精霊の鏡が最も「輝いた」時代 強欲ハンデス返しのトラウマ

2018年1月30日

【前書き】

 【第2期の歴史28 生還の宝札 無限ドローとエクゾディアの蜜月関係】の続きとなります。ご注意ください。

 「生還の宝札」の誕生で【宝札エクゾディア】が開発され、【グッドスタッフ】【デッキ破壊】の2強環境に激震が走りました。総合力では【エクゾディア】(第1期)に及ばないものの、ある程度の確率で先攻1キルを決めてくることは事実であり、小規模な暗黒時代を作り上げています。

 また、派生デッキとして【宝札ビッグバン】も考案されるなど、その悪用しやすさは遊戯王OCG全体で見ても屈指です。この時期は蘇生カードの規制も緩く、生還の宝札」のポテンシャルを発揮しやすい状況にあったこともその一因でしょう。

 にわかに先攻1キルが活気づく中、週刊少年ジャンプで特別パックの応募企画が実施されました。

 

【「LIMITED EDITION 3」応募企画】

 2001年5月上旬~中旬にかけて、「LIMITED EDITION 3」の応募企画が実施されました。「遊戯パック」「城之内パック」「海馬パック」の3種類が存在し、それぞれ3枚ずつカードが封入されています。

 全9種のうち6種類が新規カードとなっており、3種は再録カードです。遊戯王OCG全体のカードプールは1027種類に微増しています。

 通常、「LIMITED EDITION」系列のパック収録のカードは性能に恵まれず、コレクションアイテムとしての性質が強いカード群となっています。しかし、この時に限ってはそうではなく、環境クラスのポテンシャルを持った優良カードが含まれていました。

 

トークンばらまき スケープ・ゴート

 1枚目は「スケープ・ゴート」という速攻魔法カードです。

このカードを発動する場合、このターン内は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。自分のフィールド上に「羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)を守備表示で4つ置く。(生け贄召喚のための生け贄にはできない)

 攻撃力・守備力が0の羊トークン4体を守備表示で特殊召喚する効果を持っています。ただし、発動ターンはこれ以外の方法では召喚・反転召喚・特殊召喚できなくなるという非常に重いデメリットが課せられるため、考えなしに撃てるカードではありません。

 しかし、速攻魔法であるため、相手ターンに発動してデメリットを踏み倒してしまうという抜け道があります。当時は相手ターン中の展開手段が「リビングデッドの呼び声」やリクルーター程度しかなく、デメリットが足枷となることはそれほど多くありませんでした。

 性能を見る場合、単純にカード1枚でモンスターを4体確保できるのは破格の効率です。ステータスこそ最低クラスですが、都合4回分の攻撃を吸収できるため、防御手段として重宝されました。実質的には数千ポイントのライフゲインを行っていることになり、カード1枚分の働きとしては十分な見返りでしょう。

 また、何らかのコストにあててしまうことも考えられます。生け贄召喚のための生け贄にはできませんが、逆に言えばそれ以外の制約は存在しません。特に「キャノン・ソルジャー」で射出して2000バーンに繋げる動きは極めて強力で、状況によってはこれが引導火力となるケースもありました。

 変わったところでは、モンスターの数が一気に増えることに着目して「団結の力」の強化率を稼ぐのも面白いでしょう。どちらも汎用カードとして十分なカードパワーを持つため、特化せずとも自然とコンボを狙える点が魅力です。

 総評としましては、【グッドスタッフ】でも採用を狙えるパワーカードという評価が当てはまります。1枚で何役もこなせる汎用性の高さはデッキコンセプトとも合致することから、環境デッキにおいても一定の採用率をキープしていたのではないでしょうか。

 

ドローハンデスメタ 精霊の鏡

 2枚目は「精霊の鏡」という罠カードです。

プレイヤー1人を対象とする魔法の効果を別のプレイヤーに移し替える。

 プレイヤー1人に効果の及ぶ魔法カードの効果を、そのまま別のプレイヤーに移し替えるという極めて異質な効果を与えられています。遊戯王OCG全体で見ても類似の効果が存在せず、テキストだけでは読み取れない複雑な処理を行うカードです。

 「プレイヤー1人を対象とする」とありますが、実際にプレイヤーを対象にとるカードはルール上存在しないため、実際には上記のように「プレイヤー1人に効果の及ぶカード」に対して発動できます。ただし、この部分が曲者で、実は「プレイヤー1人にのみ効果が及ぶカード」にしか発動することができません。

 言葉だけでは分かりにくいため、以下にいくつか例を示します。

 

・「強欲な壺」はプレイヤー1人にのみ効果が及ぶため、発動できる。

 

・「成金ゴブリン」は相手プレイヤーのライフを回復させる効果が含まれるため、発動できない。

 

・「貪欲な壺」は墓地のモンスターを対象に取るため、発動できない。

 

・「強欲で貪欲な壺」はデッキを除外する処理を含むが、効果ではなくコストであるため、発動できる。

 

・「強欲で金満な壺」はEXデッキを除外する処理を含み、それは効果ではなくコストによるものだが、発動後のドロー制限効果はプレイヤー1人にのみ効果が及ぶ効果として扱われないため、発動できない。

 

 プレイヤー1人以外に少しでも効果が及ぶ場合は発動できず、外見以上に対応範囲が狭いことが分かります。最悪の場合、発動の見込みすらなくゲームが終わってしまうリスクは考慮しておかなければなりません。同じく魔法カードに対処できる「マジック・ドレイン」などとは違い、漠然とデッキに入れるだけでは事故札にしかならないでしょう。

 しかし、この時期は「強欲な壺」「天使の施し」などのドローソースを始めとして、「押収」などのハンデスカードが環境に蔓延しており、むしろゲームで遭遇しないケースの方が稀でした。つまり、「精霊の鏡」が極めて活躍しやすい環境にあり、それらに対するメタカードとしての立ち位置を確立していくことになります。

 効果を無効化するどころか奪い取ってしまうため、通常のカウンター罠とは比べ物にならないほどのリターンが期待できるのが魅力です。例えば、「強欲な壺」に対して発動できた場合は1:3交換となり、アドバンテージ面で大差をつけられます。

 対応範囲が狭いことを差し引いても見返りの大きさは圧倒的であり、サイドデッキはもちろん、場合によってはメインデッキにも入りうるポテンシャルを持っていたのではないでしょうか。

 補足となりますが、この「精霊の鏡」は現在に至るまで一度も再録されておらず、完全な絶版カードとなっています。そのため、第9期において【帝王】や【青眼の白龍】へのメタカードとして浮上した際は値段が高騰し、一時期は1000円以上で取引されていました。

 環境やカードプールの変化により、どんなマイナーカードが高騰するか分からない遊戯王の奥深さを物語るエピソードの1つです。

 

無の煉獄によるフルハンデスコンボについて

 その他、第2期当時の話題からは離れますが、「精霊の鏡」について語る上で欠かせない話として、「無の煉獄」などと組み合わせたフルハンデスコンボにも触れておきます。

通常魔法
自分の手札が3枚以上の場合に発動できる。
自分のデッキからカードを1枚ドローし、
このターンのエンドフェイズ時に自分の手札を全て捨てる。

 「無の煉獄」はプレイヤー1人のみが影響を受ける効果であるため、「精霊の鏡」によって効果を相手に移し替えることが可能です。その場合、相手プレイヤーはエンドフェイズに手札を全て捨てることになるため、これをゲーム序盤に決めることができれば事実上の勝利が確定します。

 もっとも、コンボパーツがいずれもサーチ不可能であること、また「精霊の鏡」が罠カードであること(つまり最短でも3ターン目にしかコンボを狙えないこと)などを考慮すれば実用性はなく、あくまでも地雷の域を出ないコンボです。

 一応、「無の煉獄」と類似のデメリットを持つ「闇の誘惑」などによりコンボパーツを水増しすることはできますが、こちらは相手のデッキ次第ではデメリットを回避されてしまうため、いずれにしても安定性については保証できません。

 しかし、「メインギミックに上記2種のドローソースを含み、環境的に「精霊の鏡」がサイドカードとして流行しており、なおかつ「闇の誘惑」のデメリットを回避されない相手とのサイド後のゲーム」という状況であればこのコンボが実戦レベルで機能する可能性はあるでしょう。

 果たしてそのような局所的すぎる状況に遭遇することがどれだけあるのかは分かりませんが、万が一に備えるのであれば覚えておいて損はない知識なのかもしれません。

 

【当時の環境 2001年5月上旬】

 「スケープ・ゴート」の誕生により、多くのデッキはビートダウンに対して手軽に耐性を得られるようになりました。【グッドスタッフ】にとっては痛し痒しの状況であり、新戦力として迎え入れられながらも対策の用意を求められる格好となります。

 有力な対策として挙げられるのは貫通効果や全体攻撃効果を持ったモンスターとなるでしょう。しかし、この時期の貫通持ちはステータスが低い「猛進する剣角獣」や装備カードである「メテオ・ストライク」程度しかなく、採用は厳しいと言わざるを得ない状況でした。全体攻撃持ちのモンスターに至っては生まれてすらおらず、やはり考慮に値しません。

 とはいえ、この時期は悪用法もなく、1枚で環境の勢力図を左右するタイプのカードではなかったことも事実です。いわゆる「真っ当に優秀なカード(※)」であり、次第に汎用カードとしての立ち位置を確立していくことになります。

(※将来的には【変異カオス】のキーカードとして大々的に活躍しました)

 「精霊の鏡」が与えた影響は考え方によっては「スケープ・ゴート」以上で、単純なカード選択だけでなくプレイングにも反映されていたほどです。安易にドローやハンデスを撃つことには危険が伴うようになり、伏せ警戒の重要性は更に高まっていきました。

 相手のセットカードがある場合、ハンデスを跳ね返されることを見越して「落とされたくないカード」をあらかじめセットしておくなど、「精霊の鏡」の存在を意識したプレイが求められます。そうした対策を取れない場合であっても、なるべく「奪われても痛手とならないカード(※)」から先に発動するなど、やはり警戒は必要です。僅かな違いに思えますが、これが勝敗を分けるケースもあり、軽視はできません。

(※例えば「いたずら好きな双子悪魔」などを奪われてしまうとカード3枚を失った上で「デス・メテオ」を叩き込まれるというトラウマ級の被害を被ります)

 こうした「プレイヤーの行動を操作する」カードは時折現れ、そしてそのどれもが強力なカードパワーを秘めています。「精霊の鏡」は上述の通り尖った性能のカードであり、それ単体では高いカードパワーを持っているとは言えません。

 しかし、効果をそのまま跳ね返すという性質上、相手が強いカードを使っていればいるほどこのカードの性能も上昇していきます。「精霊の鏡」というカード名の通り、このカードの強さは文字通りその時の環境を映し出しているのかもしれません。

 

【まとめ】

 「LIMITED EDITION 3」の誕生によって起こった変化については以上です。

 新規カード6種類と数は少ないながら2枚の優良カードを輩出したパックとなっています。しかし、「LIMITED EDITION」シリーズのパックは応募企画でしか入手できず、通常のパックのように店舗では購入できない限定品でもありました。

 もちろん、供給量自体は十分だったため、シングル買いなどで手に入れることは可能です。とはいえ、新品を入手するには手間がかかることは否めず、ほかのカードと比べて若干希少度も高めだったのかもしれません。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史