初期の融合モンスター 「デッキが組めない」からファンデッキに至るまで

2017年12月15日

【前書き】

 【第1期の歴史16 エラッタ前クリッターの狂気 最初期の【エクゾディア】地獄】の続きとなります。ご注意ください。

 「クリッター(Vol.6)」「黒き森のウィッチ(Vol.6)」の誕生によって【エクゾディア】が劇的な進化を遂げ、【グッドスタッフ】は環境の第一線から追い落とされる形となりました。

 しかし、「メタモルポット」「ニードルワーム」の存在から、辛うじて崖っぷちに踏みとどまっています。当時は墓地に落ちたエクゾディアパーツを回収する手段がなく(※)、いずれかのパーツを全て捨てさせることができれば特殊勝利を止めることが可能だったからです。

(※厳密には、「死者蘇生」で蘇生後に「ハネハネ」などでバウンスして回収することは可能でした)

 激しい生存競争の最中、上記とは方向性の異なる新たなカード群が誕生します。

 

【当時の環境 1999年12月1日】

 1999年12月1日、「BOOSTER6」が販売され、新たに35種類のカードが誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは594種類となり、着々とカードプールを広げていく形となります。

 この時のカード群の特徴的な部分として、融合モンスター関連のカードの収録が非常に多かったというものがありました。

 

融合素材代用モンスター 心眼の女神

 その代表格は、「心眼の女神」を始めとした融合素材代用モンスターです。

このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。

 遊戯王OCG史上初の融合素材代用モンスター、その内の1体となります。これ以外にも、同様の効果を持つモンスターが3体誕生しています。

 テキストの通り、融合モンスターを召喚するための素材の代わりにできる効果を与えられています。当時としては非常に画期的なシステムで、融合素材を揃えるハードルがぐっと下がったことから、融合モンスターが一気に扱いやすくなりました。

 しかし、この融合素材代用モンスターは一度の融合に1体しか使用できず、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならないという制約がありました。例えば、「ブラック・デーモンズ・ドラゴン」を融合召喚する際に「心眼の女神」を使用する場合、もう片方は本来の融合素材である「デーモンの召喚」「真紅眼の黒竜」のいずれかでなければなりません。

 しかしながら、率直に申し上げて上記のテキストからその情報を読み取ることは困難です。正確な裁定を知っている今ですらそう思うほどであり、まして前情報なしではまず見抜けないのではないでしょうか。

 そうした事情から、当時は心眼の女神」2体で任意の融合モンスターを融合召喚できるのではないかという誤った認識が広く浸透していました。私の周りにもこのローカルルールに疑問を持つプレイヤーは見当たらず、当たり前のように「心眼の女神」2体で「ブラック・デーモンズ・ドラゴン」を融合召喚していたと記憶しています。

 この誤解釈が解消されるのは第2期に入ってからのことで、少なくとも私個人の記憶では、第1期の間にこの間違いが正されたことはありません。流石に「血の代償騒動」の時ほど大々的な問題にはなりませんでしたが、これもまた公式の過失が引き起こしてしまった事件の一つです。

 

「融合」サポート サーチ&サルベージ

 融合素材代用モンスターについては以上ですが、他の方向からの融合サポートとして、「融合賢者」「モンスター・アイ」というカードもこの時に誕生していました。

 まずは「融合賢者」です。

デッキから「融合」カードを1枚手札に加える。

 デッキから「融合」をサーチすることができる魔法カードとなっています。単純な効果故に使い勝手も良く、素早く「融合」にアクセスする手段として重宝されました。

 しかし、デッキに「融合」が残っていなければ役に立たないため、1~2枚積むというのが主流であったと記憶しています。

 次は「モンスター・アイ」です。

1000ライフポイントを支払う事で、自分の墓地から「融合」カードを1枚手札に戻す事ができる。

 起動効果で墓地の「融合」をサルベージする効果を持った効果モンスターとなります。ライフさえあれば何度でも効果を使うことができるため、状況次第では相当の爆発力を発揮します。

 特に「クリッター(Vol.6)」「黒き森のウィッチ(Vol.6)」で引っ張って来られる点が優秀で、墓地に「融合」が落ちていれば実質サーチャーを「融合賢者」として扱うことができます。

 また、単純に手札コスト目的で使っても強く、「天使の施し」とは最高の相性を持っていました。墓地の「融合」2枚を回収し、それを「天使の施し」のディスカードに当て、更に捨てた「融合」を再び回収できれば、なんと4アドとなります。

 ライフコストがかさむとはいえ、第1期当時のコンボの中ではトップクラスのアドバンテージ生成能力です。

 

融合詐欺 デビル・フランケン

 このように、非常に優秀な融合サポートカードが多数生まれた弾でしたが、実は融合関連のカードはこれだけではありません。

 上記の真っ当なサポートカードとは根本的に性質の異なる、特殊な効果を持った融合サポートカードも誕生していました。

 「デビル・フランケン」です。

5000ライフポイントを支払う事で、自分の融合デッキからモンスターを1体フィールド上に出す事ができる。

 何と言っても、まず目につくのはその莫大なライフコストでしょう。初期ライフ8000の半分以上をコストに要求されるため、事実上ゲーム中に一度しか使用できない効果となります。

 また、効果の使用後はライフが危険域まで落ちる上、低ステータスの「デビル・フランケン」が棒立ちで残ってしまうため、返しの戦闘ダメージで即死してしまうリスクも抱えていました。

 しかし、その見返りとして、融合デッキから任意のモンスター1体を特殊召喚することができます。実際問題、これは優秀という評価を通り越し、凶悪とも表現できるほどのパワーカードでした。

 通常、融合召喚を行う場合には「融合」1枚と融合素材2枚、合計3枚分のカードを消費することになります。

 言い換えれば、融合モンスターを除去されてしまえば実質的にカードを3枚失っていることになり、致命的なディスアドバンテージを抱えてしまいます。そしてその割には、この時期の融合モンスターはステータスが高いだけのバニラであり、労力に見合った強さを持っていたとは到底言えません。

 当時【融合召喚】が隆盛しなかったことにもこの辺りに理由があり、苦労して融合モンスターを出す価値はないとされていました。

 しかし、「デビル・フランケン」であればこの問題をクリアできます。カードを全く消費せずにフィニッシャー級のアタッカーを呼び出せるため、当時居場所の無かった重量級融合モンスター達は一躍実戦級のカードへと押し上げられる形となりました。

 更に、当時は蘇生制限のルールが存在していなかったことも追い風で、除去された場合でも「死者蘇生」で戦線復帰させることが可能です。

 これは逆に相手に利用されてしまう危険性も孕んでいましたが、それを踏まえても優位点と言って差し支えない部分でしょう。

 総評としましては、リスク以上のリターンが見込める強力なカードであったことは間違いありません。

 しかしながら、実際のところ「デビル・フランケン」は【融合召喚】ではなく【グッドスタッフ】に投入されるケースが大半となっていました。

 カードを消費しないということは単体でも機能するということであり、そしてそれは【グッドスタッフ】の理念と一致しています。サーチャーの存在からピン挿しでも無理なく運用できるため、自然とデッキに入ってしまいます。

 専用サポートが汎用サポートと化してしまった一例であり、遊戯王OCGにおいては日常茶飯事とも言える出来事です。

 とはいえ、融合モンスターは原作漫画では活躍著しいモンスター群であり、愛好家も少なくありません。「デビル・フランケン」の踏み倒しではなく、きちんと正規融合したいというプレイヤーも少なくはなく、ファンデッキとして【融合召喚】が構築されていく形となります。

 私もその内の一人で、「ブラック・デーモンズ・ドラゴン」を切り札にした【融合召喚】を組んでいました。上記の通り欠点を抱えたデッキではありましたが、豊富なドローソースと二大サーチャーのお陰で意外と動かしやすく、手札が噛み合えば稀にワンショットキルが成立することもあったほどです。

 総合力では流石に【グッドスタッフ】に一段劣っていたものの、中々侮れない爆発力を秘めていたデッキであったと記憶しています。

 ちなみに、デッキ二個分の必須カードは持っていなかったので、使う度に一軍を崩す必要があったのですが……。

 補足となりますが、この「デビル・フランケン」というモンスターは「悪用」されるケースが非常に多いカードでもありました。誕生当時は上記のように比較的真っ当な使われ方をしていましたが、時代が進むにつれて瞬殺コンボギミックの常連パーツとして名を馳せていく形となります。

 第2期で彗星のように現れた【デビフラ1キル】などは、その筆頭とも言えるデッキでしょう。

 

可哀想なゲール・ドグラ

 また、「デビル・フランケン」の類似カードとして、「ゲール・ドグラ」というモンスターも同時期に生まれていました。

3000ライフポイントを支払う事で、自分の融合デッキからモンスターを1体墓地に捨てる事ができる。

 融合デッキのモンスター1体を墓地へ送る効果です。蘇生制限が存在しない前提でデザインされたカードであり、この効果で墓地に落とした融合モンスターを「死者蘇生」で釣り上げるコンボが有名でした。

 しかし、第2期に入って蘇生制限ルールが取り入れられてからは、全く何の役にも立たない効果と化してしまいます。誕生から僅か数ヶ月で存在意義を失ってしまった悲劇のカードと言う他なく、当時は悪い意味でネタにされていました。

 これが日の目を見るのは遥か未来、第9期まで時代が進んでからのこととなります。

 このように、融合サポートカードが多数追加されたこの時の弾ですが、実は肝心の「融合」が再録されていませんでした。

 収録されていない幻の「融合」目当てにガチャを引き続け、悲惨な目に遭ってしまったというプレイヤーも、ひょっとするとどこかにいらっしゃるのかもしれません。

 

【まとめ】

 多数の融合サポートカードが誕生したことにより、【融合召喚】を構築することは不可能ではなくなりました。

 しかし、ひとまず構築可能となっただけ、という段階に近く、【融合召喚】として環境に影響を及ぼすことはありませんでした。

 実質的に「デビル・フランケン」のみが環境に参入する形となり、その影響で「ブラック・デーモンズ・ドラゴン」や「竜騎士ガイア」など、一部の高ステータスを持つ融合モンスターがゲームで姿を見せるようになっています。

 しかし、この時期の環境は【エクゾディア】に大部分を支配されており、ほとんど小競り合いに近い勢力争いでしかなかったのは事実です。そのため、大きな視点においては環境はほぼ動きを見せない状況となっていました。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史