黄泉ガエルが【黄泉帝】の魂だった頃の話
【前書き】
【第4期の歴史23 マッチキル【MCV】の脅威とは 実は脆すぎる事故デッキ】の続きとなります。ご注意ください。
2005年9月の制限改訂以降、【MCV】を筆頭にマッチキルデッキがいくつも現れ、当時の現役プレイヤーに多大な精神的苦痛を与えました。【ガジェット】の躍進など、健全な出来事が起こっていたのも事実ですが、それ以上に凶事が際立っていたことは否めません。
OCGの風評に暗雲が立ち込める中、続く11月に状況打開の鍵となり得る期待の新人が現れます。
自己再生モンスターの象徴 黄泉ガエルの誕生
2005年11月17日、レギュラーパック「SHADOW OF INFINITY」が販売されました。新たに60種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは2299種類に増加しています。
非常に多種多様な優良カードを輩出したパックで、【デミスドーザー】の中核である「終焉の王デミス」「デビルドーザー」の2枚はその筆頭です。他にも、フリーチェーンの除外系除去カード「因果切断」や、後世で悪用される「継承の印」といった有名カードの存在も見逃せません。
変わったところでは、融合デッキを山積みにしたプレイヤーを粉砕する「記憶破壊者」など、いわゆる「趣深いカード」も誕生しています。当時は融合デッキの枚数制限が設けられていなかったため、状況によってはこの一撃でゲームが終わってしまう(※)こともあったほどです。
(※驚くべきことに、なんと世界大会の場においてこれが決まってしまったゲームも存在します)
そんな中、一際目を引くパワーカードとして注目を集めたのは「黄泉ガエル」でした。
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が表側表示で存在する場合は発動できない。
自分フィールドに魔法・罠カードが存在しない場合、毎ターンのスタンバイフェイズに自己再生できる効果を持ったモンスターです。遊戯王OCGにおける代表的な自己再生モンスターであり、古参プレイヤーであれば知らない方はいないとすら言えるカードなのではないでしょうか。
ステータスは攻守100と戦闘に耐えうる数値ではありませんが、それ以外のほとんどの場面で高いポテンシャルを発揮します。
最大の強みとして評価できるのは、やはり何をおいても「生け贄召喚の最高のサポートになる」という事実に他なりません。
条件こそありますが、単純に毎ターン生け贄用モンスターを確保できるというのは極めて破格です。従来の【生け贄召喚】系デッキが常に抱えていたリソース問題をこれ1枚で解決できてしまうほどであり、情報が判明するや否や専用デッキの開発が推し進められていっています。
【黄泉帝】の成立です。
【黄泉帝】の成立 【生け贄召喚】永遠のエース
【黄泉帝】はそのデッキ名の通り、「黄泉ガエル」と帝モンスターを組み合わせた上級ビートデッキです。毎ターン供給される「黄泉ガエル」を生け贄に次々と帝モンスターを繰り出し、圧倒的なボード・アドバンテージによってゲームを押し切ることを狙います。
キーカードである「黄泉ガエル」に素早くアクセスするための展開札としては、主に「おろかな埋葬」や「遺言状」が使われていました。
他にもリクルーターである「グリズリーマザー」や、変わったところでは「ダメージ・コンデンサー」なども一時期は試されていたことがあります。
ちなみに意外なことですが、この【黄泉帝】はビートダウンデッキに限れば、「遺言状」を最も上手く使いこなしていたアーキタイプとしても有名です。
【黄泉帝】において、「遺言状」からリクルートされるモンスターは「黄泉ガエル」に限りません。当時の最優アタッカー「異次元の女戦士」を筆頭に、「ネフティスの導き手」や「魂を削る死霊」など選択肢は多岐に渡ります。
そうでなくとも、帝モンスターの横に「クリッター(エラッタ前)」を置いておくだけでも十分な圧力をかけることができます。この状況から盤面を切り返したとしても「ネフティスの鳳凰神」の着地を許してしまう(※)ため、どのようなデッキにせよ容易に切り崩せる布陣ではないからです。
(※「クリッター(エラッタ前)」で「ネフティスの導き手」をサーチし、自己再生した「黄泉ガエル」をコストに「ネフティスの鳳凰神」に繋げるという動きです)
もちろん、デッキの主役は帝モンスター達ですが、こうした小技が利くというのは悪い話ではないでしょう。
中心戦力となる帝モンスターの採用枚数は平均10枚前後であることが多く、通常のデッキ構築理論では考えられないバランスとなっています。この時期の帝モンスターと言えば「氷帝メビウス」や「雷帝ザボルグ」が有名ですが、「炎帝テスタロス」「地帝グランマーグ」も複数枚の投入が基本とされていました。
「黄泉ガエル」が墓地に落ちている限り、全ての帝モンスターは実質ノーコストで召喚可能な状態へと変わります。これは言い換えれば「攻撃力2400のメリット効果持ち下級アタッカー」によるビートダウンに他ならず、一旦回り始めればもはや誰にも止められません。
同様の理由により、通常は【生け贄召喚】の弱点となる「地砕き」などの除去がそれほど苦にならない強みもあります。そもそも帝モンスターは召喚した時点で仕事の半分を終えているため、「除去耐性がないなら相手のリソースが尽きるまで攻めればいい」という乱暴な理屈が難なく成立してしまうのです。
とはいえ、そんな【黄泉帝】にも当然いくつかの弱みはあり、ただ強いだけのデッキというわけではありません。
最大の弱点はやはり手札事故で、構造上「黄泉ガエル」が墓地に落ちていなければ身動きがほとんど取れなくなります。「洗脳-ブレインコントロール(エラッタ前)」などで一時的に生け贄を確保することはできますが、先細りの展開であり、そのままでは大量の帝を手札に抱えたままゲームを落としてしまうことは明らかです。
かと言って帝モンスターの数を減らせばコンセプトが色あせ、逆の意味で八方塞がりの状況に陥ります。上級モンスターがいなければ「黄泉ガエル」は意味もなく蘇生を繰り返すだけの弱小モンスターに過ぎず、それは潜在的なディスアドバンテージ以外の何物でもないからです。
同様の理由で「抹殺の使徒」や「異次元の女戦士」などの除外効果にも弱く、特に「霊滅術師 カイクウ」「カオス・ソーサラー」といったフィールドに定着するタイプのカードは下手をすればそれだけでゲームが終わりかねません。【黄泉帝】は盤面解決能力の大半を帝モンスターに頼っているため、この召喚を封じられると打つ手が非常に限られてしまいます。
最悪なのが「マクロコスモス」などの全体除外カードであり、張られるタイミングによっては1枚でデッキが機能不全に陥るほどに致命的な天敵です。2005年11月時点ではこうした全体除外カードはまだカードプールに存在しませんでしたが、将来的には【除外デッキ】の筆頭である【閃光ガジェット】に押し負けてしまったことからもそのことが窺えるでしょう。
良くも悪くも「黄泉ガエル」がいなければ始まらないデッキであり、【黄泉帝】にとっては強みであり弱みでもある存在だったのではないでしょうか。
【当時の環境 2005年11月17日】
もっとも、こうした弱点がありながらもデッキパワーの高さは本物であり、参入直後から主流デッキの仲間入りを果たしています。最終的には【ガジェット】すら押しのけて環境の最大勢力となり、翌年3月の制限改訂までトップメタとしてメタゲームを走り続けました。
また、メインデッキから「氷帝メビウス」を3積みする関係上、【Vドラコントロール】に有利を取れる点も見逃せません。
「サンダー・ブレイク」や「人造人間-サイコ・ショッカー」を採用している場合、優位性はさらに向上します。【Vドラコントロール】側も「神の宣告」「天罰」を積んでいるため確実な信頼は置けませんが、少なくとも五分以上の相性にあったことは確かです。
実際にこの時期から【Vドラコントロール】の使用率が減少傾向にあり、【黄泉帝】の流行に伴って勢力を縮小させていたことが窺えます。恐らくは【黄泉帝】だけでなく10月のルール改訂の影響もあったものと思われますが、それでも【マッチキル】衰退の一因となっていたことは間違いありません。
新勢力の台頭が暗黒時代脱出のきっかけとなった稀有な例であり、当時の現役プレイヤーにとってはまさしく英雄とも呼べる存在だったのかもしれません。
【まとめ】
「黄泉ガエル」の参入によって起こった出来事については以上です。
ステータスは貧弱ながら、その強力な自己再生能力によって【生け贄召喚】の大幅な躍進のきっかけとなり、やがては【黄泉帝】を成立させています。さらには間接的に【Vドラコントロール】打倒の一手にもなるなど、このカードの誕生が及ぼした影響は計り知れません。
【黄泉帝】というデッキ名が指す通り、帝モンスターにとってはまさしく魂そのものと言えるモンスターだったのではないでしょうか。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
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