グローアップ・バルブ誕生 【植物シンクロ】出張ギミックの流行
・前書き
・グローアップ・バルブ OCG最強クラスのチューナー
・【植物シンクロ】ギミックの流行 第7期における活躍
・【植物デブリ猫】の成立 【レスキューシンクロ】最後の輝き
・【デブリダンディ】の相棒 【植物デブリ】への変遷
・「バルブが生きてる限りシンクロも死なない」と言われた時代
・まとめ
【前書き】
【第7期の歴史2 強欲で謙虚な壺 制限級と言われた時代 あらゆるデッキで3積みに】の続きとなります。ご注意ください。
第7期初弾となるレギュラーパックから「強欲で謙虚な壺」という強力な汎用ドローソースが誕生、間もなくデッキを選ばない潤滑油として環境を席巻するに至っています。同パックから現れていた「エフェクト・ヴェーラー」と合わせて当時のOCG環境を大きく揺るがしたカードであり、まさしく新たな時代の幕開けを予感させるスタートを切っていました。
しかし、その後は環境レベルではカードプール面に目立った動きはなく、良くも悪くも横推移の形でメタが変遷しています。一応、【ラヴァル】や【カラクリ】などの後世で名を馳せるカテゴリも参入を決めていましたが、この時点では数あるファンデッキの一種という扱いに甘んじていたことは否めません。
閉じた環境の到来によって次第にメタが煮詰まっていく中、そうした均衡状態が崩れたのは7月中旬のことでした。
グローアップ・バルブ OCG最強クラスのチューナー
2010年7月17日、レギュラーパック「STARSTRIKE BLAST」が販売されました。新たに80種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは4424種類に増加しています。
2010年出身パックの中でも特にラインナップが豪華だったタイトルであり、3ヶ月間の停滞を盛り返すかのように一斉に優良カードが姿を見せています。「虚無空間」や「フォーミュラ・シンクロン」などの規制経験もあるパワーカードはもちろん、「速攻のかかし」や「調律」、「異次元グランド」といった実戦級カードの存在も見過ごせません。
とはいえ、やはり最大の注目を受けていたカードは「グローアップ・バルブ」をおいて他になかったのではないでしょうか。
自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。「グローアップ・バルブ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
「ゾンビキャリア」の流れを汲む自己再生効果持ちのチューナーの一種にして、現存するチューナーの中でも最強の一角に数えられるパワーカードとして知られます。なんと自己再生コストがデッキトップの墓地送りだけと実質ノーコストであり、シンクロ時代におけるインフレも遂に行き着くところまで行き着いてしまったと言うほかない性能です。
一応の縛りとして、同名カードを含めデュエル中に一度しか効果を使用できないという制約は設けられていますが、それを踏まえても明らかにカードパワー設定がおかしいことは言うまでもありません。というより、そもそも「グローアップ・バルブ」は現在においてすら禁止カード指定を受けているカードであり、これが2010年という時代に現れてしまったことは何かの間違いとしか言いようがない話でしょう。
数少ない弱点があるとすれば、レベルが1と低い関係で高レベルシンクロを狙いにくいことですが、これも同パックから獲得していた「フォーミュラ・シンクロン」によってむしろメリットに転じています。総じて「なぜ印刷されたのか分からないレベルのパワーカード」と言っても過言ではなく、実際に参入直後から様々なデッキで使用感が試されていくことになりました。
【植物シンクロ】ギミックの流行 第7期における活躍
こうした経緯を辿って成立したのがいわゆる【植物シンクロ】ギミックであり、これ以降は強力な汎用シンクロ出張セットとして環境を席巻することになります。
具体的には、「ローンファイア・ブロッサム」「ダンディライオン」をそれぞれ2枚ずつ、「スポーア」「グローアップ・バルブ」を1枚ずつの計6枚からなるギミックを指し、その使い勝手の良さからシンクロデッキ全般を中心に流行が進んだというのが大まかな流れです。場合によってはここに「デブリ・ドラゴン」を追加投入して【植物デブリ】に変じるケースもあり、下記で触れている【植物猫】もこれを標準搭載する傾向にありました。
また、【ガエル帝】などのシンクロ要素が薄めのデッキであっても声がかかることは少なくなく、その気になれば大抵のデッキを即興のシンクロデッキに仕立てることができたと言っても過言ではありません。そもそも単純に「ダンディライオン」や「グローアップ・バルブ」のカードパワー自体が高かったこともあり、一時期は往年の「緊急テレポート」全盛期を彷彿とさせる活躍ぶりを示していた出張シンクロギミックです。
ここではそんな【植物シンクロ】が第7期中に残した足跡について簡単に触れていきます。
【植物デブリ猫】の成立 【レスキューシンクロ】最後の輝き
【植物シンクロ】の最初の活躍の機会は、第6期環境の覇者であった【レスキューシンクロ】を背景に訪れていました。
俗に【植物猫】あるいは【植物デブリ猫】と呼ばれるアーキタイプであり、その名の通り【レスキューシンクロ】を下敷きに【植物シンクロ】ギミックを搭載したシンクロデッキの一種です。2009年9月の改訂以降は半ば解体状態にあった【レスキューシンクロ】ですが、【植物シンクロ】という新たな武器を得たことで三度環境デッキの一角として浮上を果たすことに成功しています。
また、この【植物猫】の躍進には強力な汎用ドローソースである「強欲で謙虚な壺」の存在も強く関係していました。
というより、元々この時期は弱体化した【レスキューシンクロ】の補助輪として「強欲で謙虚な壺」に期待が集まっており、【墓守猫】を筆頭とする各種【猫】デッキの復権運動が進んでいる状況だったからです。そのため、厳密には「グローアップ・バルブ」が現れる以前から【植物猫】に近いコンセプトのデッキも考案に至っており、「グローアップ・バルブ」の誕生がその成立の最後の一押しになったというのが正確なところだったのではないでしょうか。
最終的には上述の通り、ここに「デブリ・ドラゴン」を取り込んで【植物デブリ猫】に姿を変え、トーナメントシーンで存在感を示していくことになります。
もちろん、流石に【インフェルニティ】【旋風BF】の2大巨頭に地力で勝ることはできませんでしたが、代わりに「聖なるあかり」などの上記デッキを意識したメタカードをすり抜けるという別軸の強みを持っていたため、意外なところで勝利を掠め取っていく抜け目のなさを発揮していたデッキでした。
【デブリダンディ】の相棒 【植物デブリ】への変遷
このように、参入直後から【レスキューシンクロ】の相棒として活躍していた【植物シンクロ】ギミックですが、このギミックが残した実績は当然これだけにとどまりません。2010年9月の改訂で最大の出張先であった【レスキューシンクロ】が消滅したことを皮切りに、【植物シンクロ】は時代に応じて次々と宿主を切り替えていくことになります。
代表的なところでは【植物アンデット】や【植物魔轟神】などが有名な出張先に数えられますが、【カラクリマシン植物】を始めとする中堅カテゴリにおける活躍も見逃せません。総じてシンクロデッキ全般の汎用強化パーツのように振る舞っていた時代であり、【植物シンクロ】の出張ギミックとしての全盛期がこの時期に訪れていたことは間違いないでしょう。
とはいえ、最終的には【デブリダンディ】こそが最も効率的に【植物シンクロ】ギミックを運用できるということが判明していったため、やがては【植物】系のデッキ全般が【デブリダンディ】に淘汰されるという経緯を辿っています。「どんなデッキにも出張できる」ということはつまり「一番相性の良いデッキに出張するのが最も合理的」ということでもあり、1周回って【デブリダンディ】の専用ギミックのようになってしまったという流れです。
そのため、2011年に入る頃になると【植物シンクロ】≒【デブリダンディ】という図式が固まっており、名目上は出張ギミックと言われつつも実態は【デブリダンディ】とほぼ同一視されるようになっていました。
一方で、出張先である【デブリダンディ】が【ジャンクドッペル】などに派生していったことにより、間接的に【植物シンクロ】もその影響を受けて変化していくといった出来事も起こっています。
具体的には、従来の6枠型ではなく「ダンディライオン」をピン挿しに減らした5枠+デブリ2~3枚の7~8枠など、デッキに合わせて微調整が入るようになっていました。場合によっては「キラー・トマト」や「椿姫ティタニアル」などが併用されるケースも多く、次第に【植物シンクロ】ギミックそのものが多様化を迎えていった形です。
「バルブが生きてる限りシンクロも死なない」と言われた時代
こうした環境での活躍の結果、2011年9月の改訂では「ローンファイア・ブロッサム」「デブリ・ドラゴン」の2枚が同時に制限カードとなり、【植物シンクロ】ギミックも厳しい弱体化を余儀なくされることになります。
また、マスタールール2への移行から半年が経過していたこともあり、エクシーズモンスターの層が充実し始めていたことも少なからず向かい風となっていました。特に【TG】というエクシーズ召喚にも対応できるライバルの台頭は【植物シンクロ】にとって無視できるものではなく、かつてのようにシンクロ界隈を牛耳るほどの権威は維持できなくなっていたことは否定できません。
とはいえ、逆に純粋なシンクロサポートとして見れば依然トップクラスに有用なギミックでもあったため、【ジャンクドッペル】などのシンクロデッキにおいては大黒柱を担い続けていたことも確かです。
というより、もはや【植物シンクロ】が生きている限りシンクロデッキが衰退することはないという状況が成立していたため、エクシーズ時代に突入しているはずがシンクロデッキも普通に生き残っているという奇妙な環境を生み出していました。この頃によく言われた「バルブが生きている限りシンクロも死なない(※)」という言葉もあながち誇張表現ではなく、明らかに汎用チューナーの域を超えた絶大な影響力を振り撒いていたカードです。
(※むしろ「ラヴァルバル・チェイン」などの相性の良いカードを得たことで相対的に強化されている面もありました)
その結果、商業的な事情も絡んでか2012年3月の改訂では遂に「グローアップ・バルブ」「スポーア」の2枚が禁止カード行きを宣告され、【植物シンクロ】ギミックも完全解体を迎えることになりました。
逆に言えば、文字通り第7期初頭から最終盤に至るまでシンクロデッキ全般を支え続けていたと言っても過言ではなく、遊戯王OCG全体を見渡しても類を見ないほどに息の長い出張ギミックだったのではないでしょうか。
【まとめ】
「グローアップ・バルブ」及び【植物シンクロ】についての話は以上です。
2010年当時の水準からは明らかに逸脱したカードパワーによって話題をさらい、間もなく【植物シンクロ】ギミックとして猛威を振るうことになります。その活躍は2010年にとどまらず第7期全体を通してシンクロデッキの柱を務めたほどであり、まさしく汎用出張ギミックの名に恥じない多くの実績を残していました。
ちなみに、「グローアップ・バルブ」は第9期中頃の2015年10月に制限カードに、2016年4月には無制限カードに復帰を遂げていますが、第10期に至る2019年1月には再び禁止カードに逆戻りするという経緯を辿っています。これは自己再生の容易なチューナーという特性がリンク召喚、とりわけ「水晶機巧-ハリファイバー」と抜群に噛み合っていたがゆえに引き起こされた事態であり、時代のインフレを逆に味方につけるポテンシャルをも備えたカードであると言えるでしょう。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
楽しく読ませて貰っています。
自分は初代の遊戯王の漫画しか読んでおらず、たまたまこの頃の機皇帝がアニメに初登場した回を見て余りのジェネレーションギャップで驚いた記憶があります。
シンクロという訳の分からない概念に対抗している敵側に何故か共感してしまい、PSPのTF4を購入して5dsのアニメを継続視聴しつつ再勉強をしました。
後に何となく流れを掴み始めた所でOCGで登場したアポリアの切り札2種の効果を見て当時絶望しましたが・・・w
コメントありがとうございます。
シンクロ召喚は初期の調整ミスもあって現役プレイヤーを混乱の渦に巻き込んだ召喚法として有名で、一時期の悪評はリンク召喚を超えていたのではないかという印象もあります。
アポリア氏はOCG化に恵まれなかった不遇勢の筆頭キャラだと勝手に思っています。甘口評価のWikiですら酷評されている始末なので最早救いようがないとしか……。