M・HEROダークロウ誕生 鬼畜・嫌い・汚いの3K

2020年7月3日

【前書き】

 【第9期の歴史6 ソウルチャージがほぼ全てのデッキに2~3枚積まれる世紀末環境】の続きとなります。ご注意ください。

 「ソウル・チャージ」というOCG最強の蘇生カードの誕生により、当時の環境に大きな波紋が広がりました。アニメ出身カードとは思えない暴れっぷりであり、相棒である「No.16 色の支配者ショック・ルーラー」とともに「ソルチャルーラー環境」を築き上げていっています。

 第9期という時代の空気感が露骨に漂い始める6月下旬の折、ストラクチャーデッキから唐突に大型新人が姿を見せることになります。

 

ダークロウ 露骨に強すぎるパワーカード

 2014年6月21日、ストラクチャーデッキ「-HERO’s STRIKE-」が販売されました。新たに8種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは6483種類に増加しています。

 第9期出身の商品に漏れず、非常に強力な新規カードを多数輩出したストラクチャーデッキです。制限カード経験のある「E・HERO シャドー・ミスト」「マスク・チェンジ・セカンド」の2枚を筆頭に、優秀な新規【M・HERO】を3属性取り揃えているなど、第8期以前のストラクチャーデッキとは明らかに一段階パワーが違います。

 とりわけ「M・HERO ダーク・ロウ」の誕生は極めて衝撃的な出来事だったと言うほかありません。

融合・効果モンスター
星6/闇属性/戦士族/攻撃力2400/守備力1800
このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。
①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手の墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される。
②:1ターンに1度、相手がドローフェイズ以外でデッキからカードを手札に加えた場合に発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで除外する。

 ストラクのパッケージを飾る看板モンスターの1体にして、【HERO】が誇る最強のエースモンスターです。むしろ今現在において【HERO】というアーキタイプが成立している理由の大半がこのカードに起因していると言っても過言ではなく、恐らく現役勢でこれを知らないプレイヤーは存在しないのではないでしょうか。

 性能を見る場合、結論から言えば全ての能力が高水準にまとまっているカードです。

 攻撃力2400という低いようで案外越えられない打点を基本に、相手にだけ「マクロコスモス」を押し付ける都合の良すぎる全体除外効果、そしてサーチやドローに反応して除外ハンデスを叩き込む手札破壊効果など、どこを見ても強いことしか書かれていません。墓地利用とサーチという現代遊戯王では呼吸に等しい行為を封殺してしまう極悪人であり、まさに人を苦しめるために生まれてきたようなカードです。

 一方で、使う側に回ればこれほど楽しいカードも他になく、ある種の麻薬的なカタルシスを使用者にもたらします。単にこれ1枚を置いておくだけでもそこはかとなく満たされる感覚がありますが、後ろに罠を構えている時の安心感は格別であり、それが「虚無空間」などであれば精神に異常をきたす可能性すらあります。

 まとめると、「M・HERO ダーク・ロウ」とは現代プレイヤーが蛇蝎の如く忌み嫌いそうな、あるいは跳ね回って大喜びしそうなカードの両方の性質を持っていると言えるでしょう。

 個人的には、これほど評価が両極端に割れるカードも珍しいと思うのですが、1つだけ確かなこととして、M・HERO ダーク・ロウ」が正義のヒーローとは程遠い犯罪級のパワーカードであることだけは間違いありません。

 

【M・HERO】全盛期到来 日本代表の一角に

 もちろん、これほどのカードが2014年当時において注目されないはずがなく、必然的に「M・HERO ダーク・ロウ」を擁する【M・HERO】そのものにも注目が向かうことになります。実際に当時の選考会では新参ながら日本代表の一角にも食い込んだほどであり、いわゆる環境ストラクの中でも有数のポテンシャルを秘めていたことは疑いようもありません。

 

サンプルデッキレシピ(2014年7月5日)
モンスターカード(12枚)
×3枚 E・HERO シャドー・ミスト
D-HERO ダイヤモンドガイ
×2枚 ダーク・アームド・ドラゴン
×1枚 E・HERO エアーマン
E・HERO バブルマン
シャドール・ドラゴン
終末の騎士
魔法カード(17枚)
×3枚 デステニー・ドロー
マスク・チェンジ
×2枚 ソウル・チャージ
ナイト・ショット
ヒーローアライブ
×1枚 大嵐
おろかな埋葬
死者蘇生
増援
闇の誘惑
罠カード(12枚)
×3枚 虚無空間
強制脱出装置
リビングデッドの呼び声
×2枚 激流葬
×1枚 次元幽閉
エクストラデッキ(15枚)
×3枚 M・HERO ダーク・ロウ
×2枚    
×1枚 暗遷士 カンゴルゴーム
恐牙狼 ダイヤウルフ
深淵に潜む者
鳥銃士カステル
No.16 色の支配者ショック・ルーラー
No.85 クレイジー・ボックス
No.101 S・H・Ark Knight
No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド
H-C エクスカリバー
M・HERO アシッド
M・HERO カミカゼ
ラヴァルバル・チェイン

 

サイドデッキ(15枚) 
×3枚 ライオウ
サイクロン
王宮の号令
×2枚 激流葬
つり天井
×1枚 ブラック・ホール
聖なるバリア -ミラーフォース-

 

(※上記はその時のリストです)

 この時期の【M・HERO】に期待されていた最も大きな役割は、何と言っても当時の環境トップ【シャドール】に対するメタデッキとしての働きです。

 元々【シャドール】に墓地メタが有効なことは周知の事実と化しており、そこに追加でサーチメタがついてくる「M・HERO ダーク・ロウ」が効果的でないはずがありません。「M・HERO ダーク・ロウ」がエクストラデッキのモンスターである以上は「影依融合」のデッキ融合の条件を満たしてしまう弱みもありますが、【シャドール】視点では「影依融合」を使い潰しつつ2800打点のフレンチバニラを置いているに過ぎず(※)、取引としては苦肉の策かつかなり損な部類に入ります。

(※融合体のサルベージ効果も間接的に潰されるため、「エルシャドール・ネフィリム」などを出す旨味がほとんどありません)

 もちろんそのままでは「M・HERO ダーク・ロウ」を疑似戦闘破壊されてしまいますが、これも後ろに適当な罠を置いておくだけで解決可能です。つまりM・HERO ダーク・ロウ」+罠という単純な布陣だけで【シャドール】の融合軸の攻め手を弾けるということであり、この戦い方をメインギミックに組み込めることは【シャドール】環境においては非常に大きな武器になり得ます。

 ただし、これで防げるのはあくまでも融合軸の攻め手、つまりリバース軸の攻め手には対処し切れないことには注意しなければなりません。分かりやすいところではシャドール・リザード」「シャドール・ドラゴン」の2枚によって簡単に「M・HERO ダーク・ロウ」を処理される可能性があるため、セットモンスターに関してはかなり強く警戒する必要があります。

 また、後手番のゲームでは上記2枚を「シャドール・ヘッジホッグ」で前もってサーチされてしまう可能性もあり、対【シャドール】における「M・HERO ダーク・ロウ」の信頼性は見た目以上に稀薄です。サイド後であれば「王宮の号令」などのメタカードによって対策することもできますが、少なくともメイン戦に限って言えばM・HERO ダーク・ロウ」1体で勝てるほど甘い相手ではありません。

 

「シャドーミスト+リビデ=ダークロウ+エマコ」の黄金公式

 そのため、やはり無理に守ろうとするよりは2体目の「M・HERO ダーク・ロウ」を用意することを考える方が効率的でしょう。

効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻撃力1000/守備力1500
E・HERO シャドー・ミスト」の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
①:このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。
②:このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「E・HERO シャドー・ミスト」以外の「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 上記は「E・HERO シャドー・ミスト」の当時のテキストとなります。「M・HERO ダーク・ロウ」と同じく「-HERO’s STRIKE-」ストラク出身の新規カードであり、例によって「9期」の風を色濃く感じるパワーカードです。

 単純にアドバンテージを取れる効果を2種類持っているというだけでも驚異的なスペックですが、とりわけ優秀なのは①の「特殊召喚時にマスクチェンジをサーチする効果(※)」です。

(※厳密には「チェンジ」速攻魔法カードをサーチする効果であるため、実は密かに「スター・チェンジャー」などもサーチできます)

 具体的には、これによりリビングデッドの呼び声」などの蘇生カードが疑似的に「M・HERO ダーク・ロウ」の展開札として機能するようになるため、上記で取り上げた「M・HERO ダーク・ロウ」の場持ちの悪さを疑似的にカバーできます。

 加えて、相手ターン中に蘇生することで後半の【HERO】サーチ効果をそのまま自分ターンで使用できるため、「リビングデッドの呼び声」自体が「E-エマージェンシーコール」を内蔵しているかのような状況が成立します。早い話が「M・HERO ダーク・ロウ」と「E-エマージェンシーコール」を足して2で割らないカードに化けるということであり、この「シャドーミスト+リビデ=ダークロウ+エマコ」の黄金公式こそが当時の【M・HERO】最大の武器であったと言っても過言ではないでしょう。

 こうした【M・HERO】の強みが有効に機能していたマッチアップは【シャドール】だけではなく、例えば当時の2番手であった【テラナイト】もこれに含まれています。

 と言っても、この頃の【テラナイト】は【シャドール】対策の一環として「強制脱出装置」「ブレイクスルー・スキル」などの汎用除去をメインから多数搭載していたため、【シャドール】とはまた別の形で「M・HERO ダーク・ロウ」を処理してくる可能性がありました。そのため、こちらはこちらで一筋縄ではいかない相手ではありましたが、それでも「定着させれば勝てるカード(※)」をエースアタッカーとして使えるというのは破格です。

(※特に【青眼征竜】に対しては先攻で置ければほぼ勝ち確にまで持ち込むことができました)

 まとめると、M・HERO ダーク・ロウ」というカードを使えること自体が【M・HERO】を環境に押し上げた格好であり、その点においては「ヴェルズ・オピオン」を擁する【ヴェルズ】などとも共通するところがあったのではないでしょうか。

 

【シャドールHERO】爆誕 裏切りのダークロウ

 ところで、ここで1つ忘れていることがあります。

 「マスク・チェンジ・セカンド」の存在です。

速攻魔法
マスク・チェンジ・セカンド」は1ターンに1枚しか発動できない。
①:手札を1枚捨て、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを墓地へ送り、そのモンスターよりレベルが高く同じ属性の「M・HERO」モンスター1体を、「マスク・チェンジ」による特殊召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 簡単に言えば、手札コストがかかる代わりに【HERO】以外のモンスターも種にできる「マスク・チェンジ」であり、純【HERO】にとってはそれほどメリットがあるカードではありません。しかし、属性さえ合っていれば【HERO】以外のデッキであっても各種【M・HERO】を展開できるというのは悪い話ではなく、さながら「誰でもヒーローになれる(※)」とでも言うべき趣深いフレーバーが見て取れるカードです。

(※「レベルが高いと変身できない≒大人になるとヒーローになれなくなる」という妙に世知辛いフレーバーもありますが……)

 問題があったとすれば、それはこの「マスク・チェンジ・セカンド」を最も有効活用できるのが「M・HERO ダーク・ロウ」だったこと、あまつさえその就職先があろうことかメタ先であるはずの【シャドール】だったという現実でしょう。

 【シャドール】はメインデッキのモンスターが闇属性で占められているため、基本的に「M・HERO ダーク・ロウ」の種に困ることはありません。加えて「マスク・チェンジ・セカンド」による変身は「効果による墓地送り」であるため、変身元となった【シャドール】モンスターの共通効果も問題なく発動する(※)という行き届きぶりです。

(※もちろん手札コストの方では発動しません。念のためですが……)

 また、通常はキルに向かう際に邪魔になりやすい「エルシャドール・ミドラーシュ」を能動的に処理する手段にもなるなど、多くの面で【シャドール】とは自然にシナジーを形成します。流石に直前の【セプタースローネ】ギミックのパワーに比べるとやや見劣りする(※)のは事実ですが、少なくとも出張ギミックとして十分なスペックを持っていたことは間違いありません。

(※そのため、【光天使シャドール】のように主流型として定着するには至っていません)

 【M・HERO】にとっては裏切りもいいところであり、M・HERO ダーク・ロウ」の性根がいかに捻じ曲がっているかが窺えるエピソードの1つです。

 

ペンデュラム絶対殺すマン 置かれたら絶望

 ちなみに、そんな「M・HERO ダーク・ロウ」は第9期の新召喚である【ペンデュラム召喚】の強烈なメタになるという点においてもある種の話題を呼んでいました。

 通常、Pモンスターがフィールドから墓地に送られる場合はエクストラデッキに表側表示で加わりますが、「マクロコスモス」などの全体除外効果の影響下ではそのまま除外されてしまうという性質があります。よって「M・HERO ダーク・ロウ」が立っているだけで【ペンデュラム召喚】系列デッキ全般が機能不全に陥ってしまい、下手をすると(というより下手をしなくとも)これ1枚のせいでゲームが終わりかねません。

 つまり、当時ただでさえ不遇だった【ペンデュラム召喚】の前にいきなり凶悪な天敵が出現してしまったということであり、まさに泣きっ面に蜂と言わんばかりの状況です。元々「M・HERO ダーク・ロウ」自体がヘイトを集めやすいカードだったこと、また上述の「マスク・チェンジ・セカンド」によりゲームでの遭遇率も高かったことなどの事情が重なり、一時期は「公式は【ペンデュラム召喚】を売る気がないのか」などとネタにされていたこともありました。

 その後、来期に参入する【クリフォート】においても不倶戴天の敵として見られており、【ペンデュラム召喚】絡みのテーマとは何かと因縁の多かったカードです。

 

2015年以降も活躍 ダークロウ対策の普遍化

 このように、「M・HERO ダーク・ロウ」の誕生はOCGに対して極めて広範囲に影響を及ぼし、これ以降はM・HERO ダーク・ロウ」というカードが環境に存在すること自体が大きな意味を持つようになりました。

 もちろん、常に「M・HERO ダーク・ロウ」がメタゲームの中にあったわけではありませんが、「マスク・チェンジ・セカンド」の存在から【闇属性】絡みのデッキ(※)が環境に浮上するたびにこれを警戒しなければならなくなったため、単純なメタカードという枠組みから1つ外側の普遍的な対策を講じる必要に駆られています。

(※【彼岸】などが特に有名です)

 とはいえ、先述したように「M・HERO ダーク・ロウ」それ自体は除去耐性を全く持っていないため、とりあえず除去能力さえ持っているのであれば大抵のカードで対処可能な相手ではあります。そのため、「M・HERO ダーク・ロウ」のみを名指ししたメタカードが用意されることはほとんどなく、「その時代においてメタゲームを定義づけている制圧モンスター」に有効な除去がそのままダークロウ対策として流用される傾向にありました。

 例えば当時の【シャドール】環境においては「エルシャドール・ミドラーシュ」が環境の中心にあったため、これに刺さる「強制脱出装置」「ブレイクスルー・スキル」「禁じられた聖杯」などの汎用除去や、変わったところでは「融合解除」といったカードが主な対策として使われていました。

 一方、年末から【影霊衣】が台頭すると「儀式魔人リリーサー」及び「クラウソラスの影霊衣」による「リリーサークラウソラス」ギミックが横行するようになったため、「皆既日蝕の書」や「地砕き」などの対象を取らない除去(※)にシフトしていっています。

(※対象を取る除去では「トリシューラの影霊衣」に弾かれてしまうリスクがあります)

 しかし、【M・HERO】側も「地砕き」対策として「ブリキンギョ」を採用するようになるなど、細かな調整によって環境に適応していました。

 つまるところ、M・HERO ダーク・ロウ」は2014年当時にとどまらず2015年以降においても環境で活躍し続けたということであり、これだけ広く長く存在感を示していたカードは遊戯王全体を見渡しても非常に稀なのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 「M・HERO ダーク・ロウ」についての話は以上です。

 一言で言えば「鬼畜・嫌い・汚い」の3K揃った犯罪パワーカードであり、その理不尽なメタ性能によって多くのプレイヤーにトラウマを植え付けた実績を持ちます。恐らくヘイトの大きさでは上から数えた方が早いであろう嫌われ者であり、原作漫画ではただのバニラだったとは思えない盛り具合であると言わざるを得ません。

 現在は「マスク・チェンジ・セカンド」が制限カード指定を受けているため、出張要員としての「M・HERO ダーク・ロウ」全盛期はおおむね終わりを告げていますが、それでもこのカードの友情破壊能力が脳裏に焼き付いているという方は少なくないのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

著者情報:遊史

Posted by 遊史