闇の時代「9期」の始まり 遊戯王史上最悪のインフレ世代

2020年5月22日

【前書き】

 【第8期の歴史28 【マドルチェ】が地味に環境デッキだった頃 世界大会での活躍も】の続きとなります。ご注意ください。

 2012年3月~2014年3月のおよそ2年間続いた第8期が終了し、新たに第9期がスタートしました。新召喚法の実装、そしてそれに伴うデュエルフィールドの様式変更を始めとする大規模なルール改訂が行われており、これこそがマスタールール現役時代における最大の転換期であったと言っても過言ではありません。

 新ルール「マスタールール3」の制定です。

 

新ルール「マスタールール3」の制定

 マスタールール3は遊戯王OCGのルールのうち、2014年3月~2017年3月の間に適用されていたものを指します。

 前ルールであるマスタールール2との大きな違いは下記の通りです。

 

①:先攻ドローの廃止

 

②:フィールド魔法に関するルール変更(※お互いのフィールドに1枚ずつ存在できるようになった)

 

③:ダメージステップに関するルール変更(※5つのタイミングに明確化した)

 

④:カードテキストの体裁変更(※いわゆる「9期テキスト」の導入によって効果を把握しやすくなった)

 

⑤:新召喚法「ペンデュラム召喚」の実装

 

 いずれも遊戯王OCGのゲームシステムに切り込んだ非常に大きな変更であり、ゲームバランス面においても大きな影響が現れていることが分かります。中でも新召喚法である【ペンデュラム召喚】の実装は極めて重大な出来事で、究極的にはこれこそが第9期環境のインフレを招いたと言っても過言ではないでしょう。

 とはいえ、上記の変更点をつぶさに取り上げていっても記事が冗長になってしまうため、ここでの解説は省略します。詳しくは公式サイト等をご参照いただければ幸いです。

 

【ペンデュラム召喚】不遇時代 当初は鳴かず飛ばず

 マスタールール3の概要に関しては上記の通りですが、ここからは実装当時の【ペンデュラム召喚】の動向について軽く触れておきます。

 ルール面の解説は例によって省きますが、一言でまとめれば「2枚のカードを使ってモンスターを大量展開する召喚法」と捉えることができるルールです。つまり、【シンクロ召喚】や【エクシーズ召喚】とは異なりそれ自体が展開のゴール地点となるわけではなく、あくまでもその起点となる「下準備的な召喚法」であると言えます。

 とはいえ、もちろん【ペンデュラム召喚】にも固有の武器はあり、中でも「エクストラデッキの表側表示のPモンスター」を特殊召喚できるという強みは他に類を見ないものです。

 例として、「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」というカードを取り上げます。

ペンデュラム・効果モンスター
星7/闇属性/ドラゴン族/攻撃力2500/守備力2000
【Pスケール:青4/赤4】
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分のPモンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを0にできる。
②:自分エンドフェイズに発動できる。このカードを破壊し、デッキから攻撃力1500以下のPモンスター1体を手札に加える。
【モンスター効果】
①:このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、このカードが相手に与える戦闘ダメージは倍になる。

 一見する限り、第9期以前の知識だけでは明らかに理解不能なカードであり、初見で仕組みを把握するのは恐らくかなり困難です。むしろ説明しようと思ってもどこから説明すればいいか分からないほどややこしいカードなのですが、とりあえず「Pモンスターはフィールドから墓地へ送られる場合、代わりにエクストラデッキに表側表示で加わる」というルールを前提にここでは話を進めます。

 上記の前提の場合、「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」は「Pスケールを1つ確保しつつ自力でエクストラデッキに行けるモンスター」ということになり、もう1つスケールが揃えばペンデュラム召喚を行う準備が自然と整うことが分かります。そして前述の通りPモンスターは墓地へ送られる代わりにエクストラデッキに送られるため、実質的には毎ターン復活可能な不死身のモンスターと化すわけです。

 この圧倒的な不死性こそが【ペンデュラム召喚】最大の強みであり、なおかつ遊戯王の歴史上類を見ない「アドバンテージ概念の崩壊した時代」を成立させてしまったことは疑いようもありません。もちろん、常に【ペンデュラム召喚】絡みのデッキがメタゲームを支配していたわけではありませんが、こうした錬金術的な価値観がスタンダードと化してしまったのは間違いなくPモンスターの存在が原因だったのではないでしょうか。

 ……と、このように書くと何とも恐ろしげな召喚法に思えますが、実はそんな【ペンデュラム召喚】も無条件で強さを発揮するわけではありません。むしろ当初は率直に言って弱すぎると考えられており、実際に第9期突入直後は鳴かず飛ばずの状況に置かれていました。

 理由についてはいくつかありますが、特に致命的なものを挙げるなら下記の3つです。

 

①:前提条件として2枚のカードを揃えなければならず、初動が全く安定しない。

 

②:エクストラデッキを安定して肥やす手段が乏しく、序盤は旨味がほとんどない。

 

③:スケールを割られると全てが瓦解する。

 

 初動が不安定、その割に見返りが薄く、おまけに妨害耐性も無いなど「弱いコンボの条件」を一通り満たしてしまっており、これでまともに戦うのは相当厳しいものがあったと言わざるを得ません。なおかつ、性質上メインデッキに一定のスロットを要求される点も苦しく、カードプールの狭さを差し引いても根本的に弱すぎると言われていた召喚法です。

 

P召喚は「調整が難しすぎるシステム」 産廃か壊れの両極端

 一方で、先に述べた通り【ペンデュラム召喚】システムの存在が第9期環境のインフレの遠因となったことも間違いありません。

 一見すると矛盾しているようにも聞こえますが、これは【ペンデュラム召喚】絡みのカードが「カードパワーの適正なバランス調整が極めて困難」であるという事実が関係していたと言えるでしょう。

 例えば、「EMモンキーボード」というカードがあります。

【Pスケール:青1/赤1】
EMモンキーボード」の②のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:もう片方の自分のPゾーンに「EM」カードが存在しない場合、このカードのPスケールは4になる。
②:このカードを発動したターンの自分メインフェイズに発動できる。デッキからレベル4以下の「EM」モンスター1体を手札に加える。
【モンスター効果】
①:このカードを手札から捨てて発動できる。手札の「EM」モンスターまたは「オッドアイズ」モンスター1体を相手に見せる。このターン、そのモンスター及び自分の手札の同名モンスターのレベルを1つ下げる。

 見ただけでもう駄目だと分かる類のカードですが、簡単に言えばオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」から自壊効果とタイムラグを取り除いたようなカードです。つまり上記項目で解説した【ペンデュラム召喚】の弱点をおおむね解決してしまっているわけですが、ごく当然の成り行きとして壊れカードと化してしまっていることは否めません。

 ところが、これを適正なカードパワーに調整しようとする場合、その試みが思いのほか困難であるということに気付きます。パッと思いつくところではサーチ効果に何らかの条件やコストを設けるといった発想が浮かびますが、そうなると今度はデザインの自由度が一気に狭まってしまうからです。

 似たようなデザインのカードとして、「イグナイト・マグナム」というPモンスターを取り上げます。

【Pスケール:青7/赤7】
①:もう片方の自分のPゾーンに「イグナイト」カードが存在する場合に発動できる。自分のPゾーンのカードを全て破壊し、自分のデッキ・墓地から戦士族・炎属性モンスター1体を選んで手札に加える。

 範囲の広いサーチ効果を持っているという点では「EMモンキーボード」と同様ですが、発動条件が非常に重く、純粋なカードパワーは決して高いとは言えません。もちろん、【イグナイト】というカテゴリのシナジーを活かせば水準以上のパワーを発揮することもできますが、少なくとも「EMモンキーボード」との性能差は歴然です。

 一方で、これを平均的なカードパワーにまで強化しようとする場合、例えば1枚で自壊できるようにしてしまうと途端に壊れカードと化してしまいます。よって「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」のようにタイムラグなどを設けるしかないのですが、そうなると今度は【イグナイト】というテーマの特色が死んでしまい、やはりデザインの自由度において二律背反の状況に陥ることは避けられません。

 このように、「EMモンキーボード」「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」「イグナイト・マグナム」という3枚のカードを並べて比較した場合、さながら「一段飛ばしのカードパワーの隔たり」とでも言うべきものが存在することが見えてきます。これはもはやカードレベルの調整ミスというよりもメカニズムの設計段階からの欠陥であり、こうした大味すぎるバランスこそが【ペンデュラム召喚】の失敗を生み出したと言えるわけです。

 もちろん、Pモンスターというだけで無条件にバランスが崩れるというわけではなく、実際上記3枚のうち「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」は非常に模範的なデザインのカードです。

 しかし、こうした良調整のカードだけを作り続けるのは現実問題として不可能でもあり、とにかくデベロップ面での負担が大きすぎる召喚法だったと言えるでしょう。

 

インフレに次ぐインフレ バトル漫画の世界

 しかしながら、前置きにて軽く言及した通り、やはり【ペンデュラム召喚】最大の問題はこれを基準にカードのデザインが行われる土壌を作り上げてしまったことにあったのではないでしょうか。

 よく言われる話ですが、第9期環境の大きな特徴として「ゲームバランスのインフレが極めて激しい時代だった」というものがあります。

 このインフレというのは文字通りのインフレという意味で、分かりやすい言葉に直せば「強いテーマを止めるためにそれ以上に強いテーマが現れる」という意味不明な状況を指します。世代開始直後に飛来した【シャドール】【テラナイト】に始まり、ペンデュラムテーマの先駆けとなった【クリフォート】、そして【儀式召喚】の概念を別物に変貌させた【影霊衣】など、2014年に限ってもこうした傾向が浮き彫りとなっていることは明白です。まさにバトル漫画さながらの世界観であり、むしろ今日日バトル漫画ですら珍しいインフレ展開と言うほかありません。

 そして、そうした末期的なインフレが極致に至ったのが世に言う【EMEm】の暗黒期であり、同時に【ペンデュラム召喚】がその悪名を轟かせた瞬間だったと言えます。第8期以前の常識では到底計り知れないゲームバランスであり、文字通り「時代が違う」としか言いようがないジェネレーションギャップが広がっていたのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 第9期の概要についての話は以上です。

 遊戯王の歴史においても並ぶものがないインフレ世代であり、これが遊戯王というカードゲームの決定的な分岐点を務めたことは疑いようもありません。一時的なインフレという意味では第3期の【カオス】、あるいは第8期の【征竜魔導】といった例もありますが、そうしたインフレの傾向が世代全体に渡って恒常的に続いていたというのは流石に前代未聞の事態です。

 とはいえ、前向きに捉えれば「普通では味わえないダイナミックな環境をいつでもどこでも楽しめるフィーバー世代」だったと言えないこともなく、今にして思えばこれはこれで趣深い時代だったのかもしれません。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

著者情報:遊史

Posted by 遊史