため、逐一確認していてはゲームが全く進みません。通常意識するのは⑥~⑧の優先権関連の処理のみとなるでしょう。カジュアルな場ではそれすら省略してしまう形でも構わないと思います。

 ただし、上記の解説も厳密には正確ではなく、特に④の辺りはかなり説明不足ですのでご注意ください。しかし、そこまで解説を入れてしまいますと完全に話題が迷宮入りしてしまうため、ここでは省略させていただきます。(どの部分が抜けているか普通に理解できてしまうという方は、どうかそのまま胸の中にしまい込んでくださればと思います)

 こうした「タイミングを逃す」ルールの発生経緯は諸説あります。有力と思われる仮説から誤解を含んだ解釈まで、数え始めれば枚挙にいとまがありません。

 「タイミングを逃す」という煩雑極まりないルールが何もないところから自然発生するというのは考えにくいことです。そのため、何らかの発生原因が存在していたことは間違いないと思われます。

 あくまでも私見となりますが、根本的な理由という意味では「暗黒魔族ギルファー・デーモン」と「鉄の騎士 ギア・フリード」による無限ループの発見こそがきっかけだったのではないでしょうか。

 

【タイミングを逃すルールの発生経緯】

 本ルール発生経緯について、個人的な解釈は以下の通りです。

 

①:2001年2月9日に「暗黒魔族ギルファー・デーモン」が誕生し、「鉄の騎士 ギア・フリード」との(意味のない)無限ループが発見される。

 

②:公式が「暗黒魔族ギルファー・デーモン」の悪用しやすさを危険視し、「タイミングを逃す」ルールが整備される。この時点では判例がなく、本ルールの知名度も低かった。

 

③:上記から約9ヶ月後に「リーフ・フェアリー」が誕生し、案の定「暗黒魔族ギルファー・デーモン」とのループコンボが注目を集める。しかし、既に対策済みであり、実際には成立しないコンボだった。

 

④:①~③の時系列、事実関係が錯綜し、「③を止めるためにルールが後付けで作られた」という誤解が広まる。

 

 以上が私個人による事実関係の考察となります。真相の解明は今となっては困難ですが、可能な限り矛盾点が生まれないよう考慮した末の結論です。

このカードに装備カードがついたとき、その装備カードは破壊される。

 当時の「鉄の騎士 ギア・フリード」のテキストです。自身に装備されたカードを破壊する誘発効果を持つため、「暗黒魔族ギルファー・デーモン」とは無限ループを形成します。もちろん、これだけでは意味のないループであり、このループそのものが問題にされたことはありません。

 しかし、このループが他のカードとの組み合わせによって応用、もとい悪用されるケースは容易に想像できることです。この発見がルール整備のきっかけとなることもそれほど不自然ではありません。

 以上により、本ルールが無限ループ抑制のために整備されたことはやはり間違いないと思われます。しかし、今後発生し得る問題を見据えた先出しのルール改訂であり、巷で囁かれるように「リーフ・フェアリー」のコンボを名指ししていたわけではありません。

 ただし上述の通り、開発側が「鉄の騎士 ギア・フリード」の無限ループを見落としていたこと自体は間違いないでしょう。事前に気付いていたのであれば、そもそも「暗黒魔族ギルファー・デーモン」側に調整が入るだけで終わっていたはずの話(※)だったからです。

(※そのため、いわゆる「ギルファーデーモンは戦犯」という風潮は半分正しく半分間違っていると言えます)

 つまり結論としては、「無限ループ(ギア・フリード)に気付いてルールが作られた」という事実の一端が、「無限ループ(リーフ・フェアリー)を止めるためにルールが作られた」と捻じ曲がって伝わってしまった、というのが事の真相だったのではないでしょうか。

補足:記事コメントより情報提供をいただきました。
ヴァリュアブルブックによると、「~した場合、~する」という記述形式が最初に使用され始めたのは2001年4月19日、「Spell of Mask -仮面の呪縛-」パックからであるとのことです。これは「タイミングを逃すルール」の制定に関連した記述形式の変更であった可能性が濃厚であり、当仮説を裏付ける有力な根拠のひとつとして数えることができるものと思われます。

 

専用デッキ? 【ギルファーデーモンワンキル】について

 余談ですが、上記で取り上げた「リーフ・フェアリー」と「暗黒魔族ギルファー・デーモン」のループコンボを利用したデッキとは下記のようなものを指します。

 

サンプルデッキレシピ(2001年11月29日)
モンスターカード(12枚)
×3枚 暗黒魔族ギルファー・デーモン
キャノン・ソルジャー
サンダー・ドラゴン
リーフ・フェアリー
×2枚  
×1枚  
魔法カード(28枚)
×3枚 死者への手向け
生還の宝札
手札抹殺
成金ゴブリン
早すぎた埋葬
ハリケーン
遺言状
×2枚 浅すぎた墓穴
天使の施し
×1枚 苦渋の選択
強欲な壺
死者蘇生
罠カード(0枚)
×3枚  
×2枚  
×1枚  
エクストラデッキ(0枚)
×3枚  
×2枚  
×1枚  

 

 俗に【ギルファーデーモンワンキル】と呼ばれる先攻1キルデッキの一種であり、上述の通りルールの誤解釈から成立したデッキです。「リーフ・フェアリーが存在する状態でギルファーデーモンを墓地に送る(※)」という緩すぎる条件を達成するだけで先攻1キルが成立するため、コンボ成功率は第2期出身の先攻1キルデッキの中でも最上位に入ります。

(※「遺言状」や各種蘇生カードの存在により順不同でもコンボが成立してしまうことが多く、成功パターンは見た目以上に豊富です)

 もっとも、当然のことながら実際のゲームでは使用不可能なデッキであり、この【ギルファーデーモンワンキル】がトーナメントレベルで暴れ回るようなことはありませんでした。

 一方で、当時は今ほど情報の伝達が正確ではなかった(※)ため、カジュアルな場ではもちろん、時には店舗単位あるいは地域単位でルールの誤解釈が浸透してしまうケースもありました。

(※詳しい背景は下記の記事で解説しています)

 「タイミングを逃すルール」の発生経緯が今に至るまで誤解されて広まってしまったのも、そうした時代背景が複雑に絡まり合ったことによる結果だったのかもしれません。

 

【まとめ】

 「暗黒魔族ギルファー・デーモン」と「タイミングを逃す」ルールの関連性についての話は以上となります。

 明確な事実関係は不明であり、情報の断片を繋ぎ合わせた仮説となっておりますが、できる限り客観的な視点に基づいた考察を行ったつもりです。非常にマニアックな内容の記事となってしまいましたが、何かの参考になればと思います。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史