壊れテーマ【シャドール】爆誕 全盛期の「デッキ融合」地獄

2020年6月5日

【前書き】

 【第9期の歴史2 制限改訂2014年4月 【征竜】の牙城、遂に陥落(環境上位)】の続きとなります。ご注意ください。

 第9期突入から間もなく制限改訂が行われ、2013年から長らく環境を支配し続けていた【征竜】に対して非常に厳しいダメージが入りました。これにより【征竜】はようやく環境上位にまで転落することとなり、これまでのような絶対的な優位性は築けなくなっています。

 一方で、新世代に移行したにもかかわらず目立ったカードプールの更新はなく、メタゲームは第8期終盤からほぼ据え置きのままで展開されていました。もちろん、【征竜】の勢いが衰えたことによる影響は極めて多大でしたが、逆に言えば相変わらず【征竜】を中心に世界が回っていたことに変わりはなく、結局は第8期の延長線上の出来事でしかなかったことは事実です。

 そんな折、4月販売のレギュラーパックから「9期世代」の第一陣が参入を決めることになります。

 

第9期の尖兵【シャドール】 最初からクライマックス

 2014年4月19日、レギュラーパック「ザ・デュエリスト・アドベント」が販売されました。新たに90種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは6424種類に増加しています。

 前書きで触れた通り第9期初弾となるタイトルであり、それに伴ってパックの体裁及びカードデザインの双方において多くの変更が入っています。いわゆる「9期テキスト」の導入などはその筆頭と言える変化ですが、他にも細々とした変更点は少なくなく、新時代の到来を肌で感じさせるようなパックだったと言えるでしょう。

 しかし、当パック最大の特徴はこうした額面上のものではありません。

 当時のプレイヤーにとって何よりも衝撃だったのは、否定しようがないほど露骨な形でカードパワーのインフレが発生していたことだったのではないでしょうか。

 「9期」のプロトタイプ、【シャドール】の誕生です。

 

凶悪すぎる共通効果 絶対にアドを取るという意志

 【シャドール】について詳しく語る前に、まずはその共通効果から取り上げていきます。

「カード名」の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
①:このカードがリバースした場合に発動できる。(固有効果)。
②:このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。(固有効果)。

 簡単にまとめれば「リバース時にアドを取る効果」と「効果による墓地送り時にアドを取る効果」の2種類の共通効果を与えられたカード群です。現代遊戯王のゲームバランスにおいては極々あり触れたスペックであり、恐らく今のプレイヤーには一体何が問題なのかピンと来ないのではないかと思われます。

 しかし、これは第8期以前の常識においては目を疑うようなテキストであり、オブラートに包まずに言えば「ぶっ壊れ」以外の何物でもない凶悪な共通効果だったのです。

 その問題の本質は、【シャドール】というテーマがカードデザインの段階から「絶対にアドを取るカード群」として設計されていることにありました。

 上記の共通効果の通り、【シャドール】モンスターは根本的にカード・アドバンテージを失わない構造のカタログスペックを備えています。戦闘破壊にはリバース効果で、効果破壊には墓地送り時の効果でディスアドバンテージを相殺できるため、除外やデッキバウンスなど一部の例外を除けば基本的に損をするということがありません。

 つまり、【シャドール】はデフォルトで0:1交換能力を持つカード群ということになるわけですが、これは第8期以前のアドバンテージ概念からは完全に逸脱した話です。直前に現れていた「神智モラルタ」が可愛く見える規格外のポテンシャルであり、あまつさえこれがカテゴリの共通効果であるというのは率直に言って狂気的でしょう。

 もっと言えば、「神智モラルタ」が騒がれた「PRIMAL ORIGIN」の販売からたった2ヶ月しか経っておらず、その僅かな期間に一体何があったのかと問いただしたくなるような事態です。これまでの遊戯王OCGと比べてもあまりにも急激なインフレであり、これがそのまま「9期」という時代を象徴するモデルケースを務めていたのではないでしょうか。

 

露骨に強すぎる融合体 ネフィリム+ミドラーシュ無制限時代

 しかしながら、恐ろしいことにこうした凶悪な共通効果は【シャドール】にとってはあくまでも余技に過ぎませんでした。

 周知の通り、そもそも【シャドール】は【融合召喚】に属するアーキタイプであり、カテゴリとしての本命は各種「エルシャドール」融合体が担っていたからです。

 

アド稼ぎの鬼 「ネフィリム素材にネフィリム融合」が許される性能

 中でも「エルシャドール・ネフィリム」の圧倒的なカードパワーは頭一つ抜けていたと言うほかありません。

星8/光属性/天使族/攻撃力2800/守備力2500
「シャドール」モンスター+光属性モンスター
このカードは融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。
①:このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。
②:このカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。そのモンスターを破壊する。
③:このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 言わずと知れた【シャドール】最強の切り札であり、むしろ融合モンスターという括りにおいてもトップクラスの強さを誇るOCG屈指のパワーカードです。というより、全盛期【シャドール】の強さの半分はこのカードの存在に起因していたと言っても過言ではなく、実際に誕生から半年後には制限カードに、その更に半年後には禁止カード行きになっている(※)背景からもそのことが窺えます。

(※その後は第10期中頃まで禁止カードにとどまり続けています)

 具体的に何がどう強いのかについては語ればキリがありませんが、大雑把にまとめるのであれば「アドバンテージの取り方が尋常ではない」という言葉に集約されるのではないでしょうか。

 例えば、【シャドール】における典型的なシチュエーションとして下記のような盤面を取り上げます。

・フィールドに「エルシャドール・ネフィリム」、手札に「影依融合」「シャドール・ビースト」が存在する場合。

 

①:「影依融合」を発動し、「エルシャドール・ネフィリム」と「シャドール・ビースト」を素材に「エルシャドール・ネフィリム」を融合召喚する。

 

②:フィールドの「エルシャドール・ネフィリム」の効果で任意の【シャドール】を墓地に落とし、墓地の「エルシャドール・ネフィリム」「シャドール・ビースト」の効果でそれぞれ「影依融合」をサルベージ+1ドローする。

 

③:手順②で墓地へ送られた【シャドール】カードの効果を発動し、1枚分のカード・アドバンテージを得る。

 

 見ての通り、融合前は3枚だったはずのリソースが何故か4枚に増えていることが分かります。一見すると効果の処理ミスを疑ってもおかしくないような話ですが、実際には全くもって正しい処理であり、この「融合すると何故かアドが増える(※)」という【融合召喚】の常識を超えた現象こそが「エルシャドール・ネフィリム」最大の特徴であると言えるでしょう。

(※また、これこそが「ネフィリム素材にネフィリム融合」というCPU的なプレイが大真面目に定石として存在する理由でもあります)

 わざわざ口にするまでもないことですが、【融合召喚】は基本的に「重い」召喚法です。

 よって従来の【融合召喚】系列のデッキは何らかの手段によってディスアドバンテージを軽減することが求められており、大雑把に言えば「融合の損失を軽減するためにアドを取る」という「マイナスをゼロに近付ける」考え方が重視されていました。古くは第1期の「サンダー・ドラゴン」と「双頭の雷龍」の関係などがそうであり、この常識はOCG始まって以来一度も変化していません。

 ところが、この【融合召喚】の大前提とも言える考え方は「エルシャドール・ネフィリム」に対しては全く当てはまりません。

 理由については「ネフィリムがそういうカードだから」としか言いようがないのですが、結論としては「アドを取るために融合する」という「ゼロをプラスにする」行為が最適解となるため、これまでの【融合召喚】とは根本的に住む世界が異なります。やや抽象的な表現になってしまいますが、【シャドール】にとっての【融合召喚】はそれ自体が目的というよりは「アドを取る手段がたまたま【融合召喚】だった(※)」という話でしかなく、いわゆる「召喚法がテーマの踏み台と化している」という9期特有の現象を引き起こしていたのです。

(※これに近い感覚としては、例えば【影霊衣】なども「アドを取る手段がたまたま【儀式召喚】だった」という意味で同類であると言えます)

 こうした不自然すぎるアドの取り方こそが【シャドール】が「【融合召喚】のような何か」という揶揄を受けるに至った理由でもあり、ひいてはその主因となっていた「エルシャドール・ネフィリム」のカードパワーは文字通り規格外であったと言わざるを得ません。

 もちろん、「エルシャドール・ネフィリム」の持つ強みはアドバンテージ生成能力の高さだけではありません。特殊召喚されたモンスターを打点を無視して処理できること、サルベージ能力による間接的な除去耐性を持っていること、あるいは単に2800という高打点を備えていることなど、このカードを最強たらしめる要素は数多く存在します。

 つまり、その全てが1枚になったカードこそが「エルシャドール・ネフィリム」の正体であり、まさに「禁止前提で刷ったとしか思えない壊れカード」以外の何物でもなかったのではないでしょうか。

 

特殊召喚メタ+効果破壊耐性持ちの2200打点という化け物

 このように、「エルシャドール・ネフィリム」という規格外の壊れカードを携えて参入を決めた【シャドール】でしたが、もちろん全盛期【シャドール】の強さを支えたカードはこれだけではありません。

 「エルシャドール・ネフィリム」に次ぐ【シャドール】のエースモンスター、「エルシャドール・ミドラーシュ」です。

星5/闇属性/魔法使い族/攻撃力2200/守備力800
「シャドール」モンスター+闇属性モンスター
このカードは融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。
①:フィールドのこのカードは相手の効果では破壊されない。
②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、その間はお互いに1ターンに1度しかモンスターを特殊召喚できない。
③:このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 恐らくですが、当時の現役プレイヤーの頭に浮かんだのは「書いてあることが色々おかしい」という率直な疑問だったのではないかと思われます。

 「エルシャドール」共通のサルベージ効果に加え、特殊召喚を1ターン1回までに制限する凶悪な制圧効果、おまけに相手のカードの効果では破壊されないなど、どの角度から見ても強いことしか書かれていません。一言にまとめれば「特殊召喚メタ+効果破壊耐性持ちの2200打点」という化け物であり、要するに大抵のデッキがこれ1枚で詰みかねない理不尽すぎるカードです。

 これは今日のゲームバランスにおいても決して例外ではなく、具体的には「モンスターに依存しない破壊以外の除去手段を持つデッキ」あるいは「一度の特殊召喚だけでミドラーシュを処理できるモンスターを呼び出せるデッキ」を除く全てのデッキがこの脅威に晒されます。カードプールが広がった現在であっても油断ならない制圧力ですが、何よりも最悪だったのがこれが2014年という時代に現れてしまったという事実でしょう。

 単純にゲームスピードが違うことはもちろんですが、当時はいわゆる「返し札」の選択肢も今ほど豊富ではなかったため、「エルシャドール・ミドラーシュ」の脅威度は今とは比較にならないほどに致命的でした。例えば【AF先史遺産】などはメインギミックではほぼ対処不可能(※)であり、文字通りエルシャドール・ミドラーシュ」1枚のせいで勝負が決まってしまうという不健全なゲームを量産していたのです。

(※これにより、一周回って「先史遺産-ピラミッド・アイ・タブレット」が再び使われるようになるという逆転現象も起こっています)

 実際、この時期に「強制脱出装置」や「ブレイクスルー・スキル」、あるいは「禁じられた聖杯」(※)などが流行したのも「エルシャドール・ミドラーシュ」の影響であり、このカードの存在が当時のメタゲームを定義づけていたと言っても過言ではありません。

(※聖杯に関しては「ダメージステップに発動可能=戦闘で表にした【シャドール】のリバース効果の発動前に割り込める」という利点もありました)

 ある意味では「エルシャドール・ネフィリム」以上に気が狂ったスペックであり、誇張でも何でもなく「なぜ刷った」という感想しか出てこないようなカードだったと言えるでしょう。

 

影依融合(シャドール・フュージョン)元祖デッキ融合の狂気

 まだあります。

 これまでの解説の通り、2014年当時において【シャドール】のパワーは極めて理不尽な水準にあり、これが間もなく環境を席巻することはもはや避けようがない未来でした。しかしながら、非常に信じがたいことに当時の【シャドール】に与えられた武器はこれだけではなかったのです。

 【シャドール】というテーマを象徴する真のキーカード、「影依融合」の降臨です。

影依融合」は1ターンに1枚しか発動できない。
①:自分の手札・フィールドから「シャドール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する場合、自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができる。

 【シャドール】専用の融合魔法カードであり、通常時は「融合」とほぼ同様の性能にとどまる一方、なんと「エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する」という条件を満たすことでデッキのモンスターを融合素材にすることができます。いわゆる「デッキ融合」系カードの開祖であり、現在においては一定の市民権を得ている概念の1つです。

 言うまでもないことですが、これは2014年当時においては理解を超越した概念でした。

 

エクストラ封印の呪い レベル4モンスター2体を棒立ちさせる時代

 「影依融合」というオーパーツの存在は、当時の【シャドール】にとって強烈な起爆剤となりました。むしろ【シャドール】の域を超えて【融合召喚】というシステム自体に革命をもたらしたと言っても過言ではなく、その意味では遊戯王OCGにおける歴史の転換期を務めた偉大なカードであるとも言えます。

 何にせよ、これ以降のOCG環境においては否が応にも「影依融合」との遭遇は避けられない話となり、その存在を前提とした戦い方を意識せざるを得なくなったことは確かです。

 具体的には、「相手のデッキが判明していない場合はエクストラデッキの使用を控える」という特殊な定石が浸透していくことになります。

 既に述べた通り、「影依融合」はデッキ融合の条件を満たすことで絶大な威力を発揮する反面、逆にそれ以外の状況下では「融合」と大差ないスペックしか発揮できません。よって自発的にエクストラを封印することで【シャドール】の脅威をある程度抑制できるということであり、これがそのまま【シャドール】対策の定石として定着した(※)というのが大まかな流れです。

(※代表的なところでは「レベル4モンスター2体をそのまま棒立ちさせる」プレイなどが挙げられます)

 しかし、これは【シャドール】側から見れば「ほぼノーリスクで相手のエクストラデッキを封じられる」ということでもあります。

 実質的には「このカードをデッキに入れている場合、相手はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない」というテキストが書かれているようなもので、これは数ある「存在アド」の中でもトップクラスに凶悪です。戦力の確保をエクストラデッキに依存するデッキはもちろん、他ならぬ【シャドール】自身でさえ逆らえないほどに強固なルール(※)であり、これほど大規模に環境を呪縛したカードは遊戯王広しといえども一握りでしょう。

(※「シャドール・ビースト」のアドバンスセットで融合体を処理するプレイなどが該当します)

 もちろん、単純にそのターン中に勝負を決められるケース、あるいは「影依融合」自体を止めてしまえるケースなど、このルールを破れる状況も一応は存在します。

 というより、こうした抜け道が後の「ソルチャルーラー環境」の引き金となってしまった背景もあり、結局のところ「影依融合」の存在によって環境が歪んでしまったことは否定しようがない現実だったと言うほかありません。

 

「メインデッキのモンスターだけでも戦える構築にする」という意識

 その他、上記に関連した出来事としては「メインデッキのモンスターだけでもある程度戦える構築にする」という意識が広まったことも特筆すべき事項に数えられます。

 これを最も分かりやすい形で示していたのが【青眼征竜】の存在ですが、カードレベルにおいても「ダーク・アームド・ドラゴン」や「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」の流行という結果に現れており、一周回って過去のカードに脚光が当たっていた時代でもありました。

 もちろん、例によってこの影響は【シャドール】自身にも及んでおり、具体的には「究極時械神セフィロン」「邪帝ガイウス」といったカードに声がかかる結果にも繋がっています。前者は単純に「エルシャドール・ネフィリム」とのシナジーに着目した選択ですが、後者は【シャドール】同士のミラーマッチにおいて極めて有効に働くため、帝王の烈旋」とセットでサイドカードとして使われるケースもあったほどです。

 インフレが急激に加速しつつあった第9期初頭においては例外的な環境推移であり、ある意味では環境全体のブレーキ役(※)を担っていた面もあったのかもしれません。

(※もちろん、トータルでは明らかに加速の方向に突き進んでいましたが……)

 

【シャドール】環境の到来 各種メタカードの流行

 以上のように、第9期初頭のトーナメントシーンは【シャドール】による侵略の脅威に晒されることになりました。

 相性が悪い【AF先史遺産】はもちろん、弱体化していたとはいえあの【征竜】ですら真っ向勝負ではまず太刀打ちできない相手です。辛うじて食い下がれる地力を持っていたのは同期である【テラナイト】(※)程度であり、それも相性の悪さからやはり五分とは行きません。

(※【テラナイト】については次の記事で解説します)

 よってこれ以降の環境では【シャドール】がメタの中心に立つこととなり、これを見据えた各種対策カードが試されていくことになります。

 真っ先に広まったのは「暗闇を吸い込むマジック・ミラー」などのお馴染みの闇属性メタカード、あるいは「マクロコスモス」などの墓地メタカード(※)です。これに関しては説明するまでもない面々であり、特に「暗闇を吸い込むマジック・ミラー」は環境終盤に至るまで有力メタとして使われ続けています。

(※一方、「マクロコスモス」の方は最終的にはあまり見かけなくなりました)

 また、こうした汎用的なサイドカードとは別に、特定のデッキにおいてメインギミックとシナジーを形成するタイプのメタカードも浸透していっています。例えば【青眼征竜】における「コアキメイル・ドラゴ」(※)などがそうであり、裏を返せば当時の【シャドール】は環境上位クラスのデッキですらメインギミック段階での対処を強要されるほどに存在感を示していたということでもあります。

(※詳しくは下記の記事で言及しています)

 しかし、デッキによっては上記のような対策を取ることが難しいケースも当然あり、次第に【シャドール】に完全特化したピンポイントメタカードの用意が進んでいくことになります。

 

王宮の号令+抹殺の使徒 7世代越しのリバースメタ復権

 とりわけ「王宮の号令」や「抹殺の使徒」といったカードが流行したことは非常に興味深い話です。

このカードがフィールド上に存在する限り、全てのリバース効果モンスターの発動及び効果は無効化される。

 「抹殺の使徒」に関しては過去にパワーカードとして猛威を振るった実績もあり、メタゲームに応じて再び脚光を浴びることはそれほど不思議ではありませんが、王宮の号令」は古参プレイヤーにとってすら馴染みのないカードです。実績らしい実績は第2期に【デッキ破壊】メタとして活躍した程度(※)であり、これが突然の浮上を果たしたことはかなりの衝撃だったのではないでしょうか。

(※というより、その時代ですら最終的には「デビル・フランケン」+「デス・デーモン・ドラゴン」のセットに後塵を拝していた面もあります)

 ただし、もちろん「ダーク・アームド・ドラゴン」を筆頭とする闇属性モンスターには対応できない弱みもあるため、あくまでも次善のメタカード以上の存在にはなり得なかったことは確かです。

 よって「暗闇を吸い込むマジック・ミラー」ほど大々的に広まることはなく、最終的には【M・HERO】など一部のデッキでのみ起用されるメタカードという扱いに落ち着くことになりました。

 一方、「抹殺の使徒」はその安定したカードパワーにより環境終盤まで汎用サイドカードとして使われ続けており、この辺りにカードとしての貫禄の違いが現れていたとも言えるでしょう。

 

【シャドール】ミラー専用 異次元グランド

 他方では、【シャドール】同士のミラーマッチを意識したカードの動向も目を引きます。

このターン、墓地へ送られるモンスターは墓地へは行かずゲームから除外される。

 上記は「異次元グランド」の当時のテキストです。

 1ターン限りの「次元の裂け目」とでも言うべきカードであり、多くのデッキにとっては「次元の裂け目」の下位互換にしかならない性能ですが、自分も墓地利用を多用する【シャドール】にとってはむしろこの時間制限が有効に働きます。上手くタイミングを見極めれば自分への被害を最小限に抑えつつ相手のリソースを一気に刈り取れるため、状況によってはこのカードの有無がゲーム展開を決定付けることも少なくありません。

 単純な知名度においてはそれほど知られているカードではありませんが、このカードもまた当時の【シャドール】環境を形作った重要なファクターの1つです。

 

超融合 【シャドール】最強の矛にして盾

 とはいえ、やはり【シャドール】ミラー最強のカードと言えば「超融合」をおいて他にありません。

手札を1枚捨てて発動できる。自分・相手フィールド上から融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
このカードの発動に対して魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。

 言わずと知れたOCG最強格の融合魔法カードであり、ある意味では全盛期【シャドール】を象徴するカードでもあります。発動の際に手札コストを要求される点、またフィールドのモンスターしか融合素材にできない点など制約は少なくありませんが、それを補って余りあるカードパワーによって環境を席巻したカードです。

 具体的には、相手フィールドに並んだ【シャドール】モンスター+各属性モンスターをフリーチェーンで吸収しつつ融合体を展開できるため、大抵の状況はこれ1枚で打破できると言っても過言ではありません。

 もちろん、単純に各属性のモンスターを吸収する疑似除去カード、あるいは制約付きのフリーチェーンの融合魔法として使うこともできるため、見た目に反して用途が広いのも利点です。実際、こうした使い勝手の良さもあって「超融合」は間もなく【シャドール】用サイドの常連カードとなり、遂にはメインから3積みされてもおかしくないほどに大流行することになります。

 その結果、2015年1月の改訂では(他の原因もあったとはいえ)無制限からいきなりの制限カード指定(※)を下されており、【シャドール】全盛期において「超融合」がいかに猛威を振るったかが窺い知れるのではないでしょうか。

(※ちなみに、海外では同じタイミングで禁止カード行きになっています)

 

シャドールの大まかな歴史について

 誕生直後の【シャドール】については以上ですが、補足として【シャドール】全体を通しての大まかな歴史についても触れておきます。

 と言っても、【シャドール】というテーマの歴史は非常に長大であり、その全てを1つの記事で語り切ることは物理的に困難であるため、ここでは簡単な年表にまとめるのみにとどめます。

 

2014年
4月19日 【シャドール】カテゴリが成立する。次世代テーマのパワーを遺憾なく発揮し、間もなく環境屈指の強アーキタイプとして頭角を現した。
5月17日

強力な墓地肥やしカード「クリバンデット」「マスマティシャン」を獲得し、更なる安定性を手に入れる。

また、「ソウル・チャージ」参戦の影響もあって【光天使シャドール】も浸透し始め、やがて環境屈指の巨大勢力にまで成長を遂げる。

7月1日 制限改訂により「針虫の巣窟」「終末の騎士」の2枚が同時に制限カード指定を受ける。しかし、この頃にはどちらも使われなくなっており、実質的にはほぼノーダメージの規制だった。
7月19日 追加の新規サポート「神の写し身との接触」「エルシャドール・シェキナーガ」などを獲得し、デッキとしての基盤がおおよそ完成に至る。同パックからは【クリフォート】などの新勢力も現れていたが、総合力では依然【シャドール】がトップだった。
10月1日

エルシャドール・ネフィリム」「エルシャドール・ミドラーシュ」「堕ち影の蠢き」の3枚が同時に制限カード指定を受け、大きく弱体化する。また、「光天使スローネ」が規制されたことで【セプタースローネ】出張ギミックが解体され、当時の【シャドール】の主流型であった【光天使シャドール】も構築不可能となった。

とはいえ、そうした弱体化を踏まえてもデッキパワーは相変わらずトップクラスだったため、引き続き主流デッキの一角として活躍した。

2015年
1月1日

超融合」が制限カード指定を受ける。

しかし、この頃はメタゲームの変化や【シャドール】自体の弱体化もあって採用率は全盛期ほどではなくなっており、見た目ほどの被害はなかった。

4月1日

エルシャドール・ネフィリム」の禁止カード化を筆頭に、「神の写し身との接触」「マスマティシャン」「クリバンデット」の3枚が同時に制限カード行きとなるなど、【シャドール】に対して大規模な規制が入った。代わりに「エルシャドール・ミドラーシュ」が無制限カードに規制緩和されたが、トータルでは明らかにマイナスであり、純構築でトーナメントレベルのパワーを維持することは困難になった。

しかし、その不足分を他のテーマとの複合によって補うことは可能だったため、これ以降しばらくの間は【列車ドール】や【AFシャドール】などに姿を変えて命脈を保っていた。

下半期~

ゲームバランスのインフレに伴い、環境で戦っていくことが徐々に難しくなっていった。

この苦しい状況は2016年以降も変わらず、なおかつ年単位に渡って続くこととなる。

2017年
11月25日

【リンク召喚】世代への突入に伴い、新規サポートである「シャドール・ネフィリム」を獲得する。

しかし、カードパワーは可もなく不可もなくの水準であり、これによって復権を果たすことはなかった。

2018年
4月1日

エルシャドール・ネフィリム」が制限復帰を果たし、【シャドール】界隈が救済される。

また、「ネフィリム返しておじさん」も無事成仏した。

10月1日

エルシャドール・ネフィリム」を含む全ての【シャドール】サポートが無制限カードに完全釈放され、遂に全盛期の力を取り戻した。

しかし、当時から数年が経過した時代とあっては流石の【シャドール】も型落ちのスペックとなっており、環境入りは難しかった。

2019年
12月7日

公式主催の人気投票企画で1位の座を獲得し、ストラクチャーデッキ商品化の権利を手に入れる。これにより不足しがちだったデッキパワーがようやく実戦に耐えうるレベルにまで向上し、リンク世代でもある程度戦えるようになった。

 

【中編に続く】

 【シャドール】についての話は以上です。

 カテゴリが成立するや否や、その圧倒的なカタログスペックによって前世代からの続投組を蹴散らし、間もなく環境トップに躍り出ています。第8期以前の常識からは明らかに逸脱した存在であり、第9期という時代の本質を真っ先に体現したテーマだったと言えるでしょう。

 とはいえ、もちろん当パックから現れた次世代テーマは【シャドール】だけではありません。流石にこの時期に限って言えば【シャドール】の後塵を拝する立場にありましたが、長期的には【シャドール】と同等かそれ以上の権威を誇った巨大勢力も参入を決めていたのです。

 中編に続きます。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

著者情報:遊史

Posted by 遊史