イレカエル×粋カエルの禁止コンボ 【ガエル】系デッキの環境入り

2019年4月16日

【前書き】

 【第6期の歴史31 インフェルニティが環境トップだった頃 2010年のガンループ地獄】の続きとなります。特に、この記事では前中後編の中編の話題を取り扱っています。ご注意ください。

 

粋カエル誕生 何度でも生き返る自己再生モンスター

 レギュラーパック「THE SHINING DARKNESS」から現れた問題児の筆頭、それは「粋カエル」という【ガエル】カテゴリの新規カードでした。

このカードのカード名は、フィールド上に表側表示で存在する限り「デスガエル」として扱う。
また、自分の墓地に存在する「ガエル」と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードはシンクロ素材とする事はできない。

 シンクロ素材にできない効果外テキスト、カード名を「デスガエル」として扱う永続効果、そして墓地の【ガエル】モンスターを除外コストに自己再生する効果を持っているモンスターです。同じく自己再生効果を持つ「黄泉ガエル」とは相互互換の関係ですが、こちらはコストさえあれば何度でも即座に自己再生できる点で勝っており、また下級モンスターとしては高めの守備力により壁としても機能する強み(※)があります。

(※当時は「BF-蒼炎のシュラ」がアタッカーラインを築いていたため、これを受け流せるメリットは意外に侮れないものでした)

 いずれにしても、「粋カエル」が【ガエル】の優秀な専用サポートであることは間違いなく、当初から多くの注目を集めていたことは確かです。

 とはいえ、はっきりパワーカードと言い切れるほど露骨に強すぎるカードではなく、これ単体では問題児と称するほどの危険性はありません。一応、現在ではエクシーズ素材やリンク素材などに使用できることが新たな強みにもなっていますが、何にせよ純粋なスペックにおいては健全な範囲に収まっているカードと言えます。

 

イレカエルとの極悪コンボ 1ターンで20回以上の蘇生

 前置きが長くなりましたが、つまり「粋カエル」が問題児と称されてしまった原因の9割9分は「イレカエル」の存在にあったのではないでしょうか。

自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。自分のデッキから「ガエル」と名のついたモンスター1体を選択し、自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在する限り、「ガエル」と名のついたモンスターは戦闘によっては破壊されない。

 もはや見るからに狂ったテキストが書かれていることは明らかですが、念のため解説を入れると「モンスター1体をコストに【ガエル】モンスター1体をリクルートする」という効果です。もちろん、ターン1制限やコストの制限などは全く設けられておらず、2008年という時代に現れていたとは到底思えないほど露骨な調整ミスの気配(※)が漂っています。

(※ただし、「イレカエル」が現れた時点ではリクルート先の【ガエル】側のカードプールが貧弱すぎたため、ほぼ宝の持ち腐れのような状況に置かれていたという背景もありました)

 そして案の定、この時に「粋カエル」が現れたことで事態は最悪の方向へと向かいました。「イレカエル」で「粋カエル」の自己再生コストを調達しつつリクルートを繰り返せば、デッキリソースの続く限り好きなだけ【ガエル】モンスターを展開できるようになったからです。

 

【ガエルシンクロ】の成立 トリシュ3連打の系譜

 当然のことながら、この「イレカエルループ」の発見は非常に大きな問題を引き起こしました。単純にモンスターが複数体並ぶというだけでも脅威的ですが、悪いことに当時の【ガエル】には「フィッシュボーグ-ガンナー」というOCG最強格のチューナーが所属しており、これを用いることでほぼ無制限にシンクロ召喚を繰り返すことが可能だったからです。

 その上、この時期は何と言っても「氷結界の龍 トリシューラ」の全盛期であり、連続シンクロ召喚からワンキルに持ち込むのも非常に容易いことでした。場合によっては先攻1ターン目から3ハンデスを決めることも不可能ではなく、現在で言うところの先攻制圧に近い行為を狙うことすらできたほどです。

 このように、多くの要素が当時の【ガエル】の躍進を後押ししていたため、間もなく【ガエルシンクロ】としてメタの一角に浮上を果たしたというのが大まかな事の経緯となります。

 ちなみに、上記のトリシューラ展開の具体的な手順は下記の通りです。

 

①:「イレカエル」をフィールドに、「フィッシュボーグ-ガンナー」を墓地に揃える。

 

②:「フィッシュボーグ-ガンナー」の効果で自己再生する。

 

③:「イレカエル」の効果で「フィッシュボーグ-ガンナー」をコストに「鬼ガエル」をリクルートする。

 

④:「鬼ガエル」の効果で「粋カエル」を墓地に送る。

 

⑤:「イレカエル」の効果で「鬼ガエル」をコストに「デスガエル」をリクルートする。

 

⑥:「粋カエル」の効果で「鬼ガエル」を除外して自己再生する。

 

⑦:「イレカエル」の効果で「粋カエル」をコストに「悪魔ガエル」をリクルートする。

 

⑧:「フィッシュボーグ-ガンナー」の効果で自己再生する。

 

⑨:「デスガエル」「悪魔ガエル」「フィッシュボーグ-ガンナー」の3体で「氷結界の龍 トリシューラ」をシンクロ召喚する。

 

 さらに、ここに「フォーミュラ・シンクロン」を絡めればドロー加速をループ行程に取り込めるため、最大で3枚もの手札交換すら可能になります。そのドローで「貪欲な壺」などを引ければもはや宇宙であり、【インフェルニティ】をも上回る「トリシュ地獄」を相手に叩き込むことさえできました。

 とはいえ、その「フォーミュラ・シンクロン」が現れたのは7月中旬と【ガエルシンクロ】の成立からかなり間が空いたタイミングだったため、このコンボが使用できたのは僅か1ヶ月強の間だけだったという背景もあります。つまり、それ以前の【ガエルシンクロ】では連続シンクロの過程で手札を消耗していくことは避けられず、ワンキルを止められた時のリカバリーが難しい(※)という弱点に悩まされていました。

(※というより、場合によってはそもそもワンキルに届かないケースもあったほどです)

 また、フィッシュボーグ-ガンナー」を墓地に落とす安定的な手段が「ジェネクス・ウンディーネ」程度しか存在せず、最重要パーツである「イレカエル」に至っては制限カードである「ワン・フォー・ワン」、あるいは墓地肥やしからの「サルベージ」による間接サーチに頼るしかないなど、構造的にかなり大きなボトルネックを抱えていたことは否めません。墓地に強く依存する関係で【インフェルニティ】と共通の墓地メタが刺さる点も苦しく、環境的には常に苦しい向かい風に晒されていたアーキタイプだったと言えます。

 しかし、【ガエルシンクロ】側にも氷結界の虎王ドゥローレン」や「氷結界の龍 グングニール」を使えること、また「大寒波」を採用できるといった固有の強みはあったため、環境初期から末期に至るまで常に一定のシェアはキープしていました。かつてのファンデッキ然とした姿からは考えられない躍進であり、この時代こそが【ガエル】最大の全盛期(※)だったことは間違いないと言えるでしょう。

(※ただし、将来的には第9期に「餅カエル」を獲得し、第2の全盛期を迎えることになります)

 

【ガエルドライバー】への派生 マスドライバー禁止化の理由

 その他、同じくイレカエルループを主軸に据えたコンボとして、「マスドライバー」を絡めた先攻1キルギミックも同時期に開発されていました。

自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる度に、相手ライフに400ポイントダメージを与える。

 モンスター1体を400ダメージに変換する効果を持った永続魔法カードであり、「キャノン・ソルジャー」と系統を同じくする射出カードの一種です。変換効率が低く、サーチやリクルートにも対応しないという取り回しの悪さはありますが、その分召喚権を使用しないという即効性を持ち合わせている強みがあります。

 なおかつ、当時のカードプールでは今ほど特殊召喚手段が豊富ではなかったため、「召喚権を使用しない」というメリットは額面以上に大きなものでした。少なくとも当時の【ガエル】ではイレカエルループを成立させつつ「キャノン・ソルジャー」などを用意するのは不可能に近く、結果として「マスドライバー」に白羽の矢が立った格好です。

 コンボに成功すれば「マスドライバー」の弾を好きなだけ調達できるようになるため、計20回の射出によって容易に先攻1キルが成立します。往年の「遺言状ループ」を彷彿とさせる動きであり、ある意味これを成立させてしまう「イレカエル」というカードが「遺言状(エラッタ前)」と同レベルの壊れカードだったことを証明しているとも言えるでしょう。

 

真価はサイドスイッチギミック 世界大会優勝の実績

 しかし、そんな【ガエルドライバー】も決して高い使用率をキープしていたわけではなく、むしろ純構築の【ガエルドライバー】が環境レベルで使用されることは稀でした。

 性質上デッキ構築段階から20体近くの【ガエル】モンスターに枠を割く必要があり、さらにそこにワンキルギミックを詰め込まなければならないというスペース的な問題を抱えていたため、素のデッキパワーがどうしても低くなってしまう弱みがあったことは否定できません。

 加えて、そもそも「マスドライバー」を引けなければデッキがうんともすんとも言わないという致命的すぎる欠陥が存在したため、当時のトーナメントシーンではおおむね地雷デッキの域に収まっていました。

 一方で、【ガエルシンクロ】と共通のデッキパーツを積んでいることを利用し、サイド戦から【ガエルシンクロ】にスイッチしてしまうという戦法が横行していたことも事実です。実際に2010年の世界大会では上記ギミックを搭載した【ガエルドライバー】が優勝を射止めており、ビートダウンもできる先攻1キルデッキがいかに凶悪(※)であるかを実績として物語っています。

(※結果、間もなく「イレカエル」「マスドライバー」の両者が禁止カード行きを宣告されることになります)

 

安定性では最強 【ガエル帝】環境上位に

 上記のように、「粋カエル」の誕生によって数多くの問題を噴出させていた「イレカエル」というカードですが、もちろんコンボではなく普通に使用しても十分な強さを発揮することは言うまでもありません。そのため、健全なゲームバランスの中でもいくつかの実績を残しており、最終的には【ガエル帝】として環境入りを果たしています。

 デッキ名の通り、かつての【黄泉帝】の流れを汲んだ【生け贄召喚】系列のアーキタイプであり、その次世代版とも言える中速ビートダウン系のデッキです。シンクロ全盛期、それも「トリシュ地獄」の真っ只中で【生け贄召喚】を使うというのはいかにも自殺行為に思えますが、様々な要因によって追い風を受けていたアーキタイプとなっています。

 具体的には、D.D.クロウ」や「エフェクト・ヴェーラー」などの手札誘発系の妨害カード、あるいは「水霊術-「葵」」「ダスト・シュート」「マインドクラッシュ」らを用いたハンデスギミックなどが該当します。特に後者はメタカードというよりも単純に性能そのものが凶悪であり、往年の【ハンデス三種の神器】を彷彿とさせる手札破壊地獄を相手にお見舞いすることもできました。

 ちなみに、これはしばしば誤解されがちな話ですが、【インフェルニティ】に対してハンデスが友情コンボになるというのは間違いです。むしろ適切に墓地が肥えていなければ満足に動けない都合上、その起点となる墓地肥やしカードを的確に落としてくるピーピングハンデスは天敵の部類と言って差し支えありません。

 よって当時の環境にもマッチしていた非常に有力なハンデスギミックであり、これがあったからこそ【ガエル帝】がメタデッキの一角として名を馳せるに至ったと言っても過言ではないでしょう。

 また、当時【インフェルニティ】と双璧をなす巨大勢力であった【旋風BF】に対して複数の面で有利を取れていたことも見逃せません。

 既に述べた通り【旋風BF】に対して守備力2000というステータスはそれ自体がメタとして機能するため、これを多くのモンスターが共通して持つ【ガエル】も当然その恩恵を受けることができます。「BF-蒼炎のシュラ」はもちろん「ライオウ」などに対しても強く、不意のワンショットにも「冥府の使者ゴーズ」「トラゴエディア」といったカードで対応可能です。

 さらに、意図的にフィールドを空けておくことで「ゴッドバードアタック」を腐らせるプレイが取れたことも地味ながら重要でした。元々【黄泉帝】自体がドローゴー寄りの動きを主軸としている都合もあってケアを意識しても負担になりにくく、攻め手が鈍るリスクも【帝】自体の性能の高さからカバーできます。

 その他、こうした環境的な強みとは別の細かなサブウェポンも少なくありません。

 例えば「鬼ガエル」で【帝】モンスターを再利用するギミックもシンプルながら優秀であり、中でも「風帝ライザー」で疑似ロックを仕掛ける動きは凶悪の一言です。魔知ガエル」で「鬼ガエル」を守りつつ数ターンに渡ってデッキトップバウンスを繰り返す、つまり往年の【八汰ロック】に近いロック(※)を狙うこともできました。

(※相手がフィールドをがら空きにするとロックが途切れてしまいますが、それはそれで極めて有利な状況に持ち込めます)

 最後に地味ながら大きな強みとして、イレカエル」による高いデッキ圧縮能力も特筆すべき事項に数えられます。

 【黄泉帝】に限らず、これまでの【帝コントロール】では一旦「黄泉ガエル」が回り始めた場合、デッキに残った各種墓地肥やしカードが完全に腐ってしまうという構造的欠陥がありました。だからこそ問題解決のために様々な対策が講じられてきたのですが、現実問題として不要牌の発生を完全に防ぎ切ることはできず、結局は必要経費と割り切るしかなかったという事情が存在します。

 しかし、【ガエル帝】においてはその墓地肥やしギミックを【ガエル】内だけで完結させることができ、さらに体制が整った後は不要となるそれらのパーツを「イレカエル」によって綺麗に抜き出すことができます。これによりデッキ内の【帝】比率が自然と濃くなるため、従来の【帝コントロール】とは比較にならないほど高密度の攻め手を維持することが可能だったのです。

 もちろん、流石に爆発力では上記の【ガエルシンクロ】や【ガエルドライバー】に劣っていたのは事実ですが、その分安定性では大差をつけて勝っており、総合的なデッキパワーでは決して引けを取りません。さらに、上記のようにメインから豊富に積まれた各種メタカードで相手を減速させることにより、相対的にテンポを取りにいけるというのは額面以上に大きな強みだったと言えます。

 【ガエル帝】としてはもちろん、【ガエル】の歴史においても最も輝いていた時代の一つであり、これ以降の半年間を主流デッキの一角として過ごしていくことになります。

 

【後編に続く】

 【ガエル】についての話は以上です。

 「粋カエル」が誕生したことで「イレカエル」によるループコンボが成立し、間もなく【ガエルシンクロ】として環境に姿を見せるようになりました。さらに、「マスドライバー」を絡めた先攻1キルを狙う【ガエルドライバー】も地雷デッキとして猛威を振るうなど、ゲームバランス面で危険な状況を発生させていたことは否定できません。

 しかし、【ガエル帝】のように「真っ当に強い」タイプの環境デッキも躍進を遂げており、決して悪い影響ばかりではなかったことも窺えます。当時は衰退に向かっていた【生け贄召喚】というシステムを復権させた実績も大きく、いずれにしてもメタゲームに対して数多くの影響を及ぼしていたことは間違いないでしょう。

 このように、【インフェルニティ】や【ガエル】などの強力な新勢力を生み出した「THE SHINING DARKNESS」でしたが、実はこれら以外にももう一つ新勢力を輩出していたことには触れておかなければなりません。規模としては中堅レベルの立ち位置にあった存在ですが、少なからず環境にも顔を出していた有力デッキの一つです。

 後編に続きます。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史