E・HERO エアーマン誕生 トップデッキ【エアブレード】の台頭

2018年10月26日

【前書き】

 【第5期の歴史3 【チェーンバーン】爆誕 バーンデッキの革命児】の続きとなります。ご注意ください。

 「連鎖爆撃」を筆頭とするチェーンカードの参入により【チェーンバーン】が成立し、次第にメタゲームにおける速攻バーンデッキの脅威が浸透していくことになりました。弱点の多さからトップメタには届かないデッキでしたが、逆に地雷としては非常に強く、存在するだけでメタゲームに影響を及ぼしていたからです。

 そうした状況が大きく動いたのは、その僅か9日後のことでした。

 

空気の読めない男 【エアーマンビート】環境の始まり

 2006年8月19日、Vジャンプ付録から限定カードが1種類誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは2515種類に増加しています。

 ここで生まれた超大型ルーキー、それは「E・HERO エアーマン」と呼ばれる1体の下級モンスターでした。

このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。●自分フィールド上に存在するこのカードを除く「HERO」と名のついたモンスターの数まで、フィールド上の魔法または罠カードを破壊する事ができる。●自分のデッキから「HERO」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。

 攻撃力1800という恵まれたステータスに加え、召喚・特殊召喚成功時に発動できる2種類の効果を備えています。どちらも非常に強力かつ実用的な効果であり、特に2つ目のサーチ効果は遊戯王全体を見渡しても上位に入るほどの強さです。

 単純にノーリスクでアドバンテージを稼げることも十二分に優秀ですが、何よりも自分自身をサーチ範囲に含んでしまっている点が尋常ではありません。つまり召喚に成功した時点で3体分の戦力を確保可能なモンスターと言い換えることもでき、文字通り並のアタッカーの3倍の働きをすると言っても過言ではないカードです。

 もちろん、同系統のカード群として、【ガジェット】という偉大な先人がいるのも確かです。

 しかし、こちらは前述の通り準アタッカークラスの打点を備えているため、カード単体で見た場合の評価は比較にすらなりません。そもそも【ガジェット】そのものがパワーカードと認識されていたこと、あまつさえ唯一の弱点だった「打点の低さ」という問題が見事に解消されていることなど、もはや何かがおかしいとしか言いようがない性能です。

 一応、枚数的に【ガジェット】と比べて継戦能力で劣るという欠点、また単純に初手存在率が低いという弱みもあるため、完全な上位互換カードと断言することはできません。

 しかし、これは逆にデッキスロットを圧迫しない、要は「どんなデッキにも搭載できる」というメリットと捉えることもできます。その上、サーチ先が尽きた場合も魔法・罠除去効果の方を使用でき、またそもそもこれ自体が1800打点のアタッカーでもあるため、基本的にどんな状況であっても腐るということがまずありません。

 さらに、初手存在率についても「増援」「E-エマージェンシーコール」の採用といった形で問題なく解消可能です。特に「増援」は汎用性の高さから【サイカリバー】などの【グッドスタッフ】系デッキにも無理なく取り込みやすく、デッキの形を崩すことなく「E・HERO エアーマン」を5枚体制(※)に補強できます。

(※それどころか更なる水増し要員として「封印の黄金櫃」が使われるケースすらありました)

 まとめると、序盤は自分自身をサーチすることで戦線を維持し、後半は魔法・罠除去効果によりラッシュの起点を務めるなど、全てにおいて隙がなく、明らかに調整ミス気味の強さを備えたパワーカードです。むしろ強いを通り越し、「なぜこんなカードが刷られたのか分からない」とすら言われていたほどであり、まさしく「どんなデッキにも入るパワーカード」として猛威を振るうことになります。

 これが俗に言う【エアーマンビート】環境であり、デッキを選ばずにどこにでも「E・HERO エアーマン」が湧いて出てくる様から取って「空気(の読めない)男」などと揶揄されることもありました。

 ちなみに、「E・HERO エアーマン」とその関連デッキの台頭こそが【ガジェット】衰退の直接の原因にもなっています。というより、その【ガジェット】においてすらこのカードが3積みされることも珍しくなかったという辺りに、「E・HERO エアーマン」というカードの規格外の強さが集約されていたのかもしれません。

 

エアーマン専用機 【エアブレード】の成立

 そんな凶悪極まりない「E・HERO エアーマン」というカードですが、恐ろしいことにその活躍は汎用カードとしての役回りに収まるものではありませんでした。その強さを最も深く引き出すための手段として、非常に強力な専用デッキが開発されています。

 【エアブレード】の成立です。

戦士族のみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。このカードが自分のメインフェイズ時に自分の墓地に存在する時、自分の墓地の戦士族モンスター2体をゲームから除外する事でこのカードを手札に加える。

 上記はデッキ成立のきっかけとなったキーカードの1枚、「神剣-フェニックスブレード」の当時のテキストです。装備カードとしての性能は僅か300の打点強化と最弱クラスのカードですが、その真価は後半のサルベージ効果にこそありました。

 単純にハンド・アドバンテージを稼げることはもちろん、特に重要なのが「ほぼ無条件で墓地の戦士族を除外できる」という事実で、これにより高速で除外ゾーンを肥やしていくことができます。つまり「次元融合」などの帰還カードが強力な蘇生札として機能するようになるほか、状況次第ではエンドカードの役割を持たせることすらできるのです。

 「E・HERO エアーマン」自体がバック除去能力を備えていることも上記ギミックの有用性を高めます。当時よく使われていた「炸裂装甲」などの攻撃反応罠は全く問題にならず、十分なライフと「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」を用意できれば「奈落の落とし穴」すら脅威になりません。

 このギミックの安定感を支えるサポートとして注目が集まったのは、無差別墓地肥やしカードの筆頭である「モンスターゲート」でした。

 これにより効果を使い終わった「E・HERO エアーマン」を別のモンスターに変換して更なるアドバンテージに変えるとともに、その過程で「神剣-フェニックスブレード」を墓地に落とすという仕事も達成できます。そして先に述べた通り、「E・HERO エアーマン」は「増援」「E-エマージェンシーコール」に対応しているため、モンスターゲート」のためにモンスター枠を切り詰めることもやはり大きな負担にはならないのです。

 一方、類似カードの「名推理」はレベルの偏り(主要モンスターの「E・HERO エアーマン」「D-HERO ダイヤモンドガイ」「ならず者傭兵部隊」はいずれもレベル4)の関係であまり使われませんでしたが、それを逆手に取った構築を行うこともでき、実際プレイヤーによっては【推理ゲート】に寄せた型を取ることもありました。

 ネックとなるのはコンボデッキ故の事故の問題、あるいは【ダイヤモンドガイ】とのハイブリッドを行うことによる防御面の脆さですが、これも直後に獲得した「封印の黄金櫃」「冥府の使者ゴーズ」によって解消されてしまい、いよいよ付け入る隙が無くなっています。

 このように、【エアブレード】は第5期当時としてはまさに並外れたデッキパワーを備えており、以降のメタゲームでは環境有数のトップデッキとして君臨することになりました。

 

【当時の環境 2006年8月19日】

 【エアブレード】の台頭は当時のメタゲームに絶大な影響を及ぼし、他デッキの使用者はこの対策に頭を悩ませることになりました。丁度この時に新制限リストの情報が出ていたこともあり、既存勢力の進退も含めて様々な動きが起こっています。

 最初に注目されたのは「閃光の追放者」「マクロコスモス」などの全体除外カードでしたが、これだけでは「神剣-フェニックスブレード」「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」など一部のカードにしか対応できず、また肝心の「次元融合」を止められないことからメタカードとしてはあまり意味を成しませんでした。そもそもこれらは「E・HERO エアーマン」によって容易に対処されてしまうため、これは根本的に対処の仕方を間違えてしまっていたとも言えます。

 同様に「王宮の弾圧」などの永続系メタカードは押しなべて場持ちが期待できず、ほどなく採用圏外に飛ばされていっています。

 唯一刺さるのは効果自体を無効にする「スキルドレイン」でしたが、これについては使う側も同程度のダメージを負うことが多く、やはり最善の選択とは言えない部分もありました。間の悪いことに、スキルドレイン」デッキの筆頭であった【バブーン】も9月の制限改訂で大幅に弱体化してしまい、【エアブレード】の対抗馬としては力不足もいいところだったのです。

 その他、魔法カードメタによる封殺などが有力視されることもありましたが、「マジック・キャンセラー」は「E・HERO エアーマン」に相打ちを取られ、「ホルスの黒炎竜 LV8」は多くの場合間に合いません。

 また、あらかじめ「ならず者傭兵部隊」をサーチしておくなどの方法で実質相殺されることも多く、さらには「D-HERO ダイヤモンドガイ」による魔法コピーにも無力です。もちろん、メタデッキとして全く期待できないというわけではありませんが、総合的には今一歩足りないという印象に落ち着いてしまっていたことは否定できません。

 

ダストシュートとマインドクラッシュの流行

 強大なルーキーを相手に様々な対策が試される中、最終的に行き着いたのは「ダスト・シュート」「マインドクラッシュ」によるピーピング・ハンデス戦術でした。

 前置きとして、これらのカードは以前までは【ガジェット】に対するサイドカードの位置付けにあり、間違ってもパワーカードという認識を受けていたわけではありません。具体的には、「異次元の指名者」などとサイド枠を争っている程度のマイナーカードだったのですが、【エアブレード】の流行以降はほとんどのデッキにメインから採用されるほどのシェアを獲得するに至っています。

 もちろん、こうしたハンデス偏重環境に向かった要因は【エアブレード】に限らず、例えば「封印の黄金櫃」や「冥府の使者ゴーズ」が大流行したことなどが理由として挙げられるのは確かです。しかし、そのきっかけという意味ではやはり、この【エアブレード】の台頭こそが引き金だったのではないでしょうか。

 話を戻して、【エアブレード】というデッキはその構造上、限界までモンスター枠を切り詰めるのがスタンダードな構築とされていたというのはこれまでの解説の通りです。

 そのため、一旦回り始めれば並の妨害では止まらない反面、逆に初動を潰された時の脆さは非常に深刻なレベルにあります。ひとたびモンスターの供給が断たれれば「モンスターゲート」「神剣-フェニックスブレード」「次元融合」などの主要なギミックは軒並み停止してしまい、ほとんど何もできない状態に陥ってしまうのです。

 【エアブレード】は単体で機能するタイプのカードをほとんど採用しないため、こうなれば紙束同然の状況でしかありません。一応、「冥府の使者ゴーズ」というささやかな抵抗手段もありますが、残念ながらこれもまたハンデスの対応圏内に含まれています。

 ただし、モンスター比率の少なさから「ダスト・シュート」が【エアブレード】相手に空振りしやすいのも事実です。

 結果、貴重なハンデスを無意味に消費させられた挙句、みすみす見逃した「増援」によって「E・HERO エアーマン」を握られてしまうなど、最悪の下振れに出くわすことも珍しいことではありません。一方、「マインドクラッシュ」の方は魔法・罠カードも落とせますが、こちらはこちらで単体では能動的に機能させにくく、「E・HERO エアーマン」を先置きされた後に仕方なく撃たされる(※)といったシチュエーションにぶつかることも多々あります。

(※この場合、アド損に目を瞑れば後続を断てたと考えることもできますが、「増援」「モンスターゲート」など複数の裏目を残してしまうため、総合的には明らかに不利な取引です)

 つまり、対【エアブレード】におけるハンデスは「効く時は効くが、効かない時は効かない」といった印象に落ち着くため、一概に弱点であると言い切ることもできません。それどころか、しばらくすると逆に【エアブレード】側にもダストマイクラセットがフル投入されるようになり、ますます手が付けられなくなってしまったほどです。

 このように、ハンデス戦術も一定の有用性を認められつつも決定的な対策には至らず、結論としては「相性勝ちは諦め、【エアブレード】並にデッキパワーの高い他デッキを使う」といった強引な方法しか残らなかったのではないでしょうか。

 

【サイカリバー】の躍進 そして【エアゴーズ】へ

 その他、非常にベターな対策カードとしては、「死霊騎士デスカリバー・ナイト」に注目が集まっています。

 これは対策というほどメタに意識を寄せたカード選択ではありませんでしたが、E・HERO エアーマン」を仮想敵に据えた場合、非常に有用なモンスターです。攻撃力1900というステータス、さらにモンスター効果を潰す能力を持つため、先出し、後出しのどちらのパターンでも1:1交換に持ち込めます。

 もちろん、結局1:1交換なので得はしていないのですが、【エアブレード】がコンボデッキでもある以上、相対的にはアドバンテージを取っていると考えて差し支えありません。「死霊騎士デスカリバー・ナイト」を使うデッキの筆頭である【サイカリバー】は【グッドスタッフ】系列のアーキタイプ、つまり【エアブレード】と比べてモンスター供給が止まるリスクが遥かに小さかったからです。

 似たような経緯の話として、この2週間後に現れた「冥府の使者ゴーズ」も【エアブレード】対策としては一定の効果が期待できたため、参入以降は【エアブレード】対策を兼ねる汎用カードとして大流行することになりました。また、やや消極的ですが「サイバー・ドラゴン」も打点の高さから優位性を築きやすく、次第に注目度を上げていった形です。

 これらのカードはそれ自体が汎用パワーカードでもあったため、「マインドクラッシュ」とはまた別方面の話だったとも言えますが、このように【エアブレード】含む【エア】系デッキのメタとして【サイカリエアゴーズ】が流行(※)した側面もあります。

(※もっとも、デッキ名の通り【サイカリエアゴーズ】も「E・HERO エアーマン」を3積みしていたのですが……)

 結局のところ、良くも悪くも当時のメタゲームが「E・HERO エアーマン」を中心に回っていたことは間違いなく、実質的には全ての勢力が【エアーマンビート】と化していたことは否定できない現実だったのかもしれません。

 

【まとめ】

 第5期最強の下級モンスター、「E・HERO エアーマン」参入によって起こった出来事は以上です。

 あらゆる角度から見て「何かが狂っている」としか言いようがない性能であり、それを裏付けるように当時のほぼ全てのデッキで3積みされるという末期的な状況を生み出しています。信じがたいことに、一部ではバーンデッキであるはずの【チェーンバーン】ですらこれが積まれることがあったほどです。

 もちろん、こんなパワーカードの存在が見過ごされるはずがなく、半年後の改訂ではいきなりの制限カード指定を下されています。その後10年間に渡ってその位置にとどまり続けた事実からも、「E・HERO エアーマン」というカードの絶大な強さが窺えるのではないでしょうか。

 ちなみに、海外では第8期中頃から禁止カード指定を受けており、それが解除されたのはつい最近の2018年10月の出来事です。そしてそれでもなお制限指定にとどまっている辺り、程度の差はあれ「E・HERO エアーマン」がパワーカードであるということは世界の共通認識と言えるのかもしれません。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史