【除外デッキ】の概念が生まれた瞬間 マクロコスモスと次元の裂け目
・前書き
・全体除外カード3種の神器 墓地利用デッキ天下の終わり
・「墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される」概念
・除外利用戦法【次元ビート】の確立 対策なしでは即死
・初代除外デッキ【次元帝】 2006年環境の奮闘
・まとめ
【前書き】
【第4期の歴史26 遊戯王の歴史 2005年の総括】の続きとなります。ご注意ください。
変遷の2005年が終わりを告げ、遊戯王OCGは7度目の新年を迎えることとなりました。前年、前々年と比較して非常に整ったバランスの環境が構築されており、カードゲームとして成熟期を迎えつつあったことが窺えます。
後期は【MCV】を筆頭にマッチキルデッキの脅威が見え隠れしましたが、複数の要因から支配的な地位には至らず、暗黒期と言えるほどの領域には陥っていません。以前からは考えられない免疫力の高さであり、それは遊戯王OCGがコンテンツとして体力をつけ始めていたことの表れだったのではないでしょうか。
上向きの風が吹く第4期終盤にて、遂に最終弾となるレギュラーパック販売が行われます。
全体除外カード3種の神器 墓地利用デッキ天下の終わり
2006年2月16日、レギュラーパック「ENEMY OF JUSTICE」が販売されました。新たに60種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは2376種類に増加しています。
現在でもよく知られる有名カードをいくつも輩出したパックであり、特に「E-エマージェンシーコール」は【HERO】における必須カードとして今なお活躍しているほどです。他にも、【鳥獣族】最高峰のサポートカード「ゴッドバードアタック」など、ここで生まれた環境クラスのパワーカードは少なくありません。
変わったところでは、第9期に【マジエク帝】の1キルパーツとして拾い上げられた「ライフチェンジャー」の存在も特筆すべき点に数えられます。この時期を含め以後10年間は全く注目されておらず、これが突然禁止カード行きになるとは誰にも想像できなかったのではないでしょうか。
「墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される」概念
しかしながら、このパックに収録されていた中で、当時最も注目を集めていたのは上記のカードではありません。
それは「次元の裂け目」「マクロコスモス」「閃光の追放者」の3枚でした。
墓地へ送られるモンスターは墓地へは行かずゲームから除外される。
自分の手札またはデッキから「原始太陽ヘリオス」1体を特殊召喚する事ができる。また、このカードがフィールド上に存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。
いずれも「墓地を除外に置換する」ような効果を持っており、遊戯王OCGの重要な要素の一つを書き換えてしまうルール介入型カードです。他の2枚と違い「次元の裂け目」はモンスターしか除外できませんが、逆にこの性質を利用することもできるため、相互互換の関係にあると言えます。
とはいえ、これ単体では特に勝利に繋がる働きをするわけでもなく、一見すると何の役に立つか分からないカードにも見えます。しかし実際のところ、これらが環境に参入(※)したことによる影響は極めて多大であり、それこそ天変地異とも言える変革をもたらしていたほどです。
(※ただし、実は永続除外カードはこれらが初出ではなく、第2期初頭に「光の追放者」が現れていました)
細かい部分まで数え始めればキリがありませんが、これによって大きく分けて2つの出来事が起こっています。
1つ目は単純に、墓地を利用するデッキ全般が「カード1枚で壊滅する危険性」を孕むようになったことが挙げられます。
これまで遊戯王OCGにおける「墓地」は触れることが難しい領域とされており、これに刺さるメタカードはごく一部に限られていました。やや性質が異なりますが、「霊滅術師 カイクウ」が高い評価を受けていたことにはこうした要因も含まれています。
逆に言えば、墓地に強く依存したデッキを使うリスクも大きなものではなく、それは【黄泉帝】や【リクルーターカオス】の当時の流行度から見ても明らかなことです。
翻って上記3枚に目を向ければ、墓地に対して非常にクリティカルな効果を発揮するカードであることが分かります。墓地そのものを除外に置換するという抜け道の少ないメタ効果を備えているため、これがフィールドに残っている間は墓地利用関連の行動の大半を封殺することが可能です。
もちろん、除去できたとしても除外されたカードは戻ってきません。よって墓地利用デッキ側が被害を抑えるには「効力を発揮される前にすみやかに除去する」しかなく、対処法が非常に限られます。
当然のことながら、このカード群の参入によって最も大きなダメージを受けたのは【黄泉帝】でした。
デッキの核である「黄泉ガエル」の自己再生能力は墓地依存の効果であり、全体除外下では当然効力を発揮できません。【黄泉帝】は魔法・罠除去の面で「氷帝メビウス」に強く依存しているため、そもそも初動を潰されてしまうと身動きがほとんど取れなくなってしまうのです。
同様に、コンセプト上リクルーターを多用する【リクルーターカオス】も少なくない被害を被っています。
特に「閃光の追放者」は攻撃力1600の準アタッカーでもあったため、それ自体がリクルーターキラーとして作用していたことも強い逆風に繋がっていました。
こうした「除外時代」の流れに上手く乗ったのが【ガジェット】であり、以降は【閃光ガジェット】として明確に型の派生が進んでいます。上述の理由により【黄泉帝】【リクルーターカオス】に強く、またその打点から【ガジェット】同士のミラーマッチでも最低限の働きが期待できたからです。
将来的に【バブーン】や【未来オーバー】が台頭し始めてからはこの流れは決定的なものとなり、後期はほぼ全ての【ガジェット】の型が【閃光ガジェット】へと変遷することになりました。実際に当時の選考会でも【閃光ガジェット】は最大勢力となり、日本代表プレイヤー4名中3名がこれを使用しています。
除外利用戦法【次元ビート】の確立 対策なしでは即死
ただし、この「除外時代」の波に乗ったデッキは【ガジェット】だけではありません。全体除外をメタカード、つまり妨害に使うだけでなく、むしろ強みとして活用するデッキの開発が進んでいくことになります。
【次元ビート】の確立です。
これが除外系カードの参入によって引き起こされた2つ目の出来事であり、以降の時代では1つのアーキタイプとして広く浸透していきました。非常に種類が豊富、かつ時代に応じて姿を変えるデッキであるため、決まった構築などは基本的に存在しません。
一応、環境レベルで実績を残した主な【次元】系デッキを下記の一覧にまとめておきます。
2006年3月~ | 【次元帝】 |
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※当記事の下記項目参照。 | |
2006年9月~ | 【ネクロフラ】 |
【第5期の歴史6 ネクロフェイス誕生 悪用しがいのある面白カード】 | |
2008年9月~ | 【次元剣闘獣】 |
【第6期の歴史10 【レスキューシンクロ】の一時後退と【シンクロアンデット】の台頭】 | |
2009年9月~ | 【次元エアトス】 |
【第6期の歴史20 ガーディアン・エアトス全盛期 専用デッキ【次元エアトス】の活躍】 | |
2011年9月~ | 【次元ラギア】 |
【第7期の歴史18 レスキューラビット全盛期 【エヴォル】環境上位へ(大嘘)】 | |
2012年3月~ | 【ヴェルズラギア】 |
【第7期の歴史28 ヴェルズ・オピオン地味つよ時代 【ヴェルズラギア】環境入り】 |
以上のように、時期によって浮き沈みはありつつも常に環境の一角にあり続けていた息の長いアーキタイプであり、広義においては【グッドスタッフ】などに匹敵する巨大勢力の一種です。性質上、対策なしで戦うとデッキによっては即死級の被害を受けることも珍しくなく、これが環境に存在するという事実そのものがメタゲームに影響を及ぼしていました。
流石にゲームバランスのインフレが激化する第8期中頃辺りからは単一の勢力として生存することは難しくなっていますが、それでも【次元】系という概念そのものは現在においても生き残っており、また今後も廃れることはない重要な概念なのではないでしょうか。
初代除外デッキ【次元帝】 2006年環境の奮闘
そんな【次元】系デッキの最初の活躍は上記の一覧にもある通り、【次元帝】と呼ばれるデッキにおいて始まりを告げています。
モンスターカード(19枚) | |
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×3枚 | 異次元の生還者 |
異次元の偵察機 | |
氷帝メビウス | |
×2枚 | 炎帝テスタロス |
×1枚 | 異次元の女戦士 |
クリッター(エラッタ前) | |
原始太陽ヘリオス | |
速攻の黒い忍者 | |
地帝グランマーグ | |
ならず者傭兵部隊 | |
魔導戦士 ブレイカー | |
雷帝ザボルグ | |
魔法カード(15枚) | |
×3枚 | 次元の裂け目 |
洗脳-ブレインコントロール(エラッタ前) | |
×2枚 | 増援 |
×1枚 | 押収 |
大嵐 | |
強奪 | |
サイクロン | |
手札抹殺 | |
天使の施し | |
早すぎた埋葬 | |
罠カード(6枚) | |
×3枚 | マクロコスモス |
×2枚 | |
×1枚 | 激流葬 |
死のデッキ破壊ウイルス(エラッタ前) | |
聖なるバリア -ミラーフォース- | |
エクストラデッキ(0枚) | |
×3枚 | |
×2枚 | |
×1枚 |
【次元帝】はその名の通り、全体除外カードによって相手の妨害を行うとともに、除外ギミックを利用して帝モンスターの展開に繋げるデッキです。全体除外下では「異次元の生還者」「異次元の偵察機」が不死身となることに着目し、帝モンスターの生け贄要因として活用することを狙います。
要は【黄泉帝】の「黄泉ガエル」を除外ギミックに置き換えたようなデッキであり、広義では【帝コントロール】に属しているアーキタイプです。2週間後の制限改訂で【黄泉帝】が弱体化した後に開発が進んでおり、事実上はその後継デッキでもありました。
【黄泉帝】を上回る点としましては、やはり何と言っても全体除外によるメタ性能の高さが挙げられます。こちらの展開がそのまま相手への妨害として作用するため、マッチアップによっては「戦わずして勝ってしまう」ケースも少なくありません。
単体では役に立たない「黄泉ガエル」と異なり、「異次元の生還者」が優秀なアタッカーを兼ねることも大きな強みです。この時期は下級モンスターの平均打点も減少傾向にあったため、戦闘破壊にも耐性がある「ヴァンパイア・ロード」のような感覚(※)で運用することができました。
(※現在の価値観ではあまりピンとこない話ですが、当時のゲームバランスでは非常に強力なコンボでした)
また、「マクロコスモス」が持つ「原始太陽ヘリオス」のリクルート効果を【生け贄召喚】のギミックとして活用できるのも地味ながら大きなポイントです。これは他の【次元】系デッキにはない利点であり、むしろ考えようによっては専用デッキにあたる【マクロコスモス】以上に「マクロコスモス」というカードを使いこなしているとすら言えるでしょう。
ただし、複雑なギミックを搭載している関係上、デッキの事故率は【黄泉帝】以上に悪化していることも事実ではあります。
「黄泉ガエル」さえ墓地に落とせばよかった【黄泉帝】と違い、全体除外カードと帰還モンスターの両方を同時に揃えなければならない不安定さは決して看過できません。もちろん、除外カードを割られてしまえばギミックが崩壊してしまうため、これを守る手段もどのような形にせよ必須です。
こうした安定感の無さはトーナメントシーンにおいては苦しい欠点であり、メタデッキとしての活躍は【閃光ガジェット】に譲る形に収まっています。総合的なデッキパワーも【黄泉帝】ほど高いわけではなく、結局2006年後期を待たずに自然衰退するという結末を迎えました。
とはいえ、環境によっては時折浮上することもあり、愛好家の間では細く長く開発が行われていたデッキでもあったのではないでしょうか。
【まとめ】
レギュラーパック「ENEMY OF JUSTICE」の販売によって起こった出来事は以上です。
全体除外カードという新たな分類のメタカードにより、当時の2大墓地利用デッキであった【黄泉帝】【リクルーターカオス】らが相対的に大きなダメージを負いました。それどころか、今後現れる全ての墓地利用デッキがこれに注意を払わなければならなくなったなど、極めて重大な変革へと繋がっています。
遊戯王OCGというカードゲームに新たな奥深さが生まれた瞬間です。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
ところでヘリオスの状況について追記したらどうですか?
マクロコスモスのヘリオスが最初効果のかみ合っていないサポートカード扱いだったのが、特殊召喚が後にシンクロ、エクシーズの登場によって新たな価値を見出されたり、活路エグゾの高度なプレイングを生んだ利する等、
初期では考えられないような面白い効果に変わっていたカードゲームならではの変化が印象深いので。
コメントありがとうございます。
ご指摘いただきました通り、ヘリオスはそれだけで1記事が書けそうなほど面白いカードではあるのですが、無理に付け足してしまうと却って記事のテーマがぶれてしまいますので、自然な形で追記するのはちょっと難しそうです。すみません。
そうですか。
でも1記事書けそう、ということは将来的に別途ヘリオスの記事を書く予定はあるのですか?
今はちょっと厳しいかもしれません……。
余裕があれば頑張ってみるつもりです。