第六感 遊戯王最凶格の壊れカード

2018年3月30日

【前書き】

 【第3期の歴史27 おろかな埋葬の誕生 当初はコンボパーツ扱い】の続きとなります。ご注意ください。

 「おろかな埋葬」の参戦によってコンボデッキ界隈が活性化し、次第に先攻1キルデッキの脅威が表面化しつつありました。

 一方で、当時環境の頂点に君臨していた【カオス】で使われることはほとんどなく、総合的にはまずまずの評価に落ち着いています。この頃は現在と違い「墓地は墓地」の時代であり、カード1枚使ってまで墓地肥やしをすることは文字通り「おろかな」行為だったからです。

 また、同じく8月中には記念すべき第1回目の世界大会が開催されるなど、歴史的に大きな出来事が起こっていたことも見逃せません。この時の優勝者の使用デッキは【トマハン】でしたが、これは単純に海外のカードプールが国内のものに追いついておらず、【カオス】を使用することができなかったがゆえの結果です。

 そんな折、続く9月にて遂に恐れていた事件が起こってしまうことになります。

 

ザ・ヴァリュアブル・ブック6 魔のシックス・センス

 2003年9月19日、「ザ・ヴァリュアブル・ブック6」が販売されました。書籍同梱カードとして新たに3種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは1685種類に増加しています。

 この時に同梱されていたカードはいずれも「6」をカード名に含んでおり、また効果もサイコロに関連したものを与えられていました。書籍タイトルに関連付けた収録内容であり、公式のユーモアが感じられる面白い試みと言えるでしょう。

 しかし、この3枚の同梱カードの中に、そうしたユーモアを粉々に粉砕するとんでもない極悪カードが紛れ込んでいたことには触れておかなければなりません。

 「第六感」です。

自分は1から6までの数字の内2つを宣言する。相手がサイコロを1回振り、宣言した数字の内どちらか1つが出た場合、その枚数分自分はカードをドローする。ハズレの場合、出た目の枚数デッキの上からカードを墓地へ送る。

 徹頭徹尾、書いてあることが何もかもおかしいカードです。恐らくこのカードを初めて目にした方は、大抵テキストを何度も読み返す羽目になるのではないでしょうか。

 頭が理解を拒む内容であるため、以下に効果をまとめます。

 

①:発動プレイヤーは1~6までの数字を2種類宣言する。

 

②:相手はサイコロを1回振る。

 

③:宣言した数字が出た場合、「その数字の枚数分」デッキからカードをドローする。

 

④:出なかった場合、その数字の枚数分デッキの上からカードを墓地に送る。

 

 要は1/3の確率で5~6枚ドローするという効果です。強すぎるというよりも明らかに何かが狂っており、ユーモアを追求するあまり大切なものを見失っていたとしか思えません。

 わざわざ口にするまでもないことですが、5~6枚も手札が増えればもはやそのゲームは勝ったも同然となります。よほど引きに恵まれなければ負ける可能性もなくはないものの、ほぼ例外ケースと言って良いでしょう。

 つまり、この「第六感」は「1/3の確率でゲームに勝利する」と書いてあるようなものであり、事実上の特殊勝利カードと言い換えることもできます。単体のカードパワーは常識の範疇を遥かに超えており、遊戯王全体を見渡しても比類するものはほとんど存在しません。

 一方、ハズレの場合はデッキトップを数枚墓地に落とすだけで終わってしまうなど、他の極悪カードにはない不安定さを抱えている弱みもあります。しかし、単純にドロー枚数の期待値が11/6、つまり1を大きく超えているため、期待値的には絶対に損にならないカードです。

 もちろん、現実のゲームではそうした理屈は当てはまりませんが、やはり構築段階においては「入れない理由が存在しないカード」と言っても過言ではありません。

 また、この墓地肥やし効果も【カオス】などの墓地リソースを活用できるデッキではメリットにもなり得ます。大量ドローに比べればささやかな見返りですが、【カオス】の種が1体でも落ちれば最低限の仕事はしたと考えることもできるでしょう。

 

第六感が永久禁止カードと言われる本質的な理由

 このように、カードの性能自体も極めて凶悪な「第六感」ですが、このカードの悪辣さはこうしたカタログスペックの高さだけには収まりません。

 運要素が絡むことを嫌うプレイヤーであっても、このカードを使わざるを得ない状況に追い込まれてしまっていたからです。

 前述の通り、ドロー枚数の期待値が1を上回っている以上、トータルで考えれば「第六感」は使えば使うほど得をします。しかし、現実問題として2/3はディスアドバンテージとなるため、当然このカードが敗因に繋がるケースも少なくありません。

 ところが、極めて悪質なことに、相手が使う「第六感」にはこの法則は当てはまりません。なぜなら、「相手」というのが特定のプレイヤーではなく、自分の対戦相手全てを指しているからです。

 「期待値が1を上回る賭け」を相手が実行するということは、確率の上では「自分がその分の損を負わされる」ということを意味します。つまり「第六感」は使われれば使われるほど損をするカードでもあり、トーナメントシーンで何度もゲームを重ねることを考えれば非常に致命的な問題です。

 もちろん、「自分」が「対戦相手にとっての相手」である以上、やはり「第六感」を使わないという選択肢はありません。一時的に損をする可能性が高いことを理解した上で、それでもこのカードを使うことを強要されるというのは、控えめに申し上げてストレスを感じる状況です。

 こうした理不尽すぎるゲームバランスを成立させてしまうカードは他に例がなく、また「第六感」が永久禁止カードと言われる本質的な理由もこの辺りにあります。「第六感」の現役時代に囁かれた「サイコロゲー」という言葉こそが、当時の状況を的確に表していたのではないでしょうか。

 個人的な補足ですが、私はこのカードを最初に見た時、とんでもなく弱いカードだと早合点していました。「数字が当たった場合、ドローする」という部分だけを流し読みし、1/3の確率でしかドローできない「強欲な瓶」の超下位互換カードだと勘違いしてしまったからです。

 その後、違和感を覚えてテキストを読み返したところ、真実に気付いて愕然としたわけですが、それでも誤読を疑って何度も指で文字を追いかけていたことを覚えています。プレイヤーの常識を打ち破るのはゲーム開発における大きな課題でもありますが、流石に限度というものがあるということなのかもしれません。

 

【当時の環境 2003年9月19日】

 「第六感」という遊戯王最凶格のパワーカードが誕生し、当時の環境に致命的な亀裂が入ることになりました。おおよそどんなデッキにも入るカードであり、すぐさま必須カードの立ち位置を確立していっています。

 また、処刑人-マキュラ(エラッタ前)」と二重の意味で相性が良いことも見逃せません。本来タイムラグが発生する「第六感」を即座に発動でき、さらにハズレの場合も「処刑人-マキュラ(エラッタ前)」を巻き込める可能性があるなど、一定のシナジー(※)を形成している格好です。

(※いわゆる「施しで マキュラ落として 第六感」という川柳はあまりにも有名でしょう)

 流石に【カオス】などのビートダウンデッキに積極的に取り入れるようなギミックではありませんが、【デッキ破壊1キル】などの先攻1キルデッキでは非常に重宝されていました。

 一方、同じく先攻1キルデッキである【サイエンカタパ】や【宝札マンティコア】とはやや相性が悪く、それほど使われていなかった印象です。墓地肥やしをメイン戦術とする【宝札マンティコア】とは一見相性が良いように思えますが、エクゾディアパーツが墓地に落ちてしまうとコンボが成立しなくなってしまいます。

 これを防ぐために回収手段を忍ばせておくなど、何らかの対策を用意することもできなくはないものの、少なくとも自然とデッキに入るようなカードではないでしょう。

 他方では、墓地肥やし効果に着目して【現世と冥界の逆転】が再浮上しています。

 第2期終盤をほぼ一色に染め上げた全盛期には及びませんが、とにかく墓地の枚数を稼ぎたい【現世と冥界の逆転】においては当たりとハズレのどちらに転んでも悪い話ではありません。デッキコンセプトとカードの性質が極めて高度に噛み合っており、まさしく「第六感」を最も効果的に活用できたデッキと言えるでしょう。

 とはいえ、総合的なデッキパワーはそれほど高いわけではなく、先攻1キルデッキとしては並程度の強さです。【カオス】を押しのけるほどの勢力を築くことはできず、そもそも【サイエンカタパ】と比べてしまえば実質的な下位互換デッキであると言わざるを得ません。

 総評としましては、「第六感」の恩恵を順当に受けた【カオス】が一歩抜きん出ている状況となります。4月から相変わらずの【カオス】環境であり、遊戯王OCGは依然として先行きの見えない時代を進んでいくことになりました。

 

【まとめ】

 「第六感」の参戦によって起こった出来事は以上となります。

 あらゆる角度から見て「何かが間違っている」としか言いようがなく、実際に当時の環境に多大な被害をもたらしてしまったカードです。単純にカードパワーが飛び抜けて高すぎるため、【グッドスタッフ】を下敷きとする【カオス】にとっては最高の追い風を与えています。

 一ヶ月弱と短い間でしたが、この時期の【カオス】こそが真の最終形態であったと言えるでしょう。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史