魔鍾洞が禁止カードになった理由
【前書き】
「魔鍾洞」というカードが存在します。
魔鍾洞(ましょうどう)
フィールド魔法
①:相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、相手はモンスターの効果を発動できず、攻撃宣言もできない。
②:自分フィールドのモンスターの数が相手フィールドのモンスターより多い場合、自分はモンスターの効果を発動できず、攻撃宣言もできない。
③:自分・相手のエンドフェイズに、お互いのフィールドのモンスターの数が同じ場合に発動する。このカードを破壊する。
言わずと知れた「何かがおかしい系カード」の筆頭であり、文字通り「何かがおかしい」としか言いようがないようなカードです。今更この場でわざわざ効果を解説するようなことはしませんが、その強烈すぎるロック性能によって【魔鍾洞チェーンバーン】を成立させたほか、制限カード指定以降も【閃刀姫】などの相性のいいコントロールデッキで採用実績を残し、挙句の果てにはもはやデッキ関係なくサイドに雑に突っ込まれる(※)といった運用法すら試されるようになっていました。
(※念のため、サイドの採用率自体が高かったという意味ではありません)
その結果、2021年10月改訂をもって「魔鍾洞」は遂に禁止カード指定を受け、その曰くつきの経歴に終止符を打つことになりました。
この記事では、そんな「魔鍾洞」がなぜ禁止カード指定を受けるに至ったのかについて解説いたします。
遅延ロックカード魔鍾洞 禁止改訂すら遅延
実際のところ、「魔鍾洞」に関してはこれが禁止カードになった理由どうこう以前に、むしろ「今まで禁止カードではなかった理由」を探すべきカードです。
というのも、「魔鍾洞」の危険性についてはもはや見たままの話に近く、このカードがどうして禁止になったのかと言われても回答に困ってしまいます。むしろ前書きだけで話がほぼ終わっているような気もするため、一周回って解説することが何もありません。
もっとも、それでは記事の意味がなくなってしまうため、あえて言語化するのであれば「魔鍾洞」が通った瞬間に「別のゲームが始まって」しまうことが主な問題点であると表現できます。
別のゲームが始まるというと抽象的な表現にも聞こえますが、実際そう当てはめるのが恐らく最も適切なカードです。「魔鍾洞」が定着した時点で盤面が膠着してしまい、そして「魔鍾洞」をどうにかするまでゲームが進まなくなってしまうため、一種のリセットカードと解釈しても差し支えないのではないでしょうか。
というより、デッキによってはそもそも対処すらできずに「魔鍾洞」1枚で詰んでしまうことも少なくなく、いわゆる「ゲームを台無しにする系カード」の中でも最高峰の台無し能力を誇っています。基本的に除去手段の大半をモンスターが担う現代遊戯王における「魔鍾洞」の制圧力は絶大であり、唯一の回答はサイドに積んだ「ハーピィの羽根帚」だけというケースも決して珍しいことではなかったのです。
とはいえ、当然ながら「魔鍾洞」の効力が及ぶのはモンスターに対してのみであり、魔法・罠には何ら耐性を発揮しないことは確かです。よって「サイクロン」などで処理することは普通にできるため、なにも禁止にするほど凶悪ではないのではないか、という意見も時折見かけはします。
しかし、正直な話それは「王宮の弾圧」は「サイクロン」で割れるから禁止でなくても問題ないと言っているのと大差なく、控えめに表現しても相当に無茶な理屈であると言わざるを得ません。
何より、そもそもの問題として「魔鍾洞」というカードにポジティブな認識(※)を持っているプレイヤーは恐らくほぼ居ないと思われるため、これに対する禁止カード指定は極めて妥当な決定だったのではないでしょうか。
(※多分ダークロウの次くらいに嫌われています)
TOD絡みの問題も 存在そのものが害悪
ゲーム的な観点における「魔鍾洞」の禁止理由についてはおおむね上記の通りですが、実のところ「魔鍾洞」を取り巻く問題はもう1つ存在しています。
それは俗に言うTOD絡みの問題をしばしば引き起こしてしまう傾向にあったという事実です。
もちろん昔の時代ほど露骨なタイムオーバーデスを狙うようなことは(少なくとも一般的では)なくなっていますが、「魔鍾洞」の性質上これを使うことでゲームが長引くことは避けられず、状況次第ではエキストラターンによるキルなどに持ち込むこともできてしまいます。できてしまう、とは言っても実際そうした遅延戦法を意図的に狙うプレイヤーがそこまで多くいたというわけでもないのですが、この手の問題はできる、できないが重要であり、こうした状況を成立させてしまう可能性があること自体が問題です。
またTODとまではいかずともゲームの膠着によって試合時間が長引いてしまい、場合によっては「魔鍾洞」を普通に使っているだけで大会運営に支障をきたしてしまうケースも往々にしてあり、もはや根本的に「魔鍾洞」というカードのデザイン設計そのものに致命的な欠陥(※)があったことは否定できません。
(※性質的には「ヴィクトリー・ドラゴン」と同系統のカードと言えなくはないですが、流石にVドラと比べるのは「魔鍾洞」といえども可哀想な気もするため同類扱いはしないでおきます)
要するに「魔鍾洞」は実質的に「存在してはいけない類のカード」に該当していると言って差し支えないため、そういった意味でも「魔鍾洞」のこれ以上の生存は許すべきではなかったのではないでしょうか。
【まとめ】
「魔鍾洞」についての話は以上です。
普通に使うだけでも割とギリギリ許せないカードでありながら、それとは別方面においても問題を噴出させていたカードであり、いわゆる「存在罪」を犯してしまっていたことは否定できません。使用率どうこう以前に(※)カードプールに存在していること自体が害悪であり、究極的にはそもそも印刷したこと自体が間違いだったとも言えるでしょう。
(※性質上汎用的に使われるカードではなかったため、同改訂禁止のVFDと比べると遭遇率自体は控えめでした)
個人的な希望を述べるのであれば、これで「メタバース」を返して(※)もらえないものかと少し期待したいところです。
(※逆に考えると「魔鍾洞」禁止のこのタイミングこそが最大の復帰チャンスだったような気もするため、ひょっとするとこのまま放置されるのではないかという懸念もありますが……)
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
洞はカードパワー的にもアレなカードですが、禁止になった直接の原因は大会での遅延とサレンダー不可能裁定によるTOD戦術じゃないかなあと思いますね。(サレンダーが公式的に認められている海外だと何故か無制限なので…。)
過去にトランスで同じ事態がありましたが、多数のカードと準備が必要なトランスと比べて本当に1枚でほぼ同じことが出来るこのカードがやっぱりおかしいという結論に帰結しますが…。
大昔に登場した類似カードのカイザーコロシアムは理不尽なロックがかからないようにちゃんと設計されてるのに、10期のこのカードがそういう配慮欠いてしまったのは公式の杜撰さを感じます。
コメントありがとうございます。
記事でも言及しましたが、魔鍾洞はそもそもカードデザイン自体に失敗している感が否めないように思います。他の禁止カードと違い単純なカードパワー調整ミスだけでは収まり切らない話ですし、少なくとも第10期という時代に印刷していいような代物ではなかったのかもしれません。
お疲れ様です。
いつも陰ながら濃厚な記事を楽しませていただいております。
これまでは「もはや禁止になった理由の説明もしたくないしする必要もないだろう」と言われながらもしっかり解説されてきましたが、ついに本格的に匙ごと全てを放り投げられたカードの登場に感動しています。
大会目線での評価や考察としてもかなりダメなカードのようですが、身内戦等においても使われると文字通り場が凍るカードというのも個人的に最悪な部分のようにも思えます。
強弱以前にこれが絡むデュエルって勝つにせよ負けるにせよどう転んでも楽しくなりようがないんですよね……。
大会シーンだと採用率は落ちてきているらしいですが、これが存在する時点で大会に興味のないプレイヤーにとっても気が重くなるカードなので、今回の改訂で禁止となって個人的には本当に良かったと思います。
コメントありがとうございます。
魔鍾洞に関しては文字通り見たままのカードですし、無理やり説明しようとすると「モンスターを封じるカードを張ることでモンスターが封殺される」という新次郎構文的な記事になってしまい、書く意味も読む意味もないと判断したためこのような記事になりました。実力不足で申し訳ありません。
今後似たようなカードが出た時はもう少し工夫した記事内容にできればと思いますが、そもそも魔鍾洞系のカードはもう二度と出てこないでほしいですね……。
初めまして!コメント失礼します。
いつも楽しく記事を拝見させてもらってます。
魔鍾洞、とうとう禁止になってしまいましたね。
述べられているように強すぎたパワーや遅延行為など無視できない問題がありますが、
個人的にはちょっと残念な気もします(+o+)
ブラックマジシャンやブルーアイズ等の手札事故が起こりやすい、展開力に長けていないデッキや
ウィジャ盤等の一部のデッキにとっては強い味方だったので。
正直魔鍾洞を禁止するなら長ーーいソリティア後の先攻制圧も何とかしてほしいなって思います(^^;)
ルール変えるとかでもしない限り難しそうですが…。
もしくは効果を使えないのみにするエラッタとかで戻ってきてほしいです。
コメント失礼しました。
コメントありがとうございます。
魔鍾洞はファンデッキ等での安定した防御手段となったり、あるいは後手のゲームでは返し札のように機能したりと面白い性質もありましたが、やはりこのカードの抱える諸問題を考慮すると残念ながら生存は難しかったのかもしれません。
先攻制圧と魔鍾洞の関係については、前者は手札誘発をどこに投げるかなどの駆け引きが存在すること、また展開が通った場合も一般的な返し札で比較的対処が可能なケースが多いことから(一部の強すぎる展開系を除いて)許されている風潮もあるのですが、魔鍾洞の場合は通ったらそれだけで終了という大味さがあり、その点がゲームバランスに悪影響をもたらしてしまっていた印象はあります。
いつも楽しくブログを拝見しております。
私はかつて魔鍾洞を公認大会で使用していたプレイヤーです。遊史さんの言う通り、TOD戦術が出来ることが禁止化の要因の一つだと思っています。
魔鍾洞TODデッキは、フィールド魔法用のサーチカードと相手の魔法・罠を防ぐカウンター罠、そして大量の汎用手札誘発を詰め込み、最後に《ご隠居の大釜》を入れるだけで完成します。
相手に除去カードを引かせないために《女神スクルドの託宣》で延々と相手のデッキトップを操作し続けるというタイプもありました。
盤面が完成すると往年の《宇宙の収縮》を使った、所謂コスモロックに近い状態を作ることが出来ました。
使われた側はサレンダーも出来ない上にマッチキルされてしまうため、《ヴィクトリー・ドラゴン》を遊史さんが例えに出したのは個人的にとてもしっくり来ましたし、あながちオーバーな表現でないのかなと考えたりもします。
しかし、個人的に好きな《終焉のカウントダウン》が輝く機会になっていただけに残念です。カウントダウンが再び環境で使われる日は来るのでしょうか…
コメントありがとうございます。
実際のところ、TOD関連の問題は魔鍾洞に限った話ではないとはいえ、それを達成する難易度を1枚で大幅に下げてしまうというのはやはり問題があったのではないかと考えています。よく言われている通り、いわゆるサレンダーシステムさえ導入してしまえば解決するはずの問題なのですが……。
魔鍾洞はいくらかのデッキを救うようにみえて、結局終わってみると、どんなにデッキに工夫がされていても魔鍾洞が強かっただけ、という感想しか出ないため実質このカードで救われたデッキは無いのではと考えています。
本文中にも述べられていることですが、もちろんサイクロンで〜というのでは許されないのは当然でこのカードはロックカードでありながら本来フィールド魔法対策となるモンスター効果による除去という選択肢を消してくる時点で問題大有りのカードだったと思います。
コメントありがとうございます。
魔鍾洞は一時期【ヌメロンゼアル】にピン挿しして使っていたことがありましたが、実質このカードで勝ったようなゲームも何度かあり、1枚のカードが持っていていいパワーではないと強く感じさせられました。せめて虚無空間のように自壊デメリットが大きければまだ良かったのですが……。
大会結果サムネの波動キャノンを見て魔鍾洞バーンで遊戯王復帰したので、禁止は少し寂しいです
ロック性能は現代版グラヴィティバインドとも言うべきでしょうか?破られにくさも現代仕様()
運営としては、今のデッキの殆どモンスター(魔法罠も展開用で実質モンスター)というところに一石を投じたかったと勝手に解釈しています
ただ現代遊戯王と逆行し過ぎてとても受け入れられるカードではなかったですね。
コメントありがとうございます。
【魔鍾洞チェーンバーン】が出てきた時はまさか現代で波動キャノンが使われるとは想像だにしておらず、驚くとともに懐かしい気持ちになったことを覚えています。昔はバーンがメイン最強と恐れられた時代もありましたが、現代遊戯王でそれに近い状況を、しかもたった1枚で成立させてしまう魔鍾洞というカードは到底許される存在ではなかったのかもしれません。
みんな被害者ぶってるけど加害者側だよなあ。
コメントありがとうございます。
実際問題、魔鍾洞を使っていたプレイヤーと魔鍾洞を使われていたプレイヤーとでは後者の方が多かったことは否めない以上、どちらかというとそういった面もあったのかもしれません。
いつも楽しくブログを拝見しております。
単なるロックカードなら手札誘発同様「サイクロン積んでない方が悪い」で終わった話なので、やっぱり禁止まで言った理由はTOD能力の高さでしょうね…
【トランス】全盛期の時から思っていたのですが、マッチの制限時間とは別に、デュエルそのものの制限時間を設けるという発想はなかったのでしょうか?
サイドデッキでの対策が可能になれば、この手の遅延デッキはほぼ消滅すると踏んでるのですが…
コメントありがとうございます。
魔鍾洞は耐性がないというのはその通りではあるのですが、それでもどうにもならない時はどうにもならないという無法さを持ったカードだったように思います。(もちろん対策できる時はできますが……)
その上でさらにTODの問題すら孕んでいたと考えると、やはり記事の解説の通り許されるカードではなかったと言えるのかもしれません。
今MDでカイコロボーダーシンクロゾーンで擬似的にこの状況を再現している神碑がヘイトを集めていますが、それを1枚で完結させられる魔鍾洞ってシンプルにカードパワーがイカれてますね……
コメントありがとうございます。
魔鍾洞は他のフィールド魔法と競合するという一応の欠点もありますが、もはやそういう次元では済まないほどに強烈すぎる性能をしていると感じます。
というより、むしろ神碑でも泉より魔鍾洞を張った方が強いほどですし(ドローしなくても勝てるという意味で)色々な意味で許されていい存在ではなさそうです。
こんにちは、いつも楽しくブログを拝見しております。
魔鍾洞が出た時期は紙の遊戯王はほぼ引退状態で、「大嵐やサイクロンや羽根箒がある環境でロック???」となっていましたが予想以上にぶっ刺さっていたんですね…
他の人もコメントしていますが、魔鍾洞が強すぎたのが悪いというよりも、「魔鍾洞が強すぎる(=魔法罠の重要性が低すぎる)」環境が悪いと思っています。
コメントありがとうございます。
魔鍾洞は単純なカードパワーはもちろんですが、おっしゃる通り魔法罠の重要性が低い現代ゆえの強さというものもあったように思います。例えば10年前に出ていれば禁止になるほどではない……と見せかけてやっぱり禁止になりそうな予感はありますが、それでも相対的な意味では現在ほど凶悪ではなかったと言えそうですし、近代以降のモンスター偏重のゲームバランスが原因の一端を担っていたと言えるのかもしれません。