強欲で謙虚な壺 制限級と言われた時代 あらゆるデッキで3積みに

2019年6月18日

【前書き】

 【第7期の歴史1 エフェクト・ヴェーラー誕生 「ヴェーラー握ってない方が悪い」環境】の続きとなります。特に、この記事では前後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

通称「強謙」 制限行きになりそうでならなかったカード

 レギュラーパック「DUELIST REVOLUTION」におけるトップレアの筆頭、それは「強欲で謙虚な壺」でした。

自分のデッキの上からカードを3枚めくり、その中から1枚を選択して手札に加え、残りのカードをデッキに戻す。
強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン自分は特殊召喚する事ができない。

 デッキトップを3枚めくって好きな1枚を手札に加えるという、シンプルに使い勝手に優れた汎用ドローソースの一種です。デメリットとして1ターンに1枚しか発動できず、さらに発動ターンには特殊召喚を行えない誓約効果がかかりますが、そうした弱みを補って余りあるカードパワーを持っていたことは間違いありません。

 実際、「強欲で謙虚な壺」は2010年出身と古いカードでありながら今なお高い知名度を誇っており、まさしく遊戯王OCGにおける汎用ドローカードを代表する1枚となっています。ターン1制限、特殊召喚不可のデメリット、そして単純な1ドロー以上の恩恵がある1:1交換のドロー性能と教科書のように纏まったカードデザインがなされており、今日に至るまでに現れているドローカードの多くがこれを基準にデザインされていると言っても過言ではないでしょう。

 もちろん、これほどの優良カードが2010年当時において注目されないはずがなく、参入直後から様々なデッキで採用実績を残していくことになります。

 というより、当時のほぼ全てのデッキで声がかかるレベルで高い採用率を叩き出しており、言葉通りの意味で汎用ドローソースとして使われていたカードです。現在では重いデメリットとなる特殊召喚不可の誓約効果も2010年当時のゲームスピードにおいてはそこまで厳しいものではなく、結果として【インフェルニティ】や【旋風BF】などの主流デッキにおいてすら使われるパワーカードというポジションを確立するに至っています。

 そのため、当時のプレイヤーの間では「遠からず制限行きになるだろう(※)」と囁かれており、実際そうなってもおかしくない程度には環境を席巻していました。

(※しかし、そうした背景がありながらも結局第7期中に規制されることはなく、やがては「制限行きになりそうでならないカード」の代表格のポジションに収まっています)

 こうした「強欲で謙虚な壺」の全盛期は以降年単位に渡って続くことになり、第7期中はもちろんのこと、第8期突入後も汎用ドローソースとして高い使用率をキープしていました。その頃になるともはや「強欲で謙虚な壺」を積んでいないデッキを探す方が難しく、コンセプト的に明らかに相性が悪いデッキであっても2枚積みが定着していた(※)ほどです。

(※「1ターン動けないデメリット」よりも「3ターン分の通常ドローを取れる」ことの方が強いという理屈です)

 その結果、2012年9月の改訂ではようやく準制限カードに規制強化されていますが、その後も引き続き主流デッキのお供として重宝されるなど、まさに往年の「強欲な壺」を彷彿とさせる高い使用率を叩き出していました。

 逆に言えば、2010年~2012年までのOCG環境は「強欲で謙虚な壺」が強さを発揮できる程度にはゲームスピードが緩やかだったということでもあり、ある意味ではこのカードの存在が環境の平均速度を推し量る物差しになっていたと言えるでしょう。

 

【メタビート】と赤い糸で結ばれた関係

 とはいえ、「強欲で謙虚な壺」が残した実績は汎用ドローソースとしての活躍だけではありません。

 「強欲で謙虚な壺」と最も優れた相性を示していたデッキ、それは【メタビート】をおいて他になかったのではないでしょうか。

 【メタビート】はそもそものデッキコンセプトが各種メタカードによる盤面封殺にあるため、当然「強欲で謙虚な壺」のデメリットが問題を生み出すことはありません。一応、ターン1制限により複数枚引くと持て余しやすいこと、カードを公開する関係で情報アドバンテージを少なからず失ってしまうこと、また「ライオウ」とアンチシナジーを形成してしまうリスク(※)などはありますが、いずれも明確なデメリットとは言えない些細な問題です。

(※むしろ「強欲で謙虚な壺」の全盛期は主流デッキ側が使う「強欲で謙虚な壺」を潰せたため、逆の意味で「ライオウ」と相性が良いと言われていました)

 加えて【メタビート】はその構造上、メタカードとそれを守るカードの2種類が揃わなければ十分な力を発揮できないデッキでもあるため、そうした手札事故の発生を防ぐという意味でもシンプルにシナジーを形成します。

 このように、「強欲で謙虚な壺」というカードはあらゆる角度から見て【メタビート】と非常に噛み合っており、まさしく「運命の赤い糸で結ばれた関係」とも言える抜群の相性を誇っていることは間違いないでしょう。

 

【光デュアル】での活躍 【次元エアトス】の後継デッキ

 そんな「強欲で謙虚な壺」と【メタビート】の慣れ初めは、2010年環境における【光デュアル】を背景に始まっています。

 【光デュアル】とは大まかに言えばデュアルスパーク」「E・HERO アナザー・ネオス」「ミラクル・フュージョン」の3枚を主軸に据えた【メタビート】の一種を指し、事実上は【次元エアトス】の後継(※)に当たるデッキです。

(※さらに系譜を遡れば、2007年に成立した【オーシャンビート】が始祖となっています)

 2009年末に現れた「E・HERO The シャイニング」の存在をきっかけに研究が進んだアーキタイプであり、この時期においては「聖なるあかり」(※)をメインから投入できる【メタビート】として注目を受けている状況でした。

(※当時のトップデッキである【インフェルニティ】【旋風BF】を同時に見られる稀有なモンスターとして評価されていたメタカードです)

 これと似た理由で評価を上げていたデッキとしては【神光の宣告者】が有名ですが、【光デュアル】はいわゆる【罠メタビ】に近いコンセプトを掲げているため、【神光の宣告者】を含む各種メタデッキの中では強欲で謙虚な壺」を最も効率的に運用できるという優位点がありました。もちろん、その【神光の宣告者】においても「強欲で謙虚な壺」が使われていたことに変わりはないのですが、やはり【光デュアル】こそが「強欲で謙虚な壺」を最も強く使えるデッキだったことは確かです。

 というより、「強欲で謙虚な壺」を獲得するまでの【光デュアル】は安定性に若干の難があったため、逆にその問題を解消した「強欲で謙虚な壺」の存在が【光デュアル】の躍進の起爆剤となっていた部分もあります。実際、当時の【光デュアル】が「聖なるあかり」などのピーキーなメタカードをメインから複数枚積めるようになったのは間違いなく「強欲で謙虚な壺」の功績であり、間接的にはメタゲームの流れにも少なからず影響を与えていたカードだったと言えるでしょう。

 

対【旋風BF】最終兵器? BF環境の星

 加えて、【光デュアル】というアーキタイプそのものが当時の環境に噛み合っていたことも躍進の後押しとなっていました。

 中でも特筆すべきは【旋風BF】に対する数々の優位性です。

 単純に1900ラインが主戦力であるため「BF-蒼炎のシュラ」に有利を取りやすいことに始まり、「BF-蒼炎のシュラ」対策の筆頭カードである「スノーマンイーター」を標準搭載できること、その「スノーマンイーター」が「E・HERO アブソルートZero」の融合素材となれることなど、多くの面で【旋風BF】への耐性を備えていることが分かります。

 また、細かなところでは「ゴッドバードアタック」に対する「デュアルスパーク」、あるいは「BF-月影のカルート」への「オネスト」といったカードレベルでの噛み合いも侮れず、見た目の印象以上にBF環境に適応できているデッキだったと言えるでしょう。

 もっとも、そんな【光デュアル】であっても全体的な使用率は終始低迷気味で、メタゲームにおいては2番手以下の立ち位置をさ迷う状況が続いていたことは否めません。いくら上手く弱点を突けるとはいえ純粋なデッキパワー格差は如何ともし難く、当時のインフレ環境を生き抜く上では少なからずハンデを背負わざるを得ない状況にあったことは確かです。

 元々【メタビート】自体がプレイング難易度の高いアーキタイプであることもあり、シェアが伸び悩んでしまったのも無理はない話だったのかもしれません。

 

【まとめ】

 「強欲で謙虚な壺」についての話は以上となります。

 2010年当時においては破格の性能を持った汎用ドローソースとして脚光を集め、実際に参入直後から幅広いデッキで採用実績を残していたパワーカードです。それなりに厳しいデメリットがありながらなお使われるというのは単刀直入に言って異常であり、特に【メタビート】界隈においては実質「天使の施し」理論なるものが盛り上がっていた時期もありました。

 その後、時代が進むにつれて次第にデメリットが足を引っ張るようになったため、汎用ドローソースとして使われる機会は徐々に失われていきましたが、それでも【メタビート】を筆頭とする「特殊召喚に依存しないデッキ」においては今なお必須カードの立ち位置を築いています。

 というより、今現在の環境において「強欲で謙虚な壺」を採用しているデッキは多かれ少なかれ【メタビート】の要素を含んでいると言っても過言ではなく、その意味でもこの両者が切っても切り離せない関係にあることは間違いないのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史